真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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7-9 忍び寄る動乱

無事に愛紗と合流し、一旦新野に戻る士郎たち。

 

当然、何人かの兵は残しておき、

有事の際に早く反応出来るよう対処はしておいたが。

 

「じゃあ、早速襄陽に帰りますか!」

 

「……なんで向朗もついて来ようとしてるのさ……」

 

「さも……当たり前かのように……います……」

 

士郎と援里に突っ込まれる向朗。

 

「向朗さま……何してるんですか?」

 

「当然、帰る準備……って、

ば、馬良ちゃん……」

 

いきなり近づいてきた、

文官服を着てセミロングの髪形をした、

眉も髪も真っ白な少女に肩を掴まれる向朗。

 

年は玖遠より少し下位だろうか、

じとっとした目で向朗を見ている。

 

「この娘は?」

 

「始めましてになりますね。

私は馬良と申します。

一応、向朗さまの補佐をさせて頂いてます。」

 

礼儀正しく、ペコリと頭を下げながら自己紹介する馬良。

 

「さて……向朗さま。

早く戻ってもらわないと、仕事溜まってるんですから!!」

 

「そ、そろそろ蓬梅さまと鈴梅さまに会わないと……」

 

「……いいんですか?早く戻らなくて。

ここでのんびりしてると、姉や妹が秘蔵の木簡を探してますよ?」

 

「わ、私の蓬梅さま、鈴梅さま成長記録が!?

そ、それはひじょーに拙いです!

くっ……士郎さん!急用が出来たので、

名残惜しいですが私は戻ります!!ではっ!!」

 

急いで走り去っていく向朗。

馬良もこちらに向かって一礼した後、後を追っていく。

 

「急……用……?」

 

「相変わらず変わった人ですっ。」

 

「あ!士郎さーーーん!

蓬梅さまと鈴梅さまの観察報告っ!

よろしくお願いしますねーーー!!」

 

何か遠くから爆弾を放り投げてくる向朗。

 

「し、士郎……

まさか、そんな事を……」

 

水蓮から凄い目で見られる士郎。

なんか変な物に目覚めそうになってくる。

 

「し、してないっ!!ただの言いがかりだ!!」

 

じりじりと、士郎から距離を開けていく皆。

 

「だ、大丈夫です……っ。

そんな士郎さんも好きですから……っ。」

 

とか言いつつ、引きつった笑みを浮かべる玖遠。

 

この後、士郎が皆を説得するのに大分苦労したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――荊州 襄陽城――――――

 

「おーーっ!帰って来れたんやなーーー関羽!」

 

到着するや否や、

いきなり愛紗に抱きついて行く霞。

 

「ち、張遼っ!

なんだいきなりっ!」

 

急な事態に焦る愛紗。

 

「水臭いなーーウチの事は霞でええでー」

 

「……別に私のことも愛紗で呼んで貰っても構わないが……」

 

しかし、別にそれ程嫌でもなさそうだ。

 

「嫌よ嫌よも好きのうちと言う奴ですかっ!」

 

なんか玖遠が変な言葉知ってる。

 

「その言葉……どこで知ったのさ……」

 

「紫苑さんが教えてくれましたっ!」

 

「他にも……色々……教えてくれます……」

 

「一度詳しく聞いた方が良さそうだな……」

 

思わずため息を吐く士郎。

 

「ええいっ!一回離れろっ!」

 

どうやら霞は愛紗の事が気に入ってるようだ。

 

「今は愛紗に玖遠もおるし、

ウチからすればええ感じやな~」

 

……まぁ、使ってる武器も似ているし、

凛々しい愛紗に惹かれる物もあるのだろう。

 

「霞~何処行って…………何してるのよ……」

 

丁度良いタイミング?で霞を探しに来た水蓮に目撃される。

 

「す、水蓮っ!助けてくれ!」

 

「もぅっ!ほら、愛紗は疲れてるんだから後にしなさい!」

 

そのまま水蓮によって、強引に引き剥がされる霞。

 

「全く……いきなり走り出したから何かと思ったじゃない。」

 

「何かしてたんですかっ?」

 

「軍の編成や鍛錬とか、霞と色々話してる所だったんだけど……

伝令の話を聞いた途端に走り出したのよ……」

 

「……水蓮やって、聖の事になると見境なくなるやん。」

 

「わ、私は違うわよっ!!」

 

急に焦りだす水蓮。

……余計に怪しく見える……

 

「ほら!とりあえずは聖の所に行ってからにするぞ。」

 

「まぁ、士郎が言うならしゃーないか。」

 

一応、士郎の言う事はきちんと聞くようである。

 

「ふぅ……士郎さん、助かりました。」

 

ほっとした様子の愛紗。

 

「ああ。徐州では俺の方が世話になったからな。

何かあったら言ってくれ。

大抵の事なら力になれると思うから。」

 

「はい。その時はよろしくお願いします。」

 

賑やかに話ながら、聖の所へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖と愛紗の話は、

大した時間もかからずにあっと言う間に終了し、

各々の作業に戻っていく。

 

「さて……俺は何をしようか……」

 

一応昼からは休みの時間を貰っている士郎だが、

何かしていないと気が済まないのか、

手持ち無沙汰にうろうろしている。

 

そんな士郎が厨房の近くに来たとき、

中から誰かの話し声が聞こえてきたので、

顔を出してみると……

 

「誰かと思えば援里たちか。

……そこで何してるんだ?」

 

厨房の中にいたのは朱里と雛里と援里の三軍師。

周りを見てみると粉や卵があり、何かを作っていたようだが……

 

「晩餐会で……士郎さんが作ってた……お菓子を……再現してました……」

 

「そう言えば幾つか作ったな。」

 

士郎の言葉にこくこくと頷く朱里。

 

「士郎さんの作ってくれたお菓子が始めて食べたものばかりだったので、

挑戦してみようって……」

 

「そ、そうなんです……」

 

朱里はまだ多少士郎に慣れてくれているが、

雛里はまだ少し壁がありそうだ。

 

「そう言う事なら俺も手伝うよ。」

 

「いいですかっ?」

 

晩餐会の時にこの三人には手伝ってもらっている。

どうやらお菓子作りが得意なようだから覚えるのも早いだろう。

 

「丁度暇してた所なんだ。

簡単なものなら教えれると思うよ。」

 

「あの、よろしくお願いします……」

 

おずおずと、しかし興味津々な三人と共に、

甘い香りを漂わせながら士郎達はお菓子作りにとりかかって行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――襄陽城 謁見の間――――――

 

「聖様。益州から使者が参っております。」

 

「劉璋さんから?

……分かった。呼んで来て貰える?」

 

「はっ。」

 

一旦、部屋を後にする文官。

 

「何の用だと思う、蓬梅ちゃん?」

 

「多分漢中の事だと思うです。

最近、張魯が変な動きしてますです。」

 

荊州より更に西に広がる益州、

今で言う四川省あたりは、

同じ劉性である劉璋が統治している。

 

性格は良く言えば温厚。悪く言えば優柔不断。

平和な世なら良いのだが、この群雄割拠の時代には、

些か向いてない性格をしていると言うのが専らの評である。

 

その益州の北に、かつて劉邦が漢王朝を県立した土地「漢中」がある。

 

今現在、漢中の太守は五斗米道と言う道教集団の長である張魯が勤めており、

この張魯と劉璋の関係は非常に宜しくない。

 

「張魯が大分兵を集めてるって噂だし、

本格的に拙いって思ってるんでしょうね。」

 

鈴梅の言う通り使者の話を聞いた所では、

結局の所、張魯侵攻による援軍要請であった。

 

使者が帰った後、三人で話を始める。

 

「う~ん……心情的には大変そうだな……って思うけど……」

 

「無理に決まってるです。」

 

「そうね。こっちも孫策と曹操に挟まれてて、

あんまり関係も良くないのに、

そんな余裕は無いわ。」

 

特に、孫策の方は恨みを持たれている分より危険である。

 

「ああ……頭が痛くなるよぅ……」

 

とは言え、元は同じ劉性。

無碍にする訳にも行かず、聖の性格上にもきっぱりと断りにくい。

 

「……ちょっと士郎くんの所行ってくるーーっ」

 

『ダ・メ・です!!』

 

逃げようとした所を二人に捕まる聖。

 

また頭を悩ませる事が増えたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし。こんなものか。」

 

机の上に並ぶ焼き菓子の数々。

どれも甘い良いにおいを漂わせている。

 

「沢山……作りました……」

 

クッキーやスコーンを始めとする西洋の焼き菓子の数々。

当然、この国の人々は見たことなど無いものばかりだ。

 

「さて、じゃあお茶を淹れて試食するとしようか。」

 

「はいです。」

「はい……」

 

士郎に返事をしながら、いそいそと準備に取り掛かる朱里と雛里。

一緒に作業をしたお陰か、多少は二人との距離も縮まったようだ。

 

「後はお茶を持って行って……」

 

三人に先に菓子を持って行って貰い、

最後に、士郎がお茶の入った容器を中庭に持って行く。

 

するとそこには……

 

「もぐ……もぐ……」

 

「なんで恋がもう居るのさ……」

 

椅子に座って、美味しそうに頬張っている恋の姿があった。

 

「はぁ~なんか見てると癒されますねぇ~」

 

「こくり。」

 

「れ、恋どのは渡しませんぞ!離れるのです!!」

 

先に持っていった三人はその光景を微笑ましそうに見守り、

音々音がそれを見せまいと邪魔をしている。

 

「とりあえず三人を元に戻した方がいいのか……?」

 

士郎が困惑していると、

匂いに反応した他の人たちも集まって来る。

 

「なんか美味しそうな匂いがするのだ!」

 

「鈴々!私はまだ道が分からないんだから置いていくな。」

 

「お母さん!こっち~」

 

「あら。士郎さん。」

 

愛紗に鈴々,紫苑と璃々。

恐らく、来たばかりの愛紗に道案内をしていたのだろう。

 

「丁度良い。愛紗、食べてみてくれないか?」

 

「えっ……私ですか?」

 

「なんで愛紗なのだっ!?」

 

早く食べてみたいのか、うずうずしている鈴々。

 

「愛紗が無事だったから、そのお祝いに作った物もあるしな。

主賓に味を確認してもらいたいんだよ。

それに鈴々は、歓迎会の時沢山食べてただろ……」

 

そう言って士郎が作った焼き菓子を幾つか差し出す。

ちなみに今、恋が食べているのは他の三人が作った物である。

 

「わざわざ私の為に……有り難く頂きます。」

 

菓子を一つ手に取り、それを口にする。

 

「これは……美味しいです!

口の中でさくっと砕け、優しい甘みが広がっていく……」

 

幸せそうな笑みを浮かべる愛紗。

 

「じーーーっ………」

 

「お気に召したようで何よりだ……って、どうした恋?」

 

士郎が持っている皿をじっ……と見てくる恋。

 

「……じーーーっ……」

 

「…………ほら。」

 

埒が明かないと判断した士郎は、

恋の口の中に一つ放り込む。

 

「もぐ……もぐ………」

 

美味しそうに食べている恋。

すると……

 

「こらーーっ!恋どのに気安く近づくなーー」

 

「おっと。」

 

横合いから飛び出してきた小さい何かを避ける士郎。

 

「恋どのに近づくのは許さないのですぞ!」

 

「音々音か。

まぁ落ち着け。」

 

そう行って音々音の口にも菓子を一つ突っ込む。

 

「むぐっ!……これは…………おいしいのです~」

 

先ほどの威勢は何処へやら。

急に大人しくなる音々音。

 

「ねね……私の分食べた……」

 

「はっ!こ、これは違うのです!

こ、このデクノボーが悪いのですぞ!!」

 

「だれが木偶の坊さ……」

 

やいのやいのと騒がしくなっていく。

 

「もうっ!少しは静かにしなさいよっ!!」

 

騒ぎに反応したのか、

近くを通りかかった鈴梅が怒りに来るが、

 

「あ……鈴梅ちゃん。

一つ……どうぞ。」

 

「う……あ、有難う雛里……」

 

いきなり雛里に話しかけられ、出鼻を挫かれる。

 

「二人とも、仲がいいんだな。」

 

「は、はいっ……

よく蓬梅ちゃんや朱里ちゃんと一緒に、お話してますから。」

 

「互いに文官だからな。

色々話すこともあるんだろう。」

 

納得した様子で頷く士郎。

 

「互いに、お勧めの本とかを紹介したりもしてます……」

 

「本か。俺も何か読んでみるかな……

何かお勧めの物はあるかな?」

 

「あ……それなら幾つかいいものがあります。

また後で部屋からとって来ますね……」

 

雛里の言葉を聞いて、

「ああ。よろしくな。」と士郎が答えようとした時、

 

「雛里の部屋にある本なら鈴々も知ってるのだ!

確か、桃色の表紙の奴だったのだ?」

 

「あ、あわわ……っ……

そ、それは鈴梅ちゃんから借りた艶……」

 

「待ってーーーー!」

 

瞬間、鈴梅が雛里の口を塞ぐ。

 

「艶……?」

 

「アンタは気にしなくていいのっ!!」

 

ガンッ!と、思いっきり脛を蹴られる士郎。

 

「な、なんでさ……」

 

「し、士郎が本読んでも一緒でしょう!!

ほ、ほらこの話は無し、無しーーーっ!!」

 

強引に有耶無耶にする鈴梅。

 

その後も話題は二転三転しながら、

士郎たちの賑やかな、午後のひと時が過ぎ去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――許昌 許昌城――――――

 

玉座に座り、今回起きた愛紗の報告を秋蘭から受ける華琳。

 

「関羽の事は半ば諦めていたからいいわ。

……それより気になるのはその『弓使い』の件ね。」

 

「はい。あのような弓はそう見たことがありません。

……確証はありませんが、何らかの関係は有るかと。」

 

自身の弓使いとしての力量はこの国一だという自負はある。

だからこそ、一目で今回あの男が使ってた弓が、

徐州の時みた弓と同じ物だと言う事は分かる。

 

特に、あれ程素晴らしい弓なら。

 

「以前、連合軍を組んだ時に見た、あの長身の男で間違いないのね。」

 

「はい。」

 

顎に軽く手をあて、思案する華琳

 

あの時、呂布を倒したのは赤髪の男だったと聞いている。

……確かに、あの男は私の言葉の真意を見抜いていた。

……それに弓の腕前も秋蘭と同等かそれ以上、注意しておくに越したことは無いわね……

 

「……とりあえず今は西涼の馬騰が先よ。

それが決着つき次第、次の手を打つわ。

秋蘭は、軍の編成している風の手伝いに入って。」

 

「はっ!」

 

部屋を後にする秋蘭。

 

「……一つ、劉表の尻尾を掴んだわね。

けれど、まだ『弱い』。

気は乗らないけど、ここは手を結ぶ必要があるわね……」

 

そう言って地図を見つめる華琳。

 

その目が捕らえている未来は覇王への道。

 

「そうよ。私は『乱世の奸雄』

今が乱世である以上、止まるわけにはいかないのよ!」

 

静かに、しかしはっきりと。

まるで自分自身に言い聞かせるように言い放つ華琳。

 

しかし、その姿は、どこかか弱くもみえるのだった……


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