真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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6-10 徐州動乱(4)

「……そう。約束通り麗羽が動いたのね。」

 

「はいーー

けど、予想より早かったですねーー」

 

風の報告を受けているのは華琳。

 

尤も、今現在華琳の部隊は恋と鈴々の相手をしている為、

指揮を執りながらになっているが。

 

「一応冀州を統治しているし、軍の大きさなら私たちの遥か上よ。

……まぁ、この次の相手だけど。」

 

そう言いながら戦場の方に目を向ける。

 

「だけど……」

 

「?」

 

「少し、上手く行き過ぎてるわね。」

 

自分と信頼している軍師達で決めた策、

予定通りの展開なのだが、違和感は払拭されない。

 

(なんなのかしら。この感じは。)

 

「うーーん、考えるのはいいですけど、

あんまり悩むのは体に良くないですよーー」

 

「ふふっ。風に言われると説得力があるわね。」

 

「……ぐぅ。」

 

「寝るな!」

 

一番華琳が扱いにくい風。

シリアスな所でも、相変わらずであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――小沛城 城内――――――

 

「下邳より入電、袁紹軍約三万が、北より接近との事ですっ!!」

 

伝令の報告を聞いて、にわかにざわめき始める軍議室。

 

「そんな……だって北海には孔融さんがいるんじゃ……」

 

かつて、桃香たちが徐州に来る前、

黄巾の残党に悩まされていた孔融の危機を、

救った事があり、非常に友好な関係を築いていた。

 

故に、下邳の防備は非常に薄い。

 

「曹操軍の侵攻が始まった少し後、

袁紹も兵を率いて北海に攻め込んだようです。」

 

少し思案する朱里。

 

「……下邳にいる糜姉妹や陳親子さんにお願いして、

北海の様子も一応見ていた筈ですけど……」

 

「裏切るのは考えにくいです……」

 

余りにも急すぎる袁紹軍の侵攻。

 

北海にて戦闘があったのなら、確実に報告が来る。

 

しかしそのような報告は来ておらず、もし下邳にいる人が裏切ったとしても、

裏切るのなら、もっと後になってから裏切るはず――

雛里も、考えを纏めきれない。

 

「けど……どちらにしても、

もう詰みです……

すみません桃香さま……私の力が不足したばかりに……」

 

自身を攻める朱里。

 

今の所この城の中に入れている敵兵は三羽烏のみ。

他の兵は進入してなく、その他の各門も今だ突破されていない。

城外の部隊も何とか華琳率いる大軍相手に粘れている。

戦況は、確実に此方が優勢に進めているのに、

自分が袁紹の動きを読めなかったのを悔いているのだ。

 

「そんな!太守は私なんだよぅ!

私が戦うって決めたんだから、朱里ちゃんや雛里ちゃんは悪くないよ!」

 

しかしどうするか。

 

小沛を前線都市として発展させた為、

徐州の食料は殆ど下邳で生産されている。

 

故に、下邳が落ちれば小沛の存続も不可能になってくる。

 

しかもその下邳も、孔融との関係が友好だった為、

下邳に配置されている兵の数は一万にも満たない。

 

攻め寄せる袁紹軍は三万。

将もおそらく顔良,文醜,張郃,高覧といった勇将を連れてきているだろう。

 

「このままでは……徹底抗戦するか降伏か逃亡ですね……」

 

「っ………」

 

苦悩する桃香。

 

抗戦すれば更に人が死ぬ。

しかし、自身の理想の為、華琳に降伏する事は出来ない。

ならば残された手は一つ。

 

しかし――

 

「駄目だよ……私だけ逃げるなんて出来ない!」

 

 

自分を慕ってくれる徐州の民、

自分を支えてくれた兵や将達、

見捨てる事は………出来ない。

 

 

「お逃げください桃香さま。」

 

「!?……愛紗ちゃん……

それに天和ちゃん達……」

 

扉を開けて入って来たのは愛紗と三姉妹。

 

西門で春蘭と激闘を繰り広げていた愛紗は、

正に満身創痍である。

 

「私は、桃香さまの理想の為に戦ってきました。

それは今までもですし、これからもずっとです。」

 

全員話を止め、愛紗の話に聞き入っている。

 

「もし……桃香さまが曹操の軍門に降るのなら……

私は……桃香さまの為に戦えなくなるんですっ!」

 

「……うん。そうだね。

ここで降伏しちゃうと、ついて来てくれた皆を裏切っちゃうんだね。」

 

最早自分だけの問題ではない。

今になって、その事を痛感する。

 

「私、逃げるよ!

自分の理想を叶える為に!」

 

強く言い放つ桃香。

一つ、強くなった瞬間だ。

 

「あわわっ……あの、その事で士郎さんから連絡貰ってます……

聖さまに手紙を送っているので、逃げるのなら新野なら受け入れてくれるそうです。」

 

雛里が手紙を出しながら話す。

 

「この城から脱出するんなら、南門から出たらいいよー

お話してるからー」

 

「?誰にですか。」

 

「私たちを知ってる人たちがいたのよ。

わざと脱出経路を作ったりしてくれるらしいわ。」

 

「一応白蓮さんにお願いして、

外に何人か兵を伏せてます。

逃げる時に少しは楽になるかと……」

 

「白蓮……見かけないと思ったらそんな所に居たんだ……」

 

地和の言葉に、思わず何人かが頷く。

 

「城外の人たちには合図をあげて知らせれます。

けど……後は、誰かが残って敵を引きつける必要があります……」

 

朱里の言葉に、皆が押し黙る。

 

無理も無い。

一人残って死地に取り残されてしまうのだ。

 

しかし……

 

「私が残ろう。

まさか曹操も桃香様が私を置いて逃げるとは思わないだろう。」

 

「愛紗ちゃん!?

嫌だよ……私、愛紗ちゃんを置いて行くなんて出来ないっ!!」

 

かつて桃園で誓った、

三人は、同じ時に死ぬと――

 

「桃香様……心配しないで下さい。

私は、必ず生き延びます。

私を……信じてください!!」

 

強く、言い放つ。

 

「ぐすっ……絶対だよ……絶対、また会おうね……」

 

大粒の涙を流しながら愛紗の手を、強く握る。

 

「はい……必ず……っ。」

 

愛紗も同じように涙を流しながら答えるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――― 泰山 ――――――

 

「奴等の狙いはこれかっ……」

 

士郎は舌打ちをしながら貂蝉,星と共に急いで下山している。

 

「何があったのですかな?」

 

「袁紹軍が下邳に攻め込んでいた。

このままじゃ小沛が危ない。」

 

士郎の話を聞いて驚愕する星。

 

「袁紹が!?

しかし、北海城をどうやって……」

 

「于吉の術なのねん。

アイツが最初居なかったのも、

恐らく袁紹軍の進軍を手助けしてたのね。」

 

星の疑問に貂蝉が答える。

 

「何故袁紹軍の味方を?」

 

「今この大陸で最も戦が激しいのはこの徐州。

戦が多発すれば、密偵や人が動く。

そうなったら泰山の異変を感知される事を恐れたんだろう……

術で妨害するにしても、

曹操、袁紹、桃香三人に術をかけるより、

曹操一人にかける方がずっと楽だ。」

 

「元々袁紹軍の侵攻は曹操の計画にあったと思うわん。

多分、左慈たちはそれを利用したのね。」

 

「なるほど……

それでは、急いで桃香様と合流したほうが良いようですな。」

 

星がそう言った瞬間、

星の体が、急に宙に浮く。

 

「きゃあっ!!」

 

「済まないが我慢してくれ。

……加速する。」

 

星を、所謂お姫様抱っこで持ち上げた士郎は、

脚力を『強化』して、一気にスピードを上げる。

 

「び、吃驚しました……

……やはり士郎殿は強引ですな。」

 

「羨ましいわん。

次は是非私にして欲しいのねん♪」

 

「……なんでさ……」

 

三人はもう、視界の中に小沛を捉え始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――小沛城 城内――――――

 

「桃香さま、あのっ……準備が整いました」

 

「うん。分かったよ朱里ちゃん。」

 

残った武将は既に南門付近に集結しており、

下邳にいる人たちも、下邳に残る陳親子を除いて

糜姉妹が率いて小沛に向かっている。

 

「陳珪さんたちは残ったんだね……」

 

「……下邳の豪族ですから、仕方ないです……」

 

雛里は何も悪くないのだが、

済まなそうに答える。

 

「うん。それは仕方ないよ。

じゃあ……愛紗ちゃん……」

 

「お気をつけて下さい……桃香さま。」

 

「愛紗ちゃんも……ね。」

 

「皆、桃香さまを任せた。

……士郎殿たちにも、よろしくと伝えておいて欲しい。」

 

「は、はいっ!必ずっ……」

 

「ではッ!」

 

武器を持ち、西門に向かって行く愛紗。

 

「……私たちも行こう!

愛紗ちゃんの為にも。」

 

「はいっ!!」

 

そう言って部屋を出る桃香たち。

 

すると――

 

「劉備さまーー」

 

「私もついて行きますぞーー」

 

「お供します!!」

 

其処に居たのは徐州にいる民達。

みな、桃香がこの土地を去ることを知り、

ついて行くつもりなのだ。

 

「みんな……」

 

感動で、言葉が出てこない。

 

逃亡する事による負い目、

民を見捨てて行く罪悪感、

色んな思いがった。

 

しかしこの光景は、

少なくとも桃香がこの徐州で行ってきた事は、

決して間違いではなかったと証明してくれた。

 

「っ……うん!行こうっ!」

 

『ワァアアアアアアッ!!』

 

数多の民を連れ、

遥か新野に向かって桃香たちは進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――小沛城 西門――――――

 

目の前に広がるのは数万に及ぶ敵兵、

対する此方の兵は五千にも満たない。

 

しかし、恐怖は無い。

むしろ――昂揚しつつある。

 

「……来たか。」

 

そう呟くと同時に、

馬に乗ったまま、青龍偃月刀を真一文字に持って構える。

 

対峙するのは、敵軍の中から進み出てきた将、春蘭。

 

「ふっ……待っていたぞ!

用事は済んだのだろう?ならば、早速先程の続きだッ!!」

 

「ああ。私も決して負けられない理由が出来た。

……行くぞッ!!」

 

両軍を代表する将が、互いに衝突する。

 

片方はプライドの為、片方は義姉の為――

二人の剣戟は、様子を見に来た華琳が止めるまで繰り広げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――小沛城 南門――――――

 

「ほら、さっさと逃げるぞ、

皆遅れるなよーー」

 

白蓮が声を張り上げ、

民を誘導する。

 

しかし子供や老人、怪我人も居れば重い荷物を持っている者もおり、

非常に進行速度は遅い。

 

これでは、敵軍からすれば正に的でしかない。

 

「逃がすなッ!!奴等を追い立てるぞ!!」

 

馬を駆り、迫り来るは秋蘭。

 

南門に侵攻していた為、

逃げる桃香たちは、何とかして突破しないと脱出が出来ない。

 

「桃香さま……下がって下さい……」

 

「月ちゃん!?大丈夫なの……」

 

心配する桃香を他所に、馬上にて弓を構え――

 

「いきます……ッ……」

 

放たれた矢は一条の閃光となって秋蘭を襲う!

 

「くッ!!先程の弓使いか……

ふっ……丁度良い。

腕を競いたかった相手だ。」

 

同じく秋蘭も馬上にて弓を持つ。

 

互いに矢を番え、構える。

 

先程の城壁での撃ち合いでは秋蘭が優勢であったし、

月の射も確認しており、

弓の実力なら、確実に秋蘭の方が上。

 

しかし、今は地面の上ではなく、『馬上』。

 

秋蘭は知らない。

 

対している少女が両手で騎射を撃つことが出来、

西涼で名を馳せ、異民族ですら一目おいたあの「董卓」である事を。

 

「くッ……狙い難い……」

 

慣れて無い馬上ではあるが、

それ以上に相手の体が小柄な故に馬の首に隠れてしまう。

それに、馬上では小柄な方が重心が安定する。

 

それらの条件が重なり、一瞬撃つのを躊躇った瞬間、

月が放つ矢が飛んで来る。

 

「ちッ!」

 

手綱を強く引くが、馬は急には動けない。

 

体を掠め、馬が暴れる。

 

落ち着かせようとしても、矢は凄まじいペースで襲いかかる。

 

「ふッ!!」

 

秋蘭が放った矢が、飛んできた矢の数本を射落とすが、

ペースを握れず、防戦一方になる。

 

このままではジリ貧。

 

そう考え、一旦矢を回避しやすくする為、

咄嗟に動ける用に馬から下りる。

 

この時、秋蘭は忘れていた。

 

相手が、何故南門から出て来ていたのかを。

 

「今です……皆さん逃げましょう!!」

 

ひらりと馬首を返し、駆け出す月。

 

「あッ……し、しまった……」

 

慌てて馬に乗りなおすが、もう遅い。

 

元々逃亡しようとしていた桃香たち。

 

周辺の劉備軍は二人が戦って居る間に、いつの間にか全て逃げており、

残されたのは、秋蘭と青州兵たちだけである。

 

「……これでは姉者を笑う事は出来ないな……」

 

久しい弓使いとの戦いを楽しみすぎた秋蘭。

 

顔には自嘲めいた笑みを浮かべていた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやらもう、桃香様たちは新野の方に向かって居るようですな。」

 

「ああ。こうなっては仕方ないだろう。

無駄に抵抗しても兵を失うだけだしな。」

 

小沛に帰って来た士郎たち。

城の様子を見ながら話す。

 

「じゃあ、そろそろ私も

またあいつ等の動きを探るのね。

ご主人様、気をつけてねん。」

 

そう言って姿を消す貂蝉。

 

「士郎どの、私たちもそろそろ……」

 

「ああ。俺達もこのまま南下して荊州に向かった方が良さそうだな。

聖にも報告しないといけない。」

 

「ならば私も途中まではお供します。

……旅は道連れと言いますし。」

 

「とりあえず三姉妹と合流しよう。

……多分機嫌悪くなってるだろうな……」

 

「女心は難しいものです。」

 

「……精進するよ。」

 

散々激戦を繰り広げたのに、

また苦労が待っている士郎。

……相変わらずである。

 

早速三姉妹との待ち合わせ場所に向かう。

 

幸い三人は只の旅芸人のフリをしていただけなので、

特に事件には巻き込まれておらず、

士郎が来るまで馬車で待っていたようだ。

 

……勿論、三人からそれぞれお叱りの言葉は貰ったが。

 

「それにしても、よく無事でしたな。」

 

来た時と全く変わらない様子の馬車。

 

あの華琳の兵とはいえ、

兵が攻め込んだのならば多少は荒らされても可笑しくないのに、

全くその痕跡が残って居ない。

 

「うん、兵士さんたちが守ってくれたんだよ~」

 

「兵士……誰の部隊の兵士ですかな?」

 

兵は殆ど残って居ない為、疑問に思う星。

 

「こっちじゃないわよっ!

南門に攻めて来た兵がちぃ達を守ってくれたの。」

 

「南門に攻めてきてたのは、『青州兵』でしたから。」

 

「……成る程。それなら逃げる時も何とかなりそうだ。」

 

人和の話を聞いて合点がいく士郎。

 

青州兵は元々青州にて暴れる黄巾党の残党で編成されている。

 

今となっては華琳に忠誠を誓っているが、

黄巾党の事も忘れては居ない。

 

恐らく、城の上で歌っていた三姉妹の歌が聞こえ、

ここに数え役萬☆姉妹がいるのに気付いたのだろう。

 

桃香たちが逃げる際も、こっそり脱出の手助けをしている。

 

「よし、じゃあ荊州に向かおう。」

 

そう言って、馬を走らせ始める士郎。

 

「あっ!……そう言えば、愛紗さんがまだ残ってるんだけど……」

 

「愛紗が!?……それは本当なのか天和どの?」

 

「う、うん。なんか時間稼ぎする~って。」

 

天和の言葉に驚く星。

 

「しかし、助けに行きたいが……我らだけでは手の打ち用が無いですな……」

 

「そうだな。ここで下手に動くと、最悪捕まる恐れもある。」

 

(それに、確か関羽はここで一回曹操に下る筈だ)

 

宝石は手元にあるので、魔力を補充して宝具を使用すれば助ける事は可能だが、

それでは歴史が変わってしまう。

そうなったら、あの仙人たちの動きも掴み難くなるのだ。

 

そのまま士郎たちは南下して、寿春方面を目指して進んでいった……


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