龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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祝・UA10万突破!OVERFLOW ヤベ~~~~イ!!

これからも拙作をよろしくお願いいたします!!

そして皆さんお待ちかね、屋内対人戦闘訓練です!!



File 20: Rock & Fire! 龍神の(けん)

午前中の一般教科を終え、ランチラッシュの安価で頂ける昼食の後、待ちに待ったヒーロー科の目玉と言えるヒーロー基礎学が始まる。

 

「わーたーしーがー・・・・普通にドアから来た!!」

 

そして担当するのはご存知、ナンバーワンヒーローのオールマイトである。そして今日はスーツではなくヒーローコスチュームで登場した。赤、青、黄色のトリコロールにあしらわれた白は正にヒーロー然としたオールマイトのオーラを引き立てていた。気のせいか、風が無いのにマントが軽くひらりとはためいている。

 

「すげぇや、本当に先生やってるんだ・・・!」

 

「画風違い過ぎて鳥肌が・・・・!」

 

「私の担当はヒーロー基礎学。ヒーローの素地を作る為に様々な訓練を行う科目だ。当然、単位は最も多い。そして今日の訓練は、これ!」

 

フレアマークがついたBATTLEと書かれたプラカードを突き出す。

 

「戦闘訓練!」

 

ヒーローと言えば、ヴィラン退治。いきなり『個性』を存分に振るう事が出来る環境に放り込まれると知り、興奮しない筈が無い。特に爆豪は喜色満面だ。

 

「そしてそれに伴ってこちら!」

 

壁の一角が突き出て出席番号を振ったケースを入れた棚を露にする。

 

「入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえたコスチューム!着替えたら順次グラウンドβに集まる様に!格好から入る事も大事だぜ、少年少女!自覚するんだ、今日から君達はヒーローだと!」

 

出久は自分のケースを手に取った。グラファイトと一か月近く合議に合議を重ねた結果完成させたコスチュームは正に芸術と呼べる程に材料から何からに細やかな注文をつけた。ブーツは踏み抜き防止の鉄板、フード付きの膝丈コートはケブラー、ポリカーボネイト、ノーメックスなどの特殊繊維、鱗を意識したセラミックプレートの装甲、柔軟性と通気性などの機能は勿論、デザインにも細かく気を配った。筋金入りのオールマイトオタクである以上、出久は彼をリスペクトしないデザインなど論外だった。しかしそれと同時にグラファイトに対する感謝の気持ちを込めなければならない。試行錯誤しながら二百を超えるスケッチを時には夜通し描き続け、完成に漕ぎ着けた。

 

基本カラーは出久が変身したアーマードグラファイトのダークグリーンで通し、胸とコートの背中にはオールマイトの銀時代コスチュームの胸にある幾何学的なシンボルをアレンジしてネオングリーンで描いた。以前コミックで見た物で、『希望』を意味するマークからヒントを得た出久が提案したのだ。

 

完成したスケッチが寝落ちした時に偶然見えたらしく、引子からは赤いバンテージとアフガンストールをめでたい色だからと言われて渡された。一人息子が夢に向かう事を母親である自分が諦めてしまった事が今でも情けない。この程度の事しか出来ないがこれからは手放しで応援し続けると涙ぐみながら宣言されてしまった。偶然かどうかは今でも分からないが、彼女が選んだ赤はグラファイトの基本形態の右腕と色合いがほぼ同一だった。都合がよく、ダークグリーンを引き立ててくれると同時に母の存在感をはっきりと感じられる。これを使わずして何を使う?

 

全身にはオールマイトの額から伸びるV字型の髪の毛をイメージしていくつかVをペイントし、更にマスクは変身したグラファイトの頭部をモデルに口元と頭全体を守る二つのパーツに分かれる脱着可能仕様にして貰った。

 

『やはりいいな。特にお前は美的センスもある。ヒーローだけで無くコスチュームデザイナーとして一旗上げるのも悪くないぞ。少なくともベストジーニストとかいうふざけた髪型の優男より遥かに上だ。』

 

苦笑しながら出久はコスチュームの袖に腕を通した。想像していたより心持ち重量があるが普段から重りやタイヤを体に括りつけて海浜公園を一日に数度往復出来る出久にとって然したる問題は無かった。

 

グラウンドに向かうと、既に大多数のクラスメイトがコスチュームを身に付けた状態で立っていた。皆思い思いのデザインで、仮面の奥から出久は顔を綻ばせた。

 

「あ、デク君!?」

 

「う、麗日さ・・・?!」

 

頭頂部から顔を覆うバイザーを見るに宇宙飛行士をモチーフとしたのか、麗日のコスチュームはピンク色のSFチックなデザインとなっていた。しかし布地がぴっちり体に張り付いているため、体の線がはっきりと出ている。初心な出久にはやはり刺激が強く、グラファイトが小さく苦しそうに呻いた。

 

「凄いディテールだね、かっこいいよ!地に足着いた感じ!私ちゃんと要望書けばよかったよ・・・・パツパツスーツんなった。恥ずかしい・・・・」

 

「うんうん、良いじゃないか!全員カッコいいぜ!さあ始めようか、有精卵ども!戦闘訓練の時間だ。」

 

「先生!」

 

近未来的な変形ロボットの様なコスチュームの飯田が挙手した。

 

「ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか?」

 

「いいや、今回はその二歩先に踏み込む。ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、合計で言えば、出現率は屋内の方が多い。監禁、軟禁、裏商売。真の賢しいヴィランは闇に潜む。君らにはこれからヴィラン組、ヒーロー組に分かれて二対二の戦闘訓練を行ってもらう。」

 

「基礎訓練も無しに・・・・?」

 

蛙吹が若干心配そうに呟く。

 

「その基礎を知る為の訓練なのだよ。ただし、今回はぶっ壊せばオーケーなロボが相手じゃないのがミソだ。」

 

「勝敗のシステムはどうなっているのでしょうか?」

 

「ぶっ飛ばしても良いんすか?」

 

「また相澤先生みたいな除籍とかは‥‥?」

 

「分かれ方とはどのように決めるのでしょうか?」

 

「このマントやばくない?」

 

「んん~~~・・・・・聖徳太子ぃ!」

 

さりげなく懐からカンペを取り出そうとしたが、すぐその手を引っ込めた。

 

『ふむ、新米教師とは言え流石に分かっているではないか。』

 

自称エンターテイナーがカンペを読みながら授業を進めていてはサマにならないどころの話ではない。しっかり予行演習はして来たのだろう。

 

「うぉっほん!状況設定はヴィランがアジトのどこかに核兵器を隠していてヒーローはそれを処理しようとしている。ヒーローは制限時間内にヴィランを捕まえるか、核兵器を回収するか、ヴィランはヒーローを捕まえるか時間一杯まで核兵器を守り切れば勝利となる。チームは、厳正なるくじで決める!」

 

「そんな適当な!」

 

「飯田君、他の事務所のプロヒーローと即興で連携を求められるから、そう言う先を見据えた計らいなんじゃないかな・・・・」

 

「なるほど確かに。失礼いたしました!」

 

「いいよ。それでは早速!」

 

A 緑谷出久・麗日お茶子

B 障子目蔵・轟焦凍

C 峰田実・八百万百

D 爆豪勝己・飯田天哉

E 芦戸三奈・青山優雅

F 口田甲司・砂藤力道

G 上鳴電気・耳郎響香

H 蛙吹梅雨・常闇踏影

I 尾白猿夫・葉隠透

J瀬呂範太・切島鋭児郎

 

「凄い!縁があるね、よろしくね!」

 

「こちらこそよろしく。」

 

距離を詰められて思わず一歩足を引きそうになったが腹式呼吸で平常心を保ちながら平静を装って返した。ヘルメットを着けているのが幸いして赤面しているのは見られていない。芦戸も露出こそ高くないが体のラインを強調する斑模様のレオタードをコスチュームにしていて、思わず目を背けた。これ以上グラファイトにストレスを与えたら後で小言を拝聴する羽目になる。

 

「では、記念すべき最初の対戦相手は、こいつらだ!」

 

Villain、Heroと書かれた黒と白の箱からそれぞれアルファベットが書かれたボールを引き抜き、掲げた。DとA。出久は思わず爆豪の方を見てしまう。自分に向けられた残忍な笑みはおよそ一介の高校生がしていい表情ではない。出久は思わず身を硬くした。

 

『フハハハハハハハ!心が躍るな!まさかあのバカを叩き潰すチャンスがこうも早く巡ってくるとは!狙ったか知らんが感謝するぞ!流石エンターテイナーを名乗るだけはある!偉いぞオールマイト、百万年無税だ!』

 

「出来る事ならバグヴァイザーZは使いたくない。出来るだけ僕自身の力で・・・・」

 

『分かっている。だがお前では対処しきれん攻撃を繰り出されたら、俺はその時は迷わず出るぞ。』

 

「分かった。」

 

爆豪の両腕にある手榴弾の形をしたあの籠手。あれには必ず何らかの仕掛けがある。あの好戦的な性格だ、攻撃力を大幅に上げるようなギミックを搭載しているのだろう。

 

『勝算はあるか?』

 

「飯田君はまだ考え中だけど、かっちゃ・・・・爆豪君なら大丈夫。僕を見下し続けている間は、絶対負ける。」

 

戦闘訓練をまだ行わない生徒たちはオールマイトと共にモニタールームに向かった。

 

「ヴィランチームは先に入ってセッティングを、ヒーローチームは五分後に潜入してスタートだ。飯田少年、爆豪少年、ヴィランの思考を良く学ぶように。これはほぼ実戦、怪我を恐れず思いっきりな。度が過ぎたら中断する。」

 

「はい!」

 

ヴィランチームは核兵器の張りぼてがあるビルの最上階に向かった。飯田は小さく息をつく。訓練とは言え、やはりヴィランの役をするのは心苦しいのだ。

 

「おい。デクは間違いなく『個性』があるんだな?」

 

「ああ。君も入試の結果は見ただろう?『無個性』で主席など、ありえない。しかし君は緑谷君にやけに突っかかるな。」

 

爆豪は既に怒りのダム決壊の半歩手前まで来ていた。最初に通知が届いて結果を見た時に、目を疑った。緑谷出久の名があったのだ。一位に。一位にだ。違う。あり得ない。こんな事あり得ない。デクだぞ。あのデクなんだぞ。泣き虫で弱虫で『無個性』の、路傍の石っころだ。それが何故自分より上にいる?何故その高みから自分を見下ろしている?

 

騙していたのか?

 

中学の時に一撃で膝をつかされたあの日は今でも覚えている。今でも信じられない。喧嘩の腕など四流も良い所の弱者が自分を下したのだ。あの電流のような光はハッタリではない。どんな物かは分からないが間違いなく『個性』でしか発動しない物だ。

 

糞ナードの分際で、自分を謀るなど万死に値する。

 

後五分。五分だけだ。

 

それから全力で死なない程度に叩き潰して格の違いを改めて思い知らせる。

 

 

「うーん・・・・やっぱり見取り図って覚えるの大変だね。でもオールマイトってテレビのイメージと変わらんね。相澤先生と違って罰とかないみたいだし、安心して―――ない!?」

 

ヘルメットを外して見取り図と睨めっこをする出久の表情は、爆豪とは別の意味で恐ろしく、圧があった。

 

「ああ、ごめん。ちょっとその・・・・・なんて言うか、対人戦闘って初めてだから身構えちゃって。こっちにとっては勝利条件がかなり不利だし。」

 

「確かにそやけど、まあでもなんとかなるよ。デク君強いし!」

 

「でも麗日さんだって凄いよ。『個性』も、そのポジティブシンキングも。」

 

「えへへ、そう?ありがとね。でも爆豪君が相手って、なんか男の因縁って感じだね。」

 

「そう、なのかな?うん。因縁、ではあるね、確かに。」

 

『それではAコンビvs Dコンビ、屋内対人戦闘訓練スタート!』

 

「先行するからついて来て。」

 

「うん。」

 

まず10%でフルカウルに入り、建物には窓から入る。上に続く階段は二つ。あの二人の『個性』は攻撃と移動に特化している。コスチュームに付属したアイテムでもない限り罠などの足止めするギミックは心配する必要は無い。とすれば恐らく分断して攻略の手を取るだろう。問題はどこで接敵するかだ。狭い廊下と曲がり角で死角はかなり多い為、不意打ちで出鼻を挫かれるのは避けなければならない。使える攻撃も制限される。更に、核兵器の場所はヒーロー側には知らされていない。『個性』の相性はともかく、初めから不利な状況だ。

 

ふいに出久は足を止め、手ぶりで麗日にもそうするように伝えて後ろに下がらせた。近い。足音とは違う断続的な鈍い音から分かる。爆豪だ。爆発で体を浮かせて飛んで来ている。その場で軽く跳ねながら脱力し、出力を上げて行く。曲がり角から五歩後ろに下がり、麗日には更に下がらせた。

 

大きくなる爆発音が廊下に反響する。来る。このスピードなら二十秒。

 

「ここだ。」

 

十数えた所で廊下の角から躍り出て25%まで解放する。

 

「死ねぇ!!」

 

大振りの右。相変わらずのテレフォンパンチは変わっていない。サイドステップで避け、拳を固める。

 

「デク君!」

 

「大丈夫、当たってないから!先に上に行って!」

 

「う、うん!」

 

麗日の足音が土煙の中で遠ざかるのを聞き、ステップをその場で踏み始める。

 

「こぉらデク、避けてんじゃねえよ。」

 

「かっちゃんが相手なら、必ず出てくると思ってたよ。僕を狙いに。」

 

 

 

 

「緑谷凄いじゃん!奇襲を読んで避けた!」

 

「男らしくねえ、奇襲なんて!」

 

「切島少年、奇襲もまた戦略だよ。正々堂々やるヴィランは、まあいなくはないが少ない。先手必勝に越した事は無いのさ。」

 

しかしオールマイトも内心少し驚いてはいた。あの優しそうな性格の持ち主からは想像もつかない程の闘志が全身の毛穴から噴き出している。画面越しにも伝わるほどに。しかし生徒の一人である以上、表情は崩さない。分け隔てなく厳しく点数をつける。

 

「また爆豪が行った!」

 

 

 

 

「中断されねえ程度にぶっ飛ばしたらぁ!」

 

相変わらずの右の大振り。籠手もある為、まともに食らえば鈍器で殴られるぐらいの衝撃は伝わるだろう。しかし、出久は再びスタンスを変えて前進した。目元から下をがっちりと拳でガードし、頭を左右に振りながらダッキングで爆豪の懐に飛び込んだのだ。

 

右の大振りは空を切り、脇と腹に鈍い痛みが走った。息を詰まらせるほどの衝撃は、鍛えられた爆豪の腹筋を貫くには十分過ぎた。

 

『ピーカブーで懐からリバーと直後にソーラープレキサスを狙った正拳突きか。中々えげつない。』

 

しかし出久の攻撃はまだ終わっていない。くの字に折れた所で後頭部を両手で掴んで顔面に膝蹴りを叩き込む。感触で分かる。鼻を間違いなく潰した。

 

「HANUMAN SMASH!!」

 

仰け反った所で両拳を顎に叩き込み、右腕を掴んで一本背負いを決める。

 

「喧嘩の時、僕は負けっぱなしだった。その右の大振り、何年見てきたと思ってる?それに君が爆破して捨てたノートには、君の事も全て書いてある!いつまでも、雑魚で出来損ないのデクだと思うなよ。今の僕は、頑張れって感じのデクだ。

立てよ、ヴィラン!その程度で意識を刈り取られる程ヤワじゃない筈だ!」

 

出久の言う通り、爆豪は朦朧としながらも意識はしっかりとあった。しかしまだ視界が歪んでいる。呼吸もしっかりとは出来ない。肝臓、鳩尾、鼻に顎。どれも急所だ。どれも全力で攻撃された。小学生の頃の出久とは似ても似つかない圧のある構えと立ち振る舞い。違う。違う違う違う。違う。お前が俺を見下ろすな。お前は石っころ。分を弁えて他の雑草と仲良く底辺の底の底で腐り果てる運命にある奴だ。お前ごときが、俺を見下ろすな。

 

鼻から滴る血を拭い、爆豪は立ち上がる。

 

「デクゥ・・・・そういうところが、相変わらずむかつくなあ!!」

 

『おい、爆豪君!状況を教えたまえ!どうなってる!?』

 

「黙って守備してろ!ムカついてんだよ、俺は今ぁ!」

 

『気分を聞いているんじゃない!おい!』

 

しかし爆豪は耳の通信機の電源を切ってしまった。爆破で瞬間的に加速し、その勢いに乗って回し蹴りが唸りを上げた。

 

「DRAGON SCREW SMASH!」

 

しかし腕で防御され、更に掴む。爆豪の体もそれに従って回転し、再び地面に叩きつけられる。

 

遅い。グラファイトとの組手を振り返るとその経験を活かせている事が良く分かる。爆豪の武器はメンタル、フィジカルのタフネス、そして『個性』を活かした攻撃力。ただそれだけだ。考えてはいるのだろうが、喧嘩の技術と呼ぶのも烏滸がましい程一本調子な戦い方と雑さが目立つ。再び彼が立ち上がった所で、出久がとった選択は逃走だった。

 

「待ちやがれこの糞カスがぁああああああああああ!!!」

 

そうだ、それでいい。怒れ、もっと怒れ。所詮は子供の喧嘩で培った技術だ。突き崩すのは容易い。心を搔き乱し、ミスを誘い、その隙を突く。

 

見取り図は大体覚えている。廊下や壁を蹴って一階を縦横無尽に駆け抜け、爆風で追い縋る爆豪を一気に突き放す。完全に見失った所で窓のヘリに足をかけて飛び上がり、二階へと踏み込む。

 

『デク君、飯田君いたよ。五階の真ん中辺に。』

 

「了解。気付かれないように回収して。こっちは出来るだけすぐに片付けるから。」

 

『分かった。』

 

断続的な爆発音が再び近づいてきた。『個性』でもないのによく鼻が利くものだ。よく見ると足を僅かに庇っている。逃げる直後のあの技のダメージだろう。鼻血も止まっているが、よく見ると肩で息をしている。鼻の中で血が固まって上手く呼吸が出来ていないのだ。

 

「見つけたぜ、この糞デクがよぉ・・・・・」

 

その刹那、爆豪の右腕の籠手が一瞬赤く光った。

 

「溜まった。」

 

「遠距離対策の汗を溜めて許容超過の爆破を可能とする大砲、でしょ?分かってるよ、見れば。飛び道具を持ってない僕とはこれだけ距離が離れている以上それで止めを刺す気でいる。」

 

「んだと、てめえ・・・・?」

 

「かっちゃ――爆豪君、僕は今でも分からないよ、何で僕を目の敵にするのかが。でも君の仕打ちで気付かされた事がある。昔の僕は確かに何もしていなかった。なりたい、なりたいとだけ思って何一つ目標に向けて努力しようとしなかった、ただの夢想家だった。でも、僕は努力でここまで来た。初めて君を殴り倒す事も出来た。努力と言う才能が、僕にはある。だからもう、君の事なんて怖くない!!」

 

「黙りやがれ糞デクがああああああああああああああああーーーーー!!!」

 

「爆豪少年、ストップだ!殺す気か!?」

 

怒りのあまりにオールマイトの制止すらも届かないまま籠手のピンに指をかけたが、引き抜く前に出久の手がピンに引っ掛けた指を抜かせた。しかし出久は畳みかけようとはせず、ただ拳をだらりと下げたままその場で跳ねる。時折前足を素早く入れ替え、全身の各部位をランダムに動かし始めた。そして最後に掛かって来いとばかりに手招きする。

 

 

 

 

「っか~~、緑谷の奴、すげえな!あのセンスの塊の爆豪相手に互角以上に渡り合ってノーダメージだぜ!しかも爆破して来るってのに踏み込めるなんてどんだけ度胸あんだあいつ?!汗が止まんねえわ。」

 

上鳴が大きく息を吐く。

 

「でも、今やってるあれ、何かしら?挑発だけじゃないみたいだけど。」

 

「アリ・シャッフルだ。」

 

蛙吹の疑問に尾白が答える。

 

「アリ・シャッフル?」

 

「うん。オリンピックとかスポーツ競技がまだあった頃に生きていたヘビー級ボクサーモハメド・アリに因んでついた動きだよ。蝶のように舞い、蜂のように刺すってフレーズも彼の動きと戦い方から来てる。挑発って言うのは正しいけど、足だけじゃなく体のパーツ一つ一つが連動しないばらばらの動きだ。何を出すか分からないからカウンターを取る待ちの手の中でも一番相手にとってやりづらい戦法だよ。」

 

「緑谷の奴はそれが出来てるってのか?すげえ・・・・」

 

砂藤が舌を巻く。オールマイトも感心せざるを得なかった。あれはアリ・シャッフル、いやさしずめデク・シャッフルと言った所か。さあ、爆豪はどう出る?

 

 

 

 

彼の答えは、真正面から突っ切ってぶちのめす、だった。しかし跳躍と爆破で距離を詰めて再び右を振り抜こうとした所で、出久は即座にステップで側面に回り込む。爆豪が左を出したのだ。右はフェイントだった。

 

「チィッ!」

 

大方その爆破で視界を潰すと同時に後ろに回り込んで追い打ちをかける算段だったのだろうが、目論見は呆気無く崩れ去った。

 

再びシャッフルで挑発を続ける。今度こそ爆豪は籠手の最大火力をぶっ放した。

 

その威力は天井も壁も床も抉り取り、向こう側の壁に大穴を開けた。出久を狙ったわけではなかったが、狭い廊下で殆ど逃げ場が無い状態でギリギリ壁を破壊してその部屋に飛び込んで回避に成功した。

 

その時点で出久はステップをやめ、腰を落とした。左腕で顔面をカバー、右は槍に見立てた手刀。グラディエータースタイルだ。もう時間はあまりかけてはいられない。ここで決める。出久は右手を腰まで引き付けた。

 

『爆豪少年、次それ撃ったら強制終了で君らの負けとする!屋内戦に於いて大規模な攻撃は牙城の損壊を招く。ヒーローとしてもヴィランとしても愚策だ、それは!大幅減点だからな。』

 

そうだ、怒れ。突っ込んで来い。こちらも時間が惜しい。ご自慢の大砲が撃てない以上、そっちは距離を詰めての殴り合いしか攻めの選択肢が無い。こちらも最大火力の攻撃で意識を奪う。

 

今度は左。右を意識して使わないようにしているが、無駄だった。既に攻撃のモーションは盗んでいる。爆破を掻い潜り、右足で踏み込む。

 

「MEGA SMAAAAAAAAAAASH!」

 

サウスポーの構えになった所で右拳をフックとアッパーの中間の軌道で振り抜いた。その名も、スマッシュ。

 

「ぁ・・・ぐ・・・・?!」

 

ノーガード状態。無条件で、当たる。

 

「龍神の拳を食らえ。DRAGONIC SMASH!」

 

小指の先ほどの距離から繰り出されるゼロ距離パンチは、爆豪の意識を完全に刈り取った。努力が才能を凌駕した瞬間だった。しかし勝利の余韻に浸るにはまだ早い。確保テープを気絶した彼に巻き付け、一気に窓から五階まで飛び上がる。窓のへりにつかまった状態で小声で無線で連絡を取った。

 

「麗日さん、待たせてごめん。どう?」

 

『ごめん、気付かれた。おまけに浮かせられるもんが無いからなんも出来ん!核兵器持ってあんなに走れるなんてずるい!』

 

向こうは回収させずに時間一杯粘る腹積もりか。

 

「じゃあ、一瞬だけ位置を見せるから、窓に向かって誘導して足止め出来る?」

 

『うん。』

 

指先で僅かに顔を出してみると、飯田が張りぼての核兵器を担いだまま逃げ回っていた。もう少し。もう少しだ。

 

「わ!ね、ねえ後ろ!後ろ見て後ろ!」

 

必死の演技で飯田の後ろを指さす。

 

「何をつまらん事を。窓以外何も無いだろう。そんな使い古された手に引っかかるものか!ハッハッハッハッハ!」

 

「はい、確保。」

 

「は・・・・?」

 

飯田は下を見た。足には確保証明のテープが巻きつけてある。

 

「だから言ったじゃん、後ろ見てって。」

 

「騙したなヒーロォーーーーーー!!!」

 

真面目な性格を逆手に取られた飯田は頭を抱えて悔しそうに叫んだ。

 

「回収!」

 

麗日も隙をついて核兵器にタッチした。

 

『屋内対人戦闘訓練、ヒーローチーム・・・・・WIIIIIIIIIIIIIIIIN!』

 

訓練終了のブザーが、やけに大きく聞こえた。他人との模擬戦など初めてだったのでようやく力を抜いた出久はその場に座り込み、ヘルメットを外した。

 

「っしゃああああああああ!勝ったぞどうだーーーー!」

 

 

 

気絶した爆豪は保健室に送られ、残り三人はモニタールームに集合した。

 

「では今回のMVPを当ててみよう!分かる人!」

 

「はい、オールマイト先生。」

 

真っ先に八百万が挙手した。

 

「飯田さんと、緑谷さんです。」

 

「うむ、正解だ。では何故?」

 

「飯田さんはこの状況設定に最も順応していたからです。相手の『個性』を理解し、核の争奪を想定していました。緑谷さんはやはり一番活躍したから、と言えば適切でしょうか。奇襲からチームメイトを遠ざけ、相手の相方の足止めをさせ、最終的にヴィランチームを確保したのは彼一人ですし。攻撃に関しては多少やり過ぎたという印象が否めませんが。爆豪さんは私怨丸出しの独断専行と屋内での大規模攻撃という暴挙を起こし、麗日さんは気の緩みで奇襲のチャンスを自ら潰してしまいました。」

 

思ったより言われたオールマイトは、たじろいだ。

 

「ま、まあ飯田少年もまじめな性格を逆手に取られたからもう少しおおらかになる必要があるが、うん、正解だよ!」

 

「常に下学上達、一意専心に励まねばトップヒーローになどなれませんので。」

 

『流石は推薦入学者の一人と言った所か、頭の出来が違うな。それと出久。俺の力を使わずに、よく奴を倒した。俺は嬉しいぞ。疑っていた訳ではないが、あの大砲を食らう瞬間変身しそうになっていたからな。』

 

実際その通りだった。グラファイトの力を使いたくない訳ではないが、あれは本当の本当に自分だけの力ではどうしようもない時に使うと自分で決めている。何よりこれはけじめなのだ。恐れてばかりの自分を超えて、頂上目掛けて疾走する為の第一歩だ。

 

「さて、それでは場所を変えて二回戦を始めよう。この講評を良く頭に入れて訓練に挑むように!」

 




出久のコスチュームデザインですが、胸のマークは『希望』を司るブルーランタンコアのシンボルです。ヘルメットは仮面ライダーTHE FIRST、THE NEXTのライダー達を意識しています。



緑谷出久のSMASH File


HANUMAN SMASH:早い話が顎を狙うダブルアッパー。ムエタイのハヌマーン・タワイ・ワンにちなむ。

DRAGON SCREW SMASH:プロレスのドラゴンスクリュー。ボディや頭を狙う蹴りの返し技。

MEGA SMASH:利き腕で放つスマッシュ。はじめの一歩で千堂武が使う。SMASH SMASHじゃ面白くないので単純にメガをつけてみた。

DRAGONIC SMASH:ブルース・リー(李小龍)のワン・インチ・パンチ。オーバーウォッチのあの台詞も入れたかったから追加。


次回、File 21: 放課後 Fun Times

SEE YOU NEXT GAME.........

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