龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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やっと終わったぁぁぁぁぁぁ!!!!後は卒業式を待つのみぃぃぃぃぃぃぃ!


File 23: 出陣、Double Dragons!

霧の様に揺らめく体の男が目を細めた。

 

「13号にイレイザーヘッドですか。先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいる筈なのですが‥‥」

 

「やはりあの騒ぎはお前らの仕業だったか。」

 

イレイザーヘッドが肩を軽く回して指を曲げ伸ばしした。既に臨戦態勢に入っている。

 

「どこだよ、せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさ…・平和の象徴、オールマイトがいないなんて。子供を殺せば来るのかな?」

 

全身に手を付けたリーダーらしき男の言葉に、イレイザーヘッドの捕縛武器が翻る。

 

「ヴィランて、阿保だろこいつら。ヒーロー育成の為の学校だぞここ!」

 

「だからだよ。」

 

出久は恐怖で高鳴る胸を抑えつけた。

 

「だからこそ、崩しにかかろうとしている。」

 

「先生、侵入者用のセンサーは?」

 

「勿論ありますが‥‥」

 

「現れたのはここだけか、それとも学校全体か・・・・どちらにせよ、センサーが反応しなかったってのは向こうにはそれを阻害する能力の持ち主がいるって事だ。校舎から離れたこの空間にクラスが来たこの時間に奴らは来た。奴らは馬鹿じゃない。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ。」

 

表情に出していないだけなのか、轟は妙に冷静だった。しかし冷静なだけに自分達は本物のヴィランと接敵した事実は皆の心に遠慮無く圧し掛かった。

 

「13号、避難開始。学校に電話試せ。センサーの対策も頭にあるヴィランだ。電波系の奴が妨害している可能性がある。上鳴も『個性』で連絡とってみろ。」

 

「了解っす。」

 

「先生一人じゃ流石に無茶です!いくら見た相手の個性を消すと言っても先生のスタイルは『個性』を消した上で奇襲からの捕縛。短期決着型が消耗戦に真っ向から行くのは・・・合理的じゃない!」

 

オールマイトの様にパワーで力任せに薙ぎ払って意識を刈り取れないイレイザーヘッドの強みはその技の巧さにある。しかしいくらプロヒーローと言えど血肉の通う人間。スタミナも集中力も無限ではない。技のキレも時間と共に落ちて行く。

 

「確かにな。だが、一芸だけじゃヒーローは務まらない。」

 

「どうしても行くなら・・・・グラファイト!」

 

『良いのか?俺が姿を晒しても。』

 

「どうせその内話すつもりでいたんだし、今は四の五の言ってられない!早く!」

 

『了解した。』

 

出久の体が発光し、オレンジの粒子と共にグラファイトが生徒達の前に現れた。

 

「あ、貴方は・・・!?」

 

「倉田さん!?」

 

「どうしても行くなら、彼にも行かせてください。彼は自立した人格を持った僕の『個性』です。僕よりも強いし、先生の『個性』にも干渉されません。ヒーローは助け合い。合理的でしょ?」

 

グラファイトを一瞥し、一目見て彼は強者だという事を確信した

 

「・・・・・生意気な奴だ。いいだろう。今回だけだ。後できっちりと説明してもらうからな。」

 

「回復具合は八割、いや七割五分と言った所か。肩慣らしには丁度良い数だ。出久、こいつは預けておく。俺はガシャットだけでも変身出来るからな。」

 

バグヴァイザーZを後ろの出久にガシャットと共に投げ渡す。

 

「一つだけだがプロトタイプが出来上がっている。」

 

「分かった。気を付けて。」

 

「培養。」

 

『Dragoknight Hunter! Z! ド・ド・ドドド黒龍拳!DRA!DRA!DRAGOKNIGHT HUNTER! GRAPHITE!』

 

ゲームエフェクトのような金と黒の稲妻と共にダークグラファイトが首を鳴らしながら階段を下りて行く。

 

「13号、任せたぞ。後お前、遅れるなよ。」

 

「はっ、抜かせ。」

 

イレイザーヘッドが階段を一気に飛び降りるのを見てグラファイトも速度を上げて飛んだ。

 

「射撃部隊、行くぞ!」

 

「情報じゃオールマイトと13号だけじゃなかった?誰よ、あいつ?」

 

「知るかよ!けど、二人で正面から突っ込んでくるなんて大間抜けのする事だぜ!」

 

それぞれが『個性』を発動しようとしたが何も起きない。すかさずグラファイトがアメフトのタックルよろしく体当たりをかまして三人を纏めて後方へ吹き飛ばした。

 

「馬鹿野郎!もう一人の方は知らねえが、ゴーグルの奴は見ただけで『個性』を消すイレイザーヘッドだ!」

 

「消すぅ?なら俺らみたいな異形系の『個性』も消してくれるのかぁ?!」

 

「残念だが、変形と発動型オンリーだよ。」

 

サンゴの様な硬く鋭い物質に全身が覆われた四本腕のヴィランが拳を振りかざすが難なくいなされ、覆面越しに鼻をストレートで潰された。吹き飛んだ所で捕縛武器を飛ばして足先に絡み付け、回避しながらハンマーの様に振り回す。

 

「だが基本お前らみたいな奴らの強みは大概が近接戦闘で発揮される事が多い!」

 

振り回した先にいるのは未だ隙を窺っている数名のヴィラン。凄まじい勢いで着弾した人間ハンマーは合計五人の意識を刈り取った。

 

「そしてそれの対策は、織り込み済みだ。」

 

「力も気迫も技の巧さも、中々・・・・お前は強い。それに比べてこいつらは・・・・レベル2のブレイブ達にも及ばん。雑魚め、レベル上げからやり直してこい。」

 

全方位から射撃部隊の攻撃をノーガードで受け切ったグラファイトは鬱陶しそうに一人ずつ撃破していく。当然殺してはいないが、青痣程度では済ませてもいない。翼を広げるかのように両腕を掲げた。

 

「一人一人は面倒だ。貴様ら全員、纏めて掛かって来い。」

 

首謀者らしい体中に手を付けた男は奥で待機し、首を掻きむしりながら戦う二人をじっと見つめた。

 

「イレイザーヘッド、近接戦も強いな。ゴーグルで視線が隠れて誰の『個性』を消しているか分からないから集団が相手だと連携のラグを突いて統制を突き崩せる・・・・もう一人の方は純粋に強い。外皮が馬鹿みたいに硬いから中途半端な攻撃じゃ隙を晒すだけに終わる。嫌だな、プロヒーロー。」

 

やはりと言うべきか、有象無象では相手にならない。

 

その間に出入り口に向かって13号が生徒達を誘導していくが、いつの間にかヴィラン達を手引きした黒い霧の男が立ち塞がっていた。

 

「させませんよ。」

 

イレイザーヘッドの『個性』は瞬きと共にその効果が消える。その一瞬の隙を突いて向こう側に回り込まれたのだ。

 

「戻る必要は無いぞ、イレイザーヘッド。この戦いに集中しろ、向こうには俺の宿主がいる。お前が思っている程奴は未成熟ではない。」

 

回り込まれた事に気付いて出入り口に取って返そうとした所でグラファイトがそれを止める。

 

「一番の問題は、あの奥にいるデカブツだ。奴は‥‥奴だけは何か違う。」

 

 

 

 

「初めまして、生徒諸君。我々はヴィラン連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは、『平和の象徴』オールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして。本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるはず。何か変更があったのでしょうか、まあそれとは関係なく、私の役目は――」

 

しかし言い終わるより早く先手必勝とばかりに爆豪と切島がそれぞれの『個性』を発動した。爆発で土煙が大きく吹き上がる。

 

「その前に俺達にやられるとは考えなかったか?!」

 

しかし煙が晴れても霧のヴィランは相変わらず健在だった。

 

「危ない危ない。そう、生徒と言えども優秀な金の卵だ。私の役目は、貴方達を散らして嬲り殺す!」

 

「いけない!どきなさい、二人共!」

 

唯一辛うじて反応出来た出久はワン・フォー・オール フルカウルを発動して二人を13号の『個性』の射線から押し出した。飯田も何人かを牽引してドームの外に引っ張り出したが、ヴィランの方も『個性』の使用に長けている。他の皆が反応し切る前に出久を含む大多数の生徒達をドーム状に変形させた霧で包み、その中で空間に空いた穴に順次落として行ったのだ。

 

十数メートルの高さに出た出久は驚いたものの、すぐに呼吸を整えた。下が地面でなく水である以上、死ぬ事は無い。しかし念には念をという事もある。

 

「New Hampshire SMASH!」

 

連続で拳を突き出し、その風圧で水難ゾーンの中心にある船の上に着地した。甲板には既に蛙吹と峰田の二人がいる。後者は何故か腰を痛そうに擦っている。

 

「緑谷ちゃん、無事だったのね。良かったわ。」

 

「うん。蛙吹さんと峰田君も無事で良かったよ。」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。しかし大変なことになったわね。」

 

「さっきのヴィランが言ってた事・・・・彼らは明らかにカリキュラムを知っていた。」

 

あのマスコミの侵入騒ぎに乗じて情報を入手したと考えれば説明はつく。轟が言っていたみたいにこれは全部計算ずくでやっている事になる。

 

「でもよでもよ!オールマイトを殺すなんて出来っこねえさ。緑谷の『個性』のグラファイトと先生もいるんだぜ?そこにオールマイトが来てくれれば、こんな奴らけちょんけちょんだぜ!」

 

「峰田ちゃん、殺せる算段が整ってるからこんな無茶してるんじゃないの?そこまで出来る連中に私達嬲り殺すって言われたのよ。オールマイトが来るまで持ちこたえられるのかしら。持ち堪えられたとしても、無事で済むかしら?」

 

「みみみ緑谷!んだよあいつ~!」

 

「あす――梅雨ちゃんの言う事は尤もだよ。でも大丈夫。グラファイトは僕が知っている中でオールマイト並みに強いから時間は十分に稼げる。僕達が今すべき事は、USJの他のゾーンにここにいるヴィラン達が行かないように少しでも数を減らして行って、場合によっちゃ散らされた皆の援護に回る事だ。それで向こうの計画は多少なりとも狂う筈だから。」

 

向こうは数に物を言わせているが、グラファイトとイレイザーヘッドの戦い振りからして戦闘に関しては明らかに素人丸出しの集団戦で、『個性』を持て余しているようにしか見えなかった。

 

「作戦はあるの?」

 

「戦って勝つしか無い。それに、向こうは具体的な作戦を練る時間をくれるつもりはないみたいだし。」

 

峰田が周りを見ると、十人以上のヴィランが船を水中から取り囲んでいた。

 

「何が戦うだよ、馬鹿かよ!!オールマイトぶっ殺せるかもしれねえ奴らなんだろ!雄英のヒーローが来るまで大人しく待ってる方がいいに決まってらぁ!!」

 

「僕らには今先も無ければ後も無い。待った所でそれは変わらない。だから僕達が今すべき事は、ただ勝つ事。勝つ事だけを考えればいい。勝たなきゃダメなんだ。向こうも何時までも待ってはくれない。」

 

出久は懸命に頭を回転させた。相手は明らかに水中戦に特化したヴィランばかり。つまりこのUSJの施設内部の構造をしっかり把握しているという事になる。しかし水難ゾーンにいる自分達の中には水中戦が得意な蛙吹がいる。加えて、人数は明らかに向こうが上なのに一斉攻撃を仕掛けてくる様子が無い。

 

という事は、相手は自分達の『個性』は把握していないと考えるのが自然だ。

 

「二人の『個性』の事、詳しく教えて。」

 

「分かったわ。私は基本蛙っぽい事なら何でも出来るの。跳躍と壁に張り付くのと、舌を二十メートルぐらい伸ばせるわ。後、胃袋を外に出して洗ったり、毒性のちょっとピリッと来る粘液を分泌できるけど、これはあまり役には立たないわね。」

 

「いや、それだけでも十分凄いよ。蛙の水かきは泳ぐだけじゃなく踏み切りにもパワーを発揮するから蹴り技とかの強さは飯田君並かもしれない。僕はまあ色々複雑だけど、グラファイトの影響で増強系並のパワーが出せる。まだ100%じゃないけど。でも終わったらちゃんと説明するから。」

 

「おいらの『個性』は、超くっつく。」

 

峰田は頭のボールを外して船に投げつけると、そのまま張り付いた。

 

「体調によっちゃ一日中くっついたままになる。もぎった傍から生えて来るけど、もぎり過ぎると血が出る。おいらにはくっつかずにブニブニ撥ねる。」

 

ノーリアクションのまま無言で十秒以上二人に見つめられ、峰田は再び泣き叫び始めた。

 

「だから言ったじゃねえか大人しく助け待とうってよ!!おいらの『個性』はバリバリ戦闘に不向きだぁ~~~~~!」

 

「いやいや、十分戦闘に使えるよ!だから――」

 

突如、船が真っ二つに割れた。ようやく痺れを切らしたヴィラン達が動き出したのだ。沈没までもう一分もかからないだろう。

 

「待ってばっかじゃ退屈だ、さくっと終わらせよう。」

 

「緑谷ちゃん、作戦は?!」

 

「今出来た。一網打尽に出来る、取って置きの攻略法が!梅雨ちゃんは峰田君を連れて合図したらとにかく思い切り陸に向かって飛んで。」

 

「分かったわ。」

 

「峰田君は飛んでいる間、兎に角水に向かってモギモギを投げまくって。多ければ多いほどいい。」

 

「あーーーーもう!わーったよ!やりゃ良いんだろやりゃあよお!こうなったら自棄だクソッタレ―!!」

 

「峰田ちゃん、本当にヒーロー志望で雄英に来たの?」

 

「うっせーよ!ここに来て怖くない方がおかしいだろ!!この間まで中学生だったんだぞ!入学早々殺されそうになるなんて誰が思うかよ!あああああああ!!!こうなるんなら八百万のやおよろっぱいに触っときゃ良かった~~~~!!」

 

「大丈夫。僕らは殺されない。絶対に。」

 

峰田の恐怖は良く分かる。自分だって命を失うのは怖い。誰だってそうだ。その証拠に今だって体が震えて竦んでいる。だがその恐怖と言う限界を超えた先にこそ、見える物がある。真のヒーローとして掴み取れる、恐怖を乗り越える力が。

 

今まで負け続けて来た。グラファイトに出会うあの日まで、ずっと夢に縋り、それに甘えに甘え、負けに負けて来た。だがもう二度と負けたくない。誰にも負けたくない。自分のヒーローアカデミアではまだ何も始まっていない。それなのにたかが恐怖に負けている場合ではない。

 

出久はマイティディフェンダーZを起動し、バグヴァイザーZに装填した。

 

『Mighty Defender Z! ガシャット!』

 

「培養。」

 

『LEVEL UP! MIGHTY JUMP! MIGHTY BLOCK! MIGHTY DEFENDER! Z!』

 

出久は一呼吸の後に船から飛び降り、ガシャコンバックラーの中心にあるAとBボタンを同時に二度押した。

 

『キメワザ!』

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!」

 

『MIGHTY CRITICAL FINISH!』

 

光が収束する楯を振りかぶり、ワン・フォー・オールの腕力を使って力いっぱい水面に向かって投げつけた。天井に届かんばかりに水柱が吹き上がる。

 

「梅雨ちゃん!峰田君!」

 

「ケロッ!」

 

峰田を抱きかかえたまま船から飛んで出久を舌で捉え、蛙吹は陸を目指す。同時に峰田も頭から流れる血にも構わず泣きながら死に物狂いで頭のモギモギをちぎっては水に向かって投げつけた。

 

「おいらだって…・おいらだってーーー!!!」

 

水は強い衝撃を一転に与えればその衝撃は拡散し、再び中心に収束する。あれだけの力を水に叩き付けた水難ゾーンは一時的に人工の渦潮となり、ヴィランとモギモギ、そして壊れた船を全て飲み込んでいく。一網打尽で、クリアだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「残り十人か。イレイザー、貴様は少し休んで目薬でもさしていろ。」

 

「んな暇あるか。」

 

中心のヴィランはほぼ全て無力化されたが、その直後に後ろに控えていた手を全身に付けたヴィランが襲い掛かって来た。

 

「本命か。」

 

「23秒、20秒、17秒・・・・ここだ。」

 

両手を広げて突っ込んで来るヴィランを捕縛し、引き寄せながら鳩尾に肘を叩き込んだが、直後にその肘を掴まれる。

 

「動き回るから分かり辛かったけど、髪が下がる瞬間がある。ワンアクション終える毎に。そしてその感覚はどんどん短くなっている。無理をするなよ、イレイザーヘッド。やっぱり集団との長期戦向きじゃあないだろう、その『個性』は。」

 

右肘の皮膚が崩れ落ち、筋肉繊維が露になった。強引に振り払い、入れ替わりにグラファイトのリバーブローで吹き飛ばされる。

 

「だから言った筈だ、休めと。貴様の『個性』の種は割れ、利き腕も潰された。」

 

しかしイレイザーヘッドは無言で『個性』を発動し続け、黙々とヴィランを倒していく。片腕が使えないとは言え、そのハンデを感じさせない程の戦い振りだ。

 

「奇襲からの短期決戦が本来のスタイルなのに、こんな畑違いの正面戦闘を取ったのは、生徒達を安心させる為?かっこいいなぁ・・・・かっこいいなあ・・・・!!所でヒーロー。本命は俺じゃない。」

 

イレイザーヘッドは『個性』を消そうと振り向いて視線を向けるが直後に顔面を巨大な手に掴まれて地面にそのまま叩きつけられる。叩き付けられた所はクレーターが出来ていた。

 

「消せていない・・・・あれが素の力という事か。ドドド黒龍拳!」

 

突き出した拳が脳無の右上半身と腕をえぐり取り、すかさずイレイザーヘッドも後ろに下がったが、その瞬間には無傷の状態に戻っていた。

 

「紹介するよ、こいつが対『平和の象徴』用兵器、改人『脳無』だ。」

 

「気をつけろ、どうやら奴の持つ『個性』は一つだけではないらしい。お前は下がれ、捕縛して隙を作る必要も無い。技の巧さで凌ぎ切れる程生半可な膂力でない事は分かっただろう。出入り口の生徒の安否でも確かめて来い。」

 

「向こうには13号がいる、問題無い。どうするつもりだ?」

 

「俺の宿主、俺の相棒が来るまで凌ぎ切る。どこに飛ばされようが、奴は必ず攻略してここに来る。」

 

とはいえガシャットを作る為に全快とは言えない状態でどれだけ持ち堪えられるか分からない。ワン・フォー・オールも出久同様使えるのがせめてもの救いか。

 

突っ込んで来る脳無をグラファイトは迎え撃った。攻撃力も大幅に上がってはいるものの、効いている様子は無い。そして無気力な見た目に反して動きは単調でも鈍重でもない。振り下ろされる拳を横からの肘打ちでずらし、ボディーに連打を叩き込む。股座を掻い潜り、捻りを加えた掌底を繰り出した。

 

しかしいつの間にか裏拳が顔面に迫っていた。

 

「おお。」

 

こめかみをかすり、一筋血が流れ落ちた。パワーだけでなく切り返しも速い。受け止めなくて正解だった。

 

「死柄木弔・・・」

 

出入り口の方に回り込んだヴィランが再び戻って来た。

 

「黒霧、13号は殺ったのか?」

 

「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がいまして・・・・一人逃げられました。」

 

「は?はぁ~・・・・」

 

黒霧の報告に手を全身に付けた男―――死柄木弔の首を掻きむしるスピードはエスカレートして行く。

 

「黒霧・・・・お前・・・・お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ・・・・!流石に何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ。あーあ、今回はゲームオーバーだ。帰ろっか。」

 

帰る?今彼らは帰ると言ったのか?

 

水難ゾーンの水際で蛙吹、峰田と共に隠れている出久は理解出来なかった。今ここで帰ってしまえば本来のオールマイトを倒すと言う目的は果たせないどころか、より一層こちらに守りを固める時間を与えるだけだ。

 

一体奴は何がしたい?

 

「まあでも、帰る前に、『平和の象徴』としての矜持を少しでも潰しておきたいね!」

 

一瞬のうちに黒霧のワープゲートで出久達の前に移動した死柄木の手は、蛙吹の顔面に迫った。

 

「GLADIUS SMASH!!」

 

反射的に突き出した貫手は死柄木の手の甲を砕き、掌から骨が露出した。しかし出久の攻撃はまだ止まらない。水の中から出て痛みにのたうち回る死柄木に向かって楯を突き出したまま突進した。

 

「PHALANX SMASH!!」

 

楯を使った体当たりで、死柄木は黒霧の隣へと吹き飛ばされた。

 

「二人ともここから離れて!」

 

そう言い残し、出久はグラファイトが相対している脳無に向かって駆け出した。

 

「グラファイト、行くよ!」

 

「待ちくたびれたぞ、全く。新作を使え。」

 




緑谷出久のSMASH File

New Hampshire SMASH:手足を振るって生み出す風圧による空中移動を可能とする

GLADIUS SMASH:手刀、貫手による攻撃。古代ローマ兵が使った剣『グラディウス』から

PHALANX SMASH:ガシャコンバックラーを使った体当たり。スパルタ兵の陣形『ファランクス』から。

遂に次は新作ガシャット登場です!

次回、File 24: 再生と破壊のDead Heat!

SEE YOU NEXT GAME.....

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