感無量です。
4/9 グラファイトのアドバイスとフルカウル会得にもかかわらずスコアが低くて不自然と言うご指摘を受けたので加筆修正しました。
File 17: Let’s go! 僕のヒーローアカデミア
「いだだだだだだ!!!痛い痛い痛い痛い!!!」
全身に湿布を張られ、両足を広げて背中を思いきり足裏で押されている出久が食いしばった歯の奥から叫ぶ。同じく湿布にまみれたグラファイトも未だ鈍痛を発する肩や背中の筋肉をほぐしながら出久の上半身を床に倒していた。
「我慢しろ。調子に乗っていきなり全速力で『個性』を使ったのはお前だ。筋肉痛だけで済んでよかったと思え。俺が一部ダメージを肩代わりしなければ骨に罅、神経を幾らか断裂しているところだぞ。特にあの連打。いくら鍛えているとは言えワン・フォー・オールは増強系。パワーは上がっても生身である事に変わりは無い。」
「うぐぅ・・・・」
言い返せない。身体許容上限が25%に上がったのは試験の二日程前。本来ならば20%か、それ以下の出力で加速するマニュアル車の如くギアを徐々に上げて行く所をいきなり最大出力で飛ばしたのだ。鍛え上げた体が一気に体力を持っていかれても仕方が無いのだ。
「まあ説教はともかく、感触はどうだった?」
「実技は手応え十分。筆記は平均より少し上ぐらいかな。」
「そうか。確かに、あれだけやれば入試はトップで入れるだろう。」
「いや・・・・トップは流石に・・・・」
「入れるさ。俺の勘を信じろ。仮想ヴィランの無力化で合計81ポイント。だがそれだけが得点に数えられる筈が無い。また別の形で点数が入るだろう。俺の予想ではお前の得点は三桁。爆豪など及びもしない。しかし、もう一週間近く経つのに結果がまだ来ないとはいやにやきもきさせるな、雄英も。オールマイトとも連絡がつかなくなっている。何をしているんだ、あの外人かぶれは?」
「まあまあ、オールマイトもきっと忙しいんだよ。トップヒーローなんだし・・・・」
「それもあの傷ではたして何時まで保てるか。あの調子で続けて行けば、全盛期の力を戻す前に残り火が消えるか、あいつが死ぬ。後はどちらが先に訪れるかだ。」
「そんな・・・・!」
認めたくはなかったが、徹底した現実主義のグラファイトに感化された出久も想像した事が無い訳ではない。命ある万象は必ず死に、滅ぶ。最強無敵の平和の象徴も『老い』や『寿命』には勝てないのだ。平和の象徴と言う犯罪抑止の封が消える。正直想像したくもない。
「だからこそ奴には自粛して貰わなければならない。次なる世代の『平和の象徴達』の為に。まあ言ったところで止まらんだろうがな。あれも最早名医にも治せん職業病と言う立派な病だ。」
「そこまで言わなくても・・・・」
グラファイトは階下で異変を感じ取ったのか床を一瞥すると出久に感染して姿を消した。その直後に息せき切って母の引子が出久の扉をまるでキツツキのように震える手でタタタタンと叩く。
「き、来てた!通知来てたわよ!」
差し出された白い封筒には雄英の校章が入った赤い蝋封がされてある。
『来たか。フハハハハ!』
「後で結果教えるから、その・・・・一人で、いい?」
「良いわよ!ちゃんと結果教えてね!」
いそいそと部屋を出る引子は、鼻歌を歌いながら下に降りる。彼女の中では既に出久は合格しているのだろう。
慎重に封を切って中身を取り出す。案内通知の紙切れ以外に、五百円玉より少し大きい平たく丸い装置が入っていた。スイッチらしい物を押す。
『私が投影された!!』
「ぬうぉおおあああああああ!?!?いっ“!?」
思わず後ろに飛び退り、ずきりと来た筋肉痛に顔を歪めた。
『イヤー諸々手続きに時間がかかって連絡がつかなくなってしまってね、申し訳ない。』
画面に映っているのは黄色のピンストライプスーツと青ネクタイのオールマイトだった。
『実は、私がこの町に来たのは雄英に勤める事になったからなのだよ。ん?え、巻きで?いやしかし彼には伝えなければならない事が…‥後がつかえてる?あ~・・・OK、分かった。筆記は合格、そして実技も81ポイントと優秀な成績で合格。ちなみにだが、見ていたのはヴィランポイントだけにあらず!』
『ふん、やはりか。』
それ見た事かとグラファイトが鼻を鳴らす。
『見ていたもう一つの基礎能力、それ即ちレスキュー!何故なら!「人助け」を、「正しい事」をする人間を排斥するヒーロー科などあっていい筈が無い!綺麗事?大いに結構じゃないか!綺麗事を掲げて実践するのがヒーローの常。ちなみにこれは、厳粛な審査制!君のレスキューポイントは、53!合計134ポイント!』
そして成績の上位十名の点数と名前が空中に投影されたスクリーンに現れた。その一番上には、緑谷出久の名がある。
『堂々一位の入試主席だ!おめでとう。』
グラファイトは我慢できずに腹の底から笑い始めた。清々しいほどに予想通り三桁のスコアを叩き出したのだ、笑わずにいられない。出久が一人で戦い抜いて勝ち取った主席の座は素直に嬉しかったし、何よりヴィランポイントのみで上位にのし上がった爆豪より上だという事実は溜飲を下げるには十分だった。奴の悔しがる顔を見れないのが残念だ。
「入試、首席・・・・・!?ぼぼぼ僕が、入試しゅしゅっすふしゅ主席!?え?!」
白昼夢でも見ているのではないかと目をこすり、脇腹を抓っても結果は変わらない。緑谷出久と書かれた名前とその順位は、動いていない。消えていない。爆豪勝己の上に、ある。134ポイントが、ある!
「うあああああああああああああああああああああああ!!!」
嬉しい。唯々嬉しい!壊れた消化ホースの様に涙腺から涙が噴出した。
『待っているよ、緑谷少年。早く来い。君のヒーローアカデミアへ!』
ビデオメッセージが終わる前に出久は筋肉痛など知った事かと部屋を飛び出して階段を駆け下りると、母親に抱き着いた。泣きながら合格した旨を伝えると、引子もまた凄まじい勢いで嬉し涙を噴出しながら我が子を抱き締め、喜んだ。
水分補給をした後に御馳走を作る為に再び買い出しに急ぎ足で出て行ったのは言うまでもない。
『言っただろう?一位で合格だ、主席殿。これで爆豪もそうでかい顔は出来まい。癇癪を起して家を吹き飛ばしていなければいいがな、フハハハハハ!』
「またそうやって・・・・・ん?」
ポケットの携帯が震えた。オールマイトからのメールだった。
呼び出されたのは試練を課された海浜公園だった。
「やあ、少年。君にはここ最近驚かされてばかりだな。」
夜の浜辺で出久を迎えたのは骨と皮のトゥルーフォームのオールマイトだった。
「まずは改めておめでとうと言わせてくれ。五本の指に入る成績上位者ぐらいにはなると予想はしていたが、良い意味で斜め上を行ってくれた。」
「当然だ。まあ今回は本人の希望もあって余計な手は加えなかったが。」
グラファイトが腕を組んだ状態で出久の背後に姿を晒す。
「しかし、君は最後のあの瞬間、一瞬とは言え変身しただろう?」
オールマイトが若干意地の悪い笑みを浮かべる。
「身体許容限界の出力で『個性』を十五分間全力で振るっていたからな。全身筋肉痛、おまけにギミックを倒す過程で酸素不足になってチアノーゼだ。まともに着地も出来ない状態だった故、あの時だけ体の支配権を奪った。貴様、よもや今更不正だなどとは言うまいな?」
「まさか。こちらもグラファイトの事も、私との接点も伏せてある。緑谷少年、君は良くも悪くも真面目だ、そう言うのはズルだとか思って気にするタイプだろう?レスキューポイントの審査にも不参加だ。入試主席は正真正銘、君自身の実力で勝ち取った功績だ、存分に誇ると良い。」
「お、お気遣いありがとうございます!でも、オールマイトがまさか雄英の先生だなんて驚いちゃいました。だからこっちに来てたんですね。だってオールマイトの事務所は東京都六本木の港区の」
「や・め・な・さ・い!」
危うく個人情報をばらすところだった出久に待ったをかける。そこまで知られているとは思わず、オールマイトの額から数滴の冷や汗が流れ落ちた。
「それについては学校側が正式に発表するまでは言えないのだよ。後継者を探していた私に、たまたま依頼が来たのさ。実を言うと、君に会う前は育成しているヒーローの卵達の中から後継者探しをして雄英で教師をしながら育てていくつもりだった。でも、視野の狭さを実感したよ。君に会えて本当によかった。ありがとう。」
出久は涙を堪えながら差し出された痩せぎすの手を握った。
「オールマイト、いい気分な所で水を差して悪いが俺も二つ程貴様に用事がある。一つは貴様の細胞の培養状況だ。やはりと言うべきか、笑える程に遅い。今でようやく10%に到達した所だ。培養のスピードはまちまちだが、単純計算で行けば少なくとも年単位の時間がかかる。」
オールマイトは目を細めた。やはりそれぐらいはかかるのか。
「だから、お前もその人助けと言う名の職業病を治す事に専念しろ。活動限界時間が削られればそれだけ余計に培養する手間が増える。」
「少しずつ元に戻して行くという事は、出来ないのかい?」
「傷が新しければその可能性はあったが、これは古傷を治すという言わば治った傷を再び開いて最善の状態に戻す作業を以て治療すると言う荒療治だ。今注入した所で雀の涙にも値しない。どころか無駄遣いだ。」
つまり、ゼロか百か、である。
「そうか、分かった。ありがとう。では、もう一つの方は?」
「ワン・フォー・オールの出自だ。」
オールマイトの眉がピクリと引き攣った。
「グラファイト、ワン・フォー・オールの出自って・・・・?」
「俺は基本暇な時は調べ物をしていてな。興味を惹けば飽きるまで調べ尽くす。その対象の一つが、ワン・フォー・オールの誕生だ。受け継がれる物である以上、発現させた初代がいる筈だ。それが誰なのか、とかをな。」
グラファイトの口角がにやりと吊り上がる。しかしその目は瞬きすらせず、オールマイトを射抜かんばかりの鋭い光を帯びていた。
「世の中力を振るう者は悪人であろうとなかろうと、またそれより更に上の力によって下されるのが世の常だ。何故なら、そいつが保有する力その物が『挑発』となっているからだ。『挑発』は『敵対』、『敵対』は『災害』を必然的に誘発する。『個性』を受け渡し、力をストックする『個性』などと言う『個性』の中でも特殊過ぎるそれが自然に生まれるという事に少し疑問を抱いてな。何より、名称に引っかかりがある。」
「名称?ワン・フォー・オールの?」
「ああ。これは元々アレクサンドル・デュマ・ペールの小説『三銃士』のキャッチフレーズの後半その物だ。偶然とは思えない。人はモノに名をつける時に必ず何かしらの意味を持たせたがる。オールマイト、貴様とて例外ではない。」
思い出したとばかりに出久は手を叩く。
「あ、そっか!
「そう。ワン・フォー・オールは前任者の魂と力を受け継ぐ、『個性』。個人の意思によって受け渡され、受け取られる、意思を尊重する物。ならばその対極に位置する個性『オール・フォー・ワン』は――」
「やめろ。」
オールマイトが静かに、しかしはっきりとグラファイトの言葉を遮ったが、構わずグラファイトは続ける。
「『個性』を奪う『個性』ではないのか?お前の脇腹に風穴を開けたのはその力を持つ人間ではないのか?そう考えた。まあ、あくまでこれは全て仮説、証拠も何も無い勝手な想像の域を出ないがな。」
しかしオールマイトははっきりとグラファイトの表情を見て分かった。ああは言ったものの、彼は間違い無く確信している。彼のこの長ったらしい説明は、紛れも無く挑発。
出久に隠し通すのか?信頼して後継者に選んだお前が。ここでしらを切れば、どうなるか分からないぞ?
「こ、『個性』を奪う『個性』ってそんな・・・・!?」
出久は震えた。あり得ないと思いたくとも容易に想像出来てしまう。強力な『個性』をいくつも手にした人間がもし犯罪者だったら。町どころか国一つを滅ぼせるかもしれない。世界征服と言うコミックの中だけに存在する筈の野望を実現出来てしまうその出鱈目過ぎる力がまさか存在するとは。その事実に出久の背中を嫌な汗が濡らした。
「あり得ない話じゃない。ワン・フォー・オールなんてものが存在するんだ、むしろ無い方がおかしい。」
したり顔のグラファイトを一瞬睨み返したが、きつく目を閉じ、オールマイトは目頭を揉んだ。
「グラファイト、全く君は・・・・・」
「何だ?想像の域を出ない仮説だと言った筈だが?」
「本当だよ。その『個性』を・・・オール・フォー・ワンを持つヴィランは、確かに存在した。五年前に腹のこの傷と引き換えに私が倒した男だ。」
砂の上に座り込み、出久もそうするように促した。
「余計なプレッシャーになると思って後になってから話すつもりだったんだが・・・・話そう。」
どうしてこうなった・・・・・
グラファイトが草加並に悪い顔してるようなシーンが出来てしまった・・・・!?!?!?
口が悪くとも根は優しいママファイトでいる筈だったのに!!
次回、File 18: いきなりのTrial!
SEE YOU NEXT GAME.........