龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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あともう何話か書いて行きます。最早短編が短編になってねえけど。


File 04: 救いのRight Fist

「えー、皆も三年という事でそろそろ本格的に進路を考えていく時期だ。今から進路希望のプリントを配るが、」と真剣な顔つきで進路希望のプリントの束を掴み上げ、笑顔と共に上空に投げ上げた。

 

「皆大体ヒーロー科志望だよね?」

 

どっと教室が歓声で湧く。そしてクラスの生徒全員が自らの『個性』を発動していた。

 

「うんうん、皆良い個性だ。けど学校で使うのは原則禁止な?」

 

「せんせー。皆とか一緒くたにすんなよ。」

 

自分の机に足を乗せている生徒の一人、爆豪勝己が鼻で笑いながら声をあげた。

 

「俺はこんな没個性供と仲良く底辺なんざ行かねーよ。」

 

不遜な物言いに抗議とブーイングの嵐が巻き起こったが、それも教師の次の言葉であっという間に鎮火した。

 

「ああ、そういえば爆豪は雄英志望だったな。」

 

それを聞き、クラスは騒然となった。国立雄英高等学校は社会の花形であるヒーローの卵を育てる最高峰の教育機関であり、偏差値は75、倍率は毎年300前後という難関校の中でも更に一握りの人間しか入る事が出来ない。

 

「そのザワザワがモブたる所以だ。模試じゃA判定、俺はうち唯一の雄英圏内。あのオールマイトをも超えて俺はトップヒーローとなり、必ずやトップ納税者ランキングに名を刻むのだ!」

 

しかしヒートアップした爆豪に担任の次の言葉が冷や水を差した。

 

「そういや、緑谷も雄英志望だったな。」

 

数秒の沈黙の後、教室は爆笑の嵐に包まれた。出久が『無個性』であるという事は周知の事実であり、出久自身もグラファイトという心強い味方と彼の能力を『個性』として使える事と、『個性』も発現して模試もA判定を貰った事を敢えて伏せていた。勿論これはグラファイトの計画の一部である。

 

「はい。」

 

「おいコラデクゥ!」

 

爆発を伴った掌が出久の机に叩き付けられた。

 

「没個性どころか『無個性』のお前が、なんで俺と同じ土俵に立てるんだ、あぁ?!」

 

しかし出久はその恫喝に怯えるどころかむしろ焦げ臭い匂いに顔をしかめただけだった。

 

「僕がいつどの学校で入試を受けようと、かっちゃんにも、当然この教室の誰にも、関係無い。」

 

静かに、しかしはっきりと反論され、爆豪の怒りのボルテージは更に上っていく。

 

「『無個性』のてめえに何が出来るってんだ、あぁん!?」

 

俯いて出久が口を噤むのを予期していたのか、グラファイトはあっと言う間に体のコントロールと人格を掌握してしまい、出久はただ見るしかなかった。

 

 

 

 

「出久。一つ打ち明けなければならない事がある。」

 

「え、何?」

 

初めてのスパーリングで失神してしばらく経ってからグラファイトはある事を打ち明けた。出久に感染して、尚且つ肉体の感覚を共有している最中に彼の今までの記憶が見えてしまった事を。

 

「あ・・・・そう、なんだ・・・・」

 

「お前はあの爆豪勝己とは幼少の頃からの付き合いだそうだが‥‥何故お前は奴との交流を続ける?」

 

「何故って・・・・そりゃ、家がそこそこ近いし・・・・かっちゃんのお母さんも僕のお母さんと仲いいし・・・」

 

「それに、お前は奴に十年近く虐げられ続けた。『無個性』だからという自分に降りかかってもおかしくない偶然を理由に。『個性』持ちが世界人口の八割のこの世界でいうなれば、『無個性』は身体障害者。それを嘲るなど、俺が最も唾棄する性格の持ち主だ。」

 

「で、でも!かっちゃんはそれでも尊敬してるんだ!スポーツだって勉強だって何でもできて、あの『個性』も考えれば応用の幅は広いんだよ!もしヒーローになったら、とんでもなく強くなれる!」

 

尊敬。グラファイトは我が耳を疑った。彼は今尊敬と言ったのか?今まで自分が戦ってきた相手はクロノスのような規格外の格上もいたがエグゼイド、ブレイブ、スナイプ、レーザーといった格下でも敢然と自分に立ち向かって来て、負けても更なる力をつけて自分を打ち破った者ばかりだ。そういった相手は敬意を表するに値する。だが、ただ単に無力だからと自分を今まで踏みつけてきた相手など、憎みこそすれ尊敬の念を抱くなどとんでもなかった。

 

「奴がヒーロー?テロリストの間違いだろう?あんな能力では人や物を粉々に吹き飛ばし、焼き尽くし、音と光で後遺症を残すだけだ。破壊と恐怖しか生まない能力が、他人を虐げて生きてきた人間が、一体どうやって人を守る?人を救う?」

 

「そうだけど!かっちゃんは!」

 

「俺には分からない。何故庇い続ける!?自分を傷つけた相手を!悔しくないのか?いや、悔しい筈だ!お前はいうなれば友と思っていた相手に裏切られたも同然。記憶と共にお前が感じた感情も俺は全て感じた!お前は間違いなく憤っていた!悔しかった!せめて一度は見返してやりたいと思っていた!」

 

「違う!見返すだなんてそんな事は―――」

 

「何が悪い?見返してやりたいと思って何が悪い?!怒りを覚えて何が悪い?!ヒーローは人を救う者だが、ヒーローとて所詮感情を持つ生き物!喜怒哀楽全てが揃ってこその人間だ!さあ、怒れ。泣け。悔しがれ!全てを俺にぶつけろ!」

 

何が来ようと受け切ってやるとばかりにグラファイトは両手を広げて手招きをした。

 

グラファイトの姿は、涙で曇って輪郭しか見えない。言いようのない胸を締め付ける痛みに出久は吠えた。吠えながら拳を振るい、学んだ技の全てをぶつけていった。しかしたとえ急所への攻撃だろうと、グラファイトは決して回避や防御の姿勢を見せず、ただただ受けた。引き倒されても立ち上がり、再び受け続ける。そして出久の顔を見て笑った。

 

泣いているのだ。出久と共に鍛えてきた間、グラファイトは彼を見る度に違和感を感じていた。鍛錬以外での表情の殆どが偽物なのだ。自分が出会う前からその偽りの表情作りに慣れているのか当初は気付く事は出来なかったが、ようやく看破する事が出来たのは床に就いた時だった。寝言を言いながら、出久は泣いていたのだ。

 

しかし起きている時は弱音など吐かず、前へ、とにかく前へ進もうと精進した。どれ程の悔しさや傷を負って今まで生きてきたのだろう。たとえ記憶を見て感情を共有することが出来たとしても、グラファイトは決して理解できないだろうと悟った。

 

そしてようやく全てを吐き出させる事に成功した。激しい感情を抱く事への抵抗を薄れさせ、溜め込んでいた物を出来る限り発散させれば、また一歩彼は強くなれる。

 

全てを出し切った出久は足腰が立たず、皮膚が裂けて血塗れになった拳を握る力すらもなくなってしまい、しゃくりあげながら目をこすった。

 

「少しは楽になっただろう?」

 

「う、うん・・・」

 

「己の激情を恐れるな。そして忘れるな。ヒーローが救う対象に己自身が含まれていなければ意味は無い。自分を救えない、いや救わない奴がヒーローなど片腹痛い。」

 

 

 

「『個性』なら、ある。」

 

「あ?」

 

おっかなびっくりの性格で緊張すると吃音症と間違えるほどよくどもる、草食動物のような少年の目つきが、顔つきが、纏う雰囲気が一変した。今まで見た事のない野獣の如き眼光に、爆豪を除く全員が息を飲んだ。

 

出久の全身から赤い電流がバチバチと迸り、二、三秒ですぐに収まった。

 

「かなりの時を要したが、しっかりとある。さあ、これで同じ土俵に立つという条件は満たした。俺の足を引っ張る暇があるのなら、雄英を受けて正々堂々入試で俺を叩き潰せばいい。するつもりもない奴は、黙っていろ。俺の運命は、俺が変える。」

 

張り詰めた静寂の中、再び席に着くとグラファイトは引っ込んだ。

 

爆豪は口答えする出久にいつものように制裁を加えようという気持ちをギリギリの所で抑え込んだ。教師がその場にいる手前、『個性』を使用した明確な敵意を持った攻撃は内申点に響くどころか雄英の入試そのものを一方的に打ち切られる可能性だってある。スタートラインに立つ前に躓く訳にはいかない。

 

狙うならば、放課後だ。

 

 

 

 

 

 

「話はまだ終わってねえぞ、デク。」

 

出久がリュックにしまおうとしたノートを奪い取りながら爆豪は睨みつけた。

 

「勝己、何それ?」

 

取り巻きの一人が尋ね、爆豪は無言でノートの表紙を見せた。

 

「は?将来の為のヒーロー分析?」

 

「マジか!?」

 

「良いだろ?返してよ!」

 

しかし、そういった直後、爆豪はそのノートを個性で黒焦げにし、更に教室の窓から投げ捨てた。

 

「一線級のトップヒーローはたいてい学生時代から逸話を残してる。俺はこの平凡な市立中学から唯一初めて雄英に進学するって箔をつけてぇのさ。まあ、完璧主義なわけよ。つー訳で、雄英受けんな、ナード君。」

 

出久の肩に置かれた手の隙間がプスプスと焦げ臭い煙を上げ始めたが、出久は即座にその手を振り払った。

 

「僕がどこを受けようがかっちゃんには関係ない。君の箔なんて、僕の知った事じゃない。それに、雄英に入る自信がそんなにあるなら、こんな脅しなんて初めから必要無い筈だよ。」

 

『来るぞ。』

 

爆豪の脇を通り過ぎて帰ろうとした所で後ろから爆豪の右手が迫ってきた。振り向きざま踏み込んだ出久は左腕で顔の側面をガードし、殴り返した。

 

パンチは受けた物と同じく右――大木を切り倒す斧のような右フックだった。喧嘩では全戦全勝で相手にもならなかった出久がよもや反撃してくるとは想像だにしていなかった爆豪は見事に顎をえぐられ、脳震盪を起こして膝をついた。意識こそ刈り取られてはいないが三半規管にも衝撃が及んだらしく、足の踏ん張りが利かずぐらりとよろめいた。

 

「一回は一回だよ、かっちゃん。君をかっちゃんと呼ぶのは、恐らく今日で最後にする。これは僕自身へのけじめだ。僕はもう君が知っている弱虫で泣き虫のデクじゃない。緑谷出久だよ。」

 

荷物を纏め終えた出久はそのまま後ずさる取り巻き二人の間を通り抜けて下校した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああ~~~~~~~~~やっちゃったぁ~~~~!!!とうとう殴っちゃったよ~~!」

 

しかし、通学路にある公園のベンチが目に入るや否や座り込んで頭を抱えた。今まで一度たりとも喧嘩で勝てなかったいじめられっ子が反撃したのだ。だがこれで済ませるほど爆豪が優しくない事は長い付き合いである為分かる。次に顔を合わせた時の報復がどうなるか。正直想像したくもない。

 

ぶつぶつと早口の小声で明日はどうやって切り抜けようか独り言ちていると、後頭部にグラファイトの平手を食らい、つんのめった。

 

「落ち着け、愚か者。たかが一発殴っただけだろう?」

 

「でもあの選択肢はずるいよ!一発本気で殴るかいじめられてる事を職員室で話してヒーローへの道を閉ざすなんて!」

 

「奴はそれだけの事をした。目を背けたところでしでかした事のツケは消えない事を思い知らせる必要があった。確か、天網恢恢疎にして漏らさず、と言い回しがある筈だ。なによりあれだけの年月虐げられて怯えるお前に告げ口はされないと高を括っている事が気に食わん。だがあれで思い知ったはずだ。お前が性根を入れ替え、やろうと思えば奴を抹殺する事が出来るという事を。」

 

トップ納税者ランキングに名を連ねる為にヒーローになるなど、我欲の権化にしか吐けない台詞だ。初めて見た時からグラファイトは爆豪が嫌いだったが、記憶を覗き、今までの交流から更に輪をかけて嫌悪するようになった。

 

「だが、お前が前者を選んでくれてよかったと思っている。圧制者を打ち倒すならば、己が手で打ち倒すが本懐。あれはいいパンチだった。どちらも選ばないなどとふざけた答えを出したら、俺がどちらもやっているところだ。」

 

「だろうね・・・・」

 

「それで、どうだった?初めて俺以外の奴を殴った感覚は?」

 

「手応えは凄くあったけど、でも・・・・なんか・・・・嫌だった。」

 

「そうか。」

 

「でも、ありがとう。」

 

「ん?」

 

「救う人達の中に自分が入っていなきゃ、ヒーローとは言えない。グラファイトは、僕に自分自身を()()()()意味を教えてくれて、そのきっかけをくれたから。だから、ありがとう。」

 

「俺は状況を作り出したまでのこと。己を救う一歩を踏み出したのは、まぎれもなくお前自身。故に礼など不要だ。雄英入試まであまり時が残されていない。分かっているな?」

 

「うん。今度はフェイントの使い方だっけ?」

 




SEE YOU NEXT GAME.....

次回、遭遇!THE ALMIGHTY!

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