龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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今回はちょっと短めです。


File 12: 初めてのトキメキCrisis!

「へー、緑谷も雄英志望なんだ。」

 

「うん、まあ、ね・・・・・問題ないと思うんだけど、どっかでテンパっちゃうんじゃないかって心配で…‥」

 

「どんな『個性』なの?」

 

「あー・・・・」

 

出久は迷った。厳密に言えば『個性』はまだ持っていない。そして正直一口には説明出来る様な状態ではないのだ。 グラファイトとオールマイト、二人の秘密の守り人である以上は。

 

「実は、なんていうかな・・・・結構複雑な能力で発現するのも普通の人よりかなり遅かったし、自分でもよくは分からなくて。でも一応複合系の変形型って言う風に認識してる。人型のままドラゴンになった感じ。」

 

「へー。いいじゃん。あたしは酸が全身から出せんの、濃度も酸性もコントロール出来るから移動にも使えるし。」

 

「なるほど・・・・・それなら移動とか捕縛に関してはかなりのアドバンテージがあるな。ダンスであれだけ体が動かせるなら体幹も動体視力もずば抜けてる筈だからスケートみたいに滑って動いたりするのは問題ない。いやでもやっぱり酸って言っても色々種類があるし、もしかして溶かした後の煙とかにも何か効果があったりして。雨の日とか水場だったらどうなるのかな?やっぱり効果が薄まる?高まる?他の薬品とミックスとかしたらまた溶解液以外の事にも使えたりするんじゃ・・・」

 

ブツブツブツブツと再び独り言を始めて出久の後頭部をグラファイトの平手が打ち抜いた。

 

「人の目の前で独り言を声に出すな。」

 

「あ、ごごごごごごめごめんなさい!その、癖で!良くヒーローの分析とかしてるから、つい・・・・」

 

「いいって別にそんなに謝らなくても。」

 

ヘルニアにでもなりそうな勢いで何度も頭を下げる出久をケラケラと笑いながら芦戸が手をパタパタ振って許した。

 

「でもあれだけでそこまで考えたりできるって凄いじゃん。プロヒーローになったらヴィランなんてゲームみたいに攻略法とか考えて完全封殺してそう。」

 

攻略。グラファイトには色々思い入れがある単語だ。あらゆる手段を用いて相手を攻め、打ち負かし、奪い取る。

数多の失敗を繰り返し、技を磨き、知勇双全の戦士にのみ開かれる道。

 

『ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!』

 

そして同時に攻略を豪語する相手を潰す意気込み。道は遠いが、彼は自分自身と出久の運命を大きく変えた。必ずなれる。そうでなければヒーローの道を選択した意味が無い。

 

「まあ、こいつは『個性』こそ多少ムラがあるが、一度決めれば最後までやり通す真面目一徹ないわゆる努力の天才と言う奴だ。頭の回転も速いし本番にも強い。こいつだからこそヘドロ男の捕縛に至ったとも言える。」

 

「ちょ、何で言うの!?」

 

「ヘドロ・・・・あーっ!そっか人型でドラゴンってあの時の!『ヒーローを成すは「個性」に非ず』ってカメラ目線で言った人!?すごーい!有名人じゃん、握手して!」

 

伺いを立てながらも出久の手を両手で握り、上下に振る。異性のきめ細かい柔らかな肌の感触に、出久の顔は伊勢海老に勝るとも劣らない赤色に染まった。鮮やかさで言えば芦戸の肌の色にも引けを取らないだろう。

 

「へ、あああおなああのちょちょっと!?」

 

一気にテンパりが最高潮に達した出久は、更に奇声を発し始めた。最早言語かどうかすらも怪しい。

 

「芦戸と言ったか?すまないが不用意に出久に触れない方がいい。元々内向的な性根で異性に対する免疫が皆無なのでな。」

 

「あ、そうなんだ。ごめたんごめたん。」

 

芦戸は即座に出久の手を放して詫びた。ショートした出久の首筋にまだ冷えている缶を押し付けて沸騰した脳をいつもの状態に戻していく。初めは緊張しやすかったからか、グラファイトは出久のストレスレベルの起伏に敏感になっていた。それにつられてどういう訳か自分のストレスレベルも上がっていく。出久が赤面し始めてからこめかみ辺りが針でも通されているかのように痛いのだ。

 

「で、緑谷って中学どこ?あたし結田付!」

 

「お、折寺中学、だけど・・・・・」

 

「へー。ここにはよく来るの?」

 

「け、結構久しぶり、です・・・・」

 

正直、見ていられない。グラファイトはため息をつきたい衝動をこれ程抑え込まなければならなかったのは前世も含めて初めてだった。異性に対する免疫となると、ラヴリカの『ときめきクライシス』でもやらせた方がいいのではないか、それともやはり本から学んだ方がいいのかなどと二人の会話が――と言っても芦戸が殆ど会話を仕切って出久が相槌を打つだけになってしまっているが――続いている間に考えていく。

 

「あ、そうだ!同じ雄英志望に会えた記念て事でプリクラ撮らない?!」

 

再び頭痛。手を握られた時よりも酷い。針どころか電動ドリルで頭に穴を開けられている様な激痛だ。悟られまいとグラファイトは無表情を装い、額の汗を拭う。

 

「おい、俺がさっき言った事を忘れていないか?出久は生まれてこの方母親以外の異性と手をつないだことすらない。いきなりハードルを上げてやるな。見ろ、パントマイマー顔負けのフリーズだ。」

 

「あ・・・・・」

 

出久は直立不動のまま思考が停止していた。女子とのプリクラ。それこそ恋人でもなければあり得ないイベント。今の彼が臨むには圧倒的に経験値(レベル)が足りない。

 

「あららら。こりゃプリクラはお預けかな。」

 

「そうなるな。縁があれば雄英で会おう。その時合格の記念にやればいい。」

 

未だ石像の様に固まって動かない出久を引きずりながらグラファイトは芦戸に別れを告げてガンシューティングゲームのコーナーに向かった。到着したところで鳩尾への軽い当身を食らわせて正気に返らせる。

 

「あ、グラファイト・・・・・」

 

「俺以外の奴とも付き合えるように話術も身に着けた方がいいな。いつまでもお前にオタオタされると俺も落ち着かん。」

 

「ごめん・・・・」

 

「今回は許す。あいつの紹介のインパクトが強過ぎたしな。だが、だからこそ断言する。あいつは合格するぞ。運動神経、派手な見た目、強力な『個性』、人当たりの良さ。現代のヒーローに必要な四つの要素を全て兼ね備えている。」

 

最初の三つはともかく、出久は思い知らされた。自分は四つ目、人当たりの良さが足りない。人望は勿論のこと、他のヒーロー達と協力する時にも必ず必要になってくる。寡黙なヒーローはクールだが口下手なヒーローなどはっきり言ってかっこ悪い。

 

「・・・ネットで何か探しとく。」

 

「是非そうしてくれ。」

 

ようやく頭痛が引いてきた所で出久に感染して人目から姿を消した。

 

「ガンシューティング、やる?」

 

「いや、今日はひとまず帰る。明日は確か小テストがあったと記憶している。」

 

「物理だっけ?」

 

「日本歴史だ。嘉永辺りが山だろうな。」

 

1853年(いやん誤算)に浦賀に黒船来航、その翌年に日米和親条約だっけ?そこからイギリス、ロシアとも条約結んで。」

 

「正解だ。開いた港は?」

 

「函館と下田。」

 

「マシュー・ペリーのあだ名は?」

 

「熊おやじ。」

 

「千利休の本名。」

 

「関係なくなっちゃった!?急に関係なくなっちゃった!」

 

「正解は田中与四郎だ。ちなみに身長は日本人の割には高く、180cmはあったとか、なかったとか。」

 

「名前地味な割にデカっ!?」

 

千利休と言う名前自体はすぐ茶の湯と言うフレーズが思い浮かぶ為、聞いた事が無い訳ではない。しかし茶聖とまで謳われる『地味』と『不足の美』がこだわりの大男が狭苦しい二畳の部屋で抹茶を立てて大名に出しているのを想像すると中々にシュールだった。

 

「何でそんな事知ってるの?」

 

「動画サイトを暇潰しに見ていてな。踊りと歌で歴史の出来事を掻い摘んで教えていた。振り付けも戦闘に使えないかどうか検証していたのだが、これが面白くてな。」

 

「え、グラファイトもあれ見たの!?」

 

すっかり現代人に染まっているグラファイトであった。

 




次回、File 13: 受け継がれしLegacy

SEE YOU NEXT GAME....

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