真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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7-3 長坂橋の戦い

木々の合間を縫うように走り、

追走してくる曹操軍を撒くように走る桃香と星。

 

しかし、追走してくるのは曹操軍最速の秋蘭。

そう簡単には、いかない。

 

「もらったァッ!!」

 

気合の声と共に、

横を並走する敵兵が槍を突き出してくる。

 

「ふッ!!」

 

それを紙一重で交わし、

お返しとばかりに槍を突き帰す。

 

「ぐぅッ……」

 

苦悶の声を上げ、落馬して行く敵兵。

 

「……虎豹騎、分断させるのだ。」

 

秋蘭の支持を受け、盾を持つ虎豹騎が星を囲んで行く。

 

追撃する際に、何人か疲労の少ない虎豹騎を連れてきているのだ。

 

当然曹純はいない為、持ち前の連携は発揮出来ないが、

それでもそこらの騎兵よりは十分強い。

 

危険を察知した星は、先んじて突きを放つ。

 

しかし、

 

「移動中では狙いにくい……」

 

敵が持っている盾に弾かれる。

 

それでも隙間を狙えればなんとかなるが、

木が交差する移動中ではそれも難しい。

 

「……なら!!」

 

自身が乗る白龍の横腹に括り付けられている、

士郎が貸してくれた剣を手に取り――

 

「はァッ!!」

 

そのまま一気に鞘から抜きながら薙ぎ払う。

 

振るわれた刃は敵との間にある木や盾を、

容易く切り裂いていく。

 

「ぐぅッ!!」

 

ダマスカス刀特有の、

木目波紋が光を受け、輝く。

 

「……中々厄介な物を持っているな。」

 

「あまり時間をかけるわけにはいかないからな。」

 

突き進んで行く二人の先には、

荊州へと続く河が見えてきていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――新野北 長坂橋――――――

 

先行して民を誘導している鈴々達の所にも、

曹操軍は迫りつつある。

 

今は、荊州へと続く橋を渡っている途中だ。

 

「月たちは先にいくのだ!」

 

そう言って橋の上で立ち止まる鈴々。

ここで、曹操軍を迎え撃つつもりなのだろう。

 

「でもっ……」

 

「鈴々は強いから大丈夫なのだ!

月には、皆を連れてって欲しいのだ。」

 

鈴々が言う皆とは、

ここまでついて来てくれた民たちのこと。

 

幾ら敵意が無いとは言え、この数の民がいきなり城に近づくのは、

色々と誤解を招きかねない為、

新野に着いた時、説明する人が必要になってくる。

 

「っ……分かりました。

……恋さんっ!」

 

月の呼びかけにこくりと頷き、

鈴々の横に並び立つ。

 

「にゃっ!ど、どうしたのだ恋?」

 

「恋も……一緒に残る。」

 

「それはありがたいのだ。けど……」

 

チラリと民の方に目を向ける。

 

「あ~~もうっ!!こっちはまだ敵が来てないから大丈夫よっ!!

アンタはそっちに集中しときなさい!!」

 

詠に怒られる鈴々。

 

「それに、私達もいるから。」

「民の方は安心してください。」

 

魏越と成廉も詠に続いて答える。

 

「わ、分かったのだ!お姉ちゃんと兄ちゃんが来るまで頑張るのだ。」

 

「頑張る。」

 

互いに、敵軍の方に目を向ける。

 

「恋どのっ!ねねは一緒に……」

 

「あんたはこっちに決まってるでしょうがッ!!」

 

詠に引き摺られて行く音々音。

 

そうこうしている内に、曹操軍が近づいてくる。

 

『うおおおおおッ!!!』

 

ざっと見ても百は超えている。

しかし、この二人はそう簡単には抜けない。

 

「遅いのだっ!!」

 

「ふッ!!」

 

同時に振るわれた一閃で、先頭の十数人がまとめて飛ばされる。

 

「ぐぅッ!!!」

 

「弓兵!射掛けろッ!!」

 

近接では分が悪いと判断したのか、

雨のように矢を射掛けてくる。

 

「当たる訳ないのだー」

 

「……うん。」

 

それも、難なく弾く二人。

 

「くそッ……化け物か……ッ……」

 

「どうしたのだ。鈴々たちはまだまだ戦えるのだっ!!」

 

肩に蛇矛を担ぎ、敵軍を威圧する。

 

曹操軍は、まるで蛇に睨まれた蛙のように動けない。

 

すると、

 

「見つけたーーッ!!

勝負だちびっ子!!」

 

声を掛けてきたのは鈴々の好敵手である季衣。

横には流琉の姿もある。

 

「また来たのだ!?

しつこいのだ。」

 

「うるさい!くらえッ!!」

 

飛んでくるのは巨大な鉄球。

それを蛇矛で受け止める。

 

「にゃッ!!……お返しなのだ!!」

 

二人の戦いが始まった。

 

そして、此方でも――

 

「私の名は典韋です。

いきますッ!!」

 

「……来い。」

 

恋と流琉の戦いも始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桃香さま、もう少しです。」

 

「うんッ。

……誰か戦ってるね。」

 

橋に辿り着いた桃香と星の視線の先から、

剣戟の音と騒ぎ声が聞こえて来る。

 

「あれは……鈴々と恋!?」

 

橋の上で季衣、流琉と戦っている二人。

 

「……桃香さま。此処は一気に突破しましょう。

ついて来て下さい。」

 

「うん。分かったよっ。」

 

星が先頭になり、

橋に向かって一気に馬を走らせる。

 

「鈴々ッ!恋ッ!!」

 

二人に、合図を送る。

 

「にゃっ!!星なのだ!!」

 

「こっちに、来てる。」

 

そのまま敵兵を飛び越し、蹴散らし、

桃香の為の道を作りながら進む。

 

当然、季衣と流琉もそれに気付き、慌てて避ける。

 

「うわっ!!……危ないなあ、もうっ!」

 

「きゃっ!!吃驚した……」

 

一瞬止まった隙に、桃香も駆け抜けていく。

 

「お姉ちゃん!無事だったのだ!!」

 

「うん!私は大丈夫だよ!!」

 

鈴々と恋の姿を確認して、ほっと一安心する桃香。

 

「桃香さま、此処は私も残りますので、

先に進んで下さい!!」

 

「……分かったよぅ。

お願いね星ちゃん。」

 

本当なら自分も一緒に残って戦いたいのだが、

それが、皆の枷になるのは分かっている。

 

しぶしぶといった感じで了解する桃香。

 

「さて。私の相手は誰がしてくれるのかな?」

 

ぐるりと、曹操軍を見渡す星。

 

すると、

 

「やっと追いついた。

……どうやら劉備には逃げられたか。」

 

「秋蘭さまっ!」

 

先ほどまで星達を追走していた秋蘭が合流する。

 

「季衣と流琉がいると言う事は……

成る程。ここで足止めされているのか。」

 

「そう簡単に通すわけにはいかないのだ!!」

 

「……(こくり)」

 

静かに武器を構える二人。

 

「こっちだって負ける訳には行かない!!」

 

「通してもらいますッ!」

 

「……季衣、流琉。

私は後ろから援護する。

……行くぞッ!!」

 

「ふっ……来いッ!!」

 

三対三の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――汝南 東の間道――――――

 

汝南から新野に向かうには二つの道がある。

一つは汝南から北東に向かい、許昌を通り其処から南東に向かうルートだ。

しかし、許昌は今曹操が統治しており、

何より移動距離が長い。

その為士郎達は今、もう一つのルートである

汝南から直接新野に向かえる、

東の細道を通過している。

 

この道は非常に狭く、道が整備されていない為、賊も出やすいが、

逆にその狭さのせいで軍が進行しにくいのだ。

もし、曹操軍が追ってきたとしても、

そう簡単には追いつけない。

 

それに賊が出たとしても――

 

「遅いですね~

……はっ!!」

 

「くそっ!!まだまだ……」

 

「隙だらけだ。」

 

「ぐぅっ……退くぞ、野郎ども!!」

 

士郎と弧白が相手では勝ちようが無い。

 

幌馬車の為、何回かは狙われたが――

新野に近づいた頃には襲うだけ無駄だと判断したのか、

平和なものだった。

 

「ぬぅ……暇なのじゃ……

七乃っ、何とかするのじゃ!」

 

「と、言っても特にする事がありませんよぉ……」

 

ずっと馬車の中にいるのに飽きて来た様子の美羽。

まぁ気持ちも分からなくも無い。

 

「あ、だったら一緒に歌の練習する~」

 

それを見かねた天和が美羽に話しかけてくる。

 

「……いいのかぇ?」

 

「ちぃ達は全然大丈夫よ。」

 

「分かったのじゃ!

……そうじゃ。七乃も一緒に練習するのじゃ!」

 

「え、ええっ!?わ、私もですかぁっ!!」

 

まさか自分も巻き込まれるとは思っていなかったのか、

慌てふためく七乃。

 

「あら~いいじゃないですか~」

 

「こ、弧白さんもですかっ!?

止めてくださいよぅ……」

 

弄るばかりだったので、

弄られることには慣れていない。

 

「それじゃ、早速教えるわね。」

 

「頑張るのじゃ♪」

 

「分かりましたよぅ……」

 

結局七乃も、美羽のお願いには逆らえないのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――新野北 長坂橋――――――

 

三対三の戦いは終わりを見せない。

 

前衛で戦う季衣と流琉は、

互いに親友である故の見事な連携を見せ、

その二人を支援する秋蘭も、元々姉である春蘭の支援する機会が多かった事もあり、

二人の攻撃に隙が出来ぬような絶妙の射を放つ。

 

ただでさえ強いのに、更に繰り広げるのは完璧な連携。

 

これでは並の相手では話にならないだろう。

 

しかし、今回ばかりは相手が悪かった。

 

相手は三國志最強の将呂布に、

あの関羽が、武力だけなら自分より強いと評した張飛と趙雲では、

余りにも厳しい。

 

「ふッ!!」

 

恋が振るう上段からの一撃を、

手に持つ伝磁葉々で何とか受け止める流琉。

 

「くぅッ……」

 

幾ら膂力に自身がある流琉でも、

恋の一撃は全力でないと受けきれない。

 

「流琉っ!!」

 

「お前の相手は鈴々なのだっ!!」

 

季衣が手助けに行こうとするも、

自身も鈴々の相手で手一杯。

 

咄嗟に、秋蘭が恋を狙って矢を放っても――

 

「残念。させぬよ。」

 

「く……趙雲……」

 

星に弾かれる。

 

終始、劣勢の秋蘭達。

 

(拙い……このままではジリ貧だな……

……せめて姉上くらいの将がいないと厳しい……)

 

焦り始める秋蘭。

すると、そんな思いが届いたのか、

 

「全員ッ!そこまでよ!!」

 

『華琳さまっ!!』

 

響き渡る華琳の声。

どうやら、傍に桂花と春蘭もいる所を見ると、

後詰の部隊を率いて来ているようだ。

 

「どんどん来るのだ!

今日は負ける気がしないのだ。」

 

春蘭を見て、更にやる気を出す鈴々。

 

しかし――

 

「早とちりしないで。もうこれ以上戦う気は無いわ。」

 

「何故ですか華琳さまっ!!」

 

抗議の声を上げたのは季衣。

やられっぱなしのままでは帰れない。

 

「私達の相手は他にもいるでしょう!

劉備にも逃げられたし、これ以上は兵の無駄なのよ!!」

 

桂花に窘められる。

 

確かに、未だ徐州は麗羽と分けている状態。

 

協力体制を取っているし、

向こうも手に入れたばかりの北海と下邳の戦後処理があるとはいえ、

あの『麗羽』である。

何をしてくるか分からない。

 

これ以上、徐州を放って置くのは余りにもリスクが大きい。

 

「……分かりました。」

 

「ふふっ。ありがとう季衣。

聞き分けのいい子は好きよ。」

 

そう言って季衣の頭を撫でる華琳。

 

そのまま、視線を鈴々達の方に向けてくる。

 

「劉備に伝えておくといいわ。

命拾いしたわね。と。」

 

「ふん。うるさいのだ。

今度は鈴々がやっつけてやるのだ。」

 

「……恋も。」

 

そんな二人の反応を見て、余裕の表情を浮かべる華琳。

 

「それより、愛紗はどうなったのだ!」

 

小沛城にて、足止めの為に一人残った愛紗。

同じ日、同じ時に死ぬ事を誓った鈴々は、

そのことが気がかりだった。

 

「安心しなさい。私が関羽を殺すわけないでしょう。」

 

「……よかったのだ……」

 

それを聞いて、ほっとした様子の鈴々。

 

そして、華琳はそのまま視線を星に向ける。

 

「確か趙雲と言ったかしら。

貴女、私と共に歩む気はないかしら?」

 

『華琳さま!?』

 

華琳の発言を聞いて慌てる春蘭、秋蘭、桂花。

まぁ仕方が無いだろう。

 

「ほぅ。どう言うつもりですかな。」

 

「私の軍にいる郭嘉と程昱は、昔貴女と共に旅をしていた友人と聞いていたのよ。

だったら、友人と再会出来るでしょう。

それに……」

 

「それに?」

 

「貴女の舞う様な槍捌き……劉備にはもったいないわ。」

 

鈴々は桃園の誓いを行っているし、恋は華琳から領土を奪った敵である為、

星だけが華琳の眼鏡にかなったのだろう。

 

「あの曹操どのに目を掛けられるとは……

私も有名になったものですな。」

 

「あからさまな謙遜は嫌いよ。

で、どうかしら?」

 

少し考えた「振り」をする星。

そして、

 

「魅力的な提案ですが、お断りします。」

 

「へぇ……何故かしら。」

 

「貴女が行っている覇道にも少しは理解出来るところもあります。

しかし、それよりも桃香さまの方が魅力がある――唯それだけですよ。」

 

「……統治する地も無い主を、仰ぐというの?」

 

「統治している桃香さまに仕えている訳ではありませぬよ。

桃香様と初めて会ったのは、

桃香様がまだ義勇軍として各地を転戦している時。

あの時から、私の主は桃香さまと決めているのです。」

 

未だに思い出す。

自身が白蓮の客将としていた時、桃香と会ったときの事を。

 

普段は飄々としている星だが、その忠誠心は並外れたものがある。

演技では公孫瓚が滅んだ後、劉備に仕える為だけに放浪し、

劉備の子の為に数十万の敵陣を単騎で駆け、

関羽に「自分に負けないくらいの忠誠心を持っている」と評され、

自身の婚礼より、劉備の名が穢れる事を気にしたのだ。

 

その忠誠が、揺るぐ事など――有り得ない。

 

「……貴女も一緒なのね。

いいわ。退きましょう皆。」

 

「……次は絶対決着つけるからな!!」

 

「何回でも相手してやるのだ!!」

 

去っていく華琳達。

 

「……一応この橋を焼いておこう。

何かあったら困るからな。」

 

「分かった。」

 

星に言わて、橋を焼いて落とし始める恋。

 

「……結局、愛紗が帰ってこなかったのだ……」

 

「……大丈夫。

愛紗の事だ、そう簡単にはやられないさ。」

 

「……うん。」

 

心配そうに、徐州の方角に眼を向ける鈴々であった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「華琳さま、少しよろしいですか?」

 

「何かしら春蘭?」

 

小沛城に帰る途中、春蘭が華琳に話しかける。

 

「幾らあの三人が強いとは言え、

季衣と流琉、それに秋蘭と私に華琳様がいれば倒せたのではないですか?」

 

「そうね。確かに全員でかかれば勝てたかもしれない。

けど、それでは民や兵士達は納得しないわ。」

 

ただ、数に物を言わせただけ――そう取られてしまっては元も子もない。

 

「それに、関羽が此方に降る条件に、追撃の手を止めるのも入っているのよ。」

 

「関羽がですか……」

 

「ええ。約束した以上は守らないとね。

それに、他にも幾つか提案されているわ。

勿論条件は飲むつもりだけど……」

 

「関羽が我が軍に……」

 

どこか困った顔を浮かべる春蘭。

 

「ふふっ。心配しなくても関羽には手を出さないわ。

安心しなさい春蘭。」

 

「はいッ。華琳さま。」

 

そう言って一人思案する華琳。

 

(趙雲も私より劉備を選んだ……一体何故なのッ……

私に、何が足りないっていうの……)

 

先ほどの、星の言葉が胸に残る。

 

これからまた、悩む日々が続く華琳であった……




本来なら長坂橋の戦いは劉備が新野に入り、
そこから更に逃げる際に起こる戦いだったんですが、
私のSSではその逃げる原因である「劉表の死」が起きませんので、
ついでに書きました。

何卒ご了承ください。

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