真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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8章 荊州侵攻
8-1 新野の戦い


「桃香ちゃん達だいじょうぶかなぁ……」

 

両手を頬にあて、心配そうに呟く聖。

 

「今の所、益州からの報告は来てないです」

 

「愛紗や恋が居るから大丈夫だと思うけど……」

 

間諜からの報告も特に良い話は無く、

心配は募っていくばかり。

 

 

 

……話は、数ヶ月前に遡る。

 

以前に益州を治める劉璋から、

「漢中の張魯が侵攻してきそうなので、援軍を送って欲しい」との要望があった。

 

当然、自身からは攻めていかない聖たちは断るつもりだったのだが、

一応、劉璋はおなじ劉性で同族。

 

無碍に断るのもどうかと考えていた所、

その話を聞きつけた桃香たちが「自分達に行かせて欲しい」

と、立候補してきたのだ。

 

桃香も同じ劉性。見捨てるわけにはいかなかったのだろう。

 

それに桃香たちの身分は客将。

 

そろそろ自分達の土地を確保したい目論見も

朱里、雛里両軍師にはあった。

 

幸い兵は徐州から連れてきた兵が五千程おり、

武将は言わずもがな。

兵糧は劉璋が工面するとの話もあったので、

張魯討伐に向かったのだ。

 

元々、張魯は劉璋の父劉焉に使えていたが、

劉焉死後、漢中にて独立。

それに怒った劉璋に母と弟を処刑され、非常に関係は悪い。

 

当然、劉璋も幾度も討伐の兵を起こしたが、

漢中はそう簡単には落ちなかった。

 

漢の高祖劉邦が漢王朝を開いた土地で、

北には秦嶺山脈がそびえており陽平関があり、

南には細い桟道に剣閣,葭萌関の二つの関所があり正に難所。

 

長江からの支流である漢水も流れ込んでおり、

食料も豊富にあり、正に難攻不落の城なのである。

 

さらに今現在、漢中の北に広がる涼州にて、

曹操と馬超,韓遂が戦の真っ最中であり、

大量の民が漢中に流れてきて、国力も上昇しつつある。

 

そんな漢中に挑んだ桃香たち。

 

兵と将の質で上回る劉備軍。

数と地の利で上回る張魯軍。

 

戦況は一進一退の攻防を続け、

じわじわと桃香たちが優勢になって来た所で事件が起きた。

 

劉璋の裏切りである。

 

とはいっても、別に桃香たちに兵を差し向けたりした訳ではない。

援軍の兵数や兵糧の数を、徐々に減らし始めたのだ。

 

元々、劉璋は争いごとが好きではない。

張魯の母と弟を処刑したのも、法に則って行ったまでだ。

 

だからこそ、気付いてしまった。

 

伏龍、鳳雛の両軍師に愛紗、鈴々、星、恋と言った一騎当千の将。

そして桃香と自分との、上に立つものとしての格の差――

 

(このままでは、益州が乗っ取られてしまうのでは)

 

燻る不安の火は、劉備軍優勢の報告を聞いた瞬間に――爆発した。

 

送られてこない援軍の兵に兵糧――

 

剣閣近くまで攻め込んでいた桃香達は、

当然、困惑した。

 

進むか、それとも退くのか―――

 

漢中まではもう少し。

だが、漢中に居る張魯軍は元々「五斗米道」と言う宗教団体の集まり。

追い詰められた信者達は、張魯を守らんと凄まじい力を発揮してきていた。

 

対して、撤退する場合は、南にある劉璋領の梓潼城を目指すことになる。

 

しかし、今の状態ではそう簡単に梓潼に入場する事は出来ない為、

戻るのならば制圧することになるだろう。

 

幸い、ここは城の規模はそれ程大きくなく、

道中にある葭萌関を突破する必要があるが、

城には本来桃香達に送る筈だった兵糧が大量に備蓄されいる。

 

それに時間が経てば、確実に劉璋は桃香の攻撃を恐れて梓潼に兵を集めるだろう。

 

悩んでいる暇は、無かった。

 

すぐさま桃香たちは反転。

以前から親交があった劉璋軍の将、張松、法正、孟達の手引きもあり、

一気に梓潼を強襲、制圧に成功した。

 

そして今現在、劉璋の本拠地である成都に向かって攻略中で、

梓潼から成都に繋がる道中にある綿竹関と培水関の二つの関を攻略中。

 

培水関を守るは智勇兼備の将張任に劉璝、冷苞、鄧賢。

 

綿竹関は呉懿、呉蘭、雷銅の三将。

 

そして成都には紫苑の友人である厳顔と魏延。

 

さらに益州は長らく未開の地とされ、碌な道が無く、

山肌に作られた桟道を通る所が多々あり、

毎年、落下による死者も後を絶たない難所が続き、

決して楽な戦いではないのだ。

 

故に、聖は心配で仕方が無いのだ。

 

「大丈夫です。桃香様たちが負けるわけないです」

 

「そうですっ!月さまや恋も居るし、並大抵の将じゃ止められませんっ!」

 

そんな聖を励ます蓬梅と鈴梅。

 

「……うん。そうだね!

桃香ちゃんたちがそう簡単に負ける訳ないよね。

……私達も、頑張らなくちゃ」

 

ぐっと、手に力を込める聖。

 

と言うのも、最近荊州周辺で、

きな臭い動きが増えてきているのだ。

 

「密偵によると、孫策たちが軍船を大量に製造してるらしいわ……

内乱も大方片付いたようだし……そろそろ来るわね」

 

「北も危ないです。

河北の統治が落ち着いたみたいですから、今西涼を攻めてますです。

けど、本当の狙いは恐らく……」

 

「急報です!」

 

「どうしたの?」

 

蓬梅が続きを言おうとした所で、

伝令が駆けつけてくる。

 

「宛と許昌にて、曹操軍が集結している模様!」

 

「来たわね……敵兵の数は!?」

 

「約三万。敵将は曹仁・楽進・李典・于禁との事です」

 

「本気……では無いです。

多分斥候も兼ねてると思うです。」

 

蓬梅の予想は大体当たっていた。

 

今現在、曹操本隊は西涼を攻略中。

 

確かに曹操軍は良質な将と兵を保有しているが、

以前から兵糧の備蓄が心もとなく、

それに、対馬超,劉表の二面作戦は流石に無謀である。

 

故に、今どれだけ劉表軍が対応出来るのか、

斥候の意味も込めて軽く当たりに来ているのだ。

 

「新野に居る兵は約五万……まず負ける事は無いです」

 

「敵の騎兵は西涼に向かってるでしょ。多分。

こっちは騎兵中心に部隊組んだら、

十分野戦で迎撃できるわ」

 

兵力の比較で言えば、

歩兵100=騎馬10=戦車1がこの時代での戦力差である。

 

二人の意見を聞いて、少し考える聖。

 

そして――

 

「うん。じゃあ、士郎くんと霞ちゃん、玖遠ちゃんと援里ちゃんの四人に行って貰うようにお願いして。

総大将は玖遠ちゃん、軍師は援里ちゃんで!」

 

「分かったわ。」

「分かりましたです。」

 

もし孫策が動いた際、水蓮を中心とした海戦な得意なメンバーが居ないと致命傷になりかねない。

それに相手は本気ではない。

ここで、玖遠と援里に経験を稼がせておくつもりなのだろう。

 

「蒋琬っ。連絡の方お願い。

軍は騎兵中心で五千ほど」

 

騎兵中心で急がせたら、

なんとか相手の軍が来る前に間に合うだろう。

 

「分かりましたーー

……渡河の船の準備もしておきますよ?」

 

「頼むわ」

 

ばたばたと、慌しくなっていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――新野城 北門――――――

 

「敵兵来ましたっ!」

 

「了解です~

では、各自持ち場に着いて下さいね~」

 

伝令を受けた向朗が、

将達に声を掛ける。

 

「馬良ちゃん、馬謖ちゃんは援里ちゃんと協力して、

作戦立案お願い。

馬統ちゃん、馬安仁ちゃんはそれぞれ兵五千率いて守備の方お願い。

馬順ちゃんは私の補佐について、

各軍の連絡を統括してね~」

 

『了解です』

 

向朗は馬五姉妹に次々と指示を出した後、

士郎たちの方に近寄ってくる。

 

「で、どう言う作戦でいきましょうか?」

 

「そうですね……敵が三万で……こっちは五万五千……

城壁が傷つくのは嫌ですから……城内は馬統さんたちに任せて……

残りの兵で……迎撃するのが一番かと……」

 

「よっしゃ!じゃあウチが一番槍もらうで!」

 

「じゃあ私もっ……」

 

「玖遠は駄目だ」

 

玖遠も霞に続いて前線に参加しようとしたら、

士郎に止められる。

 

「な、なんでですかっ!?」

 

「今回は玖遠の軍を指揮する練習でもあるからな。

野戦に出てもいいけど、

部隊は最後列――城門前に配置になるぞ」

 

「……と言う事は、」

 

「前線は霞と俺が出よう。

玖遠は総大将として、後ろから指示を出してくれ」

 

「……自信、ないですっ」

 

不安そうな玖遠。

 

無理も無い、今までは一人の将として戦って来たのだから、

急に総大将を任されても、心の準備など出来てないだろう。

 

しかし――

 

「大丈夫です……私も……一緒に考えますから……

二人で、頑張りましょう……」

 

「援里ちゃん……」

 

援里もまた、今回初めて一人だけで軍師として戦場に立つ。

 

今までは詠や蓬梅,鈴梅、朱里や雛里たちなど、

誰かと一緒に策を考えていたが、

自分一人で大軍の軍師を務めるのは始めてである。

 

……自分よりも、気が弱い援里ちゃんも頑張ってるんだねっ。

 

「はいっ。分かりました!

僭越ながら総大将の約、務めさせてもらいますっ!」

 

自分を奮い立たせ、そう答える玖遠。

 

「その意気やで。

……とりあえず前線は士郎とウチがおるし、

そう簡単には負けへんから、心配せんとき!」

 

パンパンと、士郎の肩を叩きながら話す霞。

 

「そうだな。

後ろから状況を把握しながら、落ち着いて指示を出せば良い。

基本は『深追いせず』だ。

向こうも斥候の意味合いも兼ねてるから、

そう無茶な作戦は取ってこないだろうし、

撤退する敵軍に釣られない様に注意しておけばいいだろう」

 

「はいっ!精一杯頑張りますっ!!」

 

元気に答える玖遠。

 

「うんうん。じゃあこれで決まったね~

城内は私達に任せて、外の敵はお願い」

 

「了解した」

 

軍議は終わり、各々が出陣の準備に取り掛かっていく。

 

曹操軍は、もう目の前まで迫って来ていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵軍に突っ込むっ!いくでぇっ!!」

 

およそ五千の騎馬を率いた霞の軍は、

敵軍が近づいてくるや否や、錐行陣のままいきなり加速して突っ込んでいく。

 

対する曹操軍の先鋒は楽進(凪)・李典(真桜)・于禁(紗和)の三羽烏。

 

「て、敵が来たの~」

 

「何でこっちに来るんやーー」

 

急な霞の突撃に慌てふためく真桜と紗和。

 

「……って、なにしとるんや凪?」

 

しかし、そんな二人に対して凪は、

ぐっと腰を落とし、迎撃の体勢を整える。

 

「敵の先頭にいるのは将……だったら、狙う絶好の機会だっ」

 

「そ、そやけど、こっちは歩兵であっちは騎兵……ちょっときつくないか?」

 

前方では、こっちの兵がまるで木の葉のように吹き飛ばされながら進んでくるのが分かる。

 

「ここで敵将を討っておけば、後々有利に響く!」

 

何れ行うであろう曹操軍本隊での荊州侵攻。

 

その邪魔になるであろう物は、早めに摘んでおくに限る。

 

「ああもうっ!しかたないなぁ。

沙和っ!ウチらもいくで!!」

 

「ええっ!沙和もなのっ!?」

 

「あったりまえや!ウチら三人であんだけ連携の特訓したんや!

ここで一発披露するんや」

 

前に行った徐州侵攻で、二人の敵将相手に三人で戦い、倒しきれなかった。

 

数の上でも、一人一人の力量でもこっちが上なのに倒せなかったその理由、

それは、相手の連携の上手さであった。

 

相手は二人だけ。しかし、互いに抜群の連携を見せ、終始こちらを圧倒し続けた。

 

あの一戦以来、三人は共に連携を磨いてきたのだ。

 

「うーー……わかったなの……」

 

「よっしゃ!いくでっ!」

 

各々が獲物を持ち、構える。

 

そこに突撃していくのは霞。

 

「このままどんどん行くでーーって、なんやあれ?」

 

偃月刀を振るい、先頭にて敵を切り裂いて進んで行く霞の前に、

真桜、沙和、凪が立ちはだかる。

 

「敵将……やなぁ……

まぁええわ。このまま突っ込むで!」

 

ブンと、偃月刀を持ち上げ、馬上から袈裟切りにしようとするが……

 

「今やっ!!」

 

三人のうち一番前にいた真桜が、

ギュンギュン回転しているドリル槍「螺旋槍」を、

地面に勢い良く突き刺し、一気に土ごと持ち上げる。

 

巻き上げられた土や砂が、回転する槍にて拡散し、

霞は一瞬、三人の姿を見失う。

 

「やぁっ!!」

 

続くのは沙和。

霞が見失ったその隙に双剣「二天」を振るい、飛び上がって霞に切りかかる。

 

狙いは腿。ここをやられると、馬に乗っている者は馬上にて踏ん張れなくなる。

 

「ふっ!!」

 

ギィン!と、偃月刀を操りその一撃を防ぐ霞。

 

腿を狙われるのは馬上に乗っている以上は日常茶飯事。

常日頃から、咄嗟に動ける準備は出来ている。

 

しかし、

 

「とどめ……ッ……」

 

沙和が切りかかった反対側から、飛び出してきたのは凪。

手甲「閻王」を着けた手をギュッと硬く握り締め、一撃を放つ。

 

狙うは横腹。

肋骨は前からの衝撃に強いが横からの衝撃は弱い。

 

真桜が視界を奪い、

沙和が体勢を崩し、

凪がとどめの一撃。

 

流れるような連携、今までの今までの霞なら、避けることは出来なかっただろう。

 

そう、今までのなら。

 

「ふッ!!」

 

くるりと、沙和の一撃を防いだ偃月刀の中ほどに手を当て回転させ、

対戦が崩れた状態のまま、反対側の石突にて凪の一撃を受ける。

 

「なッ!」

 

渾身の一撃を止められ、驚く凪。

 

(危なかったぁ~~なんとか反応できたわ……)

 

今までに霞は、幾度と無く士郎と戦ってきた。

 

士郎の戦闘スタイルは相手の攻撃を誘い、隙を突くもの。

 

霞は何度も何度も士郎に負ける度に、自然とその対処法を身につけていたのだ。

 

そのまま、強引に弾いた後、馬を走らせる霞。

 

後ろからは自軍の兵がついてきている為、

ここで足止めを食らっている場合ではないのだ。

 

……当然、霞自身は残って三人と戦いたいのだが。

 

「次有った時決着や!」

 

そう言って去っていく霞。

 

「……仕留められなかったか」

 

「くぅ~~ッッ、惜しかったぁ~~

もっと訓練せなアカンなぁ」

 

「とっても強かったの」

 

思い思いの感想を述べる三人。

 

霞を止められなかった曹操軍は、

軍を真っ二つに割られ、

戦況は、劉表軍優勢のまま進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ……次です……」

 

「う、うんっ!

……士郎さんに合図して下さいっ!」

 

玖遠の声に反応して、旗が揚げられる。

 

「よし。そろそろ出番か」

 

士郎は弓兵五千を率いて、

霞が割り、混乱させた敵兵の相手に向かう。

 

「敵将は分かるか?」

 

士郎は、傍に立つ眉も髪も真っ白な少女に話しかける。

少女の名は馬良。

 

馬氏の五常と言われる、優秀な五姉妹の中で最も優秀とされ、

新野太守向朗の補佐を勤めており、

今は、士郎の補佐についている。

 

「『許』の旗……おそらく許貢かと。

それ程優秀な将ではありませんし、

陣が崩れている今、対した相手じゃないですね」

 

「そ、そうか」

 

結構ぐさりと酷いことを言う馬良。

 

「よし、じゃあ行くぞ!」

 

弓の射程内ギリギリまで近づいていく士郎。

 

ここら辺の判断は、士郎にかなう者はいないだろう。

 

「合図と共に一斉発射!

構え…………撃てっ!!」

 

一斉に放たれた数千の矢は、空を覆いつくす勢いで広がり、敵軍に突き刺さっていく。

 

「ぐっ……あそこの弓兵を倒す!いくぞ!!」

 

当然、ほっとく訳にもいかず、

狙われている許貢は軍を率いて士郎たちの弓兵に向かって進軍してくる。

 

「来ましたね。」

 

「敵軍と接触するまであと少し時間がある。

もう一回一斉射撃させてくれ。

俺は敵将の相手を勤める」

 

「……承りました。ご武運を。」

 

馬を操り、敵軍を率いる許貢に向かって進んでいく。

 

「全軍っ…………撃てぇっ!!」

 

士郎が敵軍に辿り着く前に、

馬良によってもう一度放たれた矢が敵軍に襲い掛かる。

 

敵は盾を構えそれに備えるが、進軍の速度は当然落ち、

敵の注意も上空から来る矢に注がれる。

 

「今だっ!!」

 

ここぞとばかりに馬に鞭打ち加速。

 

「なっ!!敵だぁっ!!」

 

慌てて士郎の相手をしようとするが、もう遅い。

 

一刀のもとに切り裂かれる。

 

「許貢さまがやられたっ!!」

 

「に、逃げろぉっ!!」

 

混乱し、逃走を始める敵軍。

 

すぐさま、本陣に連絡が行く。

 

「玖遠さま……敵将の一人を……士郎さんが討ち取りました……」

 

「流石士郎さんっ!じゃあそろそろ私達も……」

 

「はい……霞さんも……敵本陣近くまで突撃してるので……一気に攻勢をかけましょう……」

 

「霞さんも……凄いですっ。

じゃあ、今から行きます!!全軍っ、進めぇっ!!」

 

『オオオオオオオッッッ!!』

 

鬨の声を上げ、進軍を開始する本隊。

前線を突破され、将が一人討たれた曹操軍に、それに抗う力は残っていなかった。

 

「退き時ね。全軍撤退!宛に下がるわ」

 

総大将である曹仁の指示により下がっていく曹操軍。

 

「追撃はしないで下さいっ!各部隊は陣を整えて、こちらも新野に引きますっ!!」

 

下手に追撃して虎を起こす必要も無い。

 

おとなしく、劉表軍も新野に下がって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜――新野城の南に流れる、遥か益州にまで繋がっている漢水の水際に、

一人立つ士郎の姿があった。

 

祝勝会の後、士郎は酔いを覚ます為に外の風に当たろうと外に出ていたのだ。

 

「勝つには勝ったが、敵は様子見、次は本腰を入れて来るだろうな」

 

密偵によると、西涼を攻めていた曹操軍本隊は西涼の攻略に成功し、

多少の守備兵を残した後、本隊は許昌に向かって期間中との事。

 

「一旦兵と将を休ませる必要があるが……確実に来るな」

 

しかし、悪いニュースばかりではない。

 

益州を攻略していた桃香たちは無事に攻略に成功したと言う情報が、

つい先ほど入ってきた。

 

このまま、上手く益州の桃香と、荊州の聖で同盟を組み連携すれば、

随分楽になるだろう。

 

「あと少しといった所か。しかし、あの仙人たちも気になるしな」

 

仙人が本拠として泰山は徐州にあり、今は曹操領。迂闊に手を出すことは出来ない。

 

士郎一人だけなら何とかばれずに侵入することも可能だが、

その場合は一人で白装束の兵達と左慈と于吉、それに小次郎の相手をしなければならない。

 

幾らなんでも、それは厳しい。

 

どうしても、仙人の相手をするならば、

この時代の強い人たちの協力が必要になってくるのだ。

 

「さて……どうするか……」

 

そう呟いて、水面を見つめる。

川は美しい月を映し、幻想的な雰囲気を放っている。

 

鏡花水月――ただその光景に目を奪われていると、

何かが、水際にあるのが分かった。

 

「何だ?」

 

外灯などない暗闇。

しかし、近づば月明かりで見えるようになってくる。

 

「これは……!?」

 

水際に流れ着いていたのは、

膝裏まで届こうとするくらい長く美しい黒髪を携え、

所々血が滲んでいる服を着ている女性だった。




味方のオリキャラはこれで最後になります。

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