久々の戦闘描写上手く書けたかな?これからも拙作をよろしくお願いいたします。
やはりこればかりは慣れるのにいつも以上の時間がかかるだろう。LINEなどのチャットならまだマシだが、電話で、間近で生ボイスを聞くとどうしても言葉が喉につっかえてスムーズに会話が出来ない。芦戸から曲やアーティスト、更には音楽プレイヤーのメーカーや部員が作ったミックステープのコピーなどを貰い、トレーニングも大幅に捗った。彼女と連絡を交換してから二か月が過ぎ、遂に二月二十六日、雄英入試試験当日となった。
圧し掛かる緊張を少しでもほぐす為に出久は朝六時から軽くシャドーボクシングをしていた。
「そろそろ時間だ。シャワーを浴びて食べたら出るぞ。道中で最後の復習だ。」
母に出る事を告げて会場目掛けて一直線に通学路となる道を駆け抜ける。まだ三十分近く時間がある。ベンチに座り込むと目を閉じて丹田を意識した細く、長い腹式呼吸を繰り返す。周りからは奇異の目や『ヘドロヴィランの逮捕に一役買った同世代の凄い奴』と言う畏敬の視線を向けられるが、既に外界からすべてを完全に閉ざし切っている出久にはそんな物は届かない。
開場五分前になってから会場に足を踏み入れた。大学の講義で使うような巨大な講堂の造りとなっている会場は二十段近くの弧を描く席がずらりと並んでおり、それら全てに受験票に振られている。番号がある席に座り込んでしばらく目を閉じていると隣に誰かが座った。
爆豪だ。
『全く、腐れ縁もここまで来るとただの呪いにしか思えないな。まあ訓練の間余計な横槍を入れなかったのは褒めてやらなくは無いが。』
それもそうだろう。模試でA判定を取ったとは言え、所詮は模試。本番でその実力を出す事が出来なければ意味が無い。自分なりに修練を積んでここにいるのだろう。
時間になった所で壇上にスポットライトが当てられた。オレンジ色のサングラス、ヘッドホン、そして首に指向性スピーカー、そして嫌でも目立つ後ろに大きく反りあがったワックスで固められたであろう金髪の男の姿を照らし出す。同時に前方にある映画館顔負けの巨大なスクリーンに雄英の校章である重なったアルファベットのUとAが浮かび上がる。
「Okay
「ヘーイ!」
緊張を絶えずほぐし続ける為にも開き直ろうとばかりに出久が人目も憚らずに声を張り上げる。ボイスヒーロー プレゼントマイクの合いの手を無視するなど毎週放送しているラジオ番組のリスナーとして、ファンとして、そしてヒーローを研究してきた人間としてのプライドが許さなかった。
「Alright!ノリのいい返事をサンキュー、リスナー2234番!んじゃ、実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!Are you ready!?」
「YEEEEEEEAAAAAAAHHHHHH!!!」
再び声を張り上げる出久。鍛えられた肺活量と腹筋によって繰り出される叫びは、軽く反響した。
「Okay!リキ入ってんなそこのリスナー!入試予行通り、リスナーはこの後十分間の模擬市街地演習をやって貰うぜ!持ち込みは自由!プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!」
「ダチ同士で協力させねえって事か。」
確かに、連番であるにもかかわらず自分と爆豪の受験票に記された試験場所はそれぞれBとAで違っている。だがむしろ好都合だ。もし同じ試験会場であったら私怨がある事を隠そうともしない爆豪の余計な妨害など容易に想定出来る。しかし予想が良い意味で見事に外れてくれた。これならば心置きなく試験に専念出来るという物だ。
『聞いたか、出久?持ち込みは自由だと。使うか?』
出久は小さく首をかしげたが、すぐに首を横に振った。グラファイトはあくまで『個性』のふりをしているのであって『個性』ではない。『個性』が千差万別であるからその言い訳がよしんば通るとしても、自分にはそんな嘘をつきたくない。バグヴァイザーは使うかもしれないがやるならば自分の力で、自分で継承したワン・フォー・オールの力を使う。
「演習場には仮想ヴィランが三種、多数配置している。攻略難易度に応じてポイントをつけてある。個性を利用して行動不能にすれば、ヴィランに応じて点数が加算される。当然、他人への攻撃などアンチヒーローな行動はご法度だぜ?」
「質問よろしいでしょうか?」
良く通る男の声が中央から上がる。立ち上がって挙手した青少年の姿は、真面目一徹を絵に描いたようだった。
「Okay! Go ahead!」
「プリントには四種のヴィランが記載されています。誤載であれば、日本最高峰たる雄英に於いて、恥ずべき事態!我々受験者は、規範となるヒーローのご指導を求め、この場に座しているのです!」
「Okay, okay。いい質問だ、受験番号7111君。そいつぁ断じて誤載じゃないぜ?四種目の仮想ヴィランのポイントは、ゼロ。いわゆる『お邪魔虫』だ。各会場につき一体いるギミック。倒しても別に構わないが、倒したところで意味は無い。上手く避けて立ち回る事をお勧めするぜ。」
「ありがとうございます!失礼致しました!」
九十度に腰から折れて礼をし、受験番号7111の青年は着席した。
「俺からは以上だが、最後に我が校の校訓をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った。『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えて行く者』と。更に向こうへ!Plus Ultra!それでは、良い受難を!」
演習場Bへは説明を行った会場からバスに揺られて十分ほど離れた所にあった。ビルほどの高さがある扉と壁は、まさに一つの街を囲めるほどだった。
実技試験用の動きやすい普段着に着替えた出久は、最後に両手に深緑のハンドラップを巻き付けて立ち上がり、軽くその場で何度か跳ね、体の調子を確かめる為に再び軽くシャドーボクシングをして関節の潤滑具合、筋肉の解れ具合を確かめる。
「ハイ、スタート!」
プレゼントマイクの号令で扉が開き始めた瞬間、出久はその隙間を通り抜けた。出し惜しみはしない。最初から全力全開、ワン・フォー・オール フルカウル25%で臨む。
朝の運動のお陰で体は十分解れている。腹式呼吸で緊張もしっかり解した。スタートは上々、後はヴィランを見つけやすいように高台に飛び移って見つけ次第倒していくだけだ。
『出久、左下。』
言われるまま飛び降りざま回転しながら踵落としをカメラアイがある頭部に叩き込む。重力に従ってそのまま落ち切る前にもう片方の足で仮想ヴィランのボディーを蹴り飛ばして着地した。体は大きいが威圧感はそれ程でもない。本気を出したグラファイトに比べれば、どうという事は無い。
「標的を確認。ブッコロス!!」
更に後ろから現れたもう一体を振り向きざま右フックを叩き込んでスクラップにする。
『合計点数は俺が把握する。お前は気にせず突っ走れ。』
「よしっ・・・」
フルカウル状態で再びビルからビルへと飛び移って市街地を駆け抜ける。総数、配置は共に不明。限られた時間と広大な敷地。問われる能力は四つ。状況把握に必要な情報力、あらゆる局面に対応する機動力、どんな状況でも冷静でいられる判断力、そして純然たる戦闘力。
これらを総合した結果がポイントの合計という形で示される。
「あ・・・!?芦戸さん?」
仮想ヴィランと戦っている少女がいる。ピンク色の肌から噴出する溶解液が装甲ごと中身を溶かし尽くしていく。仮想ヴィランがビルを突き破ったせいか、建物の一部から瓦礫が幾らか降り注ぎ始める。彼女目掛けて。
「まずい!」
彼女目掛けて飛んだが、それでも目算で僅かに届かない事を悟った。
『チュドド・ドーン!』
バグヴァイザーの銃口から放たれたビームが瓦礫を粉々に砕いた。そして落ちてくるコンクリートの欠片が目に入ったりしないように着ていたパーカーを頭から被せた。
「大丈夫!?」
「へ、あ、うん、って緑谷?!」
「ごめんなさい、その・・・上から瓦礫が降って来てて気づいてないみたいだったから、つい。そ、それじゃ、頑張って!」
パーカーの埃を払って袖を通しながら再びヴィラン退治に赴く。一体、また一体と出久の攻撃が(時折バグヴァイザーと共に)仮想ヴィランを破壊していく。当然苦戦している受験生などの助力や怪我で動けない受験生の移動やその場で出来得る限りの応急処置も忘れない。
「残りは二分弱、か。」
まだ『お邪魔虫』と鉢合わせていない。いやまだ試験官側が出していない、と言った方が正しいだろう。そして出すと言った以上、彼らは出してくる。今もいい塩梅にポイントを取れる仮想ヴィランの数が減っている。出すとしたら、そろそろだろう。
そんな出久の読みは見事に当たった。しかし現れた『お邪魔虫』は予想を遥かに超えた代物だった。ポイント付きの仮想ヴィランは精々が三メートル前後の全長だったが、お邪魔虫は下手をすればその百倍近くはある巨大ロボだった。ビルの底を突き破って出てきたのか、建物が数棟ぺしゃんこになっている。その近くには瓦礫に足を挟まれて動けなくなっている女子の受験者がいた。
『ほう、これはこれは。全力をぶつける為に誂えたようなバグスターユニオン以上のデカブツではないか。多少は骨がありそうだ。』
バグヴァイザーなどの生半可な攻撃では牽制にすらならないだろう。
飛び上がり、突き出た頭部を跳ね上げる。まずアッパー。
「SMAAAAAAASH!」
しかし多少拉げただけで動作に問題は無い。落下する前にロボを足場に近くのビルに飛び移る。一発ではやはり足りない。オールマイトと違ってワン・フォー・オールの半分の力すら出せないのだから一撃で倒すなんて芸当自体無理な話だ。
右手のバグヴァイザーに目を落とした。本来は使わずにいたいと願っていたが、瓦礫から受験者を救う時に咄嗟に使ってしまった。ならもう一度だけ使おう。どうせ今の自分にはワン・フォー・オールを完全には使いこなせないのだ。それ以外の使える手段を頼って何が悪い?
『ギュギュギュ・イーン!』
「うおおおおおおおおおおおーーーーーーー!!!」
回転するチェーンソーの刃が鉄を切り裂き、内部を抉っていく。ある程度装甲を剥ぎ取った所で再び拳を握り直した。一発では倒せない。ならば、倒れるまで叩き続けるのみ。拳を固め直し、再び飛び掛かる。
ワン・フォー・オールの赤いスパークだけでなく金と黒の稲妻も出久の拳から伝い始めた。もう何十発打ったか分からない。頭にはハンドラップが擦り切れて千切れた拳が硬い装甲を打ち抜く音しかしない。
まだ息は続く。連打、連打、連打。止まるな、止まるな。何があっても打ち続けろ。二百でも三百でも構わない。相手はロボット、急所は無い。どこでもいいから叩け。
倒れろ、倒れろ、倒れろ、倒れろ、倒れろ!
祈りながらも拳を振るい続け、ようやく傾き始めた。
大砲を打つならここしか無い。左足を踏み込みながら腰だめに引き付けた右手を更に引いた。
「SCREW JOLT SMAAAAASH!」
大きく踏み込み、全体重を乗せた捻りを加えた右拳が巨大ロボの頭を根元から吹き飛ばした。落下しながら出久は何度も大きく息を吸った。連打とは即ち無酸素運動。いくら肺活量を増やしたからと言って筋肉が使う酸素の量は凄まじい。ましてや百以上の打撃を打ったのだ。出久の唇は酸素の著しい欠乏で紫色に変色していた。
『チアノーゼか・・・!替わるぞ、出久。許せ!』
当然、思考や判断にも脳が酸素を必要とするが、その為の分すら今の出久の体内に無い。足りない。
『MUTATION!』
地響きと共に倒れる仮想ヴィランはもうもうと土煙を空高く巻き上げて出久を覆い尽くす。その中で大の字に寝そべった出久は必死に酸素を取り入れようと深呼吸を続けていた。ワン・フォー・オールも既に解除しているが、やはり十分間全力で発動したフィードバックがほぼ即座に全身を襲った。筋トレを始めた頃の痛み以上だ。
『すまん、あの状況ではああするしかなかった。』
「いいよ、もう・・・・結局最後の最後で後が続かなかったん、だから・・・・・ああ、くそ。滅茶苦茶に痛い・・・・」
プレゼントマイクの試験終了の号令が鳴ったのは、それから三十秒前後が経過してからだった。
これから数週間、卒業後の大学院の願書や住居の手続きなどもあってかなり忙しくなるので更新が多少遅れます(確信)
次回、File 17: Let’s go! 僕のヒーローアカデミア