長らく書きたかった二つ目の新作ガシャットでの戦闘です。
出久は走りながら黒いガシャットのスイッチを入れた。
『MACH CHASER BURST!』
そしてマイティ―ディフェンダーZが装填されているのとは反対側にそれを押し込み、A、B両方のボタンを指先で叩く。
『ガシャット!LEVEL UP! MIGHTY JUMP! MIGHTY BLOCK! MIGHTY DEFENDER! Z! A-Gacha! ずーっと追跡!撲滅!爆走!MACH CHASER! BURST!』
ダークグリーンのボディーは右腕がそのままで、それ以外の全身がメタリックパープルに変わり、元のドラゴンの様な生物的なデザインにエギゾーストパイプやタイヤ、カウルなどバイクのパーツらしき部分が追加されて行く。ごつかったフォルムもすらりとした物に変わり、首にマフラーが現れた。
「アーマードチェイサーグラファイト。レベルは、10ぐらい・・・・かな?いつっ!?」
更にグラファイトが粒子化して変身した出久に感染し、脳無と向かい合ったが、バチバチと一瞬全身が調子の悪いテレビからするノイズと共に歪み、オレンジ色の電流が走った。
『ふむ・・・やはり本来の作り方ではない上まだプロトタイプである故に多少は負担があるな。まあ慣れれば問題は無いか。細かい調整は戦いながら俺がする。お前は奴を倒す事に集中しろ。』
「オッケー。」
再びバグヴァイザーZに手を伸ばし、Aを一度押す。
『MACH!』
次にBボタンを連打。
『ずーっと!MACH!』
地が抉れる程の踏み込みで一瞬の内に脳無に肉薄した。死柄木もイレイザーヘッドも反応出来なかった。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!HIRAM SMASH!」
ボディーから顎にかけて細かく鋭い連打を叩き込み、右拳を限界まで引いて可動領域の限界まで捻る。そしてパンチに必要な関節を全て同時に捻り、肺の酸素を一気に吐き出しながら渾身のコークスクリューを繰り出した。
「PHILLIPS SMASH!」
脳無の腹が拳の後を深々と刻まれ大きく後退した。
『スピードはまだ死んでいない。畳みかけろ!』
再び接近しながら両手を突き出し、空気を弾く連続デコピンで再び脳無の動きを止める。
『決めろ。』
A、Bの同時押しを二度行う。
『キメワザ!MIGHTY CHASER CRITICAL FINISH!』
バグヴァイザーZの銃口から眩い青白い光の奔流が解き放たれ、脳無を飲み込む。
「って、ちょ、グラファイト!死ん―――」
『まだだ。見ろ。』
我に帰った出久は勢い余って殺してしまったのではないかと一瞬冷や汗をかいたが、脳無がいる方向を見て愕然とした。胸から下の右半身は跡形も無く吹き飛び、脚の肉もごっそりと抉り取られたその体は、十秒と経たずに復元した。
「そんな!?」
『打撃も効いている様子が無かった。どうやらこいつが一番面倒な奴らしい。』
「当たり前だろ?言ったじゃないか、こいつは対オールマイト用のヴィランだ。叩こうが潰そうが切り刻もうが、ショック吸収と超速再生があるからどれだけダメージを与えた所でぜーんぶパーだ。肉片をゆっくり抉り取るぐらいの事はしないと。面白い『個性』を使うみたいだけど、たかがオールマイトのフォロワー如きが倒せるような相手じゃない。」
死柄木は折れた手を押さえ、痛みに顔を引きつらせながらも笑う。
「先生!『個性』の抹消、お願いします!」
「もうやっている。」
ゴーグルの奥でイレイザーヘッドは目を細めた。教師と言う校内では生徒を守る立場にある者でありながら生徒を前線に出すのは不本意極まりないのだ。だが現状あの脳無と互角に渡り合えるのは出久と彼の『個性』を名乗るグラファイトなる人物しかいない。ならば、まだ動ける内は二人がヴィランを少しでも効率良く制圧出来るように立ち回る事が今の自分の合理的な役目だ。
『出久、もう一度だ。手を変える。』
グラファイトの指示が飛び、出久は再三バグヴァイザーを操作する。
『CHASER! ずーっと!CHASER!』
青白い光が紫色に変わり、再び突撃した。脳無もそれを迎え撃つ。
大柄な分小回りが利かないと言う考えは甘かったと出久は反省する。反応出来ない程ではないが、ハンドスピードだけでなく、足も十分に速い。つくづく戦闘の幅をグラファイトに広げて貰って良かったと思う。
『勝ち目は薄いが無くはないな。奴はショック吸収と言った。「無効化」ではなく、「吸収」と。』
「うん。だったら再生と吸収が間に合わないだけの攻撃を叩き込むまで!30%・・・!!」
変身中に底上げされる膂力と回復力に任せてワン・フォー・オールの出力を強引に上げ、普段は寸止めする急所を左右の連打に加えてロー、ミドルキックも織り交ぜて狙い、脳無と打ち合う。しかしそれでもパワーが足りない。グラファイトのアシストがあっても、マイティ―ディフェンダーとマッハチェイサーバーストの馬力を加えてもまだ届かず、打ち負けそうになっては瞬間的な後退を余儀なくする破目になる。
「MEGA SMASH!」
顎やこめかみを狙って脳震盪を狙う意味も無い。イレイザーヘッドの『個性』でショック吸収や自己再生を止める事が出来たとしても、必ず瞬きをしなければならない。それによって脳無が受けたダメージは全て帳消しになってしまう。そしてドライアイの症状が『個性』の酷使で悪化し、瞬きするまでのインターバルもどんどん短くなっていく。変身しているとは言え、出久の体力も無限ではない。
しかしそれでも、出久は攻撃の手を緩める事は無かった。出し惜しめる相手ではない。知力で勝てないなら体力、それも駄目なら気力で勝つ。
『ギュギュギュ・イーン!キメワザ!MIGHTY CHASER CRITICAL FINISH!』
紫の光を纏ったチェーンソーの刃は脳無をステーキの様にぶつ切りにしたがやはり再生してしまう。離れようとバックステップをした所で背中に何か冷たい物を感じた。
「え?」
後ろに飛んだ筈が、脳無の手が届くすぐ近くに立っていた。既に空を切る拳が迫ってきている。確かな手ごたえを感じさせる鈍い音と共に、出久は反対側の壁に吹き飛んだ。
「緑谷!」
「大、丈夫・・・・です!」
ガシャコンバックラーをすんでのところで展開し、クロスアームブロックを使ってなんとか凌いだのだ。
「ふむ、惜しい惜しい。」
『ワープゲートか、忌々しい。』
「そうか、それで後ろに飛んだ筈が・・・・」
『流石ヴィラン、やる事が汚い。出久、先程の操作をもう一度やってワン・フォー・オールの出力を更に上げたら即座に主導権を俺に寄越せ。』
「え?」
『手はある。最早博打以外の何物でもないが、ある。お互いに負担が更に大きくなる上に効くかどうかは当ててからしか分からんが、それでも俺を信じるか?』
出久は迷わず頷いた。グラファイトが何を計画しているのかは分からないが、今更グラファイトを疑う余地は無かった。
「うん。乗せられてあげる。」
『ならばひとっ走り付き合ってもらうぞ。狙うは
「死ぃぃぃぃぃいいいいいいいいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーー!!!!」
野蛮な叫び声と共に、爆豪が黒霧に空中からのタックルをかけて地面に倒した。
「動くな、靄モブ!てめえ霧に出来る部分が限られてるだろ?でなきゃあの時危ないなんて言わねえからな。それで実態を隠してやがる。少しでも妙な動きをしたと俺が判断したら、即刻爆破する!」
何度聞いてもヒーローのセリフとは思えない。しかしこれで余計な横槍を入れられる心配は無くなった。
「40%!!っぐぁ・・・・!」
変身状態でも出力30%のワン・フォー・オール フルカウルの負担は甚大だったが、全身の断続的な激痛が更に倍増した気がした。バグヴァイザーZに震える手を伸ばし、最後の操作を行う。
『DEADHEAT!』
連打。
『BURST!急に!DEADHEAT!』
蒸気と血の様な赤い閃光が出久を包み、赤い電流が迸る。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!」
最初にマイティディフェンダーZを起動した時に現れたブロックに銃撃を手当たり次第に浴びせて破壊し、中からいくつものエナジーアイテムが現れる。目当ての物を見つけて触れた。
『分身!』
七人に分身し、その全員がそれぞれ他のエナジーアイテムに手を伸ばす。
『ジャンプ強化!』
『マッスル化!』
『鋼鉄化!』
『伸縮化!』
『高速化!』
『回復!』
『挑発!』
脳無の目が、自分に注意を向けさせる挑発のエナジーアイテムを使った分身に向かって突進し、それを取り囲んだ残り六人が全方位から迎撃した。
『キメワザ!BURST! CRITICAL DEAD HEAT!』
「食らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーー!!!!」
地を抉る七つの軌跡はUSJ全体を揺らす程の強大な爆風を引き起こし、屋根となっているドームのガラス十数枚、そしてバラバラになった脳無を瓦礫共々天高く巻き上げた。
「やれ、イレイザーヘッド!!」
エナジーアイテムの使い方を見て一瞬で理解したのか、『回復』のエナジーアイテムに触れて最大出力で抹消の『個性』を発動して脳無の再生を阻害した。
「・・・・・チートが・・・・!!何なんだよあの子供はさあ!」
「ただの子供だと嘗めて掛かったのが、貴様の運の尽きだ。」
変身は解除された。体力はほぼゼロ。ダメージもほとんど脳無からではなくワン・フォー・オールの無茶な出力超過でガタが来ている。肩で息をしつつも、死柄木を指さす。
「脳無はイレイザーヘッドが押さえている。後は貴様らを攻略すれば、我々の勝ちだ。」
言い終えた瞬間、USJの扉が蹴り破られ、オールマイトが現れた。そして出久達がいるところに目をやるや否や一目散にそこへ急行する。
「緑谷少年、大丈夫か!?」
「問題無い。何にせよヴィラン、これで詰みだ。残りの雄英教師が来るのも最早時間の問題。脳無と言う切り札を失った貴様らに平和の象徴を屠る術は、無い。大人しく縛につけばよし。でなければ、オールマイト、イレイザーヘッド、そしてこの俺で貴様らを全力で制圧する。」
「ラスボスが目の前にいるってのに・・・・・・!!」
「落ち着いてください、死柄木弔。」
あの爆風の隙を突いて首筋を掻きむしり始めた死柄木の隣に戻った黒霧が諫めた。
「脳無を含む持ち駒もほぼ全滅してしまった今、これ以上は無意味です。イレイザーヘッドは脳無を無力化する為に動けません。あの少年もほぼ行動不能ですが、オールマイトが相手ではこちらも分が悪い。貴方も手負いですし。ここは――」
「ヴィラン連合が聞いて呆れるな。行かせると思っているのか、貴様。カチコミをかけておいそれと帰すお人好しがどの世界にいる。しっかりケジメはつけさせてもらうぞ。」
左手で右腕を支えながらバグヴァイザーZの銃口を二人に向けるが、すぐにだらりと下げた。全身が痛い。立っている事すら殆ど出来ない。
「何がケジメだ、ぼろぼろの癖に。ま、今の君ぐらいなら余裕で殺せるよ!」
黒霧に手を突っ込み、顔から僅か数センチしか離れていない距離にワープゲートと死柄木の無事な方の手が現れた。最早避けるどころか反応すら出来ない。
しかし一発の銃弾が死柄木の手を貫き、更に肩、太腿と続けざまに当てられる。咄嗟に黒霧がベールの様に覆いかぶさりながら楯となって更に迫り来る銃弾をいなし、二人は姿を消した。
ガシャットDATA
マッハチェイサー・バースト
標識に沿って素早くバイクを操作し、相手を捕まえるQTE付きの追跡系レーシングゲーム。マッハ、チェイサー、デッドヒートのマシンから選択可能。
緑谷出久のSMASH File
HIRAM SMASH:拳を使った高速ラッシュ。世界初のマシンガンを作ったアメリカ人ハイラム・マキシムから。
PHILLIPS SMASH:限界まで後ろに引いた拳とパンチに必要な関節を全て同時に捻りながら全体重を乗せて放つコークスクリューブロー。プラスのねじ回しの一種、『フィリップスヘッド』から。
次回、File 25: 襲撃のAftermath
SEE YOU NEXT GAME.......