龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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や~るぞ~、今こそ~命がけ♪体が変わ~る~緑色!燃える怒りの赤い色~♪

相変わらずの高評価、感激しております。

そしてお待たせしました。オリジナルガシャット登場回です。


File 14: 我が名はMighty Defender!

「コォォォォ―――――・・・・・・」

 

まずはイメージから。何事もまずイメージからだ。『個性』は身体機能の一部。それが元来備わっていなかった以上、その考え、その状態に慣れなければならない。出力をまずは1%、慣れた所で5%、10%と上げて維持しながらいつものトレーニングの約半分から始め、一週間半ほどかけながらその感覚を全身に馴染ませる。

 

現在使えるワン・フォー・オールの最大出力は14%と切りが悪い。雄英の入試当日まで残り二か月を切った。グラファイトは最初出力の上限を25%まで上げると目標を掲げたが、流石にそれは試験前に過労で倒れてしまうと出久が説得し、譲歩で20%にまけてもらった。

 

しかし兎にも角にもしんどい。片手片足だけならまだしも、全身に巡らせた状態で発動して尚且つそれをキープするのはただそれに意識を割くだけで莫大な量のスタミナを消費する。普段のトレーニングに消費する時間の約三分の一を僅か数分上回ったところで膝をついた。

 

週末に一度市内でハーフマラソンを走り切ったことがあるが、消耗はその比ではない。

 

 「駄目だ・・・・・やっぱり…これじゃ・・・・・」

 

突如吐き気がこみ上げ、べしゃりと吐瀉物が湿った砂に落ち、波に浚われた。呼吸を整えて心を落ち着ける。ワン・フォー・オールは力のストックと継承を可能とする『個性』。まだ半分すらまともに使いこなせていない。焦っても無駄だ。胃液を袖で拭い、ひとまず家に帰ったらホットヨガでもしようと考えながら踵を返して階段へ向かったが再び激しい嘔吐と頭痛に襲われた。

 

『個性』が意思を持ったかのようにその力が蹲りながら苦しむ出久の全身を電気の様に駆け巡って行く。そして一際強く頭痛が起き、出久の意識はぷっつりと途切れた。

 

几帳面で真面目なグラファイトが出久が戻らない事に疑問を抱いて海浜公園にたどり着いたのは、出久が失神してから約三十分が経過してからだった。ぐったりして血の気が引いて幽霊すら健康に見えるほどの蒼白な顔色を見て、グラファイトはすぐにバグヴァイザーの銃口を出久の胸に押し付けた。データが中に流れ込んで行き、画面が一瞬光ると緑色のガシャットがグラファイトの手に落ちた。描かれているイラストは一頭身の丸いボディーを持つゲームキャラ、マイティが楯を持った姿と『Mighty Defender Z』の文字。

 

「マイティ、ディフェンダー・・・・守りし者。お前にぴったりだな、おい。」

 

しかし使いこなすとなると、恐らくエグゼイド達がコラボスバグスターや自分を相手にした時の様にゲームを攻略しなければならないだろう。自分の手にあるガシャットと右腕のバグヴァイザーを交互に見つめる。

 

「やるしか無いか。」

 

『Mighty Defender Z』

 

覚悟を決めてガシャットのスイッチを入れると、そこら中に四方三メートルはあるキューブが現れ、辺り一面がゲームエリアへの変遷を始めた。ガシャットも再び光を放ちながらグラファイトの手を離れ、出久の体内に吸収されて行く。出久の姿も変わり始めた。

 

『Mighty Jump! Mighty Block! Mighty Defender! Z!』

 

見た目はグラファイトそのものだった。違うとすれば、グラファイトが更に鎧を着こんで更に右腕にバックラーを装着している事だ。ファンタジーゲームに登場する剣闘士に見えなくもない。さしずめアーマードグラファイトと言ったところか。

 

数瞬は静止していたものの、アーマードグラファイトはグラファイトに襲い掛かった。

 

「やはりか。」

 

バックステップで避けながらグラファイトは一人ごちる。

 

肉体は出久の物を依り代としなければ実体化出来ないが、意志は確実にある。コラボスバグスターの様に倒して『クリア』せねばならない。出久を傷つけるのは忍びなかったがそれでも久々の実戦にこう思わずにはいられなかった。

 

心が躍る、と。

 

「培養。」

 

『MUTATION! LET'S CHANGE! LOTS CHANGE! BIG CHANGE! WHATCHA NAME!? THE BUGSTER!』

 

攻略(クリア)の先に我々の新たな力がある。耐えろ、出久。」

 

一気に間合いを詰めながらグラファイトは拳を振るった。しかし、アーマードグラファイトは避けない。寸止めなしの右ストレートが顔面を捉えたが、よろめくどころか怯む素振りすら見せない。逆に腕を掴まれて右フックのお返しを食らった。

 

「堅いな。ならばもう一段階上げよう。」

 

緑の電撃がバチバチとグラファイトの体を駆け巡る。『個性』の、ワン・フォー・オールのエネルギーだ。

 

「身体許容上限。まずは5%だ。」

 

手を伸ばせば届く必殺の間合いで、両雄は激しくぶつかるグラファイトの拳が、肘が、膝が、足が、鈍い音を立ててアーマードグラファイトの楯に吸い込まれていく。本人は効いている様子は見せない上、殆どの攻撃を楯でブロックし、更にはその楯を鈍器のように扱って叩きつけてくる。荒々しくも動きは洗練されていて無駄が無い。ワン・フォー・オールもしっかりと14%まで全身に巡らせて併用しているのか、いつもより一段と攻撃が重い。

 

今まで学んで来た全てがグラファイトにぶつけられているのだ。戦いを通してそれが分かる、グラファイトは小さく笑った。繰り出したアッパーにカウンターのフックを合わせ、美しい十字架を描きながらもバックステップで逃げられないように足を引っかけられる距離へと踏み込んでくる。

 

「いいぞ、そうだ。そうだ!もっとだ!もっと!!」

 

防御も完璧だ。防げないならば当てさせない。当たるならばヒットポイントをずらしてダメージを最小限に抑える。単純に楯や頑丈な鎧に頼っているわけではない。しっかりと互角以上に戦えている。意識が無くとも、体が覚えているのだ。何千何万と繰り返し叩き込まれた技の数々を。

 

助走をつけて繰り出した渾身の右ストレートは楯に触れた瞬間、光った。光と共に衝撃がグラファイトを襲い、後方へと吹き飛ばす。追い打つように右腕を振り払い、殺陣が円盤となってグラファイトに向かって風を切って飛んでいく。ガードが間に合わず、水飛沫と共に砂に叩きつけられた。目標に着弾した楯は独りでにアーマードグラファイトの腕へと戻っていった。

 

今のは効いた。しかし倒されるほどの威力ではない。グラファイトは水を払いながら立ち上がる。

 

「攻撃が効かないのはその所為か。今まで蓄積したダメージを己の攻撃と共に一気に俺に返した。ならば、蓄積出来る限界値を超える攻撃を食らえばどうだ?身体許容上限、14%。スゥゥゥゥゥ・・・・・・」

 

正拳を打つかの様に右拳を腰に引き付け、赤い右腕に炎が宿る。小さくも、闘志を滾らせた龍の炎だ。その尋常ではない熱量に、湿った砂から蒸気が昇り始める。添えた左手にもその炎が燃え移った。上がっていく熱は揺らめく陽炎すら作り出す。

 

「今まで技を鍛えてきたのが、お前だけだとは思わん事だ。爪と牙を研いでこその龍戦士。」

 

どっしりと腰を落とした構えを取った刹那、グラファイトの姿は掻き消えた。空中のブロックが二つ消し飛ぶ。

 

『マッスル化!』

 

『高速化!』

 

エナジーアイテムにより強化されたグラファイトは拳を固めた。

 

「逆鱗打。」

 

連打、連打、連打。細かく纏めていながらもそのパンチはどの一発も必殺の一撃となるうる威力を秘めていた。文字通り白熱した拳による連続攻撃にマイティディフェンダーは踏ん張れどもどんどん後方へと押されていく。ブロックするだけで手一杯だ。遂に出入り口の階段につながる壁際まで押し込んだ。

 

「激怒竜牙!」

 

更に放たれるのは右裏拳、左フック、後ろ足で踏み込んでから左裏拳、右フック。引き付けた左拳を伸び上がりざま楯に叩き込む。最早グラファイトの拳の跡で拉げた楯は防具の用途を成せるような状態ではない。アッパーで右腕を弾いた所に間髪入れずに右の打ち下ろしがアーマードグラファイトの顎を抉った。ノーガード状態で再び先程の六連コンボが叩き込まれる。

 

止めに唸りを上げる横腹への回し蹴りで鎧に亀裂が入った。アーマードグラファイトはズルズルと崩れ落ち、多少傷だらけになりながらも出久は元の姿に戻った。ガシャットも出久から勢い良く抜けた所をグラファイトに掴まれる。

 

『GAME CLEAR!』

 

「これでまず一つ目か。」

 

肩で息をしながらどっかりと気を失った出久の隣に腰を下ろす。

 

「お前も大概世話の焼ける奴だな、全く。」

 

再びバグヴァイザーの画面に目を落とした。ワン・フォー・オールを継承してかなりの時間が経つのに、未だ培養は滞っていた。明確な数値は出ていないが、ようやく一割を超えたと言うところだろう。

 

「後は俺自身のガシャットがいるな。」

 

このガシャコンバグヴァイザーにはゲーマドライバーと同じくスロットが二つある。マイティディフェンダーZとドラゴナイトハンターZか、プロト版があればまず間違いなくそこいらの相手に負ける事は無い。加えて十全に使いこなせていないとはいえある程度制御出来るようになったワン・フォー・オールもあるのだ。ヒーローとして活かせる能力の幅はかなり広い。

 

それに加え、グラファイトの心に一つの疑問が浮かんだ。自分に感染した出久からガシャットが生まれたのならば、他の人間も出来るのではないだろうか?不明瞭な点は多々あるが、あくまで漠然とした可能性だけはある。『個性』を再びオールマイトに返せば必然的にバグスターウィルスに感染する事になるのだ。そこから何かが生まれるのは必定と言える。

 

「しかし寄生する事でしか新たな力を得られないとは‥‥我ながら情けない。」

 

ゲムデウスウィルスを克服してレベルという概念を超越するまでに至ったのだ。再び這い上がればいいだけの話だが、それでも不快感を感じずにはいられない。

 

おまけに更に課題が積みあがった。身体許容限界を伸ばす以外にガシャットの能力の検証もしなければならないのだ。出久から生まれたガシャットであるためリスクは無いだろうが、せめて何が出来て何が出来ないかは明らかにしておくべきだ。

 

「またスケジュールが狂った、な・・・・・」

 

意外性だけで言えば、出久は十分No.1だった。

 




ガシャット紹介:マイティディフェンダーZ

楯を持ったマイティ・ガードナーが飛んでくる攻撃を楯で防ぐ防衛系アクションゲーム。本体はシャカリキスポーツよりも深い緑色。音声のリズムはゲンム Lv 2と同様。

アーマードグラファイト

バグスターウィルスと遺伝子レベルで結合した出久がマイティディフェンダーZの力でバグスターとして実体化した姿。基本的に変身したグラファイトの姿と変わらないが、色は暗めの緑で全身に厚みがあってよりマッシブな体格になっており、特に防御力が高い。十分に攻撃を受け止めると貯めたそれを相手に返す事が出来るガシャコンバックラーが武器。投擲も可能である。

次回、File 15: 踊りっぱなしのCrazy Girl!

SEE YOU NEXT GAME.....

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