真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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8-8 新野決戦(3)

城門を攻略する際には、当然の如く攻城兵器の力が必要になってくる。

 

主に門を破る破城槌、投石機。城壁の上に直接乗り込む井闌などがそうだ。

当然兵器ゆえ進軍速度は遅く、非常に狙われやすい。

 

本来ならそれ等を守るべく元から第二陣にいる兵と、第一陣の残りの兵を予定していたのだが、第一陣が殆ど壊滅してしまった為、秋蘭率いる第三陣が怒涛の勢いで突き進んでいる。

 

彼女達が着くまでに、どれだけ攻城兵器を破壊できるか。それがこの戦の後半戦の鍵になって来るのは明白だった。

 

「やぁっ!!」

 

場上から一閃。力強く振るわれた双刃槍で井闌を守る兵を打ち倒す玖遠。

 

双刃槍なら、諸手側どちらにいる敵にも素早く攻撃できるので、基本、馬上で玖遠はこれをメインに振るう。

 

「次に行きますッ!残った人で油をかけて燃やしておいて下さいっ」

 

次々と攻城兵器を破壊していく玖遠。

 

第一陣の四万いた兵の内、二万は城内にて倒し、あとの二万は士郎と霞が相手をしている。

なので残った玖遠率いる一万の兵が、曹操軍第二陣の攻城兵器部隊へとへと攻撃を仕掛けているのだ。

 

壊すのは主に井闌。

 

これは門に対して常に一つしか使用できない破城槌とは違い、井闌なら城壁の何処からでも乗り込まれる恐れがあるからだ。

 

当然、門の周りには深い堀が掘ってあり、そう簡単に近づくことは出来なくしていたが、

敵兵たちは土嚢は当然、味方の死体を利用してでも、強引にその堀を埋めにかかって来る。

 

その気迫に押され、堀も殆どが埋まりかけていた。

 

「玖遠さん……深追いしすぎです……一旦……下がりましょう……」

 

我武者羅に突っ込む玖遠を落ち着かせるよう、声をかける援里。

 

「まだ……っ、頑張れますっ!!ここで沢山壊しとかないと、士郎さん達が頑張ってくれてるのに申し訳ないですっ!!」

 

一万対四万。

数の上では圧倒的不利だが、此方は騎兵中心に部隊を組んでおり、相手は攻城兵器の護衛の為歩兵が中心。しかも相手は余り兵器から離れることも出来ないので、必然的に守備中心になってくる。

 

そう言ったアドバンテージもあり、玖遠は四倍近い敵軍相手にも、なんとか戦うことができていた。

 

「もっと奥にっ!!」

 

そう言って玖遠が馬首を曹操軍の奥に向けた瞬間――

 

「……危ない……ですっ……!!」

 

突如飛来して来た矢を、援里が開いた鉄扇で弾き飛ばす。

 

「きゃっ!!な、なんですかっ!?」

 

「敵に……狙われて……ます……」

 

突然の出来事に頭がついていかない。矢の飛んできた方向を見ると、其処には、以前戦った弓使いの姿。

 

「あれは、確か夏侯淵さん……」

 

そう呟いている間にも、再度矢を番えている。

 

「玖遠さん……!!」

 

「はいッ!一旦下がります!」

 

長坂橋とは違い、二人の間には余りにも距離が有りすぎる。しかも周りは敵兵だらけ。

これでは余りにも分が悪い。

 

まだまだ第二陣を叩いておきたかったが、一旦下がる玖遠であった。

 

そして、その様子を見て他の将も動き始める。

 

「玖遠が下がって来るな。芙蓉、こっちも下がるぞ」

 

「はい、士郎様は指揮の方を。背中はお任せ下さい」

 

そう言って刀の柄から棒手裏剣を取り出し、藍に向かって投擲する。

 

「くっ!!」

 

今まで全く出てこなかった投擲武器に驚き、藍に一瞬の隙が生まれる。

 

その隙を狙って振るわれる刃。狙うのは藍ではなく――

 

「!!手綱が」

 

常に手綱を持っていなければいけない藍と、両腕を自由に使える芙蓉。実力が拮抗している二人にとって、その差は大きい。

 

「今です」

 

芙蓉の合図に答え、馬を走らせる士郎。

 

「あっ!く……待てーーっ!!」

 

慌てて追おうとしても、手綱が切られていては思う通りに馬を操れない。

 

またしても士郎に逃げられる藍であった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、いい判断だ」

 

そう言って矢を下ろす秋蘭。見つめる先には、後退していく玖遠の姿。

 

「今すぐ第二陣を再構築しろ!第三陣と合流して一気に進軍を再開する!」

 

先の玖遠の突撃で、第二陣の凡そ半分がやられた。

秋蘭は一旦第三陣と合流して、総勢六万の全軍で攻めた方が良いと判断したのだ。

 

「もう……ッ!アンタ、早すぎるわよ……!!」

 

秋蘭が指示を出していると、近づいてきたのは桂花。相当急いだらしく、息が途切れ途切れになっている。

 

「私の軍の進軍速度はあれが普通だが……」

 

「ぜぇ……ぜぇ……軍師の、私にも……気を使いなさいよッ!!」

 

夏侯淵は弓の名手として有名だが、奇襲攻撃や兵糧運搬など、迅速な進軍速度も得意としており、その速さは「三日で五百里、六日で千里」を進むと言われている。

 

当然、軍師の桂花などは置き去りにされる。

 

「ああもうッ、ひどい目にあったわ!

で、今はどうなってるのよ?」

 

「今は全軍で進軍中だ。藍と曹純も合流する」

 

「と言う事は約七万位ね……ふぅ」

 

当初連れてきた兵の数は十二万。それが五万も削られた。

 

「相手は城内の敵合わせても残り四万位。……厳しいわね」

 

数の上ではまだ倍近い差があるが、多数の攻城兵器を破壊された。

城門が二重の新野を攻略するには、致命的になってくる。

 

「ああ。けれど、私たちの役目は勝つことじゃない」

 

「そうね。しっかりと『時間稼ぎ』をすればいいだけよ」

 

進軍する自軍の様子を見ながら、二人はそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――新野城 城門上――――――

 

攻め寄せる曹操軍に対して、士郎たちは再度城門を閉め、今は攻城戦の真っ最中である。

 

「上から油かけてっ。

で、その後は火を落として燃やして下さいね」

 

向朗の合図とともに、煮えたぎる油が城門の上から敵軍に降り注ぎ、その熱さに耐え兼ねた敵兵が地面に落下する。

 

そして、其処に落とされる松明。

 

油の掛かった兵は自らがそのまま火種となり、

梯子を、井闌を――そして他の兵も燃やしていく。

 

「士郎ーー!!ウチの出番はまだかーー?」

 

城壁の上にいる士郎に声をかけるのは霞。彼女は減った兵を編成し直した騎兵一万を率いて城壁の下、城門の内側で待機している。

 

「まだ敵の破城槌にとりつかれてないからな!もう少しは持ちそうだ」

 

「まだかかりそうやなぁ……あかんかったらすぐ声を掛けてなーー」

 

城門が破られるまで出番がない霞は少し暇そうにしている。まぁ破られたら、それはそれで大変なのだが。

 

「士郎さんっ」

 

「玖遠、それに援里か。どうした?」

 

士郎も他の兵と同じく矢を放とうと準備していると、玖遠と援里が近づいてくる。

 

「援里ちゃんが気になることがあるみたいなので、連れてきたんですっ」

 

「気になること?」

 

「はい。相手が……本気で攻めてきて……ません……」

 

「本気って、これだけの大軍勢を動かしているのにか!?」

 

兵糧が心もとない曹操軍にとって、これだけの軍勢を動かすのはかなりの痛手の筈だ。それが本気ではないとは到底思えない。

 

「それが……相手の策……かもしれません……あれだけの軍勢なら……まさか、陽動とは……思いませんから……」

 

「けれど……」

 

俄かには信じがたい。しかし、もしそうなら確実に拙い事になっているのかもしれない。

 

「もし……私が相手の軍師なら……荊州と益州……二つの同時侵略は……しません。

どちらも……攻めにくく……有名な将が沢山いますから……」

 

確かに荊州を攻めるなら海戦が必要になってくるし、北方を主な領土とする曹操軍にとっては苦手な戦場だ。しかも、先ず攻めるべき新野も、以前から防備が強化されており、そう簡単に攻略は出来ない。

 

そして益州も同じだ。あちらは天然の要害であり道は断崖絶壁、主な道は崖に作られた桟道であり、騎馬でに進軍は非常に難しく大軍は動かしにくい。桃香たちも攻め込んだ際、益州軍の奇襲攻撃に悩まされていた。

 

「片方は守備に徹し……もう片方は全軍で。その方が、兵力も将も……集めることが……出来ます……」

 

「それでは、相手の狙いとは何なのでしょう?」

 

どうやら、士郎の傍で話を聞いていた芙蓉も気になったようだ。

 

「まだ……曹操軍は……北に五十万近い……兵力を残してます。ですが、兵糧や……率いる将がいないので……動かせません。でしたら、動くとすれば……」

 

「揚州の孫策、でしょうか」

 

「はい。それも……狙いはここではなく……」

 

「聖たちか!」

 

士郎の言葉に、こくりと頷く援里だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――許昌城 城内――――――

 

曹魏の都許昌、洛陽から脱出した献帝を保護した曹操が、都と定めた都市であり、曹魏の本拠地でもある。

その玉座に座るのは華琳。手には書状が握られており、何かを待っているようだった。

 

「……来たわね」

 

突如、玉座の下、謁見の間である場所の空間が歪み、そこから一人の男が出てくる。

 

「貴女が魏王曹操様ですね。初にお目にかかります、于吉と言うものです」

 

「貴方がこの書を送ったのかしら」

 

「ええ。その通りです」

 

「……だったら、私がどう言う返事をするのか分からないのかしら?」

 

そう言い放つと、華琳は持っていた書状を于吉に向かって投げつける。

そこに書かれていたのは、曹魏がもつ全ての軍、将を指揮させろと言う一文――要するに、于吉たちにまるごと全部降れと書いてあったのだ。

 

「貴方が普通の人間なら、わざわざこんなのに取り合わないんだけど、仙人なら別よ。この曹孟徳が作る国に、貴方みたいな存在は認めていないの。わざわざそっちに行く手間が省けたわ」

 

華琳の合図とともに、周りから武装した兵が現れる。数は百に届き、全て華琳直属の親衛隊。そして、華琳自身も春蘭と戦える程の武力を誇っており、正に磐石の体制。

 

「交渉は決裂。と、言うことで宜しいですね?」

 

「っ……人を舐めるのも大概にしなさいッ!!」

 

華琳がそう言い放つと共に、于吉に向かって殺到する兵たち。

 

「やれやれ、優秀な兵は極力失いたく無いのですが……仕方ありませんね。……小次郎、頼みましたよ」

 

「ふむ。了解した」

 

于吉の後ろから、音も立てずにゆらりと姿を現す小次郎。手には、既に鞘から抜き放たれた長刀が怪しい輝きを放っている。

 

「さて……巌流佐々木小次郎、参る!」

 

決戦が、開始された。


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