真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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7-4 帰還

日が昇って間もない新野の町。

そこに一台の馬車が辿り着く。

 

「到着~

一番乗りっ。」

 

「まったく姉さんは……」

 

元気に馬車から飛び出していく地和と、

それを心配そうに見ている人和。

 

士郎たちはやっと、

荊州に帰って来たのだ。

 

「……ここが荊州かえ?」

 

歩くのを嫌がった美羽は、

士郎の背に乗りきょろきょろしている。

 

……どうやら懐かれた様だ。

 

「私は何回か来た事が有りますけど……

随分様変わりしてますねぇ。」

 

七乃が以前来た時は、まだ黄巾の乱が始めるより前である。

今は来たから流れてきた事で、大量に人口が増えているし、

二重防壁も無かった。

 

「私は始めてですね~

……なるほど。確かにこの町はそう簡単には抜けませんねぇ~」

 

弧白は元々涼州出身の為、ここに来るのは始めてである。

土地が変われば、扱っているものも変わる。

見るものすべてが珍しいのだろう。

 

士郎たちが街中に進んでいくと、

兵士が近寄り話しかけてくる。

 

「士郎様。城の方からお呼びがかかっておりますが……」

 

「分かった。有難う。

……太守は向朗だったな。報告だけはしておくか。」

 

桃香達も間も無く新野に到着する――

 

それも含めて一度話をしておいた方がいいだろう。

 

そう考えた士郎は皆に声を掛け、

城の方に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさーーいっ!!」

 

城の中に入った士郎に、いきなり女性が突進してくる。

 

「うわ!……っと。

玖遠じゃないか……ただいま。」

 

「……おかえり………なさいです……」

 

「援里も来てたのか。

……ただいま。」

 

「……はい。」

 

援里も士郎にしがみつく。

 

「あのぅ……士郎さ~ん……

出来れば紹介して貰えると嬉しいんですけどぉ……」

 

「そうだったな。玖遠、援里。

新しく仲間が増えたから紹介するよ。」

 

そうして互いに自己紹介をする。

 

「で何で玖遠ちゃんがここにいるの~?」

 

天和が首を傾げながら聞いてくる。

 

「士郎さんから手紙を貰ってましたから、

迎えにきたんですよ。

あと……もう一人迎えに来てますっ。」

 

「もう一人?」

 

「士郎くーーん!!」

 

士郎たちが声のする方を向くと、

そこには……

 

『聖さまっ!?』

 

「大丈夫っ!?怪我とかしなかった!?」

 

士郎に纏わりついてくる。

 

「聖さまっ!ちょっとくっつき過ぎですようっ!」

 

「玖遠ちゃんだって、さっき抱きついてたじゃない!」

 

きゃいきゃいと騒がしい二人に揺さぶられる士郎。

当然、背中に乗っている美羽も揺れる。

 

「や、やめるのじゃ~~」

 

ぐらぐらと揺れている美羽。

すると、不意に服を引っ張られる。

 

「な、なんじゃっ!!」

 

「……私の……番……」

 

下から、じっと見上げてくる援里。

どうやら居場所を交代してほしいようだ。

 

「ここは見晴らしがいいから嫌なのじゃっ!!」

 

「私の……場所……です……」

 

揉みくちゃにされ、中々前に進めない士郎であった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気になってたんですけど~

聖さまはここに来て大丈夫なの~」

 

「……?」

 

弧白の質問に首を傾げる聖。

 

「確か、水蓮さまにはちゃんと話はしたっていってましたっ。」

 

「私も……そう聞いて……ます……」

 

「うっ……」

 

二人から見つめられ、たじろぐ聖。

 

「まさか聖さま……」

 

「だ、大丈夫だよっ!?

ちゃんと書置きしたからっ!!」

 

『…………………』

 

美羽以外の皆が、沈黙する。

 

「これはもう駄目かもしれないわ。」

 

「ち、地和ちゃん酷い……」

 

「……妾は書置きなんかしたことないのじゃ。」

 

「美羽さまは目を離すと、

勝手にいなくなってたじゃないですかぁ……」

 

……大丈夫か?この太守たちは。

 

思わずそう思ってしまう士郎。

 

「ほ、ほら!向朗ちゃんのとこに着いたよ!!」

 

慌てて話を切り替える聖。

まぁ、気持ちも分からなくない。

 

ノックをして、入室する。

 

すると……

 

「アンタ!月から離れなさいよッ!!」

 

「こんな可愛い娘をほっとくのは罰が当たるッ!!」

 

「わ、私は大丈夫だよ詠ちゃん……」

 

月に近づこうと騒いでる向朗がいた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁお恥ずかしい所を見せました……

新野を任せられている向朗と言います。」

 

眼鏡の位置を直しながら皆に自己紹介する向朗。

 

「……なんか変な奴なのじゃ……」

 

「ああッ!あそこにも可愛い娘が……」

 

「お・と・な・し・く・し・て・ろ!」

 

士郎がロープでぐるぐる巻きにする。

 

「ううっ……これは酷い……」

 

さめざめと泣く向朗。

 

……自業自得である。

 

「士郎さんッ!無事だったんですね!!」

 

そんな向朗を尻目に、月と詠が近寄ってくる。

 

「星はどうしたの?」

 

「ああ。星は桃香たちと合流してる筈だから、

もう直ぐ来るだろう。」

 

「星さんも無事なんですね……よかった……」

 

ほっとした表情を見せる月。

 

「あ……士郎さん、この弓お返しします。

……とても助かりました。」

 

そう言って差し出してきたのは、

士郎から借りていた黒弓。

 

「貸した時に心配してたんだけど……よくこれを使えたな。」

 

「弓を引くときに結構力が要りましたけど……

なんとか、使うことが出来ました。」

 

「そうか。とりあえず返してもらっておくよ。」

 

「はい……ありがとうございました。」

 

そう言って頭を下げる月は、

そのまま、直ぐ傍にいる弧白に近寄っていく。

 

「弧白さんも……無事だったんですね……」

 

「はい。洛陽以来ですねぇ。」

 

「全く。藍も弧白も……何処言ってたのか心配してたんだから!」

 

詠も話しかけてくる。

……彼女も、心配していたのだろう。

 

「あの時、連合軍の兵糧を手に入れる為に美羽さまに降ったんですよ~」

 

「そう言えば洛陽に大量の食料が配布されてたわ。

……弧白だったのね。」

 

「じゃあ今は……」

 

「はい。美羽さま……元袁術軍に使えています~」

 

「そうなんですか……」

 

なんともいえない空気が流れる。

 

すると、美羽が弧白に近づいて来て――

 

「駄目なのじゃ!弧白は妾の家族なのじゃ!!」

 

ぎゅっと、腕に抱きつく。

弧白が元の所に帰るかもしれないと思い、心配になったのだろう。

 

「大丈夫です……私は、弧白さんが無事だっただけで十分ですから。」

 

「そうね。今のボクたちはもう太守でもなんでもないし。」

 

「そうですよ~。

私は美羽さまといますから、心配しないで下さい~」

 

「うん……」

 

いろんな再会があり、賑やかな光景が広がる。

 

「他にはまだ到着してないのか?」

 

「後は……白蓮と音々音と魏越、成廉の二人が今ここにいないわね。」

 

「そうか。白蓮がいるなら兵の方も大丈夫だろう。」

 

「で!とりあえずどうしますか?」

 

縄に縛られたままの向朗が話しかけてくる。

 

「……前に、似たような光景を見たような気がする……」

 

「私もですっ……」

 

「玖遠もか……とりあえず外して置くか。」

 

ゴソゴソと、向朗の縄を外してやる。

 

「ふぅ……やっと楽になった……

で、どうするんですか?」

 

「そうだな……桃香たちが何時来るか分からないし、

待たなきゃいけないんだけど……」

 

「で、出来れば襄陽に向かった方が言いと思うよ……うん。」

 

「……早くしないと、水蓮に怒られるからな。」

 

「うっ…………」

 

痛いところを疲れた顔をする聖。

 

「まぁ人数も一気に増えるし、

先にここにいる人だけでも紹介したほうが良さそうだ。」

 

襄陽にはまだ、水蓮に蒯姉妹、霞に紫苑と会ってないメンバーもいる。

 

「じゃぁ早速行こうーー」

 

「とりあえず一旦休んでからだけどな。」

 

「はーーい……」

 

これだけメンバーが集まり、賑やかになると思ったが、

想像以上に疲労が溜まっていた皆はあっという間に床に就き、

静かな夜が過ぎていった……

 

 

 

 

 

そして、翌朝士郎たちは長江を渡り―――

 

 

 

 

 

「ここが襄陽……洛陽にも負けてないな、これは。」

 

感嘆の声を漏らす白蓮。

 

彼女自身も洛陽、長安、許昌、鄴、下邳といった大都市を見てきたが、

ここはどの町にも劣らない程の大きさを誇っている。

 

特に、街の盛況さでいえば今の中国一であろう。

 

「民が一杯来てくれるし、優秀な文官がたっくさんいるからね~」

 

まるで自分が褒められたかのように嬉しそうな聖。

太守としての頑張りが認められるのは、

彼女にとって一番の喜びである。

 

「しろう、しろう。あっちに行くのじゃ!!」

 

そう言って、士郎の背中にいる美羽が髪を引っ張り誘導する。

 

「いたたっっ……どうしたのさ。」

 

「蜂蜜なのじゃ!!」

 

士郎の目の前にあるのは食料屋。

たしかにここ数日、美羽は蜂蜜を口にしていない。

 

「七乃、良いのか?」

 

「う~ん、そうですねぇ……

まぁ、ここ最近蜂蜜を召し上がっていませんし、

良いですよ♪」

 

「やったのじゃ♪」

 

嬉しそうな美羽。

 

「じゃあ城に帰ったら何か作るさ。」

 

「あの……私も……一緒に……」

 

「ああ。手伝ってくれるか援里。」

 

「はい……っ。」

 

そうやって、色々な物に目移りしながら城に向かって進んでいく。

 

少し時間がかかったが、やがて城の前に辿り着く。

 

「うう……着いちゃった……」

 

「いや着くに決まってるだろう……」

 

中に入るのを躊躇している聖。

 

「士郎くん……先にはいって?」

 

「了解。」

 

士郎の後ろに隠れるようにして、中に入っていく。

 

すると―――

 

「お帰りなさい士郎。」

 

「うわっ!!す、水蓮か……ただいま。」

 

いきなり目の前に出てくる水蓮。

……士郎の背中が震えているが、気にしない。

 

「手紙で大体の報告を受けているわ。

……とりあえずはお疲れ様。大きな怪我はしてないでしょうね。」

 

「それは大丈夫だ。」

 

水蓮も心配だったのだろう、

士郎の事は気にかけていたようだ。

 

「それで……うちの太守は見・て・な・い・かしら?」

 

ガタガタガタガタ

 

震えが加速していく。

 

「士郎からの手紙を渡した後、いきなり姿が見えなくなって、

『迎えに行ってくるねー』って手紙だけ置いてたのよ。

……どう思います。ひ・じ・り・さ・ま。」

 

がしっと、士郎の後ろにいる聖を掴む。

 

「…………えへへ。」

 

「聖様っ!また勝手に抜け出してっ!!

……罰として三日間士郎との接触を禁じます。」

 

「ええっ!!そ、それは酷いよう!!

せめて一日で……」

 

「私も賛成ですっ!」

 

「く、玖遠ちゃん!?」

 

「賛成も出たことだし、早速連れて行くわね。

……士郎、疲れてる所悪いけど、

新しく入った人を案内してあげて。

その後は何日か休みを取っていいから。」

 

「ああ。了解した。

……お手柔らかにな。」

 

「ええ。お疲れ様。

……蓬梅と鈴梅にも会っておきなさいよ。

心配してたから。」

 

そう言って、聖を連れて去っていく水蓮。

 

「……なんか、」

「台風みたいでしたね……」

 

魏越、成廉の言葉に頷く皆。

 

「さっきの人が水蓮さま――この街の水軍都督ですっ。」

 

とりあえず紹介をしておく玖遠。

 

気を取り直して、そのまま中に進んでいく。

 

「やっと来ましたですか。」

 

「遅いじゃないっ!」

 

「蓬梅に鈴梅か。ただいま。」

 

取りあえず自己紹介をする皆。

 

「で、怪我とかはないです?」

 

「ああ。何とか無事に帰って来れたよ。」

 

「……休んだら、さっさと作業に戻りなさいよ!」

 

「心配かけたようだな。ありがとう。」

 

「うるさいです。心配してないです。」

 

ぷいっとそっぽを向く蓬梅。

 

「ほら!さっさと部屋に行きなさいよ!!

紫苑と霞は所用で出てるから、

帰ってきたら向かわせるからね!」

 

ぐいぐいと鈴梅に押されるまま、部屋を出る士郎。

皆もそれについて行く。

 

「と、と、強引ですねぇ……」

 

二人の様子に、思わず七乃が感想を漏らす。

 

「多分、安心したんじゃないんですかっ?」

 

「?」

 

玖遠の言葉に?マークを浮かべる七乃。

 

「だって、蹴られませんでしたからっ。」

 

「???」

 

殆どのメンバーは理解できなかったが、

いつもの蓬梅、鈴梅を知っている人はそれを理解することが出来た。

 

「そうだな。

……さて、部屋に案内するか。」

 

これで無事に桃香たちが帰って来れたら、

また賑やかな日々が戻ってくる。

 

みんなの無事を祈りつつ、

襄陽での一日が過ぎていった……




聖たちにも袁術達の事を、
先に手紙で知らせているので、
特に混乱とかは無いです。

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