龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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夜中!連投! SUPER BEST MATCH!

UNCONTROL TYPING! 今まで書いてきて久しぶりの8000字突破!やべ~い!


File 26: 次なるMission!

「まだ体が痛い・・・・・」

 

朝の柔軟体操をしながら出久は歯を食い縛る。全身の節々が軋んでいるのだ。グラファイトも片膝を立てた状態で前屈をし、呼吸に全意識を集中させて未だに残る痛みを無視していた。

 

「同感だ。しかし、回復のエナジーアイテムを使っても意味が無いとは俺も少しばかり驚いている。出血を止める事は出来ても失った血は自力で蓄え直すしかない原理だとはな。まあ今はとりあえずタンパク質とカルシウム摂取が第一だな。」

 

「相澤先生からのメッセージによると今日は座学だけでゆっくり出来るから問題無いよ。でも凄いね、ヨガって。瞑想だけでも結構頭もすっきりするし。」

 

「達人ともなれば、意識して心拍数や血圧を下げる事も可能だぞ?」

 

「何それ怖い!仮死状態じゃないか!」

 

「何を恐れている、海で肺活量を鍛える為に潜水時間を更新していただろう?あの時お前がやっていた精神統一では無意識にやっていたぞ。まさか十分以上も続けられるとは俺も思わなかったが。」

 

「・・・・・そう言えばそうでした。」

 

「にしても、もうすぐだな。雄英恒例の体育祭。」

 

各国市民の帰化の強要、異形型『個性』の持ち主の確保など理由は様々だが、『個性』の出現で常人の定義が崩れてからオリンピックなどの誰もがテレビに嚙り付いて注目する国際的スポーツイベントが廃れて行くのにそう時間はかからなかった。

 

ヒーローとしてのライセンスを持たない一般市民のみだりな『個性』の使用が厳しく取り締まられている昨今、人は『個性』を存分に振るう者達の姿に飢えている。フォローしているヒーローのヴィラン退治に遭遇する事などそうそう無い。動画も見続ければ飽きが来る。テレビ番組はあくまでフィクションだ。それに成り代わる行事こそ雄英が一年に一度催す体育祭なのだ。

 

「ん~、体育祭かぁ。」

 

「どうした?最近負けず嫌いを発揮しているお前ならそれなりの意気込みを見せるものとばかり思っていたのだが。」

 

「いや、なんて言うか・・・・。」

 

「何だ?」

 

「昨日から寝るまで考えてたんだ、自分がなりたいヒーローってどんなんだろうなって。それが最近分からなくなってて・・・・」

 

「オールマイトが血肉の通う人間だと知ってからか。すまなかったな、お前の幻想を壊して。」

 

グラファイトの謝罪に、出久は頭を振る。

 

「それについては別に怒ってないよ。オールマイト自身それを認めてたし。それに、体育祭がどうこう言う前に、USJ襲撃についてどうしても引っかかる所がある。あの死柄木ってヴィランが全てを計画したリーダーとは思えないんだ。」

 

短絡的な思考、手ゴマの『個性』を自ら明かすという暴挙、犯行をゲームの様に例え、容易く気分を害される幼稚さ、そして打倒オールマイトという大言壮語を吐いておきながら生徒の『個性』を把握しない穴だらけの計画。知能犯の計画にしてはお粗末過ぎるが、やろうと言ってそれを実行するだけの胆力だけがどうもちぐはぐで違和感だらけだ。

 

「考えられる可能性としては一つしか無いよ。」

 

「オール・フォー・ワン、か。奴が扇動していると考えるのが自然だな。奴の一番の目の上の瘤はオールマイト、幼稚な万能感が抜けきっていないあの子供大人の稚拙な浅知恵で練った計画の最終的な目標とも合致する。で、どうするつもりだ?オールマイトに進言でもするか?」

 

「警告だけでもしておくに越した事は無いね。僕らも戦力の幅を広げて行かないと。その為に1-Aの皆を、今よりずっと強くしていかなきゃならない。」

 

「ガシャットの数も増やしていかなければな。それで思い出したが、新作ガシャットのデータ元となった飯田と芦戸のメニューが出来上がった。見てみろ。」

 

「うん・・・・・」

 

差し出されたノート二冊をぱらぱらとめくる。週六日分の朝晩のトレーニングメニューだけでなく、克服すべき弱点、『個性』伸ばしのポイント、食事、睡眠の姿勢、適正なシャワーの温度、それらが及ぼす効果など、かなり細かい。明らかに自分のトレーニングメニューを意識して構築された物と出久は一目見て分かった。

 

「これ・・・・・流石に初っ端から無茶過ぎるんじゃない?」

 

「無茶と無理は違う。ちなみに、他の奴らの分も作成中だ。」

 

こんもりと積まれた十九冊のノートは出久の物を除いて出席番号順に1-Aのクラスメイトの名前が書かれていた。

 

「これいつの間に・・・・・!?」

 

「古くなったノートを格安で譲ってもらった。金も当然俺が出した。」

 

「ちなみにそのお金はどこから‥‥?」

 

出久は恐る恐る尋ねてみる。

 

「不法投棄されている廃材などを然るべき企業に買い取って支払われた報酬だ。あれだけの部品、空き缶だけなら一トン分は買い取って貰ったな。『個性』でなく素の力だと説明するのに多少は苦労したが、これでも食い扶持はしっかりある。」

 

出久のベッドの下から分厚い茶封筒を取り出して見せた。分厚さを見た瞬間、出久の心臓は確実に一瞬止まった。

 

「それ、いくら入って・・・・・?」

 

「最近は数えていないからはっきりと額は覚えていないが、最近八桁になった筈だ。」

 

「うぉぉ・・・・・・」

 

八桁。つまりは千万単位。知らない間にそんな奉仕活動をしていたのか。いや、バグスターである以上電子機器の事にも詳しい筈だ、不可能ではない。封筒越しとはいえそれだけの額の現金を見るのは初めてだった出久は、思わず卒倒しかけた。

 

「後はこれを元手に為替なりFXなりで増やせるが、生憎お前はまだ未成年だ。お前の名義でネット口座を作るのにも捺印やらマイナンバーやらの面倒な手続きがある。」

 

「ま、まあその事はおいおいね。今は取り合えず学校行こう。相澤先生に説明の為に早めに来いって言われてるし。グラファイトも実体化した状態で良いから。」

 

「了解した。ああ、それと出る前に渡しておく。」

 

封筒から新札で二万円を渡された。

 

「ちょ、グラファイト!いいよ別に!第一そんなに使わないし。」

 

「なに、金銭の額や物量に圧倒されない様にする訓練と思えばいい。国がこの紙切れに価値があると言うから価値があるのであって、金の延べ棒を渡しているわけではない。燃えるごみと変わらん。」

 

まるで母親の様な尤もらしい言葉に、出久は一万円札を一枚だけ受け取り、緊急時以外は使わない様にと財布の二つある札入れ用ポケットの空の方に入れた。

 

 

 

 

 

事件が起きた翌日は臨時休校となっていたが、出久はホームルームが始まる約三十分前に校門前に到着すると、既に相澤がそこに立っていた。

 

「ついてこい。セキュリティーシステムは解除してある。」

 

それだけ言うと、教室に着くまで相澤は終始無言だった。教壇を挟んだ所で彼が口火を切った。

 

「まあ言いたい事は色々あるが、まず単刀直入に聞く。お前、グラファイトと言ったな。間違いなく緑谷の『個性』なんだな?」

 

「ああ。『個性』は平均的に四歳の時に開花するらしいが、俺の場合は人格と意思の形成にかなりの時間がかかったらしく、それより更に十年の時を費やした。カテゴライズするならば、常時発動型と変形型の複合した『個性』と言ったところだな。」

 

「『個性』把握テストや入試の実技、戦闘訓練で分離しなかったのは何故だ?」

 

「僕がしない様に言ったんです。先生はご存じないかもしれませんが、僕は十四歳になってようやく彼と出会いました。意思と人格を持った『個性』を使っているなら、自分は何もしていないじゃないかって言われるのが嫌で・・・・」

 

「で、その意思を俺が汲んだだけの事だ。分離しようがしまいが入試、テスト、訓練で見た通り変身せずともパワーアシストは出来る。完全に使いこなせてはいないが、使いこなせる出力も少しずつ上がっているのだ。」

 

「じゃあ、USJの時の様に今まで変身しなかったのはどういう訳だ?」

 

「最初はしたくても出来なかったんですよ。グラファイトは独立して行動する時も僕と一緒にいる時も、これが無いと変身出来ないんです。」

 

出久はバグヴァイザーZと今使える三つのガシャットを教壇の上に置いた。

 

「これでグラファイトが僕についている間、僕は変身出来ます。グラファイト自身も独立して変身も可能です。」

 

「誰が作った?」

 

「俺だ。人間の年齢に換算すれば俺は青二才なのかもしれんが、俺は学習能力が高いのでな。お前達の校長程ではないが、校長を除くこの学校の人間の知能を束にした所で俺には及ばん。一年程時間をくれればミレニアム懸賞問題の答えの一つぐらいはくれてやる。俺の事はオールマイトにも一応話は通してあるぞ。」

 

「オールマイトとはもう話した。これはあくまで事実確認の為の質問と担任としてお前の『個性』の本質を改めて知る為であって、別にどうこうってわけじゃない。あの時は世話になったな。校長を含めた教師陣には俺から説明しておくから、クラスの奴らにはホームルームの時にでもお前から説明しとけ。」

 

「はい。」

 

「手短に頼むぞ。」

 

「分かりました。」

 

「待てイレイザーヘッド、俺からも一つ質問がある。」

 

さっさと去ろうとする相澤をグラファイトが呼び止めた。

 

「血液サンプルのDNA鑑定の結果は出たのか?」

 

「捜査情報は秘匿事項だから言えない。それぐらい分かれ。朝早くに呼び出して悪かったな。」

 

「いえ、そんな。約束ですし。あ、先生。これ良かったらどうぞ。それともし途中でオールマイトに会ったらこれを渡しておいてください。」

 

相澤は差し出された十秒メシのパックとカロリーメイト、そして封筒を無言で受け取って頷いた。

 

「分かった。それまで預かっておく。昨日の今日だ、出来るだけゆっくりしてろ。必要ならリカバリーガールにもう一度治療を受けさせてもらえ。」

 

 

 

 

 

「さて、ここからどうしよう?」

 

一応大事を取ってリカバリーガールにもう一度治療してもらい、節々の痛みは嘘のように取れた。しかしここからどうしたものか。今日は軽い運動すら控えるつもりでいる。しかしかといって体を使う趣味が多い為それに没頭するわけにもいかない。自分のトレーニングメニューのレパートリーを増やして書き留めて行くかと考えた矢先、背後から気配がした。

 

「何か用?爆豪君。」

 

「ちとツラ貸せや、デク。」

 

黙って彼について行った先には小さい頃よく遊び場としていた空き地があった。よくまだ残っていると思う。喧嘩でも吹っ掛けるつもりなのかと軽く拳を握り込んだ。

 

「てめえ、また俺を騙してたのか。今度は『個性』の幅ぁ隠しやがって・・・・!」

 

「違うよ。クラスの皆にいずれ説明するつもりだったけど、これじゃ引っ込みつかないだろうから爆豪君には先に言っておくよ。グラファイト、出て来て。」

 

魔法のランプに住まう魔人の様に両腕を組んでグラファイトは現れた。

 

「中学の時、彼は言った筈だよ?しっかり『個性』はあるって。全貌は確かに説明しなかったけど、別に誰にも言う必要は無いし、USJでは緊急事態だったから分離しただけだし。」

 

落ち着き払った出久の返答にグラファイトも付け足す。

 

「それに戦闘訓練の時にもし分離した俺と戦えば、貴様が『出久より俺の方が目立っている』だのなんだの難癖を付けてくるのが目に見えたから出久は俺を引っ込めると決めてパワーアシストだけで戦った。『個性』はある。それに嘘は無い。用がそれだけなら帰らせてもらう。昨日受けたダメージは我々の方が大きいのでな。」

 

「待てや!話はまだ終わってねえんだよ!」

 

「終わりだよ、爆豪君。」

 

「その呼び方やめろや、ぶち殺すぞ糞デク!」

 

ぼぼぼん、と掌が線香花火の様に爆発を起こす。

 

「何で?君は僕が嫌いなんでしょ?自分を嫌う人と距離を置こうとしてるだけなのに、毎回突っかかって来るのはそっちじゃないか。そもそも誰と仲良くしようが疎遠になろうが、僕の勝手だし。お互い不愉快な思いをするぐらいならその方がマシでしょ?」

 

出久も久しぶりに怒りが込み上げて来た。積年の恨みと言える程安っぽい物ではないが、腹の底で真っ黒な何かが鎌首を擡げた。グラファイトは彼の想像以上に冷ややかな声に驚きを隠せずにいる。

 

爆豪もこめかみをひくつかせながら爆発を引っ込め、拳を握り締める。出久も半身になってい殺さんばかりの睨み顔を真っ向から睨み返した。

 

「それとも何?自分が僕より格上とみなす材料が無くなり始めて焦ってるの?爆豪君。」

 

爆豪は視界が真っ赤になり、生意気な口を叩く幼馴染に向かって拳を振り下ろした。使い慣れた右の大振りを振り抜きはしたが空を切るだけだ。返しの左は何かに当たりはしたが、突如拳に走った激痛に動きが止まる。

 

「いい加減にしろよ、貴様。」

 

万力の様な握力に歯を食い縛って耐えようとしても歯の隙間から呻き声が漏れ、膝が折れた。

 

「痛いか?だろうな、貴様の拳に罅が入る一歩手前の圧力をかけているのだ。痛くない筈が無い。だが、貴様が十年間出久に与え続けて来た痛みに比べれば、この程度は擦り傷に等しい。一度しか言わんからその沸点が低い単細胞並みの脳味噌で理解しろ。今の出久は貴様如きが足元にも及ばぬ程に強くなった。たった四年近くで、そしてこれからもその強さは増していく。少なくとも既に肩を並べられたと認識を改めぬ限り、貴様が出久は勿論の事、我々二人に勝つ事など、永劫叶わぬと知れ。」

 

「待ってグラファイト。」

 

彼を下がらせ爆豪に手招きした。口で言った所で納得などしない。中学のアレはたかが一発。実力を見せたとは言えない。戦闘訓練も頭に血を上げた状態で勝利条件が相手を倒すだけではなかった。負けを認めたとは言え心の中では認め切れなかったのだろう。

 

ならばもう、殴り合いの喧嘩しか白黒つける方法は無い。

 

「『個性』なし。グラファイトもなし。先に倒れて立てなくなった方が負け。僕と君で小細工なしのタイマンなら文句無いでしょ?」

 

「一度や二度俺に勝ったぐらいでいい気になってんじゃねえぞ、デク・・・・喧嘩で俺に勝てたことなんざ一度もねえ奴が随分でけえ事言えるな。」

 

向かい合って瞬きすらせずに睨み合う二人の距離は息がかかる程に近い。

 

「そのデクに助けられたのは、どこの誰だよ。」

 

「あ、やっぱりいた!おーいデクくーん!」

 

拳を繰り出そうとした正にその瞬間、聞き覚えのある声が二人の拳を止めた。

 

「麗日さん?!」

 

「おお、ブラボーだ麗日君!見事に当たっていたよ!」

 

「飯田君・・・・ていうか1-A全員集合!?」

 

麗日、飯田を筆頭にクラスメイト十八名が全員空き地に集まっていた。

 

「チッ!あのクソ丸顔が・・・・!」

 

「全く・・・・・折角いい感じに滾って来たというのに、勿体無い。」

 

空き地の端で傍観していたグラファイトは心底残念だとばかりにため息をついた。

 

「決着は体育祭に持ち越しって事でどう?一対一の戦闘はある筈だし、『個性』も使える。」

 

「首洗って待ってろや。」

 

ポケットに両手を突っ込み、爆豪はクラスメイトを押しのけて足音荒く去って行った。

 

「あ、おい爆豪!聞かなくていいのかよ、緑谷の『個性』の事!」

 

「うるっせえ、知っとるわ!」

 

切島の制止を振り切り、そのまま角を曲がって姿を消した。

 

「もう話したのか?全員集まった所で話した方が二度手間にならねえのに。」

 

「あいつなりの事情と言う奴だ、察してやれ。さてと。全員集まった所で説明を始める。まず、俺の名はグラファイト。USJ襲撃事件の際に見た通り、俺は緑谷出久の『個性』だ。」

 

「緑谷さん、つまりこの貴方の『個性』は人格と意思と己の肉体を持っている、という認識で間違いありませんか?」

 

耳にしたとんでもない事実をいきなり受け止めきれない八百万はそう確認した。

 

「そうだよ、八百万さん。グラファイトは独立行動が出来る。範囲も時間も制限は無い。今は僕に感染、いや憑依?うーんニュアンスが違うな・・・・」

 

「この場合は相利共生と言う方が正しい。共生により俺は姿を認知されなくなり、出久は俺のアドバイスを受けて立ち回れる他、膂力増強の出力を無理矢理上げた時にダメージのフィードバックを軽減出来る。」

 

「はいはい!じゃあ俺から一つ質問!」

 

「では一番手、切島。」

 

「あの変身て、どうやってたんスか?」

 

「俺が作った装置でやっている。共生中は出久が、分離中は俺が使う。」

 

「はーい!学校にいない時は何してるんですか?」

 

「麗日か。まあいい、答えてやろう。情報収集とゲームだ。知識欲が旺盛なのでな。」

 

「では次は俺が!」

 

「飯田か。よし、述べろ。」

 

「あの膂力増強も、貴方のお力なのでしょうか?!」

 

「一応そうだ。あの時は無理矢理身体許容量の限界値を振り切ったから重傷になった。」

 

「はい!じゃあ次私!」

 

「芦戸か。何だ?」

 

「変身するとこ、もっかい見せてくれる?」

 

「確かに・・・・・龍神の姿、今一度拝謁を賜りたい所存。」

 

しかし常闇の賛成に飯田が待ったをかけた。

 

「常闇君!プロヒーローでもない人が『個性』を使うのは犯罪なのだぞ!」

 

「そう固くなるな、飯田。俺自身が『個性』なのだ、元々異形型の存在でその法律はグレーゾーンが多い。お前達が黙っていれば済む事だろう。それに、お前は応援要請の為にUSJを出ていた。つまり変身した姿を見ていないと言う事になる。ヴィランの妨害もあって記憶にあるかどうかも怪しい。」

 

「そう言われると興味出るな・・・・別のエリアでバトってたから見てねえし。」

 

「あんたの場合は脳味噌ショートしてたからでしょうが。」

 

「耳郎、おま、余計な事言うなよ!」

 

「では見たい者は手を上げろ。」

 

即座に大多数の手が挙がる。

 

「民主主義に則って、決まりだな。」

 

にやりと勝ち誇った笑みを飯田に向ける。

 

「好奇心に抗えない自分が憎い・・・・!」

 

「では満場一致という事で。出久、やるぞ。」

 

「え、マジでやるの?」

 

「くどい。そう言っているだろう。何ならお前の主導権をしばらく預かってやってもいいんだぞ。」

 

「やだよ。分かった、やるから!」

 

粒子となったグラファイトが出久の体内に消えて行き、バグヴァイザーZのボタンを押した。

 

「培養。」

 

『MUTATION! LET'S CHANGE! LOTS CHANGE! BIG CHANGE! WHATCHA NAME!? THE BUGSTER!』

 

「うおおおおおおおおおおおかっけぇええええええええええええ!」

 

「緑谷、俺からも一つ質問良いか?」

 

「え、何?」

 

「お前、あのデカブツと戦った時それに何か挿してたろ?あれは何だ?」

 

轟の質問にまごついた出久がぼろを出す前に宿主の主導権を取ったグラファイトが答えた。

 

「あれは俺が作った物だ。能力の幅を広げる装置、と考えればいい。標識やブロックがそこら中に現れただろう?あの中には、触れた者に一定時間そのエナジーアイテムの効果を付与する事が出来る。どれが出るかはランダムで決まる。原案はゲームから来ているのでな。流石にここで見せれば色々まずいが。質問が以上なら、今日はこれで解散だ。」

 

分離して変身を解除すると、1-Aのクラスメイトは三々五々で四方に散った。

 

「あ、飯田君と芦戸さんはもうちょっと残って。グラファイトが話したいんだって。」

 

「それは良いけど・・・・」

 

「俺も構わないが。」

 

皆が散ったのを見計らい、グラファイトは二冊のノートを取り出した。それぞれに二人の名前が書いてある。

 

「これは一体・・・・?」

 

「言った筈だぞ?貴様ら専用のトレーニングメニューを作ると。これがそうだ。『個性』を含めたあらゆるパラメータを底上げできる。他の奴らの分も目下作成中だが、雄英体育祭が迫っている手前、間に合ったのがお前達二人分だけでな。欲しければ手に取るがいい。俺は約束を守る男だ。」

 

「・・・・・緑谷君、気持ちは嬉しい。本当に嬉しいが、体育祭のライバルに塩を送られるのは、同じヒーローを目指す者としてプライドが許さないんだ。体育祭が終わった後なら、喜んでそのノートを受け取るよ。勿論、芦戸君がそれを今この場で受け取った所で貶めるような真似はしない。」

 

「う~ん、欲しいけど・・・・ほんっっっっとに欲しいけど、委員長が受け取らないじゃあね‥‥ごめん!あたしも体育祭の後で良いかな?」

 

「構わん。己で高みへ登る足掛かりを模索するもヒーローの研鑽の一部だ。それまではしっかり持っておく。ではまた明日、教室で会おう。」

 




次回、File 27: ならば Kriegだ!

SEE YOU NEXT GAME.......

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