龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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またほぼ一か月ぶりの投稿なのに短い・・・・・
ギリギリ四千字にすら届かないとは・・・・


File 44: 誰かの為に削るHP

「小僧、ついて来い!」

 

「はいっ!」

 

新幹線の壁を突き破って来た相手を引き離して二次被害、三次被害の妨害が先決だ。

 

四つの目と露出した脳味噌。最初に会敵した個体とは違う薄緑色の体表、異様に長い手足、そして痩身であるなどの差異があるが、見間違えようが無い。脳無だ。

 

足裏のジェット噴射によるスピードに乗ったグラントリノの蹴りに合わせ、出久も渾身のストレートを腹に叩き込んだ。壁、ビルの一角をぶち抜きながら三人は市街地へと飛んでいく。

 

「グラントリノ、気を付けてください!こいつはUSJにいたヴィランと同じで『個性』が幾つかあります。膂力も薬物で上がってる。」

 

正直考えたくないが、もし超再生とショック吸収の『個性』を付与されていたらグラントリノだけでも倒すのは無理だ。グラファイトとの共生状態で変身し、ガシャット二本に加えてエナジーアイテムを大量に使う必要があった。そこら辺にいるヒーローではまず倒せない。

 

「あ奴の力で造られたヴィランか。俊典から聞いとるわい。廃人になっちまって救う手立ては無いそうじゃな。」

 

瓦礫の中から脳無が這い出て来た。甲高い奇声を上げながら逃げ遅れた市民に向かって行く。

 

「見境無しか‥‥!GLADIUS SMASH!」

 

罅壁や木などの硬い物にぶつけて強化された出久の指は、ワン・フォー・オールの力も相俟って脳無の脇腹に沈み込んだ。不快極まりない生暖かさが指先を包んでいく。

 

「貫いた・・・・!?」

 

つまりショック吸収と超再生の『個性』を持ってはいない。ならば、とフルカウルの出力を上げ、拳が風を切る。

 

「十、二十・・・・・・三十・・・・・・・四十・・・・・五十・・・・・!」

 

四ツ目に吸い込まれていく拳のスピードが更に上がり、グラントリノの目でも霞んでしか見えない。

 

「八十、九十・・・・・CENTURION SMASH!」

 

百発目の打撃で顎を打ち上げ、更に後頭部をグラントリノのドロップキックが打ち抜く。

 

「よっしゃあ、良いぞ小僧!一気にそのまま畳んじまえ!」

 

「DRAGONIC SMASH!!!」

 

がら空きの顔面に拳が減り込む。確かな手応えだ。しかしまだ違和感が消えない。

 

「ただの職場体験の筈が、とんだ巻き添えを食ったわい。」

 

「おかしいです。」

 

「ん?何じゃい小僧。」

 

「何か・・・・・・上手く説明出来ないけど、これで終わりじゃないと思うん――あっつっ!?」

 

コスチュームを通して突如背中に感じた凄まじい熱気に出久は思わず振り向いて大きく後ろに下がった。

 

二メートルはあろう身長と分厚い胸板、そして顔を含む全身を包む業火。

 

「エン、デヴァー・・・・・」

 

「その声、緑谷出久か。がっかりさせないでくれ。勝負がついてもいないのに敵に背を向けるものではないぞ。しかし、準備運動がてら弱火でやったのだが意識を保っている奴を見るのはこれが初めてだ。後は俺に任せて貰おう。」

 

「キェェェェェ!!!!!」

 

痩身から炎が一気に噴き出した。出久とグラントリノは距離を取ったが、エンデヴァーは己の炎でそれを相殺した。

 

「超再生とショック吸収じゃなく、吸収と放出の『個性』か。だが吸収時にダメージを負っている。雑魚『個性』じゃないか。」

 

「エンデヴァー!この脳無、USJの奴と同じ複数持ちです!気を付けてください!」

 

炎が効かないと見るやいなや、四ツ目の全身の筋肉が巌の様に隆起し始めた。道路を割る程の跳躍でエンデヴァーに飛び掛かる様は、まるで野生の狒々を思わせる。

 

「そう言う事か。説明御苦労。」

 

エンデヴァーは右手をかざして出力を上げた炎の発射体制に入ったが、四ツ目は口を大きく開き、彼を捕らえんと触手状に枝分かれする舌を伸ばしてきた。

 

「させん!小僧、合わせろ!」

 

グラントリノが触手を蹴りで打ち抜き、出久も拳大のコンクリート片を四ツ目目掛けて全力投球した。

 

「PILUM SMAAAAAAASH!!!!」

 

自分が貫手で穿った脇腹に直撃し、止まった所でグラントリノが背後から再びドロップキックを食らわせてそのままアスファルトに叩き付けた。

 

「チィッ、道路を割っちまった。久々だと加減がなあ・・・・・・」

 

「やるじゃないかご老人。」

 

本心から褒めつつ黒煙が立ち上る箇所へ目を向ける。

 

「向こうはヒーローが集中している筈だが・・・・少なくとも二、三分は経過している。まだ収拾がつかんとは、揃いも揃って使えん奴らだ。」

 

「早いとここいつの身柄(ガラ)引き渡して加勢に行くぞ。」

 

「うむ。」

 

「あのっ!僕は、別行動させてもらっていいですか?」

 

「馬鹿言え、職場体験中にそんな事が出来るか。」

 

出久は食い下がり、スマートフォンの液晶を見せた。轟から来た物で、地図の位置情報だけが示されている。

 

「これ、さっき友達から来たんです。轟君が選んだ職場はエンデヴァーの事務所ですよね?」

 

「うむ・・・・・」

 

「なら分かってる筈です。彼は、無意味な事はしないって。位置情報しか送って来ないって事は、もうそれしか送れない程逼迫した事態が起こってるって事になります。そしてルール違反上等で独断専行した。恐らく、この住所にヒーロー殺しがいます。」

 

住所は細道で、騒ぎの中心から離れている上に今までヒーローが襲われた現場と特徴が六割程似通っている。確証は無いが可能性はある。特に今はまだ街が騒がしい状況だ。路地裏の殺人など目にも止まらないだろう。

 

「お前と轟の倅の二人で止められる程ヒーロー殺しは甘くない、と言いたいところだが、好きにしろ。俊典にゃ改めて小言を言っとく必要があるが、お前はしっかりヒーロー出来とる。実力も申し分無い。共闘してとは言え、こいつを捻れるからな。」

 

気絶した四ツ目を杖で小突き、グラントリノは頷いた。

 

「向こうの騒ぎはきっちり片付けといてやるから、行って来い。『個性』の使用も許可する。」

 

「ありがとうございます!」

 

「それとな、行く前にもう一つ。」

 

「はい?」

 

「誰だ君は?」

 

「この状況で!?僕は緑谷――」

 

「そうじゃないだろう、馬鹿モンが。」

 

「あ・・・・・ドラゴン・デクリオン・・・・DDです!」

 

「それでいい。」

 

フルカウルを発動し、出久は去った。

 

「心配ではないのか?」

 

「なあに、あいつはもう俺が教えようと思っとった事をもうしっかり体に叩き込んどる。今更言った所で無駄な復習にしかならん。轟、お前こそ倅が心配じゃないか?」

 

「問題は無い。焦凍は、負けん。」

 

「緑谷以外には、な。」

 

 

 

 

間に合ったのは、奇跡と言える。ステインが飯田の背中を刀で貫かんとした正にその時に、轟の火炎放射がそれを止めさせ、後ろに下がらせた。位置情報を送信してから二分程が経過したが、まだ誰も来ない。なら今自分に出来る事は、負けず、勝たせず、兎に角場を持たせる事だ。

 

しかし言う程容易くは無い。手負いのプロヒーローであるネイティヴ、そして飯田を守りながら戦うのは今の自分には無理がある。特に左の炎を完全にコントロールできない自分には。苦肉の策として氷の防護壁を二人の周りに張り巡らしたり右腕に氷を張って即席の楯にしたりしているが、氷の強度をステインの執念が常に上回る。刃こぼれした刀でどうやっているのか、すっぱり何度も切り刻まれてしまうのだ。

 

おまけに、相手の『個性』の絡繰りがまだ分からない。少なくとも、血液にまつわる物だという事は分かる。でなければ大量に持ち歩いている刃物の説明がつかない。近づかせず、氷と炎で牽制して応援を待つのがこの状況で出来る最適解なのだ。

 

「粘るな、お前。そして手負いの人間を守り通すその姿勢、中々見上げた物だ。」

 

「てめえに言われた所で微塵も嬉しくはねえがな。」

 

一瞬だけにやりと不敵な笑みを浮かべて轟は強がったが、内心は焦っていた。相手の攻撃が掠りでもすればアウトなのだ。丁寧にブロックし、回避する時は体ごと移動しているが、いつまでもそれが通じる程ヤワな相手ではない。もう恐らくモーションをある程度盗まれているだろう。

 

「轟君・・・・・もういい・・・・!もういいんだ!僕一人の間違いで君が傷つく事は無いんだ!僕は―――」

 

「黙ってろ、眼鏡叩き割んぞ。応援はもう呼んだ。詫びなら後でいくらでもさせてやる。」

 

助けたい。そう思ったから助けている。理屈など不要なのだ。友達とはそう言う物なのだから。

 

後少し。後少し待てばいい。プロヒーローが来るまでの辛抱だ。昔の自分とは違う。今はなりたい自分という指針がある。

 

再びステインが肉薄した。ナイフが二本飛んでくる。

 

二本?

 

「くそっ・・・・!」

 

ステインが視界から消えたと気付いたのは、ナイフが自分を通り過ぎた後だった。ナイフの標的は守ろうとしている二人だったのだ。そして刀は上空に投げ上げられており、たった今ステインがそれを跳躍して掴み取った。

 

ナイフを防げば自分が、刀を防げば二人が死ぬ。

 

轟は、迷わず氷を張り直した。

 

「轟君!!!」

 

防御はもう間に合わない。

 

「自己犠牲。素晴らしい選択だ。だが所詮は弱者。贋物同様、淘汰されるがいい。正しき社会の供物として。」

 

しかし上空から振り下ろされる刃は届く事は無かった。轟の前に赤いバンダナを巻いた腕がある。自分の頭を一刀両断せんとしていた刀はその腕の持ち主に握られて止まっていた。

 

「緑、谷・・・・・!?」

 

「遅くなってごめん。助けに来たよ、轟君、飯田君。」

 

仮面の奥で出久は笑っていた。そして刀を握り締め、拳一つ分の刃が砕けた。

 

「その姿、お前・・・・・グラファイトが言っていた奴。緑谷出久か?奴はお前を高く評価していたが、どれ、真のヒーローたり得る存在かどうか手合わせ願おうか。」

 

「後悔するなよ、ヒーロー殺し。僕はもう知らないぞ。」

 

ワン・フォー・オール フルカウルを発動し、出久はトータルゼロ・スタイルの構えを取った。

 

「ガンマウェーブ。」

 

腹式の深呼吸と共に構えられた手が、だらりと下がる。出久はそのままゆっくりとステインに向かって歩いて行った。

 




緑谷出久のSMASH FILE

CENTURION SMASH: フルカウル状態での打撃百発。スピードに乗っているため一発の威力は低いが、基本質より量で圧倒し、同じ個所にダメージを蓄積させる。

PILUM SMASH:物を投擲して相手に叩き付ける、瓦礫さえあればいくらでも使える技。Pilumとはローマ帝国の兵士が持っていた投げ槍に由来する。


次回、File 45: 仲間も自分もI Gotta Believe!

SEE YOU NEXT GAME......

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