龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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あと少し!あと少しでお気に入りが二千に届く!

そしてついに明かされたマッドローグ!白とパープルのコントラストがかっこいい。


File 27: ならばKriegだ!

授業が終わった1-Aの廊下は、他クラスの生徒でごった返していた。

 

「うぉぉ・・・・・・」

 

「な、なな、何事だーーー!?」

 

教室のバリアフリードアが開いて突如人垣に直面した麗日は軽いパニックに陥った。

 

「君達、A組に何か用が―」

 

「んだよ出れねえじゃん!何しに来たんだよ!?」

 

事情を聴ける前に峰田が文句を飛ばす。

 

「敵情視察だろ、雑魚が。ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だから体育祭の前に見ときたいって腹だろ。」

 

怒鳴り散らしていないとは言え、相変わらずの敵意剥き出しの平常運転で爆豪が峰田の質問に答える。

 

「そんな事したって意味ねえから、どけ、モブども。」

 

「知らない人の事とりあえずモブって呼ぶのをやめたまえ!」

 

「噂のA組、どんなもんかと見に来たが随分と偉そうだな。ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのか?」

 

人ごみを押し退け、気だるげな顔つきの生徒が前に出た。

 

「こう言うの見ちゃうと幻滅するな。普通科にはヒーロー科落ちたから入ったって奴が結構多いんだ。知ってた?そんな俺らにも学校側がチャンスを残してくれてる。体育祭のリザルトによっちゃ、俺達のヒーロー科への移籍、あんたらにはその逆があり得る。敵情視察?少なくとも俺は、いくらヒーロー科とは言え調子に乗ってると足元ごっそり掬っちゃうぞって宣戦布告に来たんだけど。」

 

「確か、心操人使君だよね。君の発言は極めて心外だよ。」

 

「ん?」

 

出久は僅かに目を細め、まっすぐに心操を見つめ返す。

 

「爆豪君の態度をクラス全体の総意と取られるのは勘違いも甚だしいって言ってるんだよ。」

 

「んだと、デクてめえ!」

 

「君のエゴの為にクラス全体が不必要なヘイトを被るのは筋違いだって言ってるんだよ。

喧嘩を売るなら一人で勝手にやればいい。」

 

普段は出さない闘気が無意識に噴き出て、爆豪を含む全員がその場から反射的に半歩足を引いた。

 

「僕達は何もUSJに遊びに行った訳じゃない。ゲームみたいに死んだらコンティニューなんて出来ない。一つしかない命を張って生き延びた。十年や二十年先の未来では笑い話になるかもしれないけど、ついこの間死にかけたことを自慢する人間なんていないよ。」

 

「お前・・・・・確かヴィラン倒してぶっ倒れた緑谷、だったか?ヘドロ事件の時と言い、一番の有名人じゃねえか。さぞ座り心地が良いんだろうな、ヒーロー科の椅子は。」

 

「君が思っているほどじゃないよ。ダモクレスの剣が吊られているのと大差無い。僕はもう、勝負からは逃げないって決めてるんだ。挑戦なら僕は受けて立つ。逃げも隠れもしない。」

 

そんなにヒーロー科の席が欲しければ実力で奪い取れ。出久は目だけで力強くそう語り、カバンを持って教室を出た。

 

「緑谷の奴、なんか・・・・・凄かったな。」

 

「挑戦を挑戦で返す・・・・くぅ~~、漢だぜ!」

 

「圧が半端なかったな、おい。」

 

「飯田君、行こ!」

 

「ど、どこへだね、麗日君!?」

 

突然腕を掴まれて引っ張られる飯田は慌てて自分のカバンを掴んで半ば引きずられる形で出久の後を追わされる。

 

「デク君を追うの!今日のデク君、なんか変やもん!」

 

何がおかしいとは言えないが、直感で分かるのだ。今の彼は何かがおかしい。

 

いつもの出久は控えめで大らかで優しい。喧嘩なんてした事があるとは思えない、そんな心優しい人柄の持ち主だと思っていたが、爆豪に向けたあの表情は今まで見た事が無いのも相まって単純に恐怖を感じた。はっきり言ってあんな爆豪とは別ベクトルで恐ろしい形相、彼らしくない。

 

 

 

 

 

「っしゃあ!」

 

左右の肘を水平に振り抜く事五百回、鉄棒に括りつけられたタイヤが遂に千切れて落ちた。

 

「どうした?昨日から偉くカリカリしているな、出久。らしくないぞ。それはどちらかと言えば俺の役目だ。」

 

汗を雑巾の様に絞れる程に吸ったシャツを脱ぎ捨てて体を拭き、レジ袋に入れていたシャツに着替えた。

 

「昨日のアレが、まだ心に残っているのか?」

 

「今日のアレも含めて、いい加減無視出来なくなってきたからね。新開発のスマッシュもちょっと行き詰まってるし。肺活量と・・・・・後はこの、波の動きが今一つ上手く出来ないんだよなあ。もっとストレッチとかヨガやらなきゃ。」

 

肩を交互に回し、渡されたプロテインと生卵が入った魔法瓶を開いて一気に半分を空けた。

 

「ああ。それと一つ伝えておくべき事がある。芦戸のデータを元に作ったガシャットの事だ。どういう訳か不調でな。何度も起動を試みたのだが、待てど暮らせどゲームエリアすら展開されない。」

 

「え?何で?!」

 

「何らかのデータが足りないのかもしれんが、詳しくは俺にも分からん。まあ、今はまだ問題ではない。」

 

グラファイトも立ち上がり、脚の間に千切れたタイヤを挟んだまま鉄棒にぶら下がって片手で懸垂を始めた。一度体を引き上げる度に下半身を左右に捻り、逆の手に持ち替えてこれを繰り返す。

 

出久はまだ収まりがつかないのか、公園にある一番大きく太い木に向かい合い、バンテージを巻いた拳を握り込んで構えた。大きく息を吸うと、考えつくあらゆる手技を木に向かって繰り出した。パンチ、手刀、鉄拳打ち、平拳、貫手、肘打ちと無限に思える組み合わせで木が揺れ、枝から木の葉がいくつも舞い落ちて行く。最後の肘打ちを入れた所で息を吐き出した。木の皮も僅かばかりだが古びたペンキの様に剥がれ落ちている。

 

「七十二発・・・・記録は更新したけど、やっぱり手だけじゃまだ届かない・・・・・!」

 

再び深呼吸を始め、連打の記録更新に挑戦した。

 

七十四。届かない。

 

七十六。最高記録だが、まだ届かない。

 

七十三。遠のいた。

 

背中の筋肉がプチプチと音を立ててようやくやめろと言う危険信号に耳を貸し、出久は座り込んだ。

 

「あ、いたぞ、麗日君!」

 

「デクくーん!」

 

「飯田と麗日か・・・・自主トレはどうした?体育祭などあっと言う間に来るぞ。」

 

「ちょっと、その・・・・・デク君の事心配になって・・・・・」

 

やはりまだグラファイトの存在感に今一つ慣れきっていないのか、若干歯切れが悪い。

 

「爆豪君の事で?」

 

「ほら、それ。前から気になってたけど、かっちゃんて言いそうになるといつも言い直してるじゃん。今日も珍しく突っかかってたし。」

 

「それは俺も気になっていた。勿論答えたくないと言うのなら強制はしないが、疎遠になった理由はあるのだろう?」

 

「うん・・・・・まあ、あれだけ露骨だと流石に気付くか。分かってると思うけど、これオフレコでお願いね。出来るだけ短く切り上げる様に努力するけど、多分長くなるから。かっちゃんて渾名から分かる様に、僕は彼とは幼馴染なんだ。僕が『無個性』と診断されて少ししてからかな、彼にいじめられ始めたのは。木偶の坊のデクって呼び名もそこから来てるんだ。小中高と、ずっと言われ続けててさ。」

 

「そんな・・・・!」

 

麗日は愕然とした。しかしだからこそ出久の強さが際立つ理由が分かった。そう言われ続けてきても相手にせず、表情にも出さず、寝る間も惜しんでたゆまぬ努力と研鑽を積んでここまで来ているのだ。修練の数だけで言えば出久は間違いなく『ヒーロー科最強』の努力人と言えよう。

 

「『無個性』の癖にヒーローになろうなんて思うな。そうバカにし続けて来た相手がずっと彼の先を行ってる。中学三年の時、初めてやり返したよ。右フックで思いっきり殴って膝をつかせた。そこから入試の成績、『個性』把握テスト、そして屋内対人戦闘訓練でも勝った。」

 

「で、頑なに君が強くなった事を認めようとしないで突っかかってくるのにいい加減うんざりしているという事か。」

 

飯田の推理に出久は頷いた。

 

「だから決めているんだ。僕は、この体育祭で爆豪君に勝って優勝を狙う。何度も言っているのに分からないから、今度こそ容赦はしない。実力ではっきりと分からせる。認識を改めなければ僕には、いや、僕達には勝てないって。」

 

「しかしいじめという事なら学校側に報告していれば―――」

 

「そんな事をした所で無駄な努力だ。」

 

懸垂を終えて汗を拭き終わったグラファイトが鼻を鳴らした。

 

「ヒーローが飽和し、社会の花形となったこの世界ではヒーロー向きの『個性』を優遇する傾向が極めて強い。当時『無個性』と思われていた生徒が何を喚き、何を宣おうが大したアクションは期待できん。その内周りから『個性』持ちに嫉妬した負け犬の遠吠えだのなんだの言われるのは時間の問題だ。映像や音声と言った決定的な証拠も無いしな。」

 

「し、しかしそれなら雄英にこの事を伝えれば――」

 

「無駄だ。雄英に過去のいじめの事を伝えて人格的に問題ありと進言した所で既に生徒の一人になってしまっている。有力な『個性』の持ち主の入学拒否や退学はヴィラン側の陣営に寝返る可能性がある。故に教師どもはここで再教育をするつもりでいるのだろう。よほどのことをしない限り、除籍処分は無い。以上の理由から、他人は当てにはならん。故に、プライドに服を着せた奴の鼻っ柱をへし折り、本当に黙らせる方法は一つしか無い。実力を行使した、徹底的な、完膚無きまでの完全勝利。勝った暁には、まあ今までの非礼を土下座の一つでもさせて詫びてもらうとするか。」

 

「昨日僕達があの空き地にいたのも、殴り合いの一歩手前まで行ってたんだ。直前で麗日さんが偶然止めてくれたけど。」

 

これで全てだとばかりに出久は両手を広げた。

 

「・・・・・事情は分かった。話してくれてありがとう。だが一つだけ言っておく。彼ばかりを注視していては、心操君が言っていた様にごっそりと足元を掬われる事になる、と。」

 

飯田はそれだけ言うと駆け足で公園から去って行った。麗日だけはその場に座ったまま何も言わない。

 

「どうしたの、麗日さん?」

 

「デク君は本当にそれでいいの?」

 

出久は訳が分からないとばかりに首を傾げた。

 

「えっと、どういう事?」

 

「だって、幼馴染だったんでしょ?それなら仲直りだって―――」

 

「それが出来ないから今まで苦労したんじゃないか!」

 

思わず出久は声を荒らげたが、すぐに呼吸を整えて荒くなった語気を抑えた。

 

「ごめん、大声出して。僕だって人を嫌いになりたくはないよ。でも十年以上人を傷付けて、尚且つそれに塩をぶちまけ続けた相手に何の謝罪もされずに仲直りなんて、僕には出来ない。僕だって人並みのプライドがある。」

 

むしろ何度も歩み寄ろうとした自分が馬鹿みたいだ。

 

「でもそんなことしたらヒーローやないやん!ウチはそんなデク君見たくない!」

 

「他に方法が思いつかないんだ。そうだよ、これは私怨だ。いじめっ子に今までのツケを払わせる準備をしている。ヒーローから最も遠い行いだよ、その自覚はある。でも過去を忘れて、前に進んで、ヒーローになるには、これしか思いつかなかったんだ。ごめん、麗日さん。どうか僕を止めないで。」

 




なんかめっちゃ暗いエピソードになっちまったーい!やべーい!

次回、File 28: Are you ready?! シャカリキスポーツフェスティバル

SEE YOU NEXT GAME.......


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