龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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UA 二十万突破とは・・・・・読者様すげえ!

久々にウルトラマンオーブ・ジ・オリジン・サーガの主題歌を日本語、英語の両方で聞きました。神ってるなあ、やっぱり。英語なのにしっかりとウルトラマンっぽさを残している。

作詞作曲の先生方、歌ったFuture Boyzの皆さま、お疲れさんです!

ではそんな歌にインスパイアされて書きあがった本編をどうぞ。



File 33: 氷と炎・・・・Now you're in control

「いやー、負けちまったぃ!」

 

開口一番の麗日の元気そうな言葉に、出久は開いた口が塞がらなかった。そして我慢しているのだと直感した。今まで爆豪の仕打ちを耐え抜いてきた自分だからこそ分かる。彼女は悔し涙を流したくて仕方ないのだ。

 

「最後行けると思って調子乗ってしまったよ、くっそー。」

 

「怪我とかは、大丈夫なの?」

 

「うん、リカバリーしてもらったし。にしても、いや~やっぱり爆豪君は強いね。真正面から全部潰された!もっと頑張らなきゃな、私も。」

 

君は十分凄かった。出久はそう言いたかった。

 

「あの、これ良かったら食べて。麗日さん和食好きでしょ?売店の奴であんまり大した事無いけど。」

 

レジ袋の中身をテーブルに出すと、緑茶のボトルとおにぎり数種類が転がり出た。

 

「ありがと、デク君。二回戦見とるから、頑張ってね。」

 

「うん。ありがとう。」

 

瓦礫の雨を一撃で吹っ飛ばされて、心が折れない筈が無い。体に力が入らず、まともに立つ事さえ不可能な程に膝も笑っていたが立ち上がった。その気力、精神力は、間違い無く爆豪の顔色を変えた。あの立ち往生の姿は決して虚勢などではなかった。もしまだ体力が残っていれば、逆に彼を精神的に追い詰めていただろう。

 

だが言えない。言ってはいけない。

 

結局出久は何も言わずに麗日に背を向けて去った。ドア越しに、彼女のすすり泣く声が聞こえる。

 

『賢明な判断だったな。』

 

「え?」

 

『励ましや慰めの言葉をお前は一度として口にしなかった。良い判断だ。デリカシーのある男は、モテるそうだ。』

 

「もももモテるって・・・・・!?」

 

『まあそれは兎も角、轟相手に使う戦法。どうするつもりだ?』

 

「シンプルこそベスト。彼は僕が策略を練ってくると警戒しているのは間違いない。だからこそ、手の内を全て曝け出したグラディエータースタイルと超オーソドックスなシュートスタイルでインファイトを仕掛けて、兎に角プレッシャーをかけまくる。変身した状態で。グラファイトが参戦するか否かは任せる。」

 

『了解した。心が滾って来たぞ。』

 

自分の試合に向かう途中で、のっそりと全身が炎に包まれた大男が突き当たりの廊下から出て来た。№2フレイムヒーロー、エンデヴァーである。背中や口元、目元を包む炎は、逞しい肉体も相まって歌舞伎の隈取りや不動明王の様な御神体を彷彿させた。

 

「エン、デヴァー・・・・!」

 

「おお、いたいた。君の活躍を見せて貰ったよ。素晴らしい『個性』だ。パワーだけで言えば、オールマイトに匹敵する力だ。」

 

「ありがとうございます。けど失礼します、もう試合がすぐ始まるので・・・・」

 

彼がワン・フォー・オールの事を知るそぶりは見せていないが、一番気取られてはいけない人物だ。接触はなるべく避けようと、出久はエンデヴァーを通り越した。

 

「うちの焦凍は、オールマイトを超える義務がある。君との試合はテストベッドとしてとても有益な物となる。くれぐれもみっともない試合をしないでくれたまえ。言いたい事はそれだけだ、直前に失礼したな。」

 

「では僕からも一言。当たり前ですが、僕はオールマイトじゃありません。轟君も、貴方じゃあないんですよ。」

 

背を向けたままそう言い残し、出久は拳を固めた。歩き去りながら軽いフットワークとシャドーボクシングの準備体操をしてステージに上がる。

 

『待たせたなEVERYBODYYYYYYY!二回戦第一試合は目玉カードの一つ!一回戦の圧勝で観客を文字通り凍り付かせたIce man!ヒーロー科!轟焦凍!対する相手は、見た目は地味だがナメたらいかんぜ!一年勢のダークホース!ヒーロー科!緑谷出久!』

 

言葉など交わさずとも、二人は互いの意思をしっかりと感じ取った。

 

『両雄共にトップクラスの成績!それではカウントから入って始めるぜ!THREE! TWO! ONE! FIGHT!』

 

『MUTATION! LET’S CHANGE! LOTS CHANGE! BIG CHANGE! WHATCHA NAME!? THE BUGSTER!』

 

変身し、フルカウルを発動しながら肉薄。とにかく懐に飛び込むところから始める。

 

しかしそう簡単には行かない。轟の反応速度も群を抜いて速いのだ。下がりながら氷が迫る。

 

「DELAWARE SMASH!」

 

まずは小手調べと指で空気を弾いた。しかしまだ氷は止まらない。渾身のジャブで氷が吹き飛び、肌を突き刺す寒波が轟と彼の後ろにいる観客席を襲った。道が開けた所で再び接近。氷の壁を後ろに作って吹き飛ばされるのを防いだ轟は再び地を這う氷結攻撃で応戦した。

 

再びジャブ。氷が砕ける。

 

接近、氷結、ジャブ、砕ける。

 

『互角ぅ~~~!轟の氷結と緑谷の左ジャブ!威力は五分五分、いや風圧があるから緑谷が若干優勢か!?』

 

轟の戦い方は『個性』で唯々圧倒するタイプで、情報が少ない。あの大氷塊も恐らく出してくるだろう。だがまだだ。これは耐久力を競う戦い。とにかく彼を疲れさせて足を止めさせる。

 

氷結が迫るスピードと規模も大きくなってきた。ジャブだけでは連続で出しても対応できない。拳を固め直し、出久が繰り出したのはグラファイトに最初に学んだ、手技で行うコンビネーションの中でも基本中の基本。

 

「ONE-TWO SMASH!」

 

利き腕を活かす為にジャブで動きを止め、高威力の右ストレート。ステージの、いや会場の反対側までぶち抜くつもりで放つ。氷の欠片が宙を舞い、打ち終わりを狙ってその上を轟が氷の橋を足場に距離を詰めて来た。同じ事ばかりをしていては埒が明かないと悟ったのだ。

 

『轟決めにかかってきたー!どう返す、緑谷!?』

 

ありがたい、向こうから近づいてくるとは。伸ばした右腕が近づく。しかし瞬きの瞬間、龍戦士は轟の視界から完全に消えた。直後に、頭の左側面に衝撃が二度走った。

 

「かっ・・・・!?」

 

もろにワンツーを食らった轟はそのまま吹き飛ばされた。意識はまだあるが、左耳がキーンという甲高い音しか捉えていない。立ち上がろうとしたが一瞬ふらついた。

 

『緑谷反時計回りにピボットからのサウスポーワンツー!轟ぐらついている!それもその筈、狙った場所はUnder the ear!平衡感覚を保つのに必要な三半規管!』

 

しかしまだ戦える。再び構えた所で既に出久は低い体勢のまま、目元から下を拳でガードして迫っていた。氷結を発動させようとした所で脇腹に拳が突き刺さる。

 

『入ったぁ~~~!!インファイター十八番のリバーブローが深々と突き刺さる!緑谷、遂に捉えた!』

 

それを皮切りにボディーブローの嵐を叩き込む。振り払おうとする轟の手は上半身を振って回避しては打ち込む出久を捉えられない。

 

『ボディー、ボディー、ボディー!ワイドスタンスを取った緑谷の拳がしつこく轟の腹に減り込む!じりじり後退していく轟!押す緑谷!このまま場外で勝つか!?勝ってしまうのか!?』

 

「ぬぉああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

後頭部を掴んで凍らせ、膝蹴りを入れて離脱した。

 

出久はこの試合で今まで出した物とは比べ物にならない程の氷塊に右腕を除くほぼ全身が囚われてしまっていた。一回戦で見せたものほどの規模ではないが、それでもステージの三分の一はしっかり覆っている。

 

無理矢理出久を引き離した轟は腹を押さえた。増強系の『個性』でない生身の肉体には動けない程ではないがしっかり効いている。それに最初のワンツーも右腕が届きにくい左側に回り込んでいた。

 

左を使えと言う、明らかな挑発。しかしこれで終わりだ。勝った。

 

「緑谷君、行動不――」

 

「んーーー・・・・・・はぁっ!」

 

力任せに氷の枷を引き千切り、纏わり付いた氷の塊を叩いて潰し、首を回す。残った拳を左右のフックで消し飛ばすと、とんとんと左手を叩いて、手招き。

 

『挑発だぁ――――!緑谷、時間が惜しいから掛かって来いと氷をぶっ飛ばしてから強気な挑発!くぅ~~~~~魅せつけくれるじゃねえか!』

 

いや、違う。挑発であることに間違いは無いが、メッセージが違う。内容は側面に回り込んだ時と同じ物。左も使ってかかって来い。奴はそう言っている。腸が煮えくり返るような怒りが迸りそうになった。落ち着け。落ち着け。使うな。左は使うな。ここで使っては意味が無い。あんな糞親父の『個性』が無くたって勝てる。その為にここにいるのだ。

 

「どこを見てるんだよ、轟君。」

 

再び、脇腹と鳩尾にほぼ同時の衝撃。

 

「っぁう・・・・あ・・・・!?」

 

呼吸が出来ない。あばらが軋んだ。場合によっては罅も入っているかもしれない。

 

「君の敵は、僕だろう?余所見をするなよ。寒くて震えているなら、左を使って降りた霜を溶かせばいい。」

 

『個性』は身体機能。轟にも冷気に耐えられる許容範囲があるのだ。震えているのが出久には見えている。限界はもうすぐそこなのだ。それを解消出来るのにしない。全力で戦わない。自分も全力で戦えない。出久はそれが歯痒く、心底ムカついた。

 

「あの時言った言葉をもう一度言う。ふざけるなと。半分の力で勝つ?君は僕にこの体育祭でまだ一度だって勝っていないじゃないか!」

 

「・・・・てめえ、糞親父にのせられでもしたか?」

 

こめかみを狙った左フックを掴み、凍らせる。

 

「一緒にするなよ。僕はエンデヴァーに言った!僕はオールマイトでもないし、轟君もエンデヴァーじゃないって!僕は、僕がなりたいヒーローになろうと思って戦ってる!君もそうだろう?!」

 

だからどうしたとばかりに出久はシフトウェイトと腰の回転で凍り付いた左拳で轟を殴り倒し、氷も叩き割った。

 

『左フーーーーーック!轟遂にダウン!』

 

「皆もそうだ!僕達に出来て!君に出来ない筈が無い!」

 

五歳のころから、血反吐を吐くような訓練を積まされた。母親ですら止められず、彼女の胸に顔を埋めて夜を過ごしてはまた繰り返す。彼の様には、母に手を上げる様な男にはならないと、あの時誓った。

 

守ってくれる母親に、左側が醜いと言われても、熱湯を浴びせられても、その気持ちは少なからずあった。母は悪くない。悪いのは、そこまで彼女を追い詰めた父親にある。これは奴への復讐。

 

邪魔はさせない。

 

「僕には確かに、君の境遇も覚悟も、原点も理解できないかもしれない。でも、君の左は・・・・その炎は!エンデヴァーも誰も関係無い!紛れも無い・・・・・・君の、力じゃないか!!!」

 

血に囚われる事なんかない。強く思う将来があればそれでいい。なりたい自分になっていい。

 

母の言葉が脳裏に木霊した。

 

熱気と共に、体に降りた霜が蒸発した。ステージに散らばった氷の欠片も消え去った。左半身から、炎が迸る。

 

「俺だって・・・・なりてぇさ・・・・・!なりてえよ!ヒーローに!!!勝ちてぇくせして敵に塩を送るなんて・・・・ふざけてる?どっちがだ、この野郎!」

 

だが罵倒の言葉とは裏腹に、轟の口元には笑みがあった。全てが振り切れた笑み。憑き物が落ち、尚且つ決意に満ちた笑みだ。

 

「焦凍ぉーーーーーーーーーーー!やっと己を受け入れたか!それでいい!そうだ!!ここからがお前の始まり。俺の血を持ち、俺を越えて行き、俺の野望を果たせ!!」

 

しかし今の二人にエンデヴァーの言葉など届かない。この瞬間、そこに今必要な全てが在る。相手の鼓動、相手の思考。そして得体の知れぬ高揚感。

 

「やっと、本気出してくれたね。」

 

「覚悟しろよ。こっちは長らく使わなかったせいで加減が利かねえ。どうなっても俺は知らねえぞ?」

 

「望むところだ。」

 

拳が届く距離に立ち、両雄は動いた。

 

燃える拳、凍てつく蹴り。そんな攻撃が襲い掛かる。それらを出久は避ける。迫る氷をバグヴァイザーの刃で、銃撃で砕く。風圧を込めた蹴りで、拳で応戦する。

 

『半冷半燃FULL POWER!轟ようやくエンジンがかかったのかぁ?!おせーよぉ―――!!何にせよこれでついにスタート!本当の戦いは、ここからだぜ!!!』

 

変身していても外皮に感じる。刺す冷気を、茹だる熱気を。そして轟の闘志を。ようやくだ。これが、戦いたかった相手。心が滾る相手!防御すら忘れ、兎に角互いを打ち倒そうと持てる技と力の全てを尽くし合う。

 

「KOPIS SMASH!!」

 

手刀が、背刀が迫る。紙一重で避けたつもりが頬にすっぱりと傷口が走る。

 

「おらぁーーーー!!」

 

腹への掌底と同時に氷で吹っ飛ばす。

 

「まだまだぁ!!」

 

『ギュ・ギュ・ギュ・イーン!』

 

チェーンソーで氷を叩き切り、ビームガンを連射して肉薄する。

 

拳と拳がぶつかり合う。出久が、競り勝った。

 

「堅ぇな・・・・・」

 

「こっちも、体温の起伏で体調崩しそうだよ・・・・」

 

「抜かせ。そろそろ決めさせてもらうぞ。」

 

出久は頷いて右拳を固め直し、光り始めた。

 

轟もステージ全体に氷を大量に張り始め、左手を前方に向けた。

 

対する出久は出力を無理矢理上げた踏み込みで急速接近。

 

「SMAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAASH!!!!!!」

 

冷却された空気が瞬間的に膨張し、爆発が巻き起こった。ステージどころか会場すらも消し飛んでしまうのではないかという衝撃波が会場を揺らす。

 

巻きあがった土煙が収まり、勝敗が明らかになる。痛む右腕を押さえながらボロボロになっても変身した状態を保った出久がその場に立っていた。轟も踵の縁が場外の白線に触れているまま倒れてはいない。それどころかまだ意識がある。

 

どこにそんな余力があるのか、中心に立つ出久に向かって足を進めた。

 

まだ倒れられない。伝えるべき事を伝えるまでは。

 

出久の前に辿り着き、肩に手を置いた。

 

「緑谷・・・・・・ありがと、な・・・・・・」

 

その手を掴んで頭上に掲げた所で意識が途切れ、出久が彼を抱き止めた。

 

「僕こそ、ありがとう。轟君。」

 

「轟君、行動不能!三回戦進出、緑谷君!」

 

『決まったぁ――――――!試合開始から二十四分三十八秒!大決戦の末、軍配が上がるは、緑の龍戦士!!緑谷出久だぁ―――――――――!!』

 

『出久、平気か?100%を初めて使ったようだが。』

 

「・・・・・めっっっっちゃ痛い・・・・・治癒、頼める?」

 

『ああ。リカバリーガールにも診てもらうぞ。』

 

「よろしく。」

 




ふぃ~~・・・・・疲れた・・・・・


緑谷出久のSMASH File

ONE-TWO SMASH:名前の通りの基本に徹したシンプル故に使い勝手が良く強力なボクシングの基本コンボ。

KOPIS SMASH:グラディエータースタイルから放つ手刀及び背刀。スパルタ人が使った片手剣のコピスから。

次回、File 34:優しさから始まるPower

SEE YOU NEXT GAME......

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