龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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お待たせいたしました、飯田戦です!!

昨夜、自称神がプリント入りシャツとピンクのブレザーとおしゃれな帽子をかぶって消しゴムハンコや俳句で特待生になる番組があって驚いた件。

私に出来ない事など・・・・・ないのだぁあああああああああ

とか内心あのぶっ飛びボイスで言っていたと勝手に想像しちゃいました。

ならこの天気と湿度を何とかしろよ、神(無理)


File 35: 不屈のEngine Running Gear

軽い。全身が。別にパワーアンクルやウェイトリストを付けていたのを外したからではない。ただ、軽い。心が。

 

「出久、お前は尊敬に値する男だ。」

 

「な、どうしたの突然?」

 

「俺の本音だ。爆豪の悪意に対して暴力で応えると言う己の道を選び、その過程でお前はワン・フォー・オールを返そうとした。人としての正しさを選んでも自分なりにヒーローとして正しい筋を自分なりに通そうとした。だから尊敬に値すると言っている。素直に受け取れ。」

 

「ありがと・・・」

 

照れくさそうに目を伏せ、観客席に戻って行った。そして戻る途中で芦戸と鉢合わせた。手にはスポーツドリンクが入ったペットボトルを持っている。

 

「あ、芦戸さん・・・・」

 

「緑谷、お帰り~!凄かったじゃーん、轟に本気出させるなんてさ!」

 

「ああ、うん・・・・・あれ結構行き当たりばったりだったんだよね、実は。」

 

「嘘だぁ~、緑谷作戦立てるの上手いじゃん。絶対狙ってたでしょ?」

 

「狙ってないって。」

 

「あ、それはそうと、はいこれ。賭けの負け分・・・・・って手がそんなんじゃ開けるの無理か。」

 

別に平気だと言おうとした所で彼女がボトルのキャップを外して差し出した。出久は素直にそれを受け取り、一気に飲み干す。程よく冷えたスポーツドリンクが染み渡った。考えてみるとあの戦いの後は水分を一切摂取していない。電解質を豊富に含むこの銘柄のスポーツドリンクは、疲労回復にはうってつけだ。

 

「ふぅ・・・・芦戸さん、ありがと。」

 

「いいよ。お礼言うのはこっちだし。レクリエーションの飛び入り参加で誘ってくれたでしょ?しかも自分が脇役に徹して活躍の場、作ってくれたじゃん。常闇に負けちゃったからもう見せ場無いし。だからありがとう、緑谷。」

 

差し出された掌が自分を向いている。もう意味を知っている出久は、反射的に彼女とハイタッチを交わし、やはりまた指を絡ませられた。

 

「え、あの、ちょ・・・・・どどどどどうしたの芦戸さん?」

 

手を何度も、それも異性ににぎにぎとされる感触に慣れない出久は普段の数倍どもった。顔が炉に突っ込まれた鉄塊の様に真っ赤に、熱くなった。

 

「ん、いや、なんか分かんないけど、コレ安心する。」

 

「いい雰囲気な所を邪魔して済まないが、残りの試合を観戦しないか?逢引きなら体育祭が終わった後でいくらでもさせてやる。」

 

「あ、あいびっ・・・・!?」

 

「ちちち違うから!全然そんなんじゃないから!お礼だから!お礼!」

 

何とでも言うがいいとばかりにグラファイトは肩をすくめて小さく鼻で笑った。

 

観客席に芦戸と戻りながら出久は既に脳をフル回転させていた。彼女の試合が終わったという事は、飯田vs塩崎の試合も決着が既についたという事になる。勝ったのは十中八九飯田だろう。彼には初見殺しのレシプロバーストがある。彼の足なら約十秒ギリギリで場外に押し出せる。となると、準決勝の相手が彼という事だ。

 

残る試合は丁度始まった爆豪vs切島。これも鉄哲戦同様、気力とスタミナの耐久勝負になる。

 

「出久。」

 

「うん・・・・・切島君、速く決めないとまずいね。全身、一部と自在に肉体を硬化が可能な彼にはそのシンプルさが肌に合っているから扱いやすい。防御面では問題無いけど、彼の硬化の持続時間が明確な弱点になってる。長時間腹筋に力を入れている状態と同じで時間が経てば経つ程、綻びが出やすい。」

 

「加えて分かっているとは言えスロースターターの爆豪は厄介だ。」

 

屋内では制限されるが、ここは野外。存分に爆破の『個性』を振るえる。そして彼は手の汗腺からニトロに似た物質を分泌することによって使える。つまり汗をかけばかくほど、切島が粘れば粘る程威力が上昇するのだ。

 

加えて機動力、リーチの明確な差がある。それこそ飯田並に身軽なフットワークを身に付けていない限り、爆破で飛び回れる爆豪に攻撃を加えるのは不可能に近い。後はクロスカウンターで切って落とす手もあるが、切島はまだそれだけのテクニックがあるとは言えない。

 

あの不器用なまでに真っ直ぐな戦い方で分かる。距離を放し、相手には打たせずコツコツ当てて行く堅実なタイプじゃない。足の使い方でも分かる。殆どベタ足だ。彼は足を止めて打ち合い、ガンガン距離を詰めて気迫とパワーで圧倒するこてこてのインファイターだ。ボクシングの技以外に硬化して威力を増した格闘技、それこそムエタイの首相撲、肘、膝蹴りなどでバリエーションを持たせれば更に強くなれるだろう。

 

「出久、爆豪だが、どう倒す?」

 

「二対一に持ち込んだ状態で視界と機動力をじっくり削いでからトータルゼロスタイルで行く。」

 

オールマイトの後押し。そして母の後押し。一度倒すと決めている以上、もう迷う訳には行かない。もうぶれる訳には行かない。徹底的に、完膚なきまでの勝利で後塵を拝してもらう。

 

「ほう?あれを使う決心を固めたか。」

 

「決勝戦だけね。でも、使うよ。」

 

「了解した。」

 

断続的に続く爆発音がようやく収まり、出久、飯田、常闇、そして爆豪でベスト4が決まった。

 

「あまり休憩は取れなかったが、行けるか?」

 

「うん、大丈夫。飯田君の対策も考えてあるから。」

 

「そうか、なら任せる。俺も少しばかり回復の時間が欲しい。変身するなら止めはせんがな。」

 

試合開始直前までは湿布も氷嚢も外さないが、右腕の調子も大分戻って来ている。

 

「多分だけど、大丈夫。フルカウルを使う時、いつもは全身に巡らせてるけど、一つ思ったんだ。ストックする力にも種類があるんじゃないかって。脚力、腕力、握力、走力と言った物理的な力じゃない力も。例えば、内臓。それこそ脳に使ったらどうなるか、とかね。」

 

「ほう?」

 

興味をそそられたグラファイトの笑みは深まった。

 

「では、向かいながら詳しく聞こうではないか。」

 

「うん。」

 

「デク君、頑張って!!」

 

「ありがと、麗日さん。」

 

手を振って軽く走りながらステージの入口へと向かう。並走しながら会話を続けた。

 

「で?大体想像はつくが、脳に力を集中させるとはどういう事だ?」

 

「脳は肉体の全てを操っている、いわば司令塔。そこに力を集中させれば、五感の感度が上がる。反応速度も上がる。頭の回転も加速する。それにもしかしたら脳波の種類も、アドレナリン、エンドルフィンの様な脳内麻薬も操れるかもしれない。」

 

「なるほど、フィジカルではない方面のブーストか。確かに、搦め手の『個性』を持つ相手や知能犯などには持って来いだな。だが、許容上限が分からん以上、俺もあまりカバーのしようが無い。カバーし過ぎれば力は半減する反面、足りなければ脳の過剰使用で後遺症を残す可能性が高まる。そうなれば、単純な体組織を再生するのとはわけが違う。普段より一層時間がかかるぞ。最悪の場合は治らんかもしれん。」

 

「大丈夫。実は体育祭が始まる随分前からやってたんだ。脳へのブーストが安全に出来るのは5%だけ。使うのも一日三分間って決めてる。」

 

「お前いつの間に・・・・・!?」

 

「グラファイトだって週末とかは良く一人で出かけて色々やってるでしょ、知ってるんだよ?僕だってただ休んでるだけじゃないんだから。ガシャットだけじゃ強くはなれないし。」

 

それを聞き、グラファイトは不敵な笑みを浮かべながら首を振って出久に感染して姿を消した。全く、四年前までは泣き虫の鼻たれ小僧だった奴が良くもここまで成長した物だ。

 

この感慨深さ、もしや親心と言う物なのだろうか?

 

『準決勝第一試合!ここまで勝ち上がってきた最強地味ボーイとエリートの対決だ!潤動するは、Fast & Furiousなエンジン野郎!ヒーロー科、飯田天哉VS深緑のファイター!ヒーロー科、緑谷出久!』

 

「遂にここまで来たな、緑谷君。」

 

「お互いに、ね。」

 

どちらもにこりともしない。

 

「あの時も言ったが、僕は君に勝つ。勝って、一番になって、兄さんに報告する。」

 

「僕も勝ちは譲れない。どう転んでも、恨みっこなしだよ?」

 

『STAAAAART!!!』

 

「勿論!!」

 

しかし開始の合図が出ても、飯田は動かなかった。動けなかった。どう攻めれば良い?

 

考えていなかった訳ではない。むしろ出久に勝つ事が優先順位としては高かった。攻略の為に彼の試合は全て注意深く見て来た。だが分からない。技が、戦略が、あまりに多岐に渡り過ぎている。だが、足踏みした所で前には進まない。今は前進あるのみ。一速、二速、三速と出久に最初に教えられた通り歩数をスイッチとして速度を上げ、突撃した。

 

距離は残り十歩。

 

「トルクオーバー・・・・・レシプロバーストォッ!!」

 

リスクありきとは言え現在自分が出せる最高速度はこれでしか出せない。出久は依然として動かず、じっと飯田を見つめたままだ。

 

九秒。まだ動かない。

 

八秒。動かない。

 

七秒。まだ。

 

六秒に縮まった所で出久は動いたが、避ける訳でも守りを固める訳でもなく、その場に正座をしたのだ。両手もきっちり太腿の上に置かれている。不意に嫌な何かが過り、飯田の拳が鈍ったが、その瞬間後方に吹っ飛ばされた。

 

何が、起きた?

 

グニャグニャして瞬きの都度瞼の裏で星が飛び交う視界の中、出久の姿が辛うじて見える。左手を斜め上に、右拳を丁度中段の正拳突きをしたかのように胸の高さに突き出している。

 

何をされた?いつ間合いを詰めた?

 

レシプロバーストの制限時間が過ぎ、ふくらはぎのエギゾーストパイプから黒煙が立ち上る。出久が近づいて来るのが分かる。ゆっくりと歩いてきている。

 

立ち上がり、拳を固めた。考えつく限りの手技を織り交ぜ、蹴りも繰り出す。しかしどれも届かない。片手で払われ、間合いの外に逃げられ、虚しく空を切る。

 

飯田は小さい頃から格闘技はある程度習っている。グラファイトに指摘された手技もしっかりと意識した訓練を重ねた。しかし所詮は『個性』と言う土台ありきの物。出久は格闘技自体を己のバックボーンとし、その上で『個性』を補助に使っている。彼と比べれば自分の技の質は付け焼刃。俄仕込みと思われてもおかしくない程に練度が低く、稚拙だ。

 

彼の戦う様はヒーローではなく、戦士。そう、戦士だ。人々の平和以前に、純粋に勝利する為のあらゆる研鑽を積む、テルモピュライでレオニダス一世率いるスパルタ人の様な(つわもの)。自分とはその純度がまるで違う。

 

そんな彼を相手に勝てるのか?轟に本気を出させた上で勝った彼に、自分なんかが?

 

その迷いが、命取りとなった。飯田が繰り出した右ストレートをいなして腕を掴み、更に奥へと出久は引き込む。そのまま後ろに倒れて、飯田の勢いを利用した巴投げで場外ラインぎりぎりまで投げ飛ばした。

 

「どうしたの、飯田君?」

 

出久は呼びかける。不機嫌な表情で顔がゆがんでいる。

 

「倒すんでしょ?僕を。そんな及び腰じゃ、僕には蹴りも拳も届かない。」

 

レシプロバーストでまだエンジンがストールしている。しかし出久が距離を詰めるスピードは変わらない。少し早めに歩いているだけだ。まるで回復を待っているかのように。

 

残り一メートルの距離を詰め、右ストレート。当たりはしなかったものの、飯田の眼鏡を吹っ飛ばし、フレームとレンズを砕いた。打ち終わりを狙い、飯田も反撃して得意の蹴りを繰り出した。『個性』がまだ使用不能な状態にあるが、それでも鍛え上げた足腰から繰り出される捻りを利かせた蹴りは十分強い。

 

が、出久は肘で顔の側面を、膝で脇腹をガードして受け止めた。顔を顰めはしたが、一歩も引いていない。身長、体格、総合的な筋肉量で上回る威力の蹴りを顔色一つ変えずに止めたのだ。そのまま足を掴み、全体重をかけて捻る。屋内対人戦闘訓練で見せたワニのデスロールが如き回転に飯田は地面に叩きつけられた。

 

再び数歩下がり、飯田が立ち上がるのを待つ。

 

迷い故の弱さがありありと見える。迷い故のスタンスのミスが、見える。

 

それがたまらなく歯痒い。狂おしいほどにイラつきを加速させる。過去の自分が、見えるのだ。夢はあってもそれを叶えるだけの力を付けようとする事をしなかったあの時の自分が。

 

立て。立ち上がれ。立って戦え。戦え。戦え。誰もがその為に、ここにいる。自分の成長を見せる為に。強くなったと証明する為に。

 

ようやくエンジンストールが直ったらしく、飯田が本来のスピードを取り戻した。歯を食い縛り、必死に食らいついて来た。

 

エンジンを生かした素早い踏み込みで繰り出すボクシングスタイルのパンチ。当たらない。

 

エンジンの出力を上げながら繰り出される多種多様な重い蹴り。届かない。

 

手を出せば当たる距離にいる筈なのに自分ばかりに拳が当たり、蹴りが入り、投げが決まる。自分の全てが、通じない。

 

こんなに遠い筈が無い。遠過ぎて勝てる実感すら沸かなくなった。否定と承認が心の中でせめぎ合う。視界が涙で霞んだ。それでも前に進まなければ。兎に角手を出し続ける。

 

『出久、いつまでやるつもりだ?ここで無駄に体力を消費した所でどうにもならん。飯田の今の力の底は見えた筈だ。こいつはお前とも轟とも違う毛色の人間だぞ、しがらみも禍根も無い。あっても小規模の物だった筈だ。どう足掻いてもこいつはお前に勝てないぞ。友を想う気持ちは立派だが、ここは勝負の場である事を忘れるな。』

 

そう、勝負の場。友人だろうと何だろうと、立ち塞がる以上は倒すべき敵同士なのだ。下手な情けをかけるなど、その聖域を汚す蛮行である。

 

出久は飯田を見つめた。疲労が色濃く表情に浮かんでいる。目元まで上げた拳が、踵を軽く浮かせた両足が、震えている。拳も蹴りも殆ど受け流すか空振りさせていたのだ、もうあの状態を保つのがやっとだろう。ローキックを浴び続けたせいでどちらの脚も青痣が出来ている。

 

「行くよ、飯田君。」

 

拳を固め直し、小さく呟いた。

 

ワンツー。フックからの右ストレート。リバーブロー。顎が空いた所で止めのフック三連打。そして、右回し蹴り。

 

「DECURIO SMASH・・・・」

 

拳の九連コンボがクリーンヒットし、飯田は意識を刈り取られた。

 




緑谷出久のSMASH File

DECURIO SMASH:パンチとキックの九連コンボで組み合わせは自在に変えられる。由来は古代ローマ軍の歩兵八人を指揮する者の階級。

次回、File 36: 脅威と驚異のTotal Zero

SEE YOU NEXT GAME........
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