龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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一部は久々に見直したFate/Zeroの聖杯問答を参考にしております。

そしていよいよステ様 On Stageです!


File 43: DANGER! DANGER! 緋色のキラー

「やれやれ、探すのが随分と手間がかかる男だな、お前は。ヒーロー殺しステイン。」

 

黄昏時の路地裏でぐったりしている血塗れのヒーローを見下ろす返り血を浴びた男を建物の屋上から見下ろし、グラファイトは声をかけた。

 

「ハァ・・・・・お前も、ヒーローか?」

 

ゆっくりと男は頭を上げ、グラファイトの姿を捉える。目元を覆う色あせた白いバンダナ越しに見える双眼は静かに、しかし激しく燃ゆる意志を灯しており、自然とグラファイトの口元を緩ませる。

 

本物の殺意。本物の闘気。そして断固たる決意。レベルはブレイブやスナイプにも比肩する。

 

「一応そうだ。だが、お前が思っている種類とは違う。」

 

「お前は・・・・・成程、確かにお前は粛清対象には該当するとは言えないな。そしてお前の使い手、緑谷出久。ヒーローを成すは『個性』に非ずというあの言葉・・・・・・奴も実に良い。ヒーローと認めるに相応しい。そんなお前が俺に何の用だ?」

 

「個人的に聞きたい事があるから話をしに来た。貴様の言う粛清対象に俺が当てはまらないと言うのならば、それぐらいは構わんだろう。そいつも最早手遅れだしな。」

 

夕暮れが僅かに照らしているそのヒーローは十箇所近くに切創、割創、刺創がある。脇腹、太腿、喉など、大部分が急所だ。どの傷も例外無く深い。応急処置をした所でもう手遅れだろう。

 

「良いだろう。だが、貴様のヒーローの定義も聞かせて貰うぞ。返答次第では粛清対象に当て嵌め直す必要があるのでな。場所を変えるぞ。ここは・・・・・目立ち過ぎる。」

 

ステインは両手のナイフをシースにしまい込み、五歩にも満たない助走で飛び上がると両脇の壁面を交互に蹴って屋上に上り詰め、移動を始めた。刀に加え多数の刃物、そして鉄板と棘付きの半長靴を履いていると言うのに動きは機敏だ。

 

グラファイトも黙って彼を追った。未だ保須の市内にはいるが、比較的人の往来が少ない辺りで足を止める。

 

「さて、では始めようか。ヒーロー問答を。お前はどれ程の大望をその刃に宿しているか。それに如何なる義が、道理があるか。聞かせて貰おう。」

 

「ハァ・・・・・言うは易しだが、俺が目指すのは、『英雄』の称号をあるべき姿に戻す事だ。その為にこの十年間、世界に蔓延るヒーローとは名ばかりの拝金主義者や目立ちたがり屋の贋物を粛正し続けて来た。社会が、己を蝕むガンの存在に気付き、自らそれを排斥する日まで。それにより、本物のヒーローが、第二、第三のオールマイトが現れる。」

 

「では更に問おう。貴様の、英雄の定義とは何だ?」

 

「ヒーローとは、自己犠牲の果てに得うる称号でなくてはならない。見返りを求めた時点で、ヒーローを名乗る資格なし。ただの贋物。成りたがりの、ゴミだ。」

 

「なるほど、確かにな。お前の言う通り見返りを期待した時点でそれは最早正義に非ず。損得勘定、エゴだ。・・・・邪魔が入った。」

 

グラファイトの視線の先にステインも気配を巡らせ、ナイフに手をかけた。黄昏に霧が出るなどあり得ない。ましてやそれが黒いのならば猶更だ。

 

「黒霧・・・・だったか。」

 

「覚えて頂いて光栄です、龍戦士グラファイト。そしてお初にお目にかかります、ヒーロー殺しステイン。貴方がたお二人に話があります。」

 

「お二人?俺もなのか?」

 

片方の眉を吊り上げ、グラファイトは黒霧を一瞥した。

 

「ええ。そうです。危害は加えません。そちらが何もしなければ、の話ですがね。」

 

「分かった。良いだろう。」

 

「ハァ・・・・・貴様らの話に興味は無いが、このグラファイトとは話の途中なのでな。一応ついて行く。」

 

「ではこちらをくぐって下さい。私の店に案内致します。」

 

黒霧が創り出したゲートに二人は足を踏み入れ、黒霧自身も霧散し、その場は無人となった。

 

 

 

 

「遅ぇよ、黒霧。」

 

「申し訳ありません、死柄木弔。探すのに少々手間取ってしまいまして。ですが、二人が丁度あっていたので幸いでした。一人ずつ探し回る手間が省けたので。」

 

「俺は話の腰を折られてイライラしている。要件を早く話せ。」

 

「大方察しはつく。どうせ、ヴィラン連合に寝返れとでも勧誘するのだろう?」

 

グラファイトの言葉にステインの目の色が変わり、だらりと下げられた両手の指が僅かに引き攣る。

 

「ヴィラン、連合・・・・?ハァ、雄英を襲った連中か。だとすれば、誘う相手を間違えたな。俺は贋物同様、貴様らのような奴らが嫌いだ。奥に座っているそいつはどうか知らんが、お前、黒霧と言ったな。お前は、『個性』からして幹部クラスと言った所か。丁度いい。」

 

ステインの動きは速かった。瞬きする間にナイフを黒霧と死柄木に向かって投げつけた。黒霧はワープゲートを開き、死柄木に向かうナイフを消して自分に向かうナイフの軌道と直角になるように新たなワープゲートを開いた。狙い通り、二本のナイフは空中でぶつかり、甲高い金属音と共に木製のフローリングに落ちたが、ステインは既に次の手を打っていた。

 

「遅い・・・・」

 

カウンターを飛び越えながらピルスナーとペティーナイフを一つずつ掴み、再び死柄木に向かって投げつける。

 

「同じ手は――むぅっ!?」

 

再びピルスナーをワープゲートで飲み込もうと気を取られた隙に、黒霧の肩をバーテンダーの商売道具の一つであるアイスピックが肩の肉を抉った。

 

投げたのはステインではない。角度と本人の位置からしてあり得ない。ならば投げたのはグラファイトと言う事になる。しかし彼はカウンターから十歩弱は離れている。ワープも出来ない彼がそれを手にするのもあり得ない。

 

「即席のコンビとは思えませんね。」

 

それを即座に引き抜き、ステインはそれに付着した血をその長い舌で舐め取った。その瞬間、黒霧の動きは止まる。

 

既に死柄木も肩に傷を負わされており、床に転がされていた。マホガニーのフローリングの汚れが更に広がっていく。

 

「何かを成し遂げるには信念が必要だ。そして常に弱い者が淘汰される。今のこの状況が良い証拠だ。」

 

「いってぇ・・・・・マジで強いな、どっちも。」

 

ステインは高枝切り鋏の様に一対の鉈を交差した状態で死柄木の首に突き付けた。

 

「黒霧、こいつ帰せ。」

 

「か、体が、動かない・・・・!恐らくヒーロー殺しの『個性』ですね・・・・」

 

「ヒーローが本来の意味を失い、偽物が蔓延るこの社会も、いたずらに力を振りまく犯罪者も粛清対象だ。」

 

刃が死柄木の喉笛を裂かんと迫って行く。しかしその一つが死柄木の顔を覆う掌に当たりそうになり、痛みも厭わず死柄木はその刃を掴んだ。

 

「・・・・殺すぞ。」

 

たちまち刃は錆びつき、塵となった。

 

「口数が多いなあ。信念?んな仰々しいモン無いね。強いて言うなら、オールマイト。あんなゴミが祭り上げられてるこの社会を滅茶苦茶にぶっ潰してやりたいとは思っているよ。」

 

繰り出される掌に『個性』の絡繰りがあると直感したステインは反射的に後ろに下がり、新たにナイフを引き抜いて構えた。

 

「折角傷が治って来たってのに…‥こちとら回復キャラいないんだぞまったく。」

 

「それがお前か。俺とお前の目的は対極にある、これは変わらん。だが、今を壊すという一点において俺達は共通している。死線を前にして俺が見極めたお前の本質はそう現れている。お前がどう芽吹くか見極めてから始末するか否かを決めても遅くはなさそうだ。」

 

「それは違うなあ、ステイン。」

 

そう言いながらグラファイトは先程死柄木が座っていたテーブルにあるレモンの切り身が入ったコーラを取り、一口飲むと顔を顰める。無駄に甘い。

 

「確かに今を壊すと言う点ではお前と同じだが、こいつらは後の事など何一つ考えていない。」

 

「後の事?どういう意味だ?」

 

「気付いていないのか?肝心な質問の答えが欠如している事に。それからどうなる?それからどうする?という質問に対する答えが。」

 

彼の言葉にピクリとナイフを握るステインの手が震えた。

 

「ハァ・・・・興味深い見解だ。続けろ。」

 

「見れば分かる筈だ。こいつは力を振りかざす事に味を占めた、暴力という名の蜜に酔っているジャンキーであると。となれば、それをよしとしないオールマイトとヒーロー社会は邪魔になる。しかしこいつは社会を変えると言う免罪符(言い訳)を楯にして、お前を引き込もうとしているに過ぎない。いたずらに力を振るう小悪党などより余程質が悪いぞ。」

 

「歪と感じる理由は『壊す』と言うのが目的であると同時に手段であるから、か。なるほど、先見の明を感じない理由が、今はっきり分かった。要するにガキの癇癪と言う物か。」

 

「誰がガキだ・・・・」

 

『チュドド・ドーン!』

 

ビームガンの銃撃が死柄木の手負いの肩を掠め、人肉が焼ける臭いが立ち上る。

 

「貴様の事に決まっているだろう。黙っていろ、鼻たれ小僧が。今は大人の喋る時間だ。まあ、どうしても口を挟みたいのならばまたこいつで会話してやるが。高出力のエネルギーを塵に出来るかどうかは甚だ疑問だがな。試してみるか?指が落ちても責任は負いかねるが。」

 

顔を覆う手の奥から殺してやると言わんばかりにグラファイトを睨みつけたが、グラファイトはそれを鼻で笑った。

 

「続けろ。」

 

「それに、だ。こいつは自分の力では何一つしていない。現場に行きはするが、そこの黒霧や脳無に命令を下す。おんぶにだっこと言う体たらくだ。自分ではそれが確実に出来ると言う自信が無い表れとしか取れない。はっきりと言っておく。こいつらに与した所でお前の信念が汚れるだけだ。」

 

グラファイトは立ち上がり、黒霧が無言で作り出したワープゲートを通って消えた。ステインもその後を追い、バーにいる人間は死柄木と黒霧だけになった。

 

「おい、黒霧何してる!?何であいつらを行かせたんだよ!」

 

「交渉は決裂しました。あちらがわざわざ来たのは、明確な意思表示の為、と言った所でしょう。お二方の戦闘能力は未知数である以上、無理に引き留めるのは不毛と判断したまでの事です。」

 

何よりここで暴れればせっかくの拠点も台無しになる。

 

「あの野郎ぉ・・・・・・言うだけ言って逃げやがって・・・・・・あのヒーロー殺しって気違いも・・・・俺に刃ぁ立てといてタダで済むと思うなよ…!?」

 

 

 

 

「ハァ・・・・・お前には礼を言うべきなのだろうな。」

 

「フハハハ、背中が痒くなるからやめておけ。柄にもない事はするものではないぞ。まあ、アイスピックをいきなり投げ渡された事に多少驚いたのは否めんが。話の続きをしようか。」

 

「そうだったな。ハァ・・・・では、お前の番だ。ヒーローとは何だ?何を以てお前は緑谷出久とヒーローを志す?」

 

「大体お前の理想とする物と変わらないが、更に一つ付け加えるならば、勇気を持つ者だ。」

 

「勇気?」

 

「当たり前だと貴様は思うだろう。だが、それが俺の答えだ。」

 

ヒーローとは弱きを救う者。その手は万人に差し伸べられなければならない。たとえ救いを望まぬ者であったとしても、そしてヴィランであったとしても、それは変わらない。

 

「勇気にも色々ある。身を挺する勇気、不条理に立ち向かう勇気は勿論、己を変える勇気、弱さを認める勇気、仲間に弱さを見せる勇気、仲間を信じる勇気、許す勇気、そして誤った道へ進んだ友を殴ってでも止める勇気。俺はこれら全てが開花するのを数年越しに見ている。緑谷出久という、後世にまで名を遺すであろう誇りある戦士の人生に。それに感銘を受けた。故に俺は、奴と共にヒーローとなり、その生き様を最後の一瞬まで見届ける。出久はいずれお前の前に立ち塞がり、お前を止める。その時に思い知るがいい。俺は、正しかったと。」




次回、File 44: 誰かの為に削るHP

SEE YOU NEXT GAME........

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