龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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あ~か~い~赤~い!赤い評価の拙作♪

ほんと、マイティクウガやタジャドルかよってぐらい赤い評価バーにピプペポパニックです。UAも五万突破、お気に入りも千件突破してますし。

今回はオールマイトにフォーカスを当てていくエピソードとなります。


File 13: 受け継がれしLegacy

午前六時十五分。グラファイトが明言した期限の半年が過ぎた。出久が移動したゴミや漂着物を業者に届ける為に使う軽トラックを止めたオールマイトの目に映ったのは、堆く積み上げられたゴミ山の上で勝利の雄叫びを上げる汗まみれの出久の姿だった。

 

「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおーーーーーーーーー!!」

 

その凄まじい肺活量から生み出される咆哮は、オールマイトの首筋に鳥肌を立たせるには十分過ぎた。

 

「おいおいおいおい・・・・・指定した区画以外の所まで?マジかよ!?塵一つ残っていないじゃないか。マジかよ!?Oh my…oh my……GOODNESS!!」

 

ぐらりと傾いて落下した所をグラファイトが飛び上がりながら受け止め、オールマイトの前に降り立った。

 

「約束通り、半年で片づけた。」

 

「素晴らしいよ。言葉も出ない。」

 

コートの内側から一冊のノートを取り出した。『OFA取扱説明書』と書かれている。

 

「これを書き上げるのに随分と苦労したよ。私はワン・フォー・オールを只管実践訓練だけを通して身に付けたから具体的な説明となるとどうしても苦手でね。これではたして足りるかどうかは分からないが、約束通り出来得る限りの事をしてマニュアルを作ってきた。」

 

「中身を検める。渡せ。」

 

差し出されたノートを受け取り、パラパラとページを捲った。何度も書いては消して書き直しを繰り返したのか、ページの所々に消しゴムで消した鉛筆の跡が見える。しかし字は奇麗で、ノートの表紙の内側すらも説明に使う徹底振りに、グラファイトは素直に感心するしか無かった。

 

「思っていた以上だな。流石はトップヒーロー、こうでなければ。では次に『個性』の受け渡しだ。少し待て。」

 

意識ははっきりしている物の未だに倒れたままの出久に感染して立ち上がり、手を差し出した。オールマイトはそれに応え、髪の毛を一筋引き抜いて渡す。何のためらいも無くそれを受け取り、飲み込みながらバグヴァイザーの銃口を腕に押し付けた。一筋のデータが体から流れていく。

 

「これで良い。後はワン・フォー・オールが体に馴染む都度細胞を培養しているバグヴァイザーのデータを『更新』していけばなんとかなる筈だ。」

 

「ありがとう。本当に、ありがとう。」

 

しかし頭を下げようとするオールマイトを出久に感染したグラファイトは手で制した。

 

「これはお前ではなく出久の為にやっている事だ。礼を言われる筋合いは無い。ところでだが、『個性』を受け渡したお前はその時点で『無個性』になるのか?」

 

「いいや、聖火を受け渡したと言っても残り火という物がある。時間は限られてしまうが、まだワン・フォー・オールの力を使う事自体は可能だ。使えば使う程に、そして時間が経つ程に消えて行くが‥‥」

 

「今の制限時間は確か三時間だったな。」

 

「ああ、無茶をすれば更に減退する。まあ君が全盛期の力を再び私に戻してくれる日が来れば話は別だがね。」

 

フンと呆れ半分でグラファイトは鼻を鳴らす。

 

「そう簡単に培養は出来ん。時間はかかると言った筈だ。」

 

二人は満ち引きを繰り返す海を見ながら二十分は黙り込んでいたが、グラファイトが沈黙を破った。

 

「貴様がそもそもヒーローになった理由は純粋に人を助けたいという心の在り方が起源となっているのだろう?」

 

「ああ・・・・」

 

「では貴様にとって、ヒーローとはいかなる存在だ?」

 

「犯罪が減らないのは、国民に心の拠り所が無いからだ。誰かの命だけでなく、その誰かの身に降りかかった恐怖を取り除いて心をも笑顔で救う。真のヒーローとはそういう物だと私は思う。だからこそ、私は拠り所となる『柱』になった。」

 

「その理想に殉じた代償がこのザマか。高くついたな。」

 

「だが後悔はしていないよ。私が決めた事だ。何より、今まで散って逝ったヒーロー達への侮辱になる。」

 

「確かに。だが、皆に頼られる事を良しとし過ぎている。何もしなくとも何か事件が起きれば平和の象徴が助けに来てくれる。だから何も問題は無い。こんな考えが根深く定着している。しかし平和の象徴が表舞台を去るのは今や時間の問題。ましてや出久も俺も、まだヒーローとしては道半ばですらない。次代の平和の象徴が未だ成長しきっていない状態で犯罪抑止の力の大半を一手に担っている貴様がいなくなれば、どうなると思う?」

 

答えは簡単、犯罪が一時的にとは言え再び上昇する。出久が次なる平和の象徴となる時はまだ遥か先の未来だ。再び減少させるにもまた長い時間がかかる。

 

「しかし純粋に世の為人の為に立ち上がったヒーローは今でもいる。緑谷少年もその一人だ。平和を支える『柱』は、私だけではない。」

 

「たとえそうだとしても、大黒柱であるお前が去った時に埋めなければならない穴は大きい。それに、世の為人の為に立ち上がるヒーローはなにもライセンスが無ければなれない物ではない。出久がそれを証明した。だが、それをこいつの様に体現出来る人間がどれだけいる?」

 

太陽が灰色の雲に覆われ、気温が下がり始めた。それこそまるでオールマイトの胸中に渦巻く大きな懸念を浮き彫りにするかの如く。

 

たとえ彼のヒーローとしての活動によってインスパイアされる人間がいたとしても、大抵は社会の花形であるからというのを理由に、その真意を理解せずにヒーローになる者が多い。よしんば理解出来たとしても、それを常に忘れず実行に移せる人間は限られている。

 

「お前に頼り切る堕落から抜け出す為にも、ヒーロー向き、不向きの『個性』、そして『個性』自体の有無を問わず、遍く全ての人間に我もまたヒーローたらんと憧憬の火を灯す義務、そしてトップヒーローとして目指す平和と言う欲望の形を示す責任が貴様にはある。今からこいつを一旦連れて帰る。基礎代謝と免疫力が高いとはいえ汗をかいたまま放置していては、体温が下がって風邪を引いてしまうからな。」

 

再び言いたい事だけ言って去っていく彼の姿を、オールマイトは見つめるしかなかった。憧憬の火を灯し、トップヒーローとしての欲望の形を示す。まず何をどうすればいいのだ?今までのヒーローとしての活動だけでは足りない事は間違いない。では何をすれば?

 

記者会見?否、堅い。それではただの演説になって心には残らないだろう。

 

トーク番組でのスペシャル?これも否、やはりただ話すだけでは心には残らない。

 

何かある筈だ。マッスルフォームになって三分と経たずにゴミをトラックに乗せ、解除していつも使うゴミ処理の業者へと向かう。しかし家に戻るまでの時間、そして自宅で更に二時間費やして考えてもやはりいい案は浮かばない。

 

やはりここは聞いてみるしか無い。意を決してスマホを手に取り、一つの番号に電話をかけた。

 

『おう、俊典か。久々に電話よこしやがったな、オイ。』

 

電話に出たのは、声音が低い老人の声だった。ピキーンと背筋が伸び、肩肘が一瞬で張り詰める。いつの間にか額も汗でテカっていた。

 

「ご、ご無沙汰しております、先生。」

 

オールマイトは声が裏返るのを必死で抑えながら挨拶をした。

 

「実は一つ折り入ってご相談があるのですが・・・・」

 

『オーオーどうした?いつも以上に改まりおって。』

 

「いえ、電話越しでは意味が無いのです。少しばかりお時間を頂けないでしょうか?」

 

『まあ、構わんが。今から来るのか?』

 

「あ、ももしご都合が悪ければ、後日日を改めても全く問題はございませんが・・・・!」

 

『おう、来い来い。中々顔を見せんからな、久々にいっちょ揉んでやろうか。』

 

「お、お手柔らかにお願いします。」

 

『うん、待っとるぞ。』

 

「はい。では失礼します。」

 

電話を切り、冷蔵庫にある冷えた緑茶を一口飲んで気を落ち着けた。やはり彼との電話は心臓に悪い。

 

 

 

 

 

上質な粒あんを使ったたい焼きと玉露を携え、オールマイトは電話の相手――恩師グラントリノが住まう五階建ての彼以外は誰も住んでいないボロアパートのチャイムを押した。

 

「おう、来たか俊典。まあ入れ。」

 

「お邪魔いたします。」

 

ソファーに向かい合って座り、グラントリノがたい焼きをムシャムシャ食べながら茶を啜る。

 

「ん、で、相談したい事ってのは何だ?」

 

「はい。平和の象徴としての欲望の形という物は、一体どうやって効果的に示せば良い物なのでしょうか?」

 

「欲望の形?」

 

「はい。私は、八代目ワン・フォー・オール継承者として、お師匠の信念に則ったヒーローになろうと今まで努力を重ねてきました。ですが・・・・もっと、何か人々に形は違えど我もまたヒーローたらんと更に出来る事があるのではと模索しておりまして。それで・・・・」

 

「行き詰まって俺の知恵を借りたいというわけか。しかし、欲望の形と来たか。お前も中々のポエマーになったじゃないか。」

 

ワハハと笑いながら茶を再び啜る。

 

「だが、無駄足だな。」

 

「え?」

 

「俺はお前じゃない。そんな事分かる筈も無いだろうが、まったく。身を固める決心でもついて見合いの仲人を頼みに来たのかと思ったら・・・・」

 

「いえ、私がそんな!しょしょしょ所帯を持つだなんて・・・」

 

「まあ、それは置いとくとしてだ。お前はトップヒーロー。言うなりゃ今世紀の王だな。誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せ、全ての人間の羨望を束ね、道標として立っている存在である以上、当然の事だろうが。こればかりはお前自身が這ってでも答えを探さなきゃならん。いつも通りPlus Ultraして来い。」

 

「分かりました。お手数をおかけして申し訳ございませんでした。」

 

「ま、顔見せに来るだけ良しとしてやる。しかし、そんな事を聞きに来るとはお前、まさか後継者見つけたのか?」

 

鋭い。老いたとはいえ、その頭の切れも眼光も、些かも衰えていない。

 

「はい。見つけました。」

 

「そうか。まあ、お前の弟子だ、口は出さん。教えとるうちに欲望の形が見つかるかもしれんしな。精々頑張る事だ。」

 




『聖杯問答』の要素結構ぶち込みました。

次回、File 14: 我が名はMighty Defender!

SEE YOU NEXT GAME.....

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