龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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さあ、誰の楽しい時間でしょうか???

いやー、クローズマグマのかっこよさが異常だ。相変わらずの若本節も冴え渡っている。年齢を感じさせない凄まじいボイス。


File 21: 放課後Fun Times!

「すっげー!」

 

「いいなぁ~!」

 

「こりゃまた凄い『個性』だな!」

 

「ヒーロー向けの派手な『個性』ね、勝己君。」

 

『個性』が発現するのは四歳の時。幼稚園にいる最中だった。周りからは羨ましがられ、誉めそやされ続けた。今は線香花火程度の威力しか無いが、年月と共に成長する。

 

そうだ。俺が凄いんだ。皆俺より凄くない。そしてデクが。そう、『無個性』のデクが、一番凄くない。あの時は歯牙にもかけなかった。自分と同じ次元に立つ事すら出来ないから、どうなろうがどうでもよかった。

 

しかし、ある夏の日。昆虫採集に繰り出している最中に天然の橋となった倒れた巨木を渡る時足を滑らせて下の河原に落ちた時。あの瞬間、全てが変わってしまった。当然自分は大丈夫だった。水の流れも弱く、浅い。岩に叩きつけられたわけでもない。むしろじっとりとかいた汗を流せて気持ちよかった。

 

「大丈夫?立てる?頭打ってたら大変だよ。」

 

服が濡れるのも構わず、出久が手を差し伸べた。

 

まだ未成熟な子供だった故分からなかったが、今ならはっきり分かる。殺されても口に出す事は無いが、自分があの時感じたのは紛れも無い『敗北感』だった。その時からだろう、出久を『無個性』の木偶の坊、『デク』と蔑み始めたのは。

 

そしてその胸糞悪い気分を中学で同じ日に二度、立て続けに味わった。一度目は同じ土俵に立ったという、自分に対する恐怖を毛程も感じさせない、まるで別人のような挑戦的な物言いと戦士の風格。二度目は始めて出久に本気で殴られ、膝をつかされた時だ。

 

「一回は一回だよ、かっちゃん。君をかっちゃんと呼ぶのはおそらく今日で最後にする。これは僕自身へのケジメだ。僕はもう君が知っている弱虫で泣き虫のデクじゃない。緑谷出久だよ。」

 

自分を舐めるのも大概にしろ、と言う警告。あの拳は重く、痛かった。

 

三度目は、忘れもしない雄英の入試実技の成績。どんな『個性』を持っているのか結局分からずじまいだったが、出久が入試主席の座に手を届かせていた。それも、自分を遥かに上回るスコアで。

 

そして四度目、今日の屋内対人戦闘訓練。今までの負けを利子共々取り返して入念に心をへし折ってやろうと意気込み、全身全霊で挑んだ。しかし攻撃の予備動作、コスチュームのギミック、行動パターン全てを正確無比な予測で、それこそゲームのように呆気無く攻略された。そして精密機械が如き膝蹴りと投げ、そして五発のパンチでノックアウト。

 

「龍神の拳を食らえ。DRAGONIC SMASH!」

 

『個性』なしで効いた攻撃が、今度は全力で自分の腹に叩き込まれて意識を刈り取った。今まで味わった敗北とは違う。己の全てが通じなかった、『自分』が崩れ落ちて行くような、完膚なきまでの敗北。

 

負けた。

 

ベッドで意識を取り戻してから頭の中はそれだけで一杯だった。既に治療はリカバリーガールが施し、保健室には爆豪ただ一人しかいない。壁の時計を見ると、既に下校時間が迫っている。それだけの間気絶していたのだ。

 

今まで人生で何度も立て続けに同じ相手にここまで手酷い負けを味わった事が無かった分、ショックは大きかった。それも今まで見下してきた相手に負けたのだ。

 

「クソ…‥クソックソックソックソックソがぁーーーーーー!!!」

 

起き上がって痣が出来る程太腿に拳を振り下ろす。悔しかった。許せなかった。出久は勿論そうだが、冷静さなどかなぐり捨てた己の暴挙の数々が、闘争心に罅を入れられてしまった自分が、そしてなによりとどめの一撃を食らう直前に敵わないと思ってしまった自分が、只々憎い。

 

熱い涙が頬を伝う。乱暴に拭ってロッカーから運ばれて来た制服に着替えて荷物を纏めると、さっさと帰途に就いた。

 

この程度で腐ったりはしない。ここからだ。ここから天辺を目指す。もう二度と、負けない。

 

『勝った後の決め台詞の一つも言えばいい物を。』

 

廊下の窓から小さくなる爆豪の後姿を見つめる出久をグラファイトが惜しい事をしたと鼻を鳴らす。

 

「今はそっとしておくよ。勝った僕が何を言っても傷に塩を塗り込むだけになっちゃうし。」

 

まだ二日目だが、これからだ。出久の逆転はまだ始まったばかり。勝つ事が全てとは言えないが、勝ちもせずに生きようとする事こそそもそも論外なのだ。今までずっと負け続けて来た出久はこの大きな白星で『勝利への意欲』を学んだ。四歳から負け続けて来た人生をここからひっくり返していく。

 

『そうか。まあ、いい薬にはなっただろう。しばらくはあの負け犬も吠えずに大人しくしているだろう。お前の言う通り、奴がお前を侮り続ける限り、勝ちは動かない。まあ侮らずとも、あの雑な戦い方を治さなければ結果は見えているがな。これから入念に奴の鼻っ柱を折って行けばいい。奴の相手はオールマイトにでも任せておけ。仕事だしな。』

 

言うが早いか、正門間近でオールマイトが彼の両肩をがしっと掴んで引き留めた。まあ、あれなら一応大丈夫だろう。

 

「おーい緑谷~?」

 

「あ、ごめん!」

 

呼ばれて出久は教室へ取って返した。放課後に全員で訓練の反省会をやっていたのだ。

 

「初戦からすげえもん見せられちまったから気合入ったよなあ。流石入試主席!」

 

「おう!俺切島ってんだ、改めてよろしく!しっかしあの堂々とした戦いっぷり、胸熱だぜ!男らしかったぜ!何喋ってるかわかんなかったけど。」

 

砂藤と切島が賛辞の言葉を贈る。

 

「あ、う、うん、二人ともありがとう。」

 

しかし実際聞かれていなくて出久は心底ほっとしていた。「龍神の拳を食らえ」なんて台詞もどこから出て来たか正直謎だ。後でグラファイトに心当たりがあるか聞くと、とあるオンライン対戦ゲームのキャラであるサイボーグ忍者が必殺技を使う際に放つ台詞らしい。本来は拳ではなく剣らしいが。

 

「うんうん、緑谷やっぱりダンスの才能あるからだね、あの凄いフットワークは!今度教えて!」

 

芦戸・青山ペアも酸と言う触れればアウトな『個性』を活かしてヴィランチームを苦戦させ、勝利を収めた。青山のラメ入りマントが戦闘中に飛び散った酸でチーズのように穴だらけになってしょげていたのはまた別の話である。

 

「そういや緑谷ってさ、なんか格闘技やってんのか?超キレッキレだったぞ?」

 

『俺の事もぼかしぼかしで話しておけ。いずれ擬態した姿はオフの時にでも晒すつもりでいる。』

 

答えるのに迷いを感じたグラファイトはすかさずフォローを入れる。

 

「い、一応色々と本読んだり・・・・後、友達にそういうのに詳しい人がいるんだ。倉田保幸さんて言うんだけど。」

 

「え!?あの人がそうだったの?」

 

「三奈ちゃん知ってるの?」

 

蛙吹が尋ねる。

 

「一回しか会った事無いんだけどね。入試前の息抜きにゲーセン行ったら緑谷と一緒にいる所でちょこっと。確かに強そうだった。」

 

「へー、すげえな、そんなダチがいるなんて!俺らにもアドバイスとかしてくれるかな?格闘技のレクチャーとか!」

 

「聞いとくよ。面倒見は良いけど凄く厳しいから、そこだけしっかり覚えておいて。」

 

ここ数年訓練で本気で死ぬのではと思った回数は両手足では数えきれない。一度ノルマを定めたら筋肉痛だろうと酸欠だろうと容赦無く鞭を打ってゴールラインを超えさせるのだ。終わった頃には最早喋る事すら出来なくなる程の疲労に苛まれる。グラファイト本人も半殺し程度にするつもりで組手をしたと認めた。流石元敵キャラと言うべきか。

 

飯田、麗日、芦戸に加え、更に切島と共に帰途についた。皆帰り道はバラバラなのだが途中までは出久の意見を今後の参考にしてから帰宅したいらしい。

 

これが、夢にまで見た普通の学生生活。出久は唯々嬉しく、積極的に喋った。やっと友達と呼べる存在が周りに増えたのだ。『無個性』と言う異端(アノマリー)だった自分は、孤独だった。その大きな穴を埋めるかのように喋る。

 

「悔しい…‥なんも出来んかった・・・・ウチもデク君みたいに格闘技始めようかな?」

 

「習っておいて損は無いよ、『個性』に頼りきりじゃ流石に限界があるから。運動神経と体力強化は酔いを起こす三半規管の鍛錬にも繋がるし。」

 

「そうなの?!」

 

「い、一応ね・・・・」

 

「緑谷君、『個性』把握テストのアドバイス通り何歩か走ってからギアを上げようとしたんだが、戦闘中では存外難しかったよ。」

 

「まあ実戦でいきなりは無理だよ、流石に。それに閉所だったし。突然だけど飯田君、縄跳びってやってる?」

 

「縄跳び?いや、小学生の運動会以来やっていないが‥‥何故また?」

 

「縄が地面に当たるリズムは自分でコントロールしてるから一定してて無理に意識する必要は無いよ。だからリズム感を養うには丁度良いんだ。」

 

出久はそこから自分でスピードを上げ下げしてリズムを一本調子にならないように工夫しているが、脚が走りに特化した飯田にはまだあまり関係は無い。

 

「なるほど。ふむ、縄跳びか・・・・分かった、僕も自分で調べてみよう。ありがとう!」

 

「なあなあ緑谷、俺は?!」

 

「切島君の『硬化』は自分から全力で硬い物にぶつかったり圧力をかけた方がいいよ。僕もそれで骨を丈夫にして来たんだ。ブロックにも役に立つし。後はやっぱり機動力も考えなきゃだね。いくら体が楯になってくれても限界はあるし、世の中には絶対に食らっちゃいけないタイプの『個性』だって存在するから。」

 

「食らっちゃいけないタイプか・・・・例えば?」

 

「ん~、見た事は無いけど、あるとすれば触れた空間ごと物質を削り取る『個性』かな?後は芦戸さんみたいな酸や物理攻撃じゃないミッドナイト先生の眠り香、エンデヴァーのヘルフレイムとか。」

 

「あ~、確かになぁ・・・・・・そりゃいくら俺でも防げねえわ。しゃあねえから走り込みの量だけでも増やしとくかな。」

 

「うん、不規則なインターバルで走るペースを上げればスタミナもがっつり上がるよ。後はスポーツやボクシングのフットワークとかを参考にすればいいし。」

 

「おっしゃ!ありがとな、緑谷!俺こっちだから。」

 

「うん、また明日!」

 

「ねえねえ緑谷、あそこ丁度公園があるからさ、あのシャッフル見せてよ!参考にしたい!」

 

「ええ~~・・・・いや、でも・・・・」

 

「マジでお願い!一生のお願い!」

 

「高々ステップで一生のお願いを切るのはどうかと思うぞ、芦戸君・・・・・」

 

「でも見て損は無いんじゃないかな、飯田君。飯田君はスピード上がったら急カーブとか出来ないでしょ?だから減速せずに立ち回るならその分歩幅とか足回りのステップ調節が必要になると思うけど・・・・まあ、訓練で一方的に逃げ切られたウチが言えた義理じゃないか。」

 

『ほう、麗日め、中々いい着目点ではないか。案外格闘技向きかもしれんな。出久、俺もそれと無く出てくる。見せて少し囮になってくれ。』

 

公園のベンチに荷物を下ろして制服のブレザーを脱ぐと、グラファイトがさりげなく分離してベンチの茂みから四人の視界から外れた。

 

出久は構えを取ってそのままステップを踏み始める。まず軽く全身を連動させて動き、単純に動きを悟らせず、的を絞りにくくするステップ。そこから一気にペースを上げて行き、前足を交互に素早く入れ替えて体のパーツを独立させて動かし始めた。

 

「うっわすごーい!確かにこれは何が来るか分かんないわ。てかこんなのどうやって練習すんの?」

 

「フットワークはボクシングの動画をいくつも見て見様見真似でやってたんだけど、体の動きに関してはダンスのポッピングが参考になってるんだ。全身で連動した動きが出来るようになれば独立した動きも自然と出来るようになっちゃって。」

 

それを聞き、芦戸は合点がいったのかポンと手を叩いた。

 

「あ、そっか!確かに!格闘技もダンスも原理は一緒だからね。」

 

「ポッピングとは、どんな踊りなんだい緑谷君?生憎そう言った事には疎くていまいち分からないんだが。」

 

「それならお任せあれ~!」

 

待ってましたとばかりに芦戸がカバンの中から音楽プレイヤーを小型スピーカーに繋ぎ、適当な曲を選んで再生した。

 

自主練を積み始めたとはいえまだ初心者の出久は芦戸の鍛えられたしなやかな体から繰り出される動きはやはりいつ見ても芸術的だと感じた。動作から停止、そして再び動作に戻る時の無駄が無いのだ。体の使い方をよく心得ている。

 

「こんな感じ!」

 

「おお~~~、かっこいい!」

 

「なるほど、一零停止か。確かに参考にはなるかもしれない。ありがとう芦戸君!」

 

「中々元気そうだな。」

 

丁度良いタイミングでグラファイトが声をかけた。

 

「あ、ぐら・・・・倉田さん!」

 

「あー、ほんとだー久しぶりー!」

 

「この人が…?」

 

「倉田保幸だ。芦戸には一度会ったが・・・・そこの二人は、飯田と麗日で合っているか?出久から名前ぐらいは聞いている。中々良い友に巡り合えたな。」

 

「うん。ありがとう。」

 

「緑谷君とはどこで知り合ったんでしょうか?」

 

飯田からのいきなり答えにくい質問に出久は臍を噛んだが、グラファイトは涼しい顔で答えた。

 

「中学だったな。こいつに一度助けられた事があって、その感謝の印に色々教えている。」

 

上手い。ぼかせる所はぼかしつつも嘘は言っていない。

 

「最初こそこいつは貧弱なもやしだったが、中々ハングリーでな。来い、出久。今から軽く揉んでやろう。」

 

「え、ここで?」

 

「大丈夫だ、これはただのデモンストレーションだ。『個性』も使っていない以上法は順守している、文句は言われまい。」

 

「えー、見たい見たい!訓練の時先に上に行ったから全然見えなかったし!」

 

「うむ、俺も既に五階にいたから何も見ていないし、興味はあるな。勿論、緑谷君が良ければだが。」

 

「確かに!師弟対決って燃えるしね!」

 

仕方なしに出久はグラファイトと向かい合い、構えを取った。二人の距離は腕一本分も無い。互いに手を伸ばせば届く正に必殺の間合いだ。

 

しばしの静寂の後、訓練の時とは違い今回は出久が先に仕掛けた。踏み込みながら素早いジャブを打ち、合間にストレートを混ぜて早速流れを掴もうとする。

 

グラファイトは顔面目掛けて飛んでくるそれを難なくいなしていき、腕が伸び切った所でカウンターを合わせた。二人の腕で十字架が描かれる。しかし出久もまた即座に対応し、伸ばした左腕の肘を曲げた。それによって動きを制限されたグラファイトの右拳の軌道が変わり、クロスカウンターは不発に終わる。

 

出久はそこから更に深く踏み込み、右肘を前方に突き出した。肘の先が狙うのは、鳩尾。しかし当たる前にグラファイトの左手が間一髪その間に潜り込んだ。肘を払いのけると出久の後頭部を掴んで脇を締め、首相撲の態勢に入る。出久もすかさず同じ事をするが、グラファイトは即座に強引に両腕を大きく開いてクリンチを脱し、顔面から下が全てがら空きになる。開いた両腕で首筋に手刀、更に出久が訓練で使ったダブルアッパーが寸止めで入り、グラファイトは下がった。

 

「すご・・・・」

 

二人が組手をする間、言葉を発する事すら出来なかった中、麗日だけが小さくそう漏らした。

 

「出だしやクロスカウンター封じは良かった。しかし最後の首相撲に付き合ったのは愚策だったな。俺より体格も身長も圧倒的に負けているんだ、あれだけ近ければ投げ技や寝技に持ち込んだ方が勝負を有利に進められる。後ろ襟と袖を掴めば腰技、足を狙えばタックルでダウンを取れた筈だ、引き倒せば後は好きに料理できるだろう?」

 

「あーそうか!練習の癖でつい・・・・後、膝蹴りも警戒し過ぎてた!体小さいから当てにくいってのは分かってたのに!」

 

ガシガシと縮れ毛を掻きむしる。

 

「百聞は一見に如かず・・・・道理で爆豪君を倒せた訳だ。こんな凄い人から教わっていたとは!」

 

「うん、緑谷凄い!達人だよ、達人!」

 

「何を寝ぼけている、こいつは俺がレクチャーを始めてから四年間未だに俺から一本も取れていないんだぞ。達人と呼ぶには程遠い。俺の見立てでは精々弟子以上、達人未満。妙手の域にギリギリ指先が触れるかどうかと言ったところだ。まあ総合力を重視していると言うのも原因の一つだが、この程度で満足されては困る。どれ、今ので体も温まった。お前達も三人纏めて揉んでやろう。」

 

「いやグラファイト、それは流石に・・・・」

 

「雄英に入る為に努力してきたのだろう?多少は腕に覚えはある筈だ。それとも、貴様らは『個性』に頼らなければまともに戦う事も出来ないのか?俺はヒーローではないが。たかが人気取りの様な不純な動機でヒーローとなった志の低い有象無象に後れは取らん。多すぎるのも考え物だな。価値が薄まる。」

 

明らかな安い挑発だが、飯田や芦戸は極めて心外だと言わんばかりに表情を歪める。

 

「今のはちょ~っとカチンと来たかも。」

 

笑ってはいるものの、芦戸の声には若干の棘があり、目には闘志が漲っている。

 

「奇遇だな、芦戸君。俺もだよ。」

 

「私はやめとく・・・・」

 

「二人か。まあいい。来い。」

 

先制攻撃を仕掛けたのは飯田だった。エンジンの『個性』が無くともその脚力はアメフトのランニングバックを思わせる程に凄まじい。勢いの乗った蹴りを繰り出す。

 

「なるほど、飯田は足の速さと下半身の強さが自慢か。確かに安定感のある走りの姿勢だ。爪先の力も強いし、軸のブレもほぼ無い。さぞ打たれ強いんだろうな。」

 

しかし繰り出された前蹴りを簡単に横に払いのけた。

 

「だがモーションが大き過ぎる。もっと手技を使え、手技を。威力が高いが蹴りは突きより遅い。蹴りを活かす繋ぎの技が無ければ当たらんぞ。」

 

払いのけられた勢いで回転し、今度は後ろ回し蹴りを放つが、その下に潜り込んで軸足にタックルをかけられて体勢を崩した。そのまま固め技に繋げようとした所で背後から芦戸の足払いが迫る。

 

「狙いもタイミングも良い。」

 

しかしこれも片手で上に跳ね上げられ、大きく軌道がずれる。

 

「だが放物線を描く軌道の蹴りは直角の軌道から繰り出される力には弱い。」

 

「こんのぉ!」

 

上下左右から繰り出される蹴りをスウェーバックとフットワークで難なく交わしていく。そして顔面を狙った蹴りを避け、足首を掴んで宙吊りにすると脇腹にポンと拳で触れる。

 

「ブレイクダンスを取り入れたカポエラの足技は派手で牽制や威嚇を兼ね、全体重をかける為確かに強力だが、動作が大きい分隙も大きい。それに一度技に入ってしまえば止められないし軸が命綱な為平地でしか使えない。」

 

ゆっくり下ろしてやると二人を交互に見た。

 

「肉体の下地は概ね出来ている。動体視力もまあまあだ。だが、これではっきりした。生まれ持った『個性(ぶき)』に頼り過ぎている。身体機能の一部であると言う事と、それを自在に扱えていると言う事は天と地程の差だ。最終的に勝敗を分けるのは己の肉体。その程度では死ぬぞ?」

 

余裕の笑みを浮かべながら二人を見下ろす。

 

「やり過ぎだよ、いくらなんでも!」

 

見かねた出久が珍しく声を荒らげた。

 

「やり過ぎ?これでも十分手加減はした。それにヒーローの卵である以上、これからは命を狙われる可能性が増えてくる。俺からすれば素顔を晒している奴らの気が知れん。頭脳系のヴィランならばそこから独自のルートで家族構成を割り出すなどの方法ぐらい余裕で考えつく。お前達はルールに縛られない悪の怖さや理不尽さと言う物を、何一つ分かっていない。」

 

「たとえそうだとしても、それを勉強して行く為に雄英に入ったんじゃないか!」

 

「緑谷君、もういい。彼の、倉田さんの言っている事は正しい。それにここまで簡単にあしらわれては認めざるを得ない。それにあの時テレビで言ったそうじゃないか、ヒーローを成すは『個性』に非ずと。新聞で見たよ。」

 

「確かに、改めて考えると私も酸が無きゃ角が生えて全身ピンクってだけだしね・・・・悔しいけど。」

 

「理解が早くて何よりだ。では最後に、二人とも腕を出せ。」

 

「え?」

 

「何故?」

 

「なに、放課後でも出来る貴様ら専用のトレーニングメニューを作ろうと言っているのだ。悪い話ではないだろう?その為の生体データが必要と言うだけだ。痛みは一瞬、インフルエンザの予防接種と変わらん。」

 

半信半疑で袖を捲って腕を出すと、グラファイトはバグヴァイザーZの銃口を押し付け、二人の生体データを読み込んだ。

 

「メニューは後日渡す。短時間で出来るとは言え重度の筋肉痛程度は覚悟してもらうぞ。俺はひとまず帰る。さらばだ。」

 




ようやく新ガシャット登場の伏線を出せました。思ったより時間がかかってしまって申し訳ありません。そして相変わらず不愛想ながらも世話焼きママファイトwww

次回、File 22: 緊急事態! Enter Villains!

SEE YOU NEXT GAME.....
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