真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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8-4 誓いの刃

敵は三人、相手は狭い室内を想定していたのか、

三人とも短刀を手に持ち襲い掛かってくる。

 

「おいっ!こいつは違うぞ!」

 

「構うな!見られたからには殺さねばならん!」

 

部屋に入る前に予め片目を瞑っていたのか、

暗闇の中でも侵入者達は女性の姿を捉えながら短刀を振るう。

 

「っ………!!」

 

何とか音と風の流れで攻撃を読み避けるが、室内ゆえに行動が制限される。

 

「ふっ!!」

 

じりじりと追い詰められていき、

このままでは力技で押し倒されたる可能性も出てくると判断した女性は、

棒を手に持ったまま、窓を破り中庭に飛び出る。

 

「追えっ!!」

 

逃がすものかと後を追いかける侵入者たち。

 

月明かりの下、ゆっくりとした動作で、

女性は後から追いかけてきた侵入者たちの方に目を向ける女性。

 

「……あなた方は、何が目的なのですか」

 

「我等の恩人である許貢様の仇を討つべく、衛宮を屠りに来たのだ!」

 

「敵討ち、ですか……忠義に命を賭ける行動は嫌いではありません」

 

何かを思いつめたように話す女性。

 

「ならば我等の邪魔をするな!おとなしく死ねッ!!」

 

そう言うや否や、女性との距離を詰め一気に切りかかる。

 

が、女性は手にしている棒で、それを受け止める。

 

「ですが、私も生きる理由が出来ました。

……ここで、貴方達を止めさせて頂きます」

 

「ッ……おい、囲め!こいつ、只者じゃない!」

 

まるで剣を持つように棒を構える女性。

 

月明かりの下での剣戟が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士郎が洗い物を終え、女性が待っている自室へ向かっている時、

その音が聞こえて来た。

 

――ガシャン!!

 

「!?何かあったのか?」

 

何かが割れるような音。

距離から判断すると恐らく自分の部屋。

 

……もしかしたら女性が体勢を崩し、何かを割ったのかもしれない。

 

そう判断した士郎は、駆け足で自分の部屋に向かう。

 

「まだ怪我は完治していない筈……」

 

ドアを通り、自分の部屋に着いた士郎の目の前には、割れて、大きく開かれた窓。

 

「外か!?」

 

何かあったのだろうかと、外に飛び出る士郎。

そこで士郎が目にしたのは、

 

短刀を持った男と戦う、女性の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左右と前、三方から同時に仕掛けてくる侵入者達。

 

横には避けれず、

後ろに下がっても斜めに移動してくるだけなので意味が無い。

 

なので、先ずは前から来る男に向かって棒を突き入れる。

 

「ちぃッ!!」

 

男は咄嗟に、その一撃を手に持つ短刀で受けるが、

そのせいで体勢を崩す。

 

「はっ!!」

 

前の敵が遅れた瞬間自身も一歩下がり、

左右にいた相手を同時に巻き込むように棒を振るい、

一気に薙ぎ払う。

 

「ぐぅ……ッ……まだまだァッ!!」

 

横からの強打。

肋骨が折れていてもおかしくない筈の一撃だったのに、

相手は止まらない。

 

(これは、命を奪うしかありませんね……)

 

しかし、今振るっているのはただの棒。

このままではこっちの体力の方が先に尽きかねない。

 

ジリ貧になりかけていたその時、士郎の声が聞こえてくる。

 

「それは棒じゃない!剣だッ!!」

 

以前士郎が打って星にも貸したことのある、ウーツ鉱から作られた無反りの大太刀。

今女性が振るっていたのは棒ではなく、その剣だった。

 

棒に右手を滑らせ、柄の位置を確認する。

 

「やッ!!」

 

鞘から引き抜かれた刀身は1m近くあり、

月光を受け、木目波紋がギラリと怪しく輝く。

 

鞘を腰に挿し、両手で刀を構える。

 

「くっ…………うぉぉオオオ!!」

 

一瞬の間の後、まるで自分自身を鼓舞するように叫びながら、

再度三方から襲い掛かる侵入者達。

 

しかし、目が見えぬ女性にとっては、

その行動は自ら位置を教えてくれるようなもの。

 

ましてや互いの武器のリーチの差もあり、決着は一瞬でついた。

 

鎧袖一触――轟と振るわれた剣によって巻き起こした血煙が、

女性を中心に、円を描くように彩る。

 

そしてほぼ同時に、地面に倒れ付す侵入者たち。

女性は、ブンッと剣を振るい、刀についた血を振るいとばす。

 

「弓で援護する必要も無かったな……」

 

正に一瞬の出来事。

 

女性はそのまま、ゆっくりと歩きながら士郎の下へ歩み寄ってくる。

 

「――士郎様。部屋を荒らし、剣も無断で使用してしまい申し訳ありません」

 

地面に片膝をつき、まるで臣下のような動きを見せる女性。

 

「いや……どうやら俺を狙ってきたみたいだし、

むしろこっちが迷惑かけてしまってる。

それより、怪我は大丈夫なのか!?」

 

まだ病み上がり。あれだけ動いてはそっちの方が心配である。

 

「はい。ご心配をお掛けして申し訳ありません。

元より、体は丈夫な方ですので」

 

「元より?」

 

女性の言葉に違和感を感じる士郎。

 

「……本当は記憶を失ってはいませんでした。

主君を守れず敗北し、敗軍の将として、死ぬ事でけじめをつけるつもりでした。

しかし……」

 

「しかし?」

 

「こんな私を助け、生きる意味を教えてくれた。

その人に仕え、もう一度生きてみたいと思います」

 

「…………」

 

「元益州の将、張任。真名は芙蓉  

目は見えませんが、必ず士郎様のお力になります。

仕えさせて、頂けますか」

 

深々と、頭を下げながらそう言い放つ。

 

「……聖ではなく、俺に?」

 

「はい。見えぬ以上、軍を率いることはもう叶いません。

ですが、誰かの傍で共に戦うことならばできます。

お許し頂けるのならば、士郎様の剣や盾となり戦う所存です」

 

「……俺が目指しているのは叶うかどうかも分からない夢。

それに付き合わせるつもりは、無い」

 

人として壊れている――正義の味方を目指す士郎は、常にそう言われて来た。

見知らぬ他人を助ける為に、自分の命を危険に晒すその行動は、

決して理解されるものではない。

 

当然、士郎も誰かに理解して欲しいからその道を目指している訳ではなく――

どんなに奇異の目で見られても、ただ、その夢に向かって突き進んできた。

 

その道に、彼女を付き合わせるという事に、戸惑いを感じてしまっている。

 

「ふふっ。大丈夫です士郎様」

 

「?」

 

「私が仕えたいのは、士郎様の夢ではなく、

その夢を叶えようとしている士郎様です。

しつこい女ですよ――共に歩いて、宜しいですか」

 

「……はぁ。よろしく頼む芙蓉」

 

「はいっ!足手まといには、なりません」

 

月下の下、一つの契約が交わされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですかーーーっ!!」

 

「士郎さーーん!何の音ですかっ!」

 

その後、二人で部屋に戻ると、

慌てた様子で士郎を探している向朗と玖遠の声が聞こえてくる。

 

……そりゃあ、あれだけ大きな音立てれば心配になるよなぁ。

 

さらにバタバタと続いている足音。

 

説明するのに大分時間が掛かりそうだと、思わず頭を悩ませる士郎だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜 翌日 〜

 

「な!ウチの予想が当たっとったやろ!」

 

「あの有名な……張任さん……ですか……よろしくです」

 

あの後、駆けつけた向朗と玖遠に事情を説明し、部屋も荒れていたので、

士郎は会議室で一晩を過ごし、今の状況に至る。

 

芙蓉は自身の名を知らなかったメンバーに明かし、丁度自己紹介を終えた所だ。

 

霞は自分の予想が当たったと喜び、援里は吃驚しているようだ。

 

あとは向朗から侵入者に入り込まれたことを謝罪され、

警備の強化の方を手配して貰っている。

 

「で、芙蓉さんは士郎さんの直属の将として動くんですね?」

 

「はい。もう軍を率いることは出来ないので、そうさせて頂ければ」

 

「むぅ~~っ……」

 

その話を聞いて不機嫌そうな顔をする玖遠。

 

「どうした、玖遠?」

 

「別に何でもないですっ!」

 

「あーあれや。とりあえず士郎が悪いんや」

 

「なんでさ……」

 

だんだんといつものペースになっていく。

 

「こほんっ!……向朗さま、そろそろ本題に移った方がいいんじゃないですか?」

 

そんな場の空気を元に戻すべく、馬良が向朗に声をかける。

 

「そうだねぇ。今日皆に集まってもらったのは、

曹操の侵攻が本格的になってきたからなんですよ」

 

「と……言うことは……本陣が……ですか?」

 

「物見によると、隊を率いているのは夏侯淵との事です。

どうやら曹操は、益州と荊州に同時侵攻するつもりのようで、

益州方面は夏侯惇が総大将との事」

 

援里の質問に対してすらすらと答える馬良。

今も益州とは良好な関係を築いているので、

そこらの情報は逐一入って来るようになっているのだろう。

 

「にしても夏侯淵がこっちか……

戦場を考えると夏侯惇がこっちに来る方がらしいんだけどな」

 

「それもそうやなぁ。こっちは平野での戦になるし騎馬が有利やのに、

益州(あっち)は険しい山道ばっかやし、弓の方が有利やん」

 

霞の言うことも最もだ。

もしかしたら曹操に何か考えがあるのかもしれないが、

情報が少ない今、それを考えても仕方ない。

 

「敵兵の数は……おそらくですが十万は優に超えるとの事……」

 

「じ、十万ですかっ!?」

 

思わず驚く玖遠。

 

こっちは先の戦での負傷兵を省いたらおよそ五万。

向こうは少なく見積もっても十万なので兵力差はおよそ二倍以上になる。

 

「本気……ですね……」

 

「面白くなってきたやんかぁ」

 

「凄い数ですね……士郎様」

 

各々が色んな反応を見せる。

 

「しかも今もなお、各地から兵が集まって来ているようです。

相手は楊州方面に配置している兵も、こっちに集めていますね」

 

「楊州方面の兵もか……こっちも援軍要請は出した方が良さそうだな」

 

「はい。既に伝令兵は準備してありますので直ぐに向かわせます~

ただ、あっちも孫呉が動く可能性がありますからねぇ……」

 

やれやれといった感じの向朗。

まぁ、とやかく言っても仕方ないだろう。

 

「大丈夫です……なんとか……なります」

 

「なにか策があるの?援里ちゃん?」

 

「いえ……策と言うものでは……ありませんが……

中原地方は……それほど……土地が豊かでは無いですから……なんとか粘れば……」

 

「相手は大軍……長い間戦える兵糧は無いって事か」

 

士郎の言葉にコクリと頷く。

 

「そうと決まれば篭城戦の準備ですねぇ。

馬良ちゃんは馬順ちゃんに兵糧の確認をして下さいね。

第一城門は私、第二城門は馬統ちゃん、馬安仁ちゃんに任せます」

 

新野は以前になされた士郎の提案によって、城壁が二枚構えになっている。

 

昔からある住宅や市場、政庁を囲んでいる第一城門。

その第一城門から少し離れ、軍や農場を囲んでいる第二城門の二つだ。

これによって、新野の防備力は格段に跳ね上がっている。

 

「それで、城外の迎撃は玖遠さんに任せます」

 

「わ、私がですかっ!?……頑張りますっ!」

 

だんだん大将としての自覚が出てきたのか。

以前よりは力強い答えが帰ってくる。

 

「後はこっちの準備か……忙しくなるな」

 

士郎の言うとおり、各々準備に取り掛かっていく。

 

「あ……向朗さん……援軍の件で……少しお話が……」

 

「はいはい~なんでしょう~?」

 

「ウチは馬の様子でも見てくる~」

 

そうして各々が軍議室を後にしていると、

芙蓉が士郎に話しかけてくる。

 

「あの、士郎様。昨夜の杖の件ですが……」

 

「ああ。ばたばたしててそのままになってたな。

……今から見繕おうか?」

 

「それでも宜しいのですが。できれば、あの……」

 

士郎の提案に、少し困った様子を見せる。

なんだか恥ずかしそうでにも見えるが。

 

「あの、昨夜振るった剣ならば、杖にも武器にもなりますし、

丁度いいのですが……駄目、ですか?」

 

「ダマスカス刀か。確かにあれなら杖としての強度も、

武器としての切れ味も十分だな。使い手はまだ決まってないから別にいいぞ」

 

ウーツ鋼の試し打ちで出来た長刀。

こうしてめぐり合ったのも何かの縁だろう。

 

「あ、有難う御座います。

……そう言えばあの剣の名前はなんなのでしょう?」

 

「あの刀の銘か……考えて無かったな……」

 

すこし困った様子の士郎。こういうことは余り得意ではないのだ。

 

「ふふっ。でしたら、私が名付けて宜しいでしょうか?」

 

「そうしてくれると助かる」

 

「でしたら忍冬と。……私が好きな花なんです」

 

「そうなのか?」

 

「はい。……甘くて、美味しいので」

 

少し恥ずかしそうに答える芙蓉。

 

「了解。茎に銘を切っておくよ。

……戦の前に取りに来るといい」

 

「はい。楽しみにしています」

 

そうして、戦の前の日常は過ぎて行った……




張任(ちょうじん)


真名 芙蓉(ふよう)


元益州の将。性格は真面目で一途。
一度仕えると決めた人物には徹底的に仕える性格をしており、
ほぼ士郎の傍にいる。……SPか何かか?

見た目は腰まで伸ばした黒髪に、常に閉じられた目。
一騎当千の趙雲さんがイメージに近いです。

服装は和服を愛用。
その方が服の動きで風を感じ、周りの人の動きを感じ取る事が出来るから。
戦では軽鎧に、上からゆったりとした服を纏っています。

武器は仕込み杖の冬忍(すいかずら)

士郎が打った、直長刀のダマスカス刀を杖代わりに使用。
五尺もの長さがある為、馬上からでも歩兵を楽に攻撃することが可能。
まあ馬に乗るときは、基本士郎と同乗ですが。

このSSを書くと決めたときから張任さんは仲間にすると決めていたので、
やっと登場させることが出来ました。

真名つきの仲間になるオリキャラは、一応彼女で最後です。

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