龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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エボル ブラックホールのデザインの凶悪さよ・・・・でも超かっけぇ~

にしてもビルドのあだ名が面白すぎる。ひ(むろ)げ(んとく)とかじゃがいもとか。


File 25: 襲撃のAftermath

死柄木と黒霧が消えてから十数秒が経過した。未だに空気は戦闘中の様に緊迫しているが、それも変身を解除して出久が倒れる音で切れた。

 

「緑谷少年!」

 

急いで駆け寄るオールマイトだったが、即座に出て来たグラファイトに止められる。

 

「焦るな、息はあるから死んではいない。肉体を酷使したのとプロトガシャットを使った反動で昏倒しているだけだ。」

 

しかしそういうグラファイトの体も傷だらけで、全身にノイズが時々走る。片膝をついているが力が入らないのか立てた膝が笑っている。

 

「出久の体に及ぶダメージのフィードバックは出来るだけ俺が肩代わりしたが、やはり全快の状態でない以上、それにも限界があった。死にはしないがしばらくの間はまともに動けん。イレイザーヘッド、もういい。そいつを凝視し続ける必要は無い。」

 

バラバラになった脳無から未だに視線を外していない相澤の目はまるで何日も目を閉じなかったかのように血走っていた。意地でも瞬きするものかと大きく目を見開いていたが、ついに限界が来たのか瞬きしてしまい、大きく後ろに下がった。オールマイトは入れ違いに前に飛び出し、身構えた。

 

しかし再生した脳無は攻撃するどころか拳を握る事すらしない。虚空を見つめたまま、ただそこに立ち尽くしているだけだ。オールマイトが警戒して近づき、軽く指で小突いても反応を示さない。

 

「どういう事だ‥‥何故動かない?」

 

「この脳無は死柄木と呼ばれた男の命令が無ければ動かないのではないか?奴はこれを『改人』、つまりは改造人間と呼んでいた。それならば説明がつく。イレイザーヘッド、証拠品を入れる為の袋とハンカチかなにか汚れても困らない物は持っているか?」

 

目薬を差し終えた相澤はベルトのポーチからジップロックの袋とポケットティッシュを取り出した。グラファイトは死柄木達が立っていたところの血だまりをティッシュに染み込ませ、袋に入れた。

 

「これを警察の・・・・鑑識、だったか?そいつらに回せ。DNA鑑定をして血縁関係から当たりをつけて行けば奴の正体に近づく事は出来る筈だ。個性登録は検索するだけ無駄だ、既に抹消していると考えていい。後は任せた、俺は少し・・・・寝る。」

 

相澤に袋を受け取らせ、グラファイトも出久の隣に倒れ伏した。

 

「相澤君、そのDNA鑑定の証拠の受け渡しは任せた。この二人は私が。」

 

相澤は無言で頷き、オールマイトはマッスルフォームを維持したまま二人を救急車に乗せて先に雄英へと戻った。

 

 

 

「16、17、18、19・・・・うん、中の彼以外は全員無事だな。とりあえず彼らには今は教室に戻って貰おう。今すぐ事情聴取ってわけにはいかんだろうし。」

 

「中の彼以外はって、刑事さん・・・・相澤先生や13号先生は?緑谷ちゃんは?」

 

「相澤先生は無傷だよ、心配はいらない。『個性』を使い過ぎて目が痛い程度さ。13号も背中と上腕の裂傷が酷いけど命に別状は無い。しかし、緑谷君だったか?彼も生きているとは言え、偏に無事だとはお世辞にも言えないね。私は刑事だからあまり専門的な医学の知識は無いが素人目からしても、かなりボロボロだった。」

 

蛙吹の質問にベージュの帽子とコートに袖を通した私服警官は淡々と伝えた。

 

「ボロボロって・・・・!?」

 

峰田は口を押さえた。自分と蛙吹に水難ゾーンから離れるように伝えて飛び込んでいった戦いの一部始終を見ていた。認めるしかなかった。彼はカッコいい真のヒーローだと。オールマイトを殺す算段を整えて来たヴィランの親玉とその切り札を実質たった一人で退けたのだ。

 

彼が倒れた瞬間、自分も気を失いそうな程の恐怖に飲まれかけた。もし、彼が死んでしまったら。そんな最悪の状況を嫌でも想像してしまう。

 

「緑谷君は、助かるんですか?意識は戻るんでしょうか?!後遺症は!?」

 

応援を呼びに一人USJを脱し、戻って来た飯田が彼に詰め寄った。

 

「救急隊員の見立てでは全身の至る所に大小の不完全骨折、完全骨折を合わせて二十九か所、全身の至る所に炎症による腫れ、筋肉繊維の断裂、毛細血管の破裂が特に両手足と腰に著しく見られた。靱帯も軽くだが伸びている。後遺症に関しては柔軟性に富んだあの分厚い筋肉が鎧の役目を果たして首の皮一枚で繋がったから、心配しなくともヒーロー科の生徒としてしっかり復帰出来る。リカバリーガールの治療で事足りるからそう時間はかからない筈だ。」

 

「そう、ですか。」

 

「良かった・・・・」

 

緊張の糸が切れたのか、腰が抜けた麗日がその場に座り込んだ。

 

「緑谷には感謝しねえとな。ありゃあ俺達じゃあ相手にならなかった。」

 

切島が誰ともなしにぽそりとこぼした。

 

「ですわね。放課後にお見舞いに行きましょう。」

 

「だな。家庭科の授業で作ったケーキ、あまりもんだけど持ってくか。」

 

「あ、砂藤ずりぃぞ!」

 

「ほらほら、君達はひとまず教室に帰っていなさい。お見舞いなら後でいくらでも行けるから。」

 

生徒達がバスに乗り込んで雄英キャンパスに引き上げるのを確認すると、私服警官はUSJへ取って返した。

 

「三茶、私も保健室に用がある。ここは任せた。」

 

三茶と呼ばれた猫の頭の制服警官は敬礼をしてUSJへと戻って行った。

 

「校長先生、念の為に校内も隅まで見たいのですが。」

 

「ああ、勿論。一部じゃとやかく言われているが権限は君達警察の方が上さ。捜査は君達の分野、よろしく頼むよ。」

 

熊なのか犬なのか鼠なのか、ともかく服を着た無駄に立派な毛並みの喋る二足歩行の哺乳類生物が応対した。

 

口が利けない無反応で無抵抗な謎のヴィラン。そしてワープと言うただでさえ希少価値が高い『個性』がヴィラン側にいると言う事実。この先のそう遠くない未来で、ヒーロー達はかなりの苦戦を強いられるだろうと塚内は直感した。

 

 

 

 

出久の目は朦朧とした意識の中で開いた。体が怠い。怠くて重くて痛い。呼吸をするだけで脇腹がズキズキと痛む。それどころかベッドに接地している部分もまだ痛い。隣のベッドにはグラファイトが寝ていた。目はまだ覚ましていない。

 

「緑谷少年。良かった、気が付いたか。」

 

隣のスツールに痩せぎすのオールマイトが座っていた。奥の机ではリカバリーガールが書類か何かにペンを走らせている。

 

「オール、マイト・・・・」

 

「申し訳無い、本当に。私が、活動限界ギリギリまで人助けをしていたばっかりに。」

 

出久は痛みに顔を顰めながらも小さく首を横に振った。

 

「人を助けてたのに、謝る必要なんて無いですよ。グラファイトが言った様に、オールマイトは神様じゃない。ヒーローと言えども人間だから、ミスをして当然。だから良いんです。その分僕達が戦いますから。ヴィラン連合とも、いざとなればオール・フォー・ワンとも。」

 

「そうならない様にするのが私の務めだ。私の活動時間を削らずに済ませた君の命を賭した努力は無駄にはしない。奴との決着は、時が来たら必ず私がつける。私が、必ずだ。」

 

たとえ己の命に代えても、と心の中で付け加えた。あの悪の根源とも言える男と対峙するには彼はまだ足りない物が多過ぎる。飲まれてしまう。途方も無い絶望の濁流に。壊れてしまう。奴の、あの力の出鱈目さを受け止めきれずに。

 

「良かった、良かった。全く無茶をしたもんだね、そっちのあんちゃんも。アタシの『個性』が作用してラッキーだったよ。」

 

「失礼します。」

 

保健室のドア越しにあの私服警官の声がした。

 

「オールマイト、久しぶり。」

 

「おお、塚内君!君も来ていたのか。」

 

「オールマイト、良いんですか?その、姿を晒して。」

 

「ああ、大丈夫さ。彼は最も仲良しの警官、塚内直正君だからさ。」

 

「ハハッ、なんだその紹介は?早速だがオールマイト、ヴィランについて詳しく――」

 

「待った!ちょっと待ってくれ。それより、生徒達は無事なのか?相澤君は無傷なのを確認したが、13号は?」

 

「生徒はそこの彼以外は打ち身、擦り傷程度の軽傷数名だ。教師も命に別状なしだよ。」

 

「そうか。」

 

ようやくそれを聞けて安心したオールマイトの肩の力はようやく抜けた。

 

「彼らが身を呈して戦わなければどうなっていた事か分からないよ。」

 

「いや、それは違うよ、塚内君。生徒達もまた身を呈した。こんなにも早く実戦を経験し、大人の世界を、恐怖を知った一年生が今まであっただろうか?ヴィランも馬鹿な事をしたよ。このクラスは強い。皆例外なく良いヒーローになれる、私はそう確信しているよ。ヴィランの話だったね、塚内君、ここじゃなんだから屋上で話そう。緑谷少年、また後で。今はゆっくり休むと良い。グラファイト君にも私から礼を言っておいてくれ。」

 

「はい。」

 

二人が去り、保健室は出久、グラファイト、そしてリカバリーガールの三人だけとなった。

 

「ぼうや、このあんちゃんがあんたの『個性』って話、嘘だろ?」

 

「え?」

 

「この歳になれば子供の嘘ぐらい分かるもんだよ。心配しなくても言いふらしたりしないさ、患者のプライバシーはドクターとして死守するのがポリシーだからね。そうなんだろ?」

 

「はい・・・・オールマイトの秘密を知っているなら、リカバリーガールも僕の秘密も知っておくべきだと思います。」

 

そして出久は掻い摘んで話した。グラファイトの正体、オールマイトとの治療の約束、そして自分が九代目であるという事を全て、包み隠さずに明かした。

 

「なるほどねえ。ホント、人生って奴は何があるか分からないもんだ。ま、どういった経緯で一緒にいるかは聞かないけど、このあんちゃんがダメージの半分以上は肩代わりしてくれたからあんたはなんとかなったんだよ、感謝しときな。後、受け継いだ『それ』の無理な出力アップは今日みたいな生きるか死ぬかの時以外は絶対禁止だよ。短期間で同じ個所に怪我が続けば後遺症が残るのも時間の問題さね。」

 

「はい、以後気を付けます。あの、ところでガシャコンバグヴァイザーZは・・・・?」

 

「ん?ああ、あのゲーム機みたいな妙な装置かい。あれならそこの引き出しにゲームソフトと一緒に入れてある。そこに入れただけで別に何もいじっちゃいないから、安心しな。それと、まだ起き上がるんじゃないよ、治りかけとは言えアタシの見立てじゃ重症患者には変わりないんだから。」

 

「ありがとうございます。」

 

言われなくとも分かる。ワン・フォー・オールの出力40%、加えてグラファイトの黒龍モード、マイティディフェンダーZ、そして新作のシグナルチェイサーバーストで紙一重の勝ちを捥ぎ取った。グラファイトなら実力だと言うだろうが、あれは純然たるまぐれ勝ちだ。初めて使って分かった事だが、デッドヒートの負担は尋常じゃなかった。エナジーアイテムも併用したあの大技の後では三分、いや一分も保たなかっただろう。早くワン・フォー・オールを更に使いこなせるようにならなければ。

 

出久の頭の中では早くも新しいトレーニングメニューの内容が凄まじいスピードで組み立てられて行く。水中でのシャドーボクシングやジャンピングスクワット、乗用車ではなくトラックのタイヤを腰に括りつけてのランニング、攻撃手段のレパートリーに追加すべき頭突き、スマッシュのレパートリー、新たな戦闘スタイルの考案、エトセトラ――

 

がらりと保健室の扉が開き、1-Aの生徒が飯田を筆頭に整然と並んで入って来た。流石は委員長と言った所だろうか。

 

「こらこらこら、多いよ!全員は入りきらないんだからせめて半分ずつにしとくれ!」

 

飯田は素早く今保健室にいる人数を数え、副委員長の八百万に交代で入る様に伝えると扉を閉めた。

 

「デク君、大丈夫なん?刑事さんが救急隊員から聞いた状況、酷かったんやけど・・・・」

 

「まあ、なんとかね・・・・呼吸するだけでも腹筋が痛いんだけど、治療前より断然ましだよ。と言ってもまだ起き上がる事も出来ないんだけど。」

 

困り顔で笑う出久を飯田が深刻な顔で窘めた。

 

「笑ってる場合か!君はあの場で下手をすれば死ぬところだったんだぞ!なのにあんな無茶を・・・・屋内対人戦闘訓練で見せたクレバーさはどうしたんだ!?」

 

「それだけ向こうの膂力が僕の何倍も上だったんだよ、下手な作戦程度捻じ伏せられるのが目に見えたから・・・・それに、飯田君が責任を感じる事は無いよ。僕が限界突破して動けない時にジャストミートで来たんだから。いい走りだったよ、委員長。」

 

掛け布団の中から手を出して親指を一瞬立てて脱力した。

 

「緑谷君・・・・ありがとう・・・・!」

 

真面目一徹の彼の事だ、自分が応援を引き連れて駆けつける前に重傷者が出てしまった事に負い目を感じているのだろう。だがこの程度でへこたれて貰っては困る。皆を導く指針となる人物が、折れてしまってはならないのだ。その原因とならないよう自分もまた精進する事を出久は己に固く誓った。

 

「緑谷ちゃん、隣に寝てるグラファイトって言ったかしら?その人の事、説明してもらえると嬉しいんだけど。緑谷ちゃんのコスチュームと同じ姿に変身してたし。」

 

「その事については、俺も疑問に思っていた。無理にとは言わねえが――」

 

「ほらほら、後がつかえてるんだから、用が済んだらさっさと出な!まだ動ける状態になるまでは時間がかかるんだから帰った帰った!」

 

蛙吹と轟の質問を遮り、皆を追い出した。次に入って来た残りのクラスメイトもリカバリーガールの眼力に押され、お礼と簡単な挨拶ですぐに退散した。

 

「帰ったか、奴らは。」

 

「グラファイト!?」

 

「出久、バグヴァイザーZをよこせ。」

 

「え?」

 

「早くしろ。俺の回復が早まればお前に戻って治癒のスピードも上げられる。」

 

「う、うん。」

 

指先で引き出しを開けてバグヴァイザーZを取り出すと、グラファイトのベッドの上に放り投げた。それを掴んだグラファイトは銃口を自分に押し当て、ボタンを押した。傷の大半が癒え始め、起き上がれるまでに回復する。

 

「少しだけだが、俺自身の培養した細胞のストックをいざと言う時の為に保存しておいた。また一から培養し直さなければならないが、これでまともに動ける。お前はもう少し寝ていろ。俺もそうする。」

 

「分かった、そうする。それとグラファイト。」

 

「何だ?」

 

「欲張れるなら、僕はどっちも欲しい。グラファイトは借り受けるなんて言ったけど、オールマイトにとっては一世一代の決断だった筈だよ、受け継いだものとはいえ『個性』を自ら手放すなんて・・・・だからヒーローになれるって僕を信じてくれたオールマイトに報いたいんだ。」

 

「そうか。安心したぞ。お前にも人並みの欲はあったと確認出来たからな。」

 




体育祭辺りでまた新作ガシャット二本立てのフラグぐらいは出しちゃいます!

次回、File 26: 次なるMission!

SEE YOU NEXT GAME........

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