龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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最初に行っておく。

あけましておめでとうございます。
今年こそは何かを捻出いたしますのでよろしくお願い致します。


File 02: Game Start! レベルアップ開始

グラファイトとの出会いは、出久の生活を大きく変えた。無個性だという診断を医師から受けた時に同伴していた母の引子も、息子の『個性』が遅咲きながらも発現したという報告に、壊れた消火栓や間欠泉すら凌駕する程の勢いで嬉し涙を噴出してお祝いとばかりに好物のかつ丼を作りにかかった。

 

『あれがお前の母親か。お前によく似ているな。』

 

「よく言われるよ。」

 

『ところで、もう少しヒーローについて知りたい。』

 

「僕の部屋に色々あるから、食べ終わったら好きに読んで。」

 

「出久?どうしたの、一人でぶつぶつ言って?」

 

「な、何でもないよ!ただの独り言だから気にしないで!」

 

「そう?」

 

息子の個性発現がよほどうれしいのか、それ以上は追及せずに調理を続けた。

 

 

 

 

 

食事の後、出久と共に彼の自室に入ったグラファイトは彼の目を通して広がる内装に頭を抱えたくなった。というのも、部屋が全てたった一人のヒーローのポスターやペナントなどのグッズで覆われているのだ。本棚にはコスチューム姿の20cm近くはある台座付きフィギュアも鎮座している。

 

出久の体から出て実体化したグラファイトは部屋を見回した。

 

「お前が憧れるヒーローが、この男か?」

 

ALL MIGHTと書かれたポスターには赤、青、黄色と白いラインが幾筋も入った派手なコスチュームに身を包んだ筋骨隆々の金髪の男がPLUS ULTRA!の吹き出しと共に右ストレートを繰り出している姿が印刷されていた。

 

「うん!オールマイトっていうんだ!」

 

「オール、マイト。さしずめ、あらゆる事に全力で取り組むと意気込みを表した名前か?」

 

「うん、それもある!どんな事件でも自分が来たから大丈夫って、いつも笑顔で皆を安心させてくれる、世界一のヒーローなんだ!僕はそんなヒーローになりたいんだ!」

 

「そうか。ところでだが、お前のあの母親、料理が美味い。お前の感覚で初めて物を食うと言う体験をしたが、中々癖になりそうだ。」

 

「まあ、そりゃあね。」

 

照れくさくも出久は自慢げに胸を張った。

 

「腹も膨れたところで、話の続きだ。ヒーローという物はどういった存在だ?どうすればなれる?」

 

「ヒーローっていうのは、『個性』で悪い人を捕まえたり、人を助けたりする人の事だよ。それで、皆ヒーローとしてのライセンスを貰う為に勉強するんだ。」

 

つまりヒーローとしての活動をする為には許可証が必要なのだ。

 

「どこでそれをやる?」

 

「う~んとね、人それぞれなんだけど、ここだったらやっぱり雄英高校なんだ。そこでヒーロー科に入学してからがスタートラインなんだ。卒業したらどこかの事務所にサイドキックとして入って、自立していくって言うのが普通だね。」

 

「つまり、ヒーローと言うのは称号よりも職業としての意味合いが強く、その活動で金を得ている、と?」

 

「う、うん。」

 

語気が僅かながら強まったのを聞き、出久は一滴冷や汗をかいた。

 

「くだらんな。」

 

「何で?!」

 

「人間は基本的にはまず己が助からなければ他者を気遣う事は無い。理由は様々あるのだろうが、ヒーローとは最終的に人を救いたいから救う者を指す言葉なのだろう?それが見返りを求めてどうする?少なくとも、俺が知るヒーローは私情こそ多少はあれどもそれだけは揺るがなかった。自らの命を投げ打ってでも他の命を救う。たとえどれ程レベルに差があろうと、恐れずただ前へ進む。唯一の見返りは、救った者の健康と、笑顔。そんな奴がいた。」

 

「それって誰、グラファイト!?どんなヒーロー?何て名前?どんな『個性』?!」

 

十代前半とは思えないほどの凄まじい食いつきに気おされ、グラファイトは思わず半歩足を引いた。

 

「いや、俺が奴らに会う事はもう無いだろう。だが、奴らは医者だった。」

 

「お医者さん?」

 

「ああ。腕利きの医者だ。俺の知る限りでは、な。『個性』とも少し違う能力を持っていた。それよりも、だ。お前がその夢を実現する為の下積みは当然して来たのだろう?」

 

出久の額から流れる冷や汗の量が更に増え、目が激しく泳ぎ始めた。あまりにも分かり易い答えにグラファイトはあっと言う間に出久の胸ぐらを掴み上げた。

 

「ふざけるなよ、貴様。」

 

バチバチとグラファイトの全身からオレンジ色の火花のような物が散り、本来のバグスターの姿が見え隠れする。

 

「下地も無く、理想や夢想ばかりでヒーローになれる筈が無いだろう。大前提である『個性』が無いなら猶更だ。貴様は、ヒーローという物を嘗め過ぎている。今年齢はいくつだ?」

 

「じゅじゅじゅじゅ、じゅじゅ十二でしゅ・・・・」

 

「その雄英高校とやらに行くまでの期間は?」

 

「三、年・・・・・」

 

「三年か。」

 

自分がバグスターとして誕生して活動した時間の約半分、つまりは半生。再び下がってしまった力を取り戻すには十分な期間だ。

 

「ならば今から三年間、我々は力をつける。」

 

「力って、どうやって…?」

 

「その為には、まず貴様の体を借りる必要がある。」

 

「え?」

 

「まずお前のその見るからに貧弱な肉体を、鍛え抜く。安心しろ、一週間の内半日程度の休息はくれてやる。この家にコンピューターはあるか?」

 

「そりゃ、あるけど・・・・・何するつもり?」

 

「俺は世界でただ一種のウィルス生命体だ、人体の構造と機能、そして電子機器に関して自分程詳しい者はいない。これから俺と貴様に合致する鍛え方と戦い方を検索する。五分もあれば十分だ。ここで待て。」

 

粒子となって消えたグラファイトは閉じられたドアの隙間から去り、言葉通りきっかり五分で戻って来た。

 

「考えついたぞ。これだ。」

 

新品のノートとペンを受け取り、グラファイトは凄まじい勢いで字を書いて行き、インクが切れては別のペンを使い、また切れてはペンを替える作業を繰り返し、三十分も経過しない内にノートの全ページが余白を残さずほぼ完全に埋まった。ノートの表紙に書かれたのは、『パンクラチオン』の七文字。

 

「パンク、ラチオン?」

 

「世界最古の総合格闘技と言われている物だ。あいにく俺は格闘技などやった事が無いが、打撃技、投げ技、掴み技、関節技、使える技術は全て使うと言う点では俺と共通している。故にこれを選んだ。そしてお前の目指すオールマイトに通じる物がある。」

 

「何で?」

 

「パンクラチオンとはギリシャ語で全ての力、つまり全力(オールマイト)を意味するからだ。」

 

理解が追いついた瞬間、出久の目は喜びの光で満ち始めた。

 

「ここに書かれている事を全てやって行けばいい。スタートラインなど直ぐに立てる。とりあえずは目を通しておけ。」

 

渡されたノートのページをめくって行くと、そこには全身のあらゆる筋肉の鍛え方、正しいパンチやキック各種の打ち方、防御の種類とその利点と難点、組み技の注意点、間合いのうんちく、複数人を相手取る時にすべき事、更には人体の数多くある急所の位置と最も効果的な攻め方までが子供の出久でも理解できるように分かり易く、尚且つ細かく記載されている。何より凄いのは、どれも全く金がかからない。かかったとしてもかなり安価だ。

 

「凄い!たった五分でこんなに・・・・!」

 

「明日から始める。俺も慣れない事をして少し疲れた。先に休ませてもらうぞ。」

 

出久の中に消えて行くグラファイトはそれきり眠るかのように黙り込んだ。

 

「ありがとう、グラファイト。本当にありがとう。」

 

聞こえるかどうかは分からないが、それでも出久は感謝の言葉を口にせずにはいられなかった。書き取られた事を可能な限り把握しておこうと読み込みを始めた。

 




短編だし、あと二、三話書いて終わりかなーこれは。

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