龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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個性把握テストですが、原作とあんまし変わらないです。

いよいよ大学四回生としての人生も大詰め、卒業まで残すところ一か月ですので多少更新がもたつきますが、悪しからず。


File 19:除籍をDodgeせよ!

「ええっ!?あの、入学式とかガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。それは先生達もまた然り。お前達も中学の頃からやってるだろ、『個性』禁止の体力テストを。平均を成す人間の定義が崩れてなおそれを作り続けるのは非合理的だがな。まあこれは文部科学省の怠慢だ。実技入試トップは緑谷だったな。お前の中学時代のソフトボール投げの最高記録は?」

 

「61メートルです。」

 

未だ肉体改造の途中だった事もあり爆豪の記録程ではないが、中学一年に比べれば雲泥の差だ。

 

「んじゃ、今度は『個性』全力で使って投げてみろ。思いっきりな。円の中にいる限り何をしようが構わない。」

 

受け取ったセンサー付きのソフトボールの重さを確かめ、腹式呼吸で脱力していく。ワン・フォー・オールの出力を徐々に上げて行き、大きく息を吸う。そして投げる刹那、一気に肺の中の空気を全て押し出した。あらん限りの力を込めて投げられたボールは芥子粒サイズになる距離まで宙を舞った。視認すら難しい程の距離を経て、ようやくグラウンドに再び落ちてきた。

 

ピロン、と相澤の持つ機械から音がして、ボールの飛距離――812.4mの記録が表示される。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの筋を形成する合理的手段。」

 

いきなりの凄まじい記録を打ち立てた出久に、クラスは騒然となった。

 

「初っ端から800オーバーってマジかよ!?」

 

「ナニコレ面白そう!」

 

「『個性』を全力で使えるなんて、流石ヒーロー科!」

 

「面白そう、ねえ・・・・」

芦戸の不用意な一言で、相澤の周りの空気が豹変した。

 

「ヒーローになる為の三年間、そんな腹積もりで過ごすのかい?よし、決めた。じゃあこのテストのトータル成績最下位は、ヒーローになる見込みなしと判断して、除籍処分にしよう。」

 

出久だけでなく、1-A全員が絶句した。

 

「自由な校風が売り文句と言った筈だ。君ら生徒の如何もまた俺達の自由だ。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ!」

 

挑発的な笑みに抗議の声が上がった。

 

「最下位除籍って、入学初日ですよ!?そうじゃなくても理不尽過ぎる!」

 

やっとの思いで入試という狭き門を潜り抜けて来た先に待っている、洗礼と呼ぶにはあまりに過酷、あまりに理不尽な第二の試練。失敗のペナルティーと呼ぶには重過ぎた。

 

「自然災害、大事故、身勝手なヴィラン。いつどこから来るか分からない厄災。日本は理不尽に塗れている。そんなピンチを覆して行くのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったのならお生憎。これから三年間、お前達には絶えず試練が与えられていく。プルスウルトラ、全力で乗り越えて来い。」

 

これが最高峰。ここまで来てしまった以上、逃げも隠れも出来ない。やるしか、無い。

 

「デモンストレーションはこれで終わり。これからが本番だ。」

 

まず第一種目は50m走。出席番号順に二人ずつ『個性』を使って走破し、タイムが気に入らなければもう一度だけ挑戦出来る。

 

出久は次々と走破していくクラスメイトの『個性』を頭の中で分析しながら脳内で色々と書き留めて行く。飯田天哉のふくらはぎのエンジン、蛙吹梅雨の蛙っぽい事、麗日お茶子のゼログラビティなど、やはり『個性』の万別さは改めて見ると面白いのだ。

 

『成程な。「個性」を最大限使って個性の伸びしろを測れば何が出来て何が出来ないかが浮き彫りになり、己を生かす創意工夫に繋がる。上手く考えたものだ。』

 

「でもヒーローは一芸特化じゃ限界がある。」

 

だからこそ、何事にも物怖じしないチャレンジ精神が必要になる。いよいよ出久の番だ。隣に爆豪が親の敵とばかりに出久を睨みつける。目尻が前髪のラインに隠れんばかりに吊り上がっていた。折寺中学唯一の雄英入学者という箔だけでなく、入試主席の座をも路傍の石ころと侮っていた人物に掻っ攫われたのだから無理もない。

 

測定器の号令と共に両者は駆け出した。両手を後ろに突き出して爆風で加速しながら飛ぶ爆豪に対して、出久は5%前後で呼吸をコントロールしながらワン・フォー・オールの出力を車のギアを入れるが如く、五歩毎に一段階、時には飛ばして二段階出力を上げてスピードを上げて行く。

 

『3秒49』

 

「やっぱりいきなりトップギアに入るには慣れが必要か‥‥」

 

『無個性』に比べれば十分過ぎるほどに速い。しかしやはり最高速度に達するまでのタイムロスはある。対する爆豪のタイムは4秒13。やはり両手を使うと威力が分散してしまうらしい。

 

第二種目の握力テストは複製腕の個性を持つ障子が540kgというゴリラやオランウータン並みの握力を見せつけた。出久も一瞬だけ25%のワン・フォー・オールを右腕に集中し、113.5kgの握力を発揮した。約一名は万力を使って800kgオーバーを叩き出したが、創り出す『個性』であるという事で抗議の声は無い。

 

続く立ち幅跳び、反復横跳びもグラウンドが抉れる程の足跡を残した事は相澤に窘められたが、まずまずの結果を残せた。しかし立ち幅跳びで理論上爆破は汗を流す限りいくらでも出せる爆豪が初めての∞という記録を叩き出した。

 

第五種目のボール投げでも増強系の『個性』持ちが上位に陣取ったが、それらは全て麗日がボールにかかった重力を無効化した状態で投げた事で叩き出した∞の記録に打ち破られた。(ボールは相澤の指示で回収の為にすぐ解除するように言われた)

 

「うわぁ・・・・・あれはいくら格闘技が得手でも野外で触られたら終わりだな、いや指五本が全部自分に触らなければいいんだから‥‥うーん…‥」

 

『まずまずと言ったところだな。ベスト5は確実だろう。』

 

「だね。」

 

残る持久走、上体起こし、そして長座体前屈も満足する結果を残せた。

 

「さてと、結果発表だ。順位は単純に各種目のスコアの合計でつけてる。口頭で一つ一つ発表なんて時間の無駄だから一括開示で行く。」

 

空中に投影された二十人の順位で、出久は第三位。推薦入学者のツートップ『創造』の八百万百、『半冷半燃』の轟焦凍の真下だ。ここ三年と少しの結果は、間違いなく出ている。

 

しかし最下位成績の少年峰田実は自分の名がある場所を見ながら口を半開きにして呆然と立ち尽くしていた。やっとの思いで入れてすぐまた放り出されるなんて、あんまりすぎる。

 

「ああ、ちなみにだが、除籍処分の話は嘘な。」

 

「はい?」

 

「え?」

 

「最大限を引き出して限界値を知る為の、合理的虚偽。」

 

「はあああああああああああああああああああ!?!?!?」

 

「あんなの嘘に決まってるじゃない。ちょっと考えれば分かりますわ。」

 

八百万はそう言う物の、出久もグラファイトも彼の言葉をすぐには信じられなかった。少し時間がかかったが、思い出したのだ。相澤消太、抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』。見た相手の『個性』を消す事ができて、炭素繊維に合金の鉄線を編み込んだ首の捕縛武器を駆使して戦う、ゴーグルがトレードマークのアングラ系ヒーロー。大人数を相手にすることを想定した戦闘スタイルで、最小限の努力で最大限の結果を出し一切の無駄を省く。そんなストイックな男が除籍を軽々しく口にするようなタイプとはとてもじゃないが思えない。

 

やろうと思えばすぐにでも生徒の一人や二人ぐらい簡単に除籍処分を言い渡すだろう。少なくとも、最初に宣告した時の目は本気だった。

 

「ちょっとヒヤッとしたな・・・・」

 

「俺はいつでも受けて立つぜ。」

 

「これにて終わりだ。教室にカリキュラムなどの書類があるから目を通しとけ。明日から更なる試練の目白押しだ、覚悟しとけよ。」

 

「うわああああああああああああーーーーーーー!!」

 

今世紀最大のドッキリを仕掛けられた峰田は、嬉しい様なほっとした様なムカつく様な、ともかく様々な感情が一気に噴き出して泣き始めた。とりあえずこれで除籍は免れる。ここにいられる。周りの男子が何人かが良かったなと慰め、皆は教室へと引き上げた。

 

 

 

 

『ほう、中々満載なカリキュラムではないか。一般科目を含めてヒーロー基礎学、ヒーロー史、法律・・・・また面倒な。』

 

「グラファイト、そう言わないでよ。」

 

しかしヒーローが社会的に認められた世界の出身者ではないグラファイトはぼやかずにはいられなかった。ヒーローとは言わば奉仕活動、助けたいから助けているのであってそれで報酬を得ていては本末転倒だ。それに今や社会の花形である為、その人気欲しさにヒーローを目指す人間も後を絶たない。

 

ヒーローの価値そのものが劣化しているのだ。そして感染と言う形を通して互いの互換、感情、考えなどが分かる。その絆を通し、出久ははっきりと感じていた。グラファイトはヒーロー制度そのものに何らかの変化をもたらそうと考えている事を。

 

初日という事もあり、今日は午前中に下校を言い渡された。

 

「どうしようかな、今日・・・・?」

 

正直言っていつもやっているトレーニングしかやる事が思いつかない。思案に耽っていると、肩にポンと手を置かれる。

 

「やあ、緑谷君。今から駅までかい?」

 

「あ、飯田君・・・・うん。午後も何かあるのかと思ってたのに拍子抜けしちゃって何しようかなーって考えてたんだ。必要とは分かっていてもトレーニングばっかりってのも味気無いし。」

 

「ふむ、それは確かに・・・・にしても、君は着痩せするタイプと言う奴だな。後学の為にも是非色々と教えて貰いたいんだが。」

 

「それは別にいいけど・・・・」

 

「しかし、相澤先生にはやられたよ。俺はこれが最高峰とか思ってしまった。まさか嘘で鼓舞されるとは・・・!」

 

『真面目な奴だな。まるでブレイブだ。』

 

後は『俺に斬れない物は無い』と豪語して白衣を身に付ければ完璧だ。

 

「お~い!緑谷~!」

 

「お二人さーん、駅まで~?待ってー!」

 

手を振りながら芦戸と麗日が追ってくる。

 

「君は無限女子!」

 

「麗日お茶子です。えっと、飯田天哉君と緑谷・・・・デク君、だよね?」

 

「違うよ。名前の読みは『いずく』なんだ。デクはかっちゃ・・・爆豪君が馬鹿にする時に使うんだ。だから出来ればそう呼ばないで。」

 

「蔑称か・・・」

 

「え、そうなの!?ごめん!でも『デク』ってなんか頑張れって感じで好きだな、私。」

 

「確かにそう思う。麗日に賛成~。」

 

「デクです!」

 

『おい待て、貴様!』

 

そばかす顔がコペルニクス的展開に直面して真っ赤になった出久のリアクションに最初に抗議したのはグラファイトだった。

 

『散々呼ばれ続けた蔑称を女子に使われて何を赤くなっているんだ、貴様は。しっかりしろ!』

 

「緑谷君!?浅いぞ!今先程自分から蔑称だと認めたばかりだろう!舌の根も乾かぬ内に・・・」

 

飯田もグラファイトと考えが偶然一致し、同じく抗議した。

 

「え、えっと、とにかく、その・・・・なんだっけ、飯田君?教えて欲しい事って。少なくとも筋肉量とかは僕より上だしそこら辺は問題無いと思うけど。」

 

一旦呼吸を整え、落ち着いてから強引に話題に戻る。

 

「それは緑谷もそうでしょ、着痩せするタイプっぽいし。あ、それと遅くなっちゃったけど、入試の時助けてくれてありがとね?」

 

ニシシと歯を見せて笑う芦戸は出久の手をぎゅっと握った。途端に出久の顔が消防車顔負けの赤に変色する。

 

「ど、どどど、どいどいどぅいどういたしまして!ち、近い・・・・」

 

そして柔らかい。ピンク色とは言え、肌のきめ細かさや滑らかな感触は変わらない。加えて縮まった距離により、シャンプーか将又香水か、兎に角ふわりと柔らかくいい香りまでする。再び出久をパニックに陥れるには十分過ぎる刺激だった。

 

「んんっ!」

 

わざとらしい咳払いで飯田が再び脱線した会話をレールに戻した。

 

「俺の個性の『エンジン』はマニュアル車みたいにギアを一つずつ上げて行かないと加速しないんだ。素早い切り替えは出来るようにはなっているんだが、やはりまだどうしてもタイムラグが生じて、どうすればいいか行き詰まってしまっている。おまけに急発進や急停車も出来ないからね。」

 

うーんと唸りながら出久はリュックからノートを取り出して飯田の名を書いたページを開いた。

 

「イメージとしてはやっぱりマニュアル車の加速とギアチェンジが土台にあるの?」

 

「ああ、『個性』の仕組み上、その方が分かり易いからな。」

 

慣れればそうかもしれないが、マニュアル車の仕組みの再現度が高いレーシングゲームを経験している出久はそう言った事とは(偏見ではあるが)縁遠そうな飯田がイメージに使うには多少無理があるのではないかと考えた。しかし今ある物を崩してまで変えるのも勿体無い話だ。

 

「じゃあ・・・・そうだ!例えばまずは十五歩毎にギアを上げて行く事を意識してみたら?そこから歩数を減らして行けばいいスタートダッシュが切れると思うんだけど。」

 

「なるほど、歩数をシフトアップのスイッチにするのか。それは考えつかなかった!うん、ありがとう緑谷君!」

 

「あ、飯田君だけずるい!デク君、私もどうにか出来ないかな?私の個性って指五本で触った物の重力を消すんだけど、やり過ぎると酔っちゃって・・・・」

 

「うーん・・・・・それはなんとも・・・・とにかく『個性』を使いまくって許容量を地道に上げて行けとしか・・・あ、でもでも、『個性』をヒーロー活動に活かす為に格闘技とかをやってみる事はお勧めするよ!麗日さんの場合、相手に触りさえすればそれで終わりだし。」

 

もし屋外での戦闘だったら成層圏の彼方まですっ飛んで行くだろう。考えるだけで恐ろしいが災害救助や瓦礫の撤去では頼もしい事この上ない。

 

「じゃあ次あたしあたし!あたしはね、酸を全身から出せるの!粘度も溶解度も自由自在!」

 

四人の会話はそれぞれの家の最寄り駅で分かれるまで続いた。

 

初めて本当の友と呼べる存在が早速出来た事に、出久は嬉しさで心が躍った。

 




次話は皆さんお待ちかね(と信じたい)屋内戦闘訓練です!

次回、File 20: Rock & Fire! 龍神の拳

SEE YOU NEXT GAME......
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