真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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7章 逃亡劇
7-1 旅は道連れ


小沛を脱出した士郎たちは、

そのまま南下して寿春近郊を通り、

寿春の東にある汝南に向かう。

 

士郎たちは馬車一つだけ。

人数も士郎と張三姉妹、星の五人だけであり、

寿春太守である孫権には借りがあるので問題なく通過できるが、

同じく小沛を脱出した桃香たちは軍や多数の民を連れている為、

寿春の近くは通れない。

 

最悪、攻撃されてしまう恐れもあり、

そうなってしまっては後ろから追撃してきている

曹操軍と挟まれてしまう。

 

その為、小沛から西南にある河を渡河し、

汝南に向かっているので、

そこで合流するのだ。

 

ちなみに今、徐州は華琳と麗羽が小競り合いを早くも始めているが、

華琳はまだ小沛にいる愛紗にてこずっており、

麗羽もまだ下邳を攻略し出来ていないので、

本気で戦は行ってはいないが……

 

……さっきまで手を組んでたのに、よく分からん二人である。

 

「ふぅ……風が気持ちいいですな。」

 

手綱を握って居る士郎の横に星がやってくる。

 

「星か……って、何を食べてるんだ?」

 

「これですかな?メンマですよ。

……これがまた酒に合いましてな。」

 

くいっと、杯に注いだ酒を飲む。

 

「合うのか……ってかなんで酒飲んでるのさ!?」

 

「自前の一品ですよ。中々いけます。」

 

「いつの間に馬車に乗せてたんだよ……」

 

「士郎殿も一献如何ですかな?」

 

そう言いながら士郎に杯を差し出してくる。

 

「此処で飲んだら確実に酔う自身がある……」

 

舗装されて居ない道を進むのは、サスペンションなど当然無い馬車。

下手な道を走ろうものなら揺れる揺れる。

 

ちなみに何回か大きい石を踏んでしまい

地和に怒られている……

 

「それは残念ですな……

しかし、あの三人ならもう寝ていますぞ。」

 

「そうなのか?」

 

「どうやら戦の間、ずっと演奏し続けていたみたいで、

大分疲れた様子ですな。」

 

「……頑張ったんだな。」

 

少しづつではあるが、確実に意識は変わり始めている。

あの三人が居なければ、

無事に小沛を脱出する事も出来なかっただろう。

 

「何か嬉しそうですな。」

 

「……まぁ、な。

頑張ったから、何か作ってあげるか。」

 

軽く微笑む士郎。

 

「ふむ……私も頑張りましたが。」

 

「………………」

 

「わ・た・し・も頑張りましたぞ。」

 

ずいっと、士郎の方に身を乗り出してくる星。

 

「!!!!!!!」

 

色んな所が士郎の体に接触し、

非常にまずい事になっている。

 

「わ、分かった分かったっ!

星も何か作っておくっ!!

……そろそろ玖遠達にも作らないといけないしな。」

 

「もてる男はつらいですな。」

 

「誰がさ……」

 

士郎たちが目指す汝南には、もう少し時間がかかりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――小沛城 西門近郊――――――

 

「小沛はどうなってるのかしら。」

 

小沛の西門近くに来た華琳が、自身の軍師達に尋ねる。

 

「はいっ。まだ関羽が残って抵抗していますが、

今春蘭が相手をしていますが、時間の問題かと。」

 

春蘭の様子を見に来ていた桂花が答える。

 

「関羽が残っている?……他の将兵たちは?」

 

「南門を攻めていた秋蘭殿が、

脱出する将兵を確認したので、おそらく劉備も一緒に逃げたかと。」

 

「付加えますと、どうやら民も一緒に逃げているみたいですねぇ~」

 

「……そう。分かったわ。」

 

稟と風、二人からも報告を聞いて険しい表情を浮かべる華琳。

 

「どうかしたのですか~?」

 

「……いえ。何でもないわ。

私の兵を季衣に預け、追跡に加わるように指示しておいて。」

 

「騎兵も参加させるのですか?」

 

「曹純が大分疲労してるから、休ませてるわ。

……回復しだい参加するようにしておいて。」

 

「了解しました。」

 

そう言って三人から離れて行く。

 

「……如何したのかしら華琳さま……」

 

「劉備が逃げているって聞いてから、ですね。」

 

「う~ん、桂花ちゃんが何かしたんじゃないですか~」

 

「なんで私なのよっ!!

むしろ、可愛がって貰える筈でしょう!!」

 

「可愛がる……ぶっ!!」

 

何を想像したのか、急に鼻血を吹き出す稟。

 

「は~い稟ちゃん、トントンしましょうね~」

 

相変わらずであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人から少し離れた所に、華琳の姿があった。

 

戦は作戦通りに進み、多少の被害はあったが、

それほど酷くもなく、想定の範囲内だったのに、

浮かない表情をしている。

 

「関羽を見捨ててまで逃げた……か。

…………拙いわね……」

 

確実に今回の決断は、桃香の成長を促す。

今後、更に強大な相手となるのが目に見えている。

 

華琳は桃香を過小評価していない。

 

今回、華琳が攻め込んだ理由は、

濮陽を華琳たちから奪った恋を匿った事が発端になっている。

 

それ以前――桃香が徐州太守を名乗った頃は、

華琳との関係はそれほど悪くは無く、

何度か会談を行った事もあった。

 

その際、二人だけで話をしていた時に、

華琳が桃香に言い放った言葉―――

 

「天下に名乗るべき英雄は――私と、貴女。」

 

河北を有し、三公を輩出した名門袁紹、

荊州太守にて、九国に威勢を誇る劉表、

概要天険の地益州で、民を纏める劉璋、

西涼の地で、最強の騎馬を有する馬騰、

揚州にて、母の威光を継ぐ小覇王孫策。

 

その誰でもなく、只の一地方太守である桃香を、

自分と同等の相手であると華琳は評価したのだ。

 

その桃香を、豊富な将に兵、そして麗羽の力を持ってしても、

捕らえる事が出来なかった。

 

「民も、この曹操ではなく、劉備を選んだのね……」

 

自身が突き進むは覇道。

それが民に理解されないのも重々承知している。

 

しかし、華琳が戦う理由は突き詰めればこの国の為。

彼女とて人の子、そこまで民に信奉される桃香が羨ましい。

 

だが――

 

「いいわ。元々一度で倒せるとも思ってない。

何回でも貴女を倒しにいってあげる。

真にこの国を統べるべきなのは誰かという事を、

証明してあげるわ!!」

 

そう、固く誓う華琳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと着いたーーっ!!」

 

う~ん、と外に出て思いっきり背を伸ばす天和。

……今まで寝てたからなのだが。

 

「此処って誰が統治してるの?」

 

「確か徐璆って言う人が太守だった筈よ。

献帝への忠誠心があつい人みたいだし、

特に襲われる事は無いと思うわ。」

 

「ほぇ……人和ちゃん、物知りだね~」

 

「これ位は当然よ。」

 

くいっと眼鏡を上げながら答える人和。

 

(……軍師した方がいいような気がする)

 

本職の軍師も真っ青になる位の情報収集力。

その様子を見て、

そう考えてしまう士郎だった。

 

「とりあえずここで桃香たちを待ちながら、

情報を集めるか。」

 

「やったーっ!しろー、ご飯ーー」

 

「天和姉さん、食べるのは良いけど手伝ってよ。」

 

「えーーっ、私は食べるの専門なんだよぅ。」

 

「ちぃもっ!」

 

そう言いながらさっと座り込む二人。

 

「ここは私が手伝いましょう。

これでも少しは料理も出来ますからな。」

 

その様子を見ていた星が名乗り出てくる。

 

「料理出来るのか?」

 

「ふ……女性の嗜みですな。」

 

『………………』

 

全員が沈黙する。

 

「……これは酷い。」

 

周りの反応の酷さに呟く星。

 

「だって……ねぇ……」

 

そんな星に対して変な顔を浮かべる地和。

その気持ちも分からなくは無い。

 

「ふむ……ここは実際に食べて貰った方が早いですな。

早速作るとしましょう。」

 

「そ、そうだな………」

 

賑やかな夕食が過ぎていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜――焚火の前には士郎の姿があった。

 

どうやら不寝の番をしているようだ。

 

幾ら敵対していない国とは言え、

賊などが当たり前にいる時代。

 

三姉妹達に戦闘は期待できないので、

やはり士郎が警戒する必要がある。

 

「精がでますな。」

 

「星か。……眠らないのか?」

 

両手に暖かいお茶が入った器を持った星が、

士郎に近付いて来る。

 

「道中、大分休ませて貰いましたからな。

まぁ、昼間沢山寝てる筈なのに、

今も気持ち良さそうに寝てる人もいますが。」

 

三姉妹は外で簡易テントを張り、

そこで睡眠をとっている。

 

荷台の中には食料の他に武器等もある為、

仮眠ならともかく、

きちんと睡眠をとるのには少し危険なのだ。

 

「士郎殿もお疲れでしょう。

一つどうぞ。」

 

そう言いながら、

片方の器を差し出す。

 

「ありがとう。

ほぼ一日中歌って演奏してたみたいだしな。あの三人は。」

 

「ふふ。お蔭で助かりましたからな。」

 

互いに、お茶を口に含む。

 

「しかし桃香殿達は無事に逃げれているのか、

気になりますな。」

 

「民を連れているから、

どうしても速度は遅くなるからな……」

 

心配そうに北の方角を見つめる星。

 

「情報が集まったら、直ぐに迎えに行くといい。

……俺は曹操軍が居たら助けに行けないからな……」

 

もし桃香たちが曹操軍に追われているのなら、

士郎が桃香たちを助ける事は、聖たちと曹操軍の敵対関係に繋がる。

故に、下手に動く事は出来ない。

 

「そうですな。

さて、そろそろ私も一休みするとします。」

 

星が立ち上がり、

三姉妹が寝ている所に戻ろうとした時、

荷台の方から何か音が聞こえて来た。

 

「どうかしたのか?」

 

「荷台から物音が聞こえましてな。

一応見てきます。」

 

そう言って、馬車の荷台に向かって行き、

星が聞き耳を立てていると、

明らかに、誰かが忍び込んでいる音が聞こえてくる。

 

星は無言で士郎を手招きする。

 

「?」

 

何か異変を察知したのか、士郎もゆっくりと、

音をたてないようにして星の傍に来て、

聞き耳をたてる。

 

どうやら三人程、誰かが荷台に忍び込んでいるようだ。

 

「……くしないと………います……」

 

「…は……が欲………じゃ……」

 

「そろ……ま……ですねぇ…」

 

声から判断するとどうやら女性のようだ。

 

「………………」

 

音をたてずに武器を手に持ち、

構える士郎と星。

 

中に居る三人は捜索に集中しているらしく、

外に居る士郎と星の気配には気付いていない。

 

中でもみ合いになったりしたら、

流石に狭すぎるので、

外に出てきた瞬間を捕らえる。

 

互いに目配せをし、

待ち構える。

 

………やがて、ゆっくりと幕が開き、

荷台の中に忍び込んでいた人が出てきたのだった。




基本は三国志演技と恋姫を織り交ぜた
感じで話が進みます。

最後のほうは小説やゲームの恋姫と、
オリジナルの展開をごっちゃにした風になりますが……

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