真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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8-6 新野決戦(1)

「全軍、整列せよっ!」

 

馬上から放たれた秋蘭の声に、

進軍していた曹操軍全軍がピタリと停止する。

 

その統制の取れた動きは、この軍の強さを如実に表している。

 

「これより我らは、劉表領新野の攻略を行う!」

 

秋蘭の視線の先にそびえ立つ新野城。

 

戦の準備はもうできているとばかりに、

何とも言えぬ異様な雰囲気を放っていた。

 

しかし、この曹操軍とて伊達ではない。

 

激戦の中原を制し、董卓、袁紹、馬騰といった猛者と戦い鍛え上げられ、

もはや、多少の事で動じる兵士は居ない。

 

「さぁ。敵城はもう目の前だ!

奴らはこの戦乱の世で、戦わず、守りに徹してきた。

そのような臆病者たちに、

我らの強さを見せつけるのだ!」

 

オオオオォォォォォォ!!!

 

秋蘭の激に答え、鬨の声を上げる兵士たち。

今、軍の士気は最高にまで高まっている。

 

「まずは第一陣、進め!」

 

今の曹操軍の総兵数は十二万。

秋蘭はこれを三つに分け、まずは先鋒の第一陣約四万を進軍させる。

 

第一陣を率いる大将は曹純と藍。他にも曹真・牛金などが名を連ねる。

 

第一陣の目的は、外に配置するであろう部隊の撃破。

故に、主な兵の構成は曹純が率いる虎豹騎を中心に騎兵で編成されている。

 

「まずは城外の敵兵を倒すわっ!行きなさい!!」

 

曹操軍の軍師を務めるのは桂花。

 

「敵兵、駆逐。……進軍」

 

「我らも行くぞっ!……勝負だ士郎っ!」

 

曹純と藍を先頭に突き進む四万の軍勢。

 

地響きのような音を立てながら進む先には、

城の外に布陣している劉表軍の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~っ、またようけ来たなぁ」

 

城外に見える総勢十二万の敵兵を見て、思わず呟く霞。

 

「それだけあっちも必死と言うことだろう」

 

そんな霞の横に馬をつける士郎。

後ろには芙蓉が同乗している。

 

「芙蓉は大丈夫なんか?」

 

「はい。私は士郎様の後ろで、武を振るうだけですので」

 

髪を風に靡かせながら、ニコリと微笑みを返す芙蓉。

 

「これはうかうかしとれんなぁ。

なぁ、玖遠」

 

「そ、そうですっ!私だって一緒に……」

 

いつの間にか、玖遠と援里も合流している。

 

何やら不満があるようだ。

いろいろと大変そうである。……主に士郎が。

 

「なんの話をしてるのさ……」

 

「士郎さんは……気付かない方が……いいです……」

 

「みたいだな。……ほら、もう敵軍が攻めてきてるぞ」

 

士郎の声に促され、前方に目を向けると、

こちらに突き進んでくる敵兵の姿が見える。

 

「ほら玖遠。総大将は後ろに下がっとき!

まずはウチと士郎が相手するけん」

 

「分かりましたっ。霞さんっ、士郎さん。

ご武運をっ」

 

「皆さん……作戦通りに……お願いしますね……」

 

「了解や」

 

「了解」

 

そう言って、後ろに下がっていく玖遠と援里。

 

「さてと、じゃあ行くでぇっ!!」

 

「ああ!!」

 

士郎たちも、敵軍に備えて陣を整えて待ち構える準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「予定通りに、騎兵が来ましたねっ!」

 

「攻城戦に……騎兵は……余り使えません。

ですから……こっちが布陣すると……先ずはそれに……騎兵をぶつけて来ます……」

 

攻城戦を行う際、攻め手は勝つには門を破るか、城壁を乗り越える必要がある。

 

門を破るなら攻城兵器が必要になってくるし、乗り越えるなら歩兵が必要。

騎兵の出番は、城外の敵兵の駆逐か、攻城兵器の護衛が主になってくる。

 

まぁ、強引に城門の下まで馬に乗って進み、そのあと下馬して門を登る手もあるが、

そうすれば大量の馬が門の前に置き去りになってしまう。

 

馬が大変貴重なこの時代、攻城兵器を引っ張って運ぶのにも馬が必要になってくるし、

そんな無駄な事は出来ない。

 

故に、今回のように城外に兵を配置した場合は、

先ずはその排除のために、敵軍は真っ先に騎兵を繰り出してくるのだ。

 

「じゃあ作戦通りにお願いしますっ!!」

 

「はっ!!」

 

伝令兵が走っていくのを見て、再度前線に目を向ける。

丁度、両軍の先陣がぶつかるタイミングであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どけどけーーっ!!雑魚に要は無いでっ!!」

 

偃月刀を振るい、どんどん敵兵を打倒し進んでいく霞。

 

互いの軍がぶつかった際、敵将が曹純、藍の二人が率いていると判断した士郎たちは、

それぞれが分かれて相手をする事にした。

 

元から士郎に恨みがある藍の相手を士郎が。

徐州にてあの恋と互角に戦った曹純を藍が。

 

そして残りの曹真、牛金が率いる約二万程の敵兵を、

こっちの他の部隊が引きつけていく。

 

当然霞が突っ込んでいるのは大将の一人である曹純。

しかし、彼女の率いる虎豹騎は強く、

霞の突破力をもってしても中々届きそうに無い。

 

「恋の部隊も抑えとったらしいけんなぁ。これは手ごわいで」

 

敵の部隊に穴を開けても、阿吽の呼吸で後詰の兵がそれを塞ぐ。

敵兵自体の強さも中々のもので、一気に倒すことも難しく、

無理をしたら此方の被害も大きい。

 

「左軍、後退。右軍、前進」

 

霞の突撃を受け流すように兵を動かす曹純。

騎兵の指揮の上手さは、霞に勝るとも劣らない。

 

「長引きそうやなぁ」

 

思わずそう呟く霞であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎覚悟ーーっ!!」

 

「っ!……と」

 

風を巻き込みながら振り下ろされる剛斧の一撃を、

干将・莫耶で受け流す士郎。

 

そしてそのまま逃亡体制に入る。

 

「逃げるなーーっ!!」

 

「他の兵の指揮も取らないといけないんだよっ!

一騎打ち受けられるか!」

 

確かに藍の相手をしてたら余計な時間を喰うのは確実である。

 

「人を辱めたくせにっ!!」

 

「俺のせいじゃないだろっ!?

って言うか誤解を招くような発言するな!」

 

なんか悪化してる気がする。

 

「うるさいっ、死ねーーっ!」

 

逃がすかとばかりに、轟と横凪に一撃。

 

しかし、今の士郎は一人ではない。

常に背を守ってくれる、力強い味方がいた。

 

「はっ!!」

 

ギィン!!とその一撃を真正面から受け止める芙蓉。

ウーツ鋼で打ったこの刀は、そう簡単には折れない。

 

「士郎様。ここは私が受けます。

指揮の方を」

 

「任せたっ」

 

後ろから振るわれる藍の一撃を悉く受け、流す芙蓉。

それはまるで、濁流に揉まれる花のよう。

決して沈まずに、右から左、上から下へと流し続ける。

 

「こいつは!?」

 

「初にお目にかかります。名は張任。士郎様の護衛をさせていただいております」

 

「ならば、私の敵だ!我が名は華雄。行くぞっ!!」

 

先ほどとは打って変わって、藍の一撃が小振りになり、変わりに速さを増していく。

 

「大分、鍛錬を積んできたんだな」

 

「いつまでも猪武者とは言わせん!」

 

藍は今まで、重量のある斧を自身の最大限の力で振るい、敵を打ち倒してきた。

 

しかし、それでは士郎のような受けに特化した敵と戦う際は、

そのような一撃は簡単に受け流され、攻撃直後の隙を簡単に狙われてしまう。

 

その事を華琳から指摘され、そもそも威力なら斧の重量だけで十分だったので、

無理な大振りをやめるようにして、攻撃から次の攻撃に移る時間を短縮したのだ。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

結果、以前より武器の速度も上がり、

しかも時折、虚実も混ぜながら斧を振るう事も覚え、

今の藍なら霞相手でも対等に戦えるだろう。

 

しかし、今回は相手が悪かった。

 

今戦っているのは士郎ではなく芙蓉、目が見えぬ彼女にとって、虚実は意味を成さない。

 

虚のあと、実を叩き込もうとするが、

その虚の一撃を完璧に見切られ、瞬間に突き込まれる刃。

 

「くっ!!」

 

以前の藍なら避けれなかったであろうその一撃を、引き寄せた斧で受け止める。

 

が、互いの刃が触れる瞬間、芙蓉が手首をくるりと翻し、

刀の軌道が突きから横に、瞬時に切り替わる。

 

うねる蛇のような一撃。

それを斧の石突きで受け、一旦距離を開ける藍。

 

「よく、受けれましたね」

 

「私を舐めるなっ!」

 

力強く答える藍。しかし、頬には一筋の汗が流れる。

 

今のは、ほぼ反射的に体が動いた為、ギリギリ受け止めれた。

でなければ斬撃を点で受けようとは、普通思わない。

 

「出来るっ……こいつ」

 

「士郎様と戦いたくば、先ずは私を倒してからにして下さい」

 

士郎は藍の相手を芙蓉に任せ、自分は部隊の指揮の方に集中していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵軍っ!大きく二つに分かれました!!」

 

曹操軍本陣にから前線を見ると、曹純が霞を、藍が士郎を大きく門から離し、

結果、城門前に残るのは玖遠の舞台のみになっていた。

 

「作戦通りね。猪もうまく誘導できるじゃない。

牛金、曹真の騎馬はそのまま残った部隊に突撃して道を開いて。

……秋蘭、第二陣そろそろ行くわよ」

 

「順調だな。第二陣進軍準備!!」

 

曹操軍第二陣は主に歩兵と攻城兵器で構成されており、

第一陣が城外の敵兵を蹴散らしたあと、出来た道を進み門を破る役目になっていた。

 

「やっとウチらの出番やでぇっ!!」

 

「真桜、突っ込みすぎるなよ」

 

「凪ちゃんが言っても全然説得力ないの~」

 

第二陣の将は曹仁を筆頭に楽進・李典・于禁の三羽烏。

 

「第二陣、進軍せよっ!」

 

秋蘭の号令とともに進軍し始める第二陣。

まだ城門前には敵兵がいるが、この部隊は攻城兵器が中心な為新群速度が遅く、

早めに出陣しておく必要があるのだ。

 

「……なんか敵兵の動きが変やないか?」

 

進軍しながら城門の方を見ていた真桜がポツリと呟く。

 

凪、紗和の二人もつられて見てみると、

そこには、城門前から劉表軍が離れていき、

既に大きく開門された門が待っていた。


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