龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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あっつい・・・・・皆さんも熱中症、脱水症状、日射病等々の夏特有の症状に気を付けて夏を過ごしてください。


File 38: Great Teacher 緑谷

始めて友達が、それも五人も家に遊びに来たと言う事実に直面した母親を現実に引き戻すのにかなり時間がかかってしまったが、とりあえずケーキを切り分け、お茶をこぼさずに運ぶぐらいには落ち着かせる事に成功した。

 

「あ~・・・・・シャルモンのケーキ美味ぇ~~」

 

うっとりしながら一口一口を砂藤が噛み締めながら感慨深く呟いた。

 

「良くあの店のレアチーズケーキワンホールを手に入れましたわね。シャルモンのオーナーは気難しさと徹底されたプロフェッショナリズムで知られていますのよ?」

 

「グラファイトが仲いいんだ。僕もなんかインスピレーションを湧き立たせてくれるって言ってたまに新作の試食とかさせてくれて。」

 

「何それ羨ましい!!」

 

ワイワイと談笑しながらおやつを食べながら、出久が一番気になっている事を切り出した。

 

「と、ところで、皆どうしたの?昨日体育祭が終わったばっかりだし、てっきり家でゆっくりしてるかと思ったんだけど。」

 

「ん~、まあゆっくりはしてたけど、緑谷や轟、後爆豪程ダメージ深刻じゃないからね。今後の参考の為にチャンピオンにアドバイス貰っとこーかなーと思って何人か誘ったんだ。」

 

やはりピンクな彼女の差し金かと、出久は困ったような笑ったような表情を浮かべた。

 

「それに緑谷が外出たら人が群がって大変な事になるから、こっちまで来たってわけ。」

 

「チャンピオンて、やめてよ恥ずかしい・・・・・ってアドバイス?僕に?」

 

「ええ。緑谷さんの戦術は、私達とは違って『個性』ありきの物ではありませんもの。『個性』をあくまでも手段の一つとしか捉えていない。なればこそ、『個性』という枠組みに囚われない柔軟な発想が出来る。差支えなければその知恵を少しでも分けて頂ければと思いまして。」

 

なるほど。他の皆は確かに『個性』を使わなければ満足なヒーロー活動は出来ない。それに比べて出久は陸上自衛隊レンジャー候補生並みの訓練をしている(というかさせられている)。『個性』を使わなくとも余程の大物でない限りは環境を利用して勝てると言う自信もある。

 

「それは別にいいけど、皆自分が『個性』も含めて何を伸ばすべきかとか改善必須な点は分かってるの?」

 

自力で答えを見つけさせ、その上で意味を理解しなければ意味は無い。身に染みて学んだ事だ。分からなければ自分が言った所で成長はしない。

 

「やっぱり近距離での戦いと、出せる酸の量に限りがある事かな?酸が利かない相手とか泥沼化したりとか。」

 

「反応速度と、やっぱ近づかれたらまずいってのがある。街中みたいにテープ巻きつけられる所があった方が機動力上がるけど、体育祭のステージみてえに何もねえと轟にやられたみたく一撃ブッパで負けちまうし。俺の場合基本テープで拘束してから攻撃に繋げる相澤先生と同じ奇襲アンド短期決戦て感じだけど、決定打に欠ける。」

 

「俺はやっぱ機動力と硬化の持続時間だな。緑谷が言ってたみたいに不規則にスピード変えて走ったりしてるんだけど全身ガチガチになったら飛んだり跳ねたりとか出来ねえし、爆豪にやられた時みたく連続でドカドカぶちかまされたら綻んじまう。」

 

「あ、持続時間で言えば俺もだな。シュガードープって時間制限があるから、どうしても短期決戦型になっちまうんだ。それに連続使用だと頭パーになっちまうから許容上限の底上げも必要か。」

 

「私は・・・・・やはり、創造のスピードと何事もまず頭で考えてしまう所、でしょうか?」

 

次々と自分の問題点を挙げて行く皆の言葉をどこからか取り出したメモ用紙に書き留め、ちょっと待っていてくれと部屋に戻り、五人分のノートを持って帰った。

 

「元々ヒーローの研究とか小さい頃から一杯してるから、雄英の先生やクラス皆のノートもあるんだ。」

 

「一人一冊びっしりかよ‥‥すげえなおい・・・・トレーニングメニューまで。しかも絵、上手っ!?」

 

「同感ですわね。素晴らしいスキルをお持ちです。」

 

「なんか、優勝出来たのも頷けるよなあコレ見てると。『個性』から性格まで全部丸裸にされたって感じでちと怖ぇけど。」

 

「でもありがと、緑谷!これ凄いよ!」

 

「八百万さん、僕の戦い方は『個性』ありきの戦術じゃないって言ったけど、格闘技の経験が無い訳じゃないでしょ?」

 

「五歳になった頃から父に稽古をつけて頂いていますわ。」

 

「さっすがヤオモモお嬢様、スケールが違う!」

 

八百万の背中をポンポン叩きながら芦戸が笑った。

 

「でも格闘技かぁ・・・・・確かにやってねえな・・・・」

 

「俺も本読んで参考にしてるって程度で実際習ったりした事ねえからな。」

 

「同じく・・・・」

 

瀬呂、切島、砂藤は気まずそうに俯いたり、顔を背けた。

 

「やっぱりやってると違いってあるのか?こう、やり易くなるとか。」

 

「あるよ。動体視力や筋肉のしなやかさ、全身の柔軟性には繋がるね。『個性』抜きの戦闘で自分の得意分野、弱点、相手に合わせてスタイルを崩さずにどう対応するかとか。後、一番大事な効率的な体力の使い方。皆は『個性』発動の限界値があるでしょ?そこに達する程の長期戦だって将来出て来るかもしれないから覚えておいて損は絶対無い。極めるのに時間はかかるけど。尾白君が良い例かな。空手や日本拳法をやってるみたいだけど、単純な殴り合いだったら尻尾を使わなくても彼は間違いなく強い。動きもほとんど無駄が無いし。」

 

「じゃあ俺らに合う格闘技ってあるのか?」

 

瀬呂の言葉に出久は首をかしげたが、八百万が即座に返答した。

 

「合う、合わないは体格や性格、そして『個性』によって大きく左右されます。例えば私は単純な腕力で言えば皆さんに劣るので、素手の場合は柔術や合気道などの組み技、投げ技、固め技を重点的に使いますわ。打撃系は出来なくはありませんが、間違い無く攻撃が効く事と当てられる自信がある時以外は『個性』で武器を創造して当てるか回避します。」

 

「そうだねぇ・・・・三人に合う・・・・・一つだけとは限らないんだよなあ、これ。ん~~・・・・」

 

格闘技と言っても技や理念、単純な相性など、考慮すべき要素は様々ある。いくらデータがあるからと言ってそれが彼らの全てではない。遠い未来に開花するヒーロー活動に応用が利く別の才能だって眠っているかもしれないのだ。それを自分の考え一つで型に嵌めてしまうのは逆に成長の妨げになるような気がして憚られる。何と言えばいいか分からず、出久は頭を抱えた。

 

「ま、まあ緑谷、そこまで真剣に悩まなくても・・・・」

 

「そうだぜ、頼りっぱなしは男らしくねえ!俺らで出来る事は俺らでやるから、そう気にすんなよ。な?」

 

しかし出久は食い下がった。自分を頼りに来た以上、その期待には出来る限り応えなければいけない。

 

「いや、ここまで来た以上ノートを渡して後は自分でって言うのは無責任な気がする。せめて自分のスタイルのヒントだけでも持ち帰って貰わないと。近くに公園があるから、そこに行こう。」

 

口で説明したり、映像を見せるよりは実際に体験した方が分かり易い。

 

 

 

 

出久の案内を受けて辿り着いた公園の遊具は多少さびれており、あまり手入れもされていない。鉄棒やブランコ、小さなジャングルジム程度だ。奥の右端には日除けの為の屋根に覆われたベンチと水道の蛇口がある。

 

「ここでどうするんだ?」

 

「格闘技って言っても色々あるから、まずはどんな物が良いか、今の自分に『個性』以外の足りない要素を体で覚えた所で考えた方が早いと思うんだ。誰からやる?」

 

「えと・・・じゃあ、俺から。」

 

瀬呂がおずおず手を挙げて前に出た。

 

「怖がらなくても寸止めでしか当てないから。」

 

「いや寸止めでも昨日のアレ見てたら十分怖ぇわ・・・・」

 

「じゃとりあえず始めようか。」

 

肩を軽く回し、ゆらり、ゆらりと左右に体を揺らしながら膝を曲げ始めたが、慌ててその動きを止める。代わりに首を竦めて目の高さまで拳を持っていき、左足でトン、トン、と規則正しいリズムで地面を軽く蹴り始めた。

 

瀬呂も一応構えらしい構えは取っているがやはり中途半端だ。足は肩幅に開いて拳もしっかり顔面をガードしている。だが脇を完全に閉めていない上に顎を引いていない。

 

「行くよ。」

 

拳を開き、開手で距離を詰める。パンチはしっかり腰を捻った物を入れているし、180cm弱の身長に見合ったリーチは背丈が低めの出久にはやりにくい。蹴りもそこそこ強い。

 

だがそれだけだ。やはり『個性』頼りの戦い方が染みついているのか、反撃が甘い上に雑だ。テレフォンパンチが多くなってきている。拳や蹴りを繊細なフットワークと軽快なヘッドスリップで潜り抜けて近づき、リバー、顎に左右の掌底、更にクリンチからの膝蹴り三連発、とどめに飛びつき三角締めを食らって終わった。

 

「っか~~、緑谷速ぇわ。手が全っ然見えねえ・・・・」

 

「瀬呂君は手足が長いし、拘束系の『個性』持ちだからそれを活かせる物が良いね。打たせず打ちまくって弱った所を関節技か投げをドーン、が定石になる。構えはチューリップガードになってたからそこは絶対直して。脇を閉めないとさっきみたいに肝臓と顎を狙われるから気を付けて。」

 

「お、おう、サンキューな。」

 

「よし、どんどん行こう。次は?」

 

「では、私が参ります。」

 

勇み足で八百万が進み出た。

 

「おおー、やったれヤオモモー!!」

 

八百万は両手を開いた構えで、出久のトータルゼロスタイルのように動かしはしないが、明らかにやり慣れているのが見て取れる。出久は再び体を揺らし始め、不規則に手を動かし始めた。

 

いけない、まただ。不意に動きを止めた所で八百万に腕を掴まれた。咄嗟に反応して肩を回し、その力の波を伝えながら上へ、そして急激に下へ引っ張った。

 

「えっ!?」

 

急発進した車に腕を引っ張られたかのように八百万のバランスが一気に崩れ、前のめりに倒れ込んだが、鳩尾へ軽い鉄拳打ちが入り、顔面すれすれで掌底が止まる。

 

「あ、ごめん!ちょっと力入っちゃって…・腕大丈夫!?」

 

「はい、これぐらいはすぐに治りますわ。お気遣い無く。それで、どこですか?私はどこをどう改善すればいいのでしょうか?」

 

「・・・・八百万さんは、ちょっと焦り過ぎかな。積極性は勿論必要だけど、あくまで相手の手の内を晒させる撒き餌としてだけだから、匙加減にだけ気を付けて。僕と同じ理詰めで相手を守勢に回らせるタイプだから、連携でもしていない限りガンガン前に出過ぎると持ち味を自分から崩す事になる。」

 

「分かりました。しかと参考にさせて頂きます。このノートも。」

 

「肩の事、ホンットごめん!」

 

心配しなくていいと八百万は出久の必死の謝る姿に苦笑した。

 

「っしゃあ、次は俺が行くぜ。」

 

やる気十分と拳を握り締めた砂藤が出久の前に立つ。身長が185cmある彼の前に立つ166cmの出久は、まるで格闘技の無差別階級(パウンド・フォー・パウンド)試合に臨む選手に見えた。

 

砂藤がレスリングで使う低い構えを取るのに対して、出久は格闘技の構えらしい構えは取らなかった。ヒグマが後ろ足で立ち上がって両手を広げて敵を威嚇する様を彷彿させるスタンスを保ったまま距離を一歩、二歩と縮めて行く。

 

腕一本分の距離に届いた所で出久は足を止め、砂藤を凝視し、時折己の右手、左手に視線を移す。

 

そもそも出久程の経験を積んでいない砂藤もそれが罠なのか本命なのか判断出来ない。判断材料がゼロだ。出久の両手が動いた瞬間、彼も動いた。前に出ている左足を狙った、片足タックル。しかしそれよりも素早く巨大な癇癪玉が破裂するような大音が五人の耳を劈いた。

 

砂藤だけでなく、見ていた他の四人も何が起きたか分からなかった。突如凄い音がしたと思ったら、出久が彼をスリーパーホールドでがっちり捕縛していた。

 

「な、え・・・?」

 

「・・・・・や、八百万。あれ、見えたか?」

 

「いえ、私も何も・・・・!」

 

「凄い音がしたけど・・・・」

 

「今のはクラップスタナーって言う奴。別名猫だまし。砂藤君は馬力があるし、度胸もある。開き直っちゃえばどんどん前に出るハートがあるから、後は技術と戦術眼だね。フェイントとかさっきみたいに何らかの形で意表を突く方法を見つければ短期決戦で有利に立ち回れる。」

 

「お、おう・・・・」

 

「残るは切島君と芦戸さんだね。どっちから行く?」

 

「ん~~・・・・んじゃ、レディーファーストっつーことで。」

 

「やたっ!んじゃ、行くよ。」

 

芦戸は出久の様に体を左右に揺らしてはいるが、フットワークが違う。動画で見たカポエラの基本、ジンガで出方を窺っているが、手は顔の下半分で揺らし、手足の動かすスピードも時折バラつかせている。

 

そしてジャブ。

 

「おっ?」

 

更にジャブ連打。

 

「おっ、おっ?」

 

二連続ワンツー。

 

「おお、おお、おお!」

 

細かいステップで立ち位置を変えながら芦戸は愚直にワンツーを繰り返すが、鮮やかなヘッドスリップとダッキングで躱した所でボディーへと打点を変えたワンツーが飛んでくるがこちらは手で払う。更に体勢を低くした所で下から顎を蹴り上げんとするコンバースが飛んでくるのが見えて後ろに頭を逸らし、バク転で躱して距離を取った。

 

凄い。パンチは多少読みやすく、リズムが一本調子になっている節があるが、更に低く体勢を下げた所でロックダンスのしゃがんだ状態から後ろに倒れて片足を頭上に振り上げる技――シフトを流用した蹴りが飛んで来たのは予想外だった。重心移動がかなり重要なファクターとなるダンスをこうも簡単に活かしてくるとは。

 

「今のは、凄く良かった。」

 

「良くはないでしょ、当たんなかったんだから。悔しー・・・・」

 

当たったら当たったで軽く失神ぐらいはしていた筈だ。足の使い方が巧い彼女の蹴りをまともに食らえば、『個性』なしだとただでは済まない。酸を纏った蹴りも想定してみたが、質が悪い事この上ない。当たれば下顎の筋肉組織が煮込み過ぎたロールキャベツの様になってしまうのだから。

 

「でも、手技の基本のワンツーはそこそこいい線は行ってると思うよ。技とは何かって言う哲学的な問題の答えを体で知っているから、体で覚えられる事は大抵出来るみたいだし。後はリズムをこまめに変えてモーションを盗まれない様にする事に気を付けて。一本調子になったらどんな攻撃だろうと、いくら速くても対応されるのは時間の問題だから。後は手技のバリエーションだけど、そこはノート読んで。」

 

「オッケ、ありがと・・・って緑谷、鼻!」

 

「え?あれ?」

 

距離を測り間違えて鼻先を掠ったらしく、軽く指先で鼻に触れると生暖かい血が鼻腔から垂れていた。さっきの蹴りの爪先が鼻を掠ったのだろう。唇に垂れた血を舌で舐め取り、残りを指先で拭き取って蛇口で顔も一緒に洗った。

 

「緑谷、大丈夫か?!結構出てたぞ?」

 

「これぐらいだったら大した事無いよ。グラファイトの右ストレート、ガードの上からでも鼻潰された事があるんだ。その日は黒いシャツ着てたから汚れとかは目立たなかったけど。あれに比べたら大した事無い。威力は間違いなくあったけど。さてと、最後は切島君だね。お待たせ。」

 

「ほんとに大丈夫なのか・・・・・?」

 

「来ないなら僕から行くよ。」

 

再び開いた手で構えを取った。重心は高く、軽く差し出した右掌の肘関節辺りにもう一方の開いた手を胸の高さで添えたまま出久は狭い歩幅で距離を詰めた。腰の捻りと上腕三頭筋を使う正中線から繰り出される素早く途切れを知らぬ正確な拳は鑿で木材を削る様に丁寧に切島のガードを潰していく。繰り出す拳は肘の先端や手首で弾いては手技を丁寧に当てて行く。突き放そうと拳を振るっても腕を掴まれて引き寄せられては更に攻撃を浴びせられる。

 

「瀬呂の言う通り速ぇなぁ・・・・・しかも当たらねえし・・・・柳の枝殴ろうとしてる見てぇだ。」

 

「切島君も砂藤君と同じで『個性』を使うと時間が経てば経つ程不利になるから同じように意表を突く方法を発見すれば短期決戦能力を底上げ出来ると思う。持続時間は、地道に伸ばしていくしかないけど・・・・」

 

「いや、でもなんか見えて来た気がするぜ。誘いに乗って正解だった。ありがとな緑谷!」

 

「ううん、こっちこそありがとう。休みの日にわざわざ来てくれて。じゃあ、最後に皆に一つ僕の質問に答えて欲しいんだ。決勝戦の僕のあの戦い方、怖かった?」

 




次回、File 39: Teach me! 強者の器

SEE YOU NEXT GAME........
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