龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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今回で決勝の第一回戦全てが終了となります。

最後の試合、麗日vs爆豪には少しばかり改変があります。


File 32: 逃げ場なしのArmour Zone

「次は飯田君と発目さんか・・・・・何か嫌な予感。」

 

飯田と発目の対戦は、対戦と呼べる物ではなかった。発目が開発して飯田に装着させたオートバランサーを始め、全方位対応の離脱用アタッチメント、電磁誘導反発によって高度の跳躍が可能となるエレクトロシューズ、ヴィラン捕獲用の拳銃型ネットランチャーを始めとする約十五分にも及ぶ数々の発明品のプレゼンを終えてから本人が場外へと足を踏み出し、飯田を勝たせる結果となった。

 

「騙したなぁーーーーーーーーー!?!?!?!」

 

またしても真面目な性格を利用された飯田に出久は苦笑するしかなかった。しかし商売根性の逞しさ、そして目的の為ならば味方すら利用する開き直りっぷりは素直に尊敬に値する。

 

「あ、緑谷、次あたしと青山の試合だから先行くね。ほい。」

 

ピンク色の掌を向けたまま伸ばされた手を見て、出久は困惑した。

 

「ほら、ハイタッチ!」

 

「え?ああ!」

 

パンと良い音が鳴り、芦戸は走り去った。

 

「んじゃ行ってくるねー!」

 

「・・・・女の子の手・・・・・柔らか・・・・・」

 

「大袈裟な奴め、高々手が触れた程度だろうが。」

 

戦利品の缶コーヒーをチビチビと飲みながらグラファイトが会場を見回した。しかしその所為でハイタッチ直後の重要な所を見逃したのだ。ほんの二秒程度だったが、芦戸が指を絡ませて軽く出久の手を握って来た瞬間を。

 

『続いて第五試合!腰にはベルト!だが変身はしねえし二輪もねえ!ヒーロー科、青山優雅!VS!! あの角から何か出るの?ねえ、出るの!?同じくヒーロー科、芦戸三奈!』

 

「青山やっちまえぇ――――――!!格闘ゲームで服が破れる感じで倒せ―――――!!へぶぉ!?」

 

コーヒーを飲み終えた空き缶が剛速球となって峰田のこめかみに命中し、沈黙させた。拉げた空き缶は当たった衝撃で跳ね、再びグラファイトの手に収まる。

 

「・・・・・当たるとあんな音出せるんだな、空き缶は。」

 

丁度顎の下を缶が掠めた障子が呟いた。

 

『Are you ready!? STAAAAAART!!!』

 

こちらも結果としては呆気無い物だった。屋内対人戦闘訓練の時に組んでいた二人は、互いの手の内は粗方頭に入っている。

 

青山は持続時間がネックになるネビルレーザーという遠距離では強力な武器と、遮蔽物が無いと言う地形のアドバンテージがある。が、芦戸も酸を地面に撒いて高い機動力を確保出来る上、運動神経はトップクラスだ。加えて酸は対応出来る距離に幅がある。拳が届く距離にいなくとも、火力が無くなってしまえば青山の制圧は容易い。

 

スピードスケーティングの様にステージを高速で滑走し、青山にレーザーを撃たせまくる。そして腹痛で限界に達した瞬間、ベルトに酸をぶちまけられた上で滑走の勢いがついた強力な左アッパーで撃沈した。

 

「ぐぎぎぎ・・・・・青山と芦戸の『個性』が逆だったぼふぉぃ!?」

 

再び空き缶という名の弾頭が峰田を襲い、今度は右頬を捉えた。

 

「頓死しろ、屑が。」

 

続いて第六試合、影を従える暗き侍こと常闇踏影 vs 万能創造、折り紙付きの才能を持つ八百万百。

 

「緑谷、この試合はどう見る?」

 

「・・・・・難しいね。でも、僕の予想では多分常闇君が場外で勝つと思うな。」

 

「ケロ?何で、緑谷ちゃん?」

 

「常闇君の『個性』は攻防一体、タイムラグなしで発動出来る。出来る事と出来ない事の境界線がはっきりしているんだ。こう言っちゃ失礼かもしれないけど、八百万さんはプレッシャーをかけられた時の思考スピードが遅い。それならごちゃごちゃ考えず、彼女に考えさせず、とにかく前に出て速攻がベストだ。八百万さんは勝負が長引けば有利になるタイプだから。」

 

八百万の『個性』の長所はその戦法の幅広さにある。相手によって戦法を変えて行く変則性もあるが、最初の策が駄目なら次の策、また次の策と、作戦の物量で押し切って相手のミスを誘い、一気呵成に畳みかける事も出来る。

 

だが八百万はまだそれが出来ない。故にそれが今はまだ弱点になっている。騎馬戦では頭脳を働かせるのが彼女だけではないお陰で有利に立ち回れたが、『個性』も頭脳も優秀であるが故に、一対一ではどうしても先に考えてから行動に移ってしまう。

 

『第六試合、STAAAAART!!!』

 

故に思考と戦闘を同時に行える器用さが未だ欠けている彼女の対応は、どうしても常闇に一歩遅れを取ってしまうのだ。

 

号令の刹那、あっと言う間にダークシャドウを展開した常闇が先制攻撃を仕掛けた。八百万も辛うじて楯を創造してオープニングヒットを防いだが、大きく後退させられた。

 

「緑谷ちゃんはグラファイトと一緒だったらどう攻めるのかしら?」

 

「どちらも物量で押し切って距離を詰めて殴る。」

 

蛙吹の質問に二人が声を揃えて答えた。

 

「緑谷から筋肉馬鹿の意見が出た!?」

 

彼女が武器を創造しようとした所でダークシャドウは更に攻撃を重ね、八百万に思考の時間を与えない。三度目の打撃で楯が手から離れたが、再び新たな楯を創造して装備する。

 

しかし、常闇はそれ以上の追撃はせず、ダークシャドウを引っ込めた。チャンスとばかりに八百万の右手に鉄棒が創造されるが、ミッドナイトの判定が出る。

 

「八百万さん、場外!常闇君、二回戦進出!」

 

足元を見て、彼女は愕然とした。確かに左足がステージと場外を隔てる白線を割っている。何も出来ないまま、負けてしまった。

 

「ほう、楯にのみ攻撃を集中して八百万に受けさせて後ろに飛ばしたか。芸達者ではないか。二回戦が楽しみだ。」

 

二回戦まで試合は後二つ。『個性』ダダ被りの暑苦しい二人と、麗日 VS 爆豪。

 

「グラファイト、ちょっと行ってくる。」

 

何をしに行くのか大体察しがついたグラファイトはしっしっと無造作に手を振って出久に行くように促した。大概な世話焼きだ。そう思いつつ、思考をシフトする。

 

一回戦の後に、グラファイトは出久から話された事を聞いて驚いた。自分はそれを見ていないのだ。共生中は両者が合意の上で感覚や記憶を共有出来るが、あれだけは共有出来ていない。やはり感染していても宿主は一人だけ。ワン・フォー・オールの意思の働きによる物か?

 

分からない。

 

バグヴァイザーZを取り出し、画面を覗いた。表示される数値は68%。

 

「・・・・回数を増やすか‥‥?」

 

 

 

 

 

 

 

 

出久が向かった先は麗日が自分の試合前の最終調整をしている選手控室だった。励ます為に飯田も既にそこにいた。

 

「あ、デク君・・・・あの・・・・ごめん!」

 

いきなり頭を下げられ、出久は目を白黒させた。何故自分が謝られているのだ?

 

「デク君がどれだけ傷ついて、どんな思いで我慢してここまで来たのか、分かるわけないのに。仕返しなんてしちゃいけないって、知ったような事言って、ホントにごめん。」

 

「良いよ、謝らなくても。僕は僕の意見を正しいと思っているのは変わらない。けど、麗日さんがあの時言った事が間違っていないのも変わらない。だから謝らないで。別に怒ってないから。」

 

そう、怒ってはいない。怒ってはいないが、混乱はしている。迷っている。客観的に見て、どちらも正しい。しかしどうしてもその一線を越える手前で、爪先がその境界線を越える手前で、自問自答してしまう。

 

これで良いのか?正しいのか?

 

際限ない自問自答の嵐を頭の隅に押しやり、大丈夫だと出久は親指を立てて笑って見せた。

 

「ありがと・・・・あ、でも他の試合は見なくていいの?」

 

「結構見たから、一試合ぐらいは大丈夫。大体短期決戦で終わっちゃってたし。馬鹿な質問かもしれないけど、自信の程は?」

 

「ん~~・・・・・微妙やね。」

 

「ま、まあしかし、流石に爆豪君と言えども女性相手に全力の爆破は・・・・・」

 

「しない筈が無い。彼はそんな人間じゃない。良くも悪くも何事もフルスロットルでやるタイプの人間だ。僕は雄英で出来た友達は麗日さんが初めてなんだ。だから、力になりたい。麗日さんの『個性』で対抗出来る作戦、付け焼刃だけど幾つか思いついたんだ。」

 

「おお!麗日君、やったじゃないか。」

 

正に天の配材とばかりに飯田が両手の親指を立てた。

 

「ありがと、デク君。でも大丈夫。デク君は入試主席で、いつも努力してて、頭も良くて、体育祭でも凄く活躍してる。飯田君がライバル宣言した時も、デク君を止めようとした時も、後から考えると自分がちっぽけに見えて恥ずかしいなって思った。騎馬戦の時も、やっぱりデク君の力に頼って甘えちゃったから。だから、大丈夫。私も死力を尽くして、戦うから。決勝で会おう。」

 

震える手で、麗日もサムズアップを返した。

 

出久は頷いてそれきり口を噤んだ。彼女は既に腹を括った。ならばもうこれ以上とやかく言って覚悟に水を差すのは侮辱にしかならない。飯田と目配せし、二人は会場の席に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ~て!一回戦第八試合!一回戦はこれでラストバトル!中学時代はちょっとした有名人!堅気の顔じゃねえ!ヒーロー科、爆豪勝己!VS!!俺こっち応援したい。ヒーロー科、麗日お茶子!』

 

「お前、浮かす奴だな。丸顔。」

 

「まる・・・!?」

 

「棄権すんなら今の内だぞ。いてぇじゃ済まさねえからな。」

 

『第八試合、STAAART!!!』

 

「誰がするもんか!」

 

そんな選択肢、初めから無い。屋内対人戦闘訓練とは違うここは平地。そしてこのステージに上がった時点で逃げも隠れも出来ないし、何より自分のプライドがそんな真似を許さない。ずっと恐れていた相手に恐れず立ち向かうだけの勇気を持った、自分を友と呼んでくれる人に合わせる顔が無い。

 

体勢を低くしたまま、麗日は迷わず突っ込んだ。服も靴も軽くした。速度を上げる出来得る限りの事をして、低い体制のまま肉薄する。爆豪のオープニングヒットは大概右の大振り。

 

しかし彼女の予想は下から上に掬い上げる動きによって大きく外れた。後ろに吹っ飛ばされ、視界を晴らそうと、手で煙を払う。

 

やはり駄目だ。出久の読みや戦法を参考にしても彼程の技術もパワーも反射神経も無い。反応出来ないのだ。しかしだからと言ってあきらめると言う選択肢は無い。煙幕となった煙の中から爆豪のシルエットが見える。上着を脱ぎ棄て、無重力にしてからそこに向かって投げつけた。

 

「舐めんなコラァ!」

 

予想通り反応した。背後から回り込み、自分の体重をゼロにする。酔いの波がすぐに押し寄せて来たが、まだ耐えられる。触れさえすればいい。超低空タックルで足を狙った。

 

しかし、爆豪の反射神経は彼女の策の上を行く。背後から来るのを見た後に反応して再び爆破をぶつけたのだ。

 

即座に自分にかけたゼログラビティーを解除し、次の策に移る。下だ。とにかく下から上に掬い上げる爆破を撃たせ続ける。何度吹っ飛ばされようと、麗日は立ち上がり、食らいつく事をやめなかった。麗日は誓った。体力が無くても気力でカバーし、最後まで戦う。

 

「まだまだぁーー!!」

 

爆破の都度、煙が、瓦礫が宙を舞う。

 

「相手が触れられる間合いにいないと発動しない『個性』ではやはり分が悪いか。しかし爆豪君もここまで試合を引き延ばすとは・・・・」

 

飯田の表情は苦々しい。もう何度爆破を受けたか分からない麗日を見かねて観客にいるプロヒーローがブーイングを始める程だ。しかしそれも相澤の一喝で止まる。

 

爆豪は油断などしていない。警戒している。警戒した上で麗日を正面から叩き潰そうとしているのだ。

 

「うん、でもまだだよ。彼女は自棄を起こしているわけじゃない。あれは策だ。」

 

「あれが、策だと?」

 

飯田は訳が分からなかった。唯々突進しては吹っ飛ばされを繰り返す千日手の一体どこに戦術的要素があるというのだ?

 

「見ていれば分かる。彼女の目は、まだ死んでいない。」

 

麗日が何をしようとしているか、出久は瞬時に看破した。あの突進は全て布石。相打ち上等の、彼女が今この場で打てる最大最強の一手。

 

「『個性』とか関係無しであれは僕らが出来るような事じゃない。だから、届く可能性は十分ある。唯一の懸念は、あれらで足りるか否かだ。」

 

爆豪が不意に頭上を見上げた。直後に麗日が両手の指を合わせてゼログラビティーを完全解除した。今まで何十回と突進を繰り返した麗日諸共吹き飛ばしたステージを成すコンクリートの欠片で出来た、瓦礫の夕立。その真下に立つ爆豪目掛けて、麗日は再び突っ込んだ。

 

距離を詰められることを嫌って爆豪は迎撃する。しかしすれば上からの瓦礫に対応できない。対応すれば浮かされる。

 

距離が一メートルへと縮まった所で隠し持っていた小さなコンクリートの欠片を爆豪の顔面目掛けて投げつける。当然避けられるがそれでいい。対応がコンマ一秒でも遅らせる事が出来れば勝率は芥子粒程であろうと上がる。

 

しかし、彼女の渾身の一撃は爆豪の会心の爆撃によって打ち消された。

 

降り注ぐ瓦礫は更に粉々になり、場外へといくつかの小石になって降り注ぐ。

 

しかし、それでもまだ負けていない。負けを認めない限り、意識がある限り、まだ負けではない。まだだ。まだだ。

 

再び爆豪に向かって足を踏み出したが、その足から力が抜け、麗日は前のめりに倒れた。

『あ~~っと!麗日、力なく崩れ落ちる!ダウンだ!』

 

意識はある。だが体が動かない。動いてくれない。あの瓦礫を使った荒業で、体力の九割九分は使い切ってしまったのだ。最早自重を支えて四つん這いになる事すらも敵わない程に疲労がピークなのだ。

 

駄目だ。まだだ。まだ終わりじゃない。終わらせない。ここが自分の限界だとするならば、限界の先。そこに、あるとは思いもしなかった力が見えて来る。掴み取れる力がある筈だ。

 

だから動け。動け。呼吸を整えろ。出久がやっていた様に。立ち上がれ。目を見開け。

 

「まだっ・・・・ま、だ・・・・・」

 

気付けのつもりなのか、掌で横っ面を叩き、もう一方の手で足を叩く。自分の体なら言う事を聞け。残っている物全てを絞り出せ。目標の為に。

 

『大きくなったら父ちゃんと母ちゃんのお手伝いするっ!』

 

『気持ちは嬉しいけどな、お茶子。親としては夢をかなえてもらう方が何倍も嬉しいわ。そしたらお茶子にハワイ連れてってもらえるしな!』

 

そして何より、家族の為に。

 

「父、ちゃん・・・・・!」

 

あの時の気持ちを思い出せ。呼吸を整えろ。立ち上がれ。気を失うな。自分が折れない限り、まだ終わりじゃない。自分はまだ諦めていない。

 

ゆっくりと、本当にゆっくりと、麗日は四つん這いから片膝立ち、片膝立ちから両足で立ち上がった。

 

『うぉおおおおおおおおおおお立ったぁーーーーーーーーー!!!!正に執念!正に意地!しかし動かない!立ち上がった所から麗日、微動だにしない!』

 

ミッドナイトがステージに上がって彼女の方へ駆け寄った。

 

気絶している。それも立ったまま。

 

弁慶の仁王立ちという表現がある。源義経の忠臣であった僧兵の武蔵坊弁慶が主の自刃が完了するまでの時間を稼ぎ、最期まで主を守り抜いて立ち尽くしたまま息絶えた事に由来する。

 

麗日には弁慶ほどの武人ではないにせよ、その奮闘ぶりと諦めの悪さ、切り札を潰されてなお立ち向かおうとする気概は彼に比肩する物だった。少なくとも、出久やグラファイトはそう感じていた。

 

「麗日さん、失神・・・・・二回戦進出、爆豪君!」

 

「出久、準備がてら見舞いに行くぞ。」

 

二回戦第一試合は小休憩を挟んでから始まる。相手は、轟焦凍。

 

「うん。行こう。」




次回、File 33: 氷と炎・・・・Now you’re in control

SEE YOU NEXT GAME......

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