龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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相当、EXCITE EXCITE 高鳴る~♪


File 45: 仲間も自分もI Gotta Believe!

「アブソリュート、何も聞かずに一分経ったら僕を氷の中に閉じ込めて。それまで援護ヨロシク。」

 

「は?お前、何言って―――」

 

早口でそう言われ、轟は困惑した。しかしその意味を完全に理解する前にステインが出久を標的に定め、襲い掛かる。

 

「爆豪君の時よりも―――」

 

「速ぇ・・・・・!」

 

刀が振り抜かれるよりも先にその間合いの内側に踏み込んだ。空いた手で振り抜かれる鉈を掻い潜り、ステインの股座をくぐって伸び上がりながら背後に肘打ちを放った。脚力に加え、腰と肩の回転も加えた後頭部への一撃にステインは前方に大きく投げ出される。

 

「ハァ・・・・ッ!!良い反応速度だ!子供とは思えん。お前が一番本物に近い存在だ。口先だけの贋物を何人も粛清してきたが、この中では一番生かしておく価値がある。私怨を優先したそこのインゲニウムと違って良いセンスだ。」

 

しかしそれでも意識を保ち、鉈に付いた血をしっかりと舐め取っていた。

 

「駄目だ!逃げろ緑谷君!血を舐められたら・・・・!!」

 

「俺が止める。」

 

すかさず轟の氷がステインに襲い掛かるが、全身を固められる前にステインが鉈で氷を叩き割り、出久目掛けて後ろ回し蹴りを繰り出す。上半身を後ろに倒しながら蹴りを放ち、轟に向かって鉈を振るうが氷に阻まれた。

 

だが、それでいい。当たればベストだが当たらずとも距離と時間を稼げるのだ。

 

「どこを見てる。」

 

突如下から掌が伸び上がる。ぎょっとしたステインは咄嗟に仰け反ったが掌底が僅かに顎を掠めた。下唇がぱっくりと割れ、尖った顎を伝ってぼたぼたと地面とコスチュームが血に染まっていく。

 

「緑谷、君・・・・・何で・・・・!?」

 

「確かに血は舐めた筈・・・・・何故動ける?だが、ある意味これで晴れて対等に戦えるという事になるか。」

 

棘付きブーツの蹴り、回収したナイフの投擲、刀による斬撃、そのどれもが、手を伸ばしきらずとも届く距離にいる筈なのに、掠りもしない。殺意を込めたフェイントすら完全に無視される始末だ。完全に避けきれない物は刃の腹を手で弾かれ、軌道をずらされる。その衝撃に耐えきれずにナイフが、鉈が、ひび割れては砕け散る。

 

「そうだ、もっとだ。もっと!」

 

最後の鉈を叩き折り、ステインの得物は棘付きブーツと刀一振りだけとなった。

 

「ハァ・・・・いいなぁ。実に良い。その力、その技。正しくヒーローだ。」

 

しかし出久の耳にステインの言葉は入らない。聞こえるのは鼓動。心臓の鼓動。自分を殺そうとしている相手が目の前にいて凶器を持っていると言うのに、驚く程リズムは乱れない。丁度熟睡できそうな奇妙な浮遊感、安らぎすら感じる。そして呼吸。寄せては返す波のように長く、穏やかだ。

 

戦意、殺意にも敏感な為に反応速度は驚異的だ。条件が厳しいあの『個性』を十全にアドバンテージとして使いこなしている。ならば最適解はたった一つ。

 

戦意、殺意、闘志、その他諸々の『意』を消した上での必勝の一撃。もう残り時間は三十秒と無いが、焦っては絶対できない。

 

フーっと細く、長く鼻から息を噴出した。兎に角まずは脱力する。余計な力という力の必要最低限をギリギリまで切り詰める。

 

コキリ、コキリ、コキリと出久は肩を回し、首を回す。小さく回し、大きく回し、ゆっくり回し、速く回す。回しながら前に進む。ゆっくりと、一歩ずつ踏み締めて進む。うねる波に揉まれ、身を委ねながら進む。硬質ゴムで出来た靴底と爪先には踏み抜き防止の鉄板が仕込まれているのに、音一つしない。

 

出久以外、誰一人として動かなかった。正しき社会の名の下にヒーローを殺そうとしていたステインさえも。全員が唯一動いている出久を注視している。

 

トン、と出久とステインの体がぶつかった。

 

ハッとステインは我に返ったが、直後に視界が真っ暗になった。

 

彼が倒れる音と刀が地面に落ちる音で、ネイティヴ、飯田、轟が我に返る。

 

「一体、何が・・・・・?ヒーロー殺しが倒れて、え・・・・?!」

 

「くそっ!」

 

既に一分以上は経過していた。心の中で出久に詫びながら彼の背中に向かって氷を解き放つが、振り向きざまの回し蹴りで氷は砕け散り、天高く欠片が舞い上がる。

 

「轟君、何をしているんだ!緑谷君に攻撃など――!」

 

「二分経つ前に止めるよう頼まれてんだ!何でかは分からねえ――」

 

瞬きの刹那、渾身の殺意を乗せた出久の拳が眼前に迫った。

 

「やれやれ、やはりこうなるか。」

 

赤い腕が、赤い腕を握って止める。自信に満ち、尚且つ呆れ返った声音の、男の声だ。

 

「グラファイト・・・・・!」

 

「暴れまわっている脳無を捻った後にしばらく様子を遠目に見ていたのだが、ガンマウェーブを使うとは俺も予想していなかった。まったく、いくら友のピンチとは言え短絡的にも程がある。あれ程使うなと念を押したというのに。愚か者が。」

 

裏拳の一撃で出久はステインが倒れている所まで吹き飛ばされた。

 

「あれは一体何だ?今緑谷はどうなってる?」

 

「爆豪との戦いで見せたトータルゼロスタイルの、まあ言ってしまえば殲滅モードだ。限定的に様々な脳波をコントロール出来るのだが、奴が今使っているのはガンマ波。最も謎が多いとされている。それが『個性』によって強制的に周波数を引き上げられている状態だ。詳しい説明は省くが、要するに脳味噌が活性化していて、認知機能が高められている。」

 

「あの攻撃を全部避けきれたのも、最後のあの攻撃もその所為か・・・・」

 

「しかし、それだけなら何故轟君に攻撃を・・・・!?」

 

「脳味噌が活性化している、つまり刺激に敏感になってるって事だろ?」

 

轟の言葉に、グラファイトは首肯した。

 

「奴にとって今自分以外の全ての人間が倒すべき敵に見えている。活性化のせいでアドレナリンなどの脳内麻薬の分泌量が通常の数倍だ。おまけにタイムリミットをしっかりとオーバーしてしまっているから理性も無い。故に自発的な解除もままならんアルファ波やシータ波なら三分はギリギリ行けるが、ガンマ波では二分の壁すら超えられていない。止めるなら、兎に角奴の意識を刈り取れ。手足の一、二本を駄目にしても構わん、俺が治す。あの状況がこれ以上続けば脳味噌が負荷に耐え切れずに焼き切れてしまうから急ぐ事を勧める。」

 

「なら君が止めればいいじゃないか!君は彼の『個性』なのだろう!?」

 

まるで他人事の様に落ち着き払ったグラファイトの素っ気無い言葉に飯田は凄まじい剣幕で詰め寄った。

 

「ああ。その通りだ。だが、貴様らは奴の友だ。出久はお前達の助けを求める呼びかけに応じてやってきた。『彼ならなんとかしてくれる』というお前達の期待に応える為に。そして浅はかな戦法を使ったとは言え、ヒーロー殺しを倒した。お前達を守る為に。なら、ああなったのはお前達にも責任の一端があると言えよう?したがって俺は未だ貴様らが健在の状態で尻拭いをするつもりは無い。特に飯田のは、な。」

 

未だステインの『個性』で動きを封じられた飯田は、倒れ伏したまま目を伏せた。

 

『一人でヒーロー殺しを追うなんて馬鹿な真似はしないって。それを約束してくれるなら、このノートはあげる。約束してくれる?』

 

『復讐の虚しさは君よりよく知っている。経験者として、友達としてヒーロー殺しを探すのはやめて欲しい。折角出来た友達を殺されたくない。』

 

何度も言われた。何度も、やめろと。それなのにこのざまだ。

 

差し伸べられた友の手を振り払い、忠告に耳を貸さず、ヒーローとしての矜持を汚し、受け継ぐべき兄の名を汚した。

 

「そう、だな・・・・・そうだ。僕が、助ける。僕は今まで散々緑谷君に助けられ、多くをその生き様から学んだ。今度は、僕が助ける番だ。体さえ、動いてくれれば・・・・!!

 

悔しそうに拳を握り込む。

 

「もう動く様だぞ。ヒーロー殺しの『個性』の効力が無くなったか。」

 

「あ、手が、動く・・・・!?よし、これなら・・・・」

 

「飯田、俺もやる。緑谷とは約束があるんでな。」

 

自分の力が近いうちに何かの形で助けになるならそれをさせて欲しいと、あの時轟は自分でそう言った。こんな形でそれを果たす事になるとは思わなかったが、有言実行は早いに越した事は無い。体を張ってなりたい自分の姿を見せてくれた友人の為に体の一つも張らなければヒーローを目指す者としての沽券に関わる。

 

「それでいい。俺は直接手を出さんが、これは未熟な貴様らへのボーナスだ。」

 

『ガシャット!LEVEL UP! ド・ド・ドドド黒龍拳!DRA!DRA!DRAGOKNIGHT HUNTER! GRAPHITE!』

 

ダークグラファイトにレベルアップし、辺りにエナジーアイテムが多数散らばった。

 

「俺からの餞別だ、好きに使え。」

 

「じゃあ、まずは・・・・」

 

『回復!』

 

飯田は回復のエナジーアイテムに触れた。体の中に吸い込まれていくと同時にステインに貫かれた左肩の痛みが消え、血が止まる。

 

「轟君、頼みがある。足を凍らせてくれ。マフラーを除くふくらはぎの全体を満遍なく。」

 

「・・・・・ああ、あれ使うのか。けど避けられたらどうする?」

 

「心配いらない。作戦はある。USJでの緑谷君の真似になってしまうが・・・・・」

 

それで察したのか、轟は頷いた。

 

「分かった。当てろよ?」

 

「了解した。トルクオーバー・レシプロ・・・・バースト!」

 

『透明化!高速化!』

 

飯田の姿が消え、ただでさえ速いスピードが更に上がる。出久はしずしずと轟の方へ足を進めて行く。

 

一秒経過。

 

飯田の不可視の蹴りが出久のこめかみを狙う。しかし軽くしゃがみながら見える筈の無い蹴りをいとも容易く回避しながら下段に蹴りを放った。まだ軸足一本で立ったままの飯田の体勢が大きく崩れる。

 

二秒経過。

 

「まだだ。」

 

地面を氷結させ、出久の足を止めようとしたがすかさず建物の壁面を足場に飛びあがり、回避するが、今度は炎が迫る。しかしこれも正拳突き一発で生み出された風圧により大穴を開けられて無力化された。

 

「やっぱ強ぇ・・・!!」

 

三秒経過。

 

『分身!ジャンプ強化!』

 

「まだまだ諦めるには早い!」

 

四秒経過。

 

透明化の効果が切れ、姿を現した五人の飯田が出久目掛けて一直線に宙を舞う。全身に回転をかけた蹴りを見舞うがやはりそれぞれの蹴りを両手足で受け止められてしまった。しかし五人目までは対処しきれず、レシプロバーストで上がった速度とパワーを腹に受け、落ちて行く。

 

五秒経過。

 

辺りを限界まで冷やした所で準備が整い、轟は霜が降りて凍傷寸前の右腕に左手を添えた。

 

しかし出久もただ落ちているだけではない。両手を伸ばし、意図的にスピードを上げながら轟に肉薄しながらデラウェア・スマッシュを乱れ撃った。

 

六秒経過。

 

「飯田、撃つぞ!!!」

 

体を捻り、何とか移動して積み上げられたゴミ袋の山に落下し、衝撃を殺した。

 

七秒経過。

 

「決めてくれ、轟君!僕の事は心配無い、今は緑谷君を!」

 

「アブソリュート・ブラスト。」

 

八秒経過。

 

一気に左の炎で温度を限界まで上昇させた瞬間、散々冷やされた空気が即座に膨張し、その衝撃が加速して落下してくる出久をもろに襲い、動きが完全に止まった。

 

九秒経過。

 

「ほう、これはこれは。USJでの出久と俺のエナジーアイテムを使った戦いを参考にして攻略したか。トータルゼロスタイルを改めて見直す必要があるな。」

 

プスン、と音を立てて飯田のエンジンがエンストを起こし、轟も自分が創り出した衝撃波の反動に耐えきれずに壁に叩き付けられてぐったりしていた。意識はしっかりあるが右腕に数か所ひびが入っており、脳震盪も間違いなく起こしている。

 

十秒経過。

 

出久をキャッチし、グラファイトは俵の様にぐったりした彼を無造作に担ぎ上げる。

 

「まあ、よくやったと言ってやりたいところだが――」

 

「当然の事を褒める必要はねえだろ・・・・自分のケツ拭いただけだ。」

 

「言うようになったではないか。左もまあ、粗さは多少なくなったと言える。もう一本作っても問題はなさそうだな。さて、後は、奴を回収して落着だな。」

 

どこか嬉しそうにグラファイトは未だに出久の一撃から立ち直れていないステインを指示した。

 




緑谷出久のSMASH FILE

ワン・フォー・オール フルカウル トータルゼロスタイル ガンマウェーブ

訓練の末に脳をコントロールしてガンマ波を出せる状態に至って周波数を強制的に引き上げる。活性化した脳は五感や反射速度、筋肉への電気信号伝達速度を大幅にアップさせる効果を持つ。

出久が使える中で最も危険な脳波のタイプであるが、危険であるが故にその力は絶大。普段かけられている脳のリミッターが全て外され、『個性』の有無に関係無く人間の限界を超えた動きと思考が可能。要求される情報処理能力も相まって脳への負荷が凄まじく、その負荷から逃げる為に意識も曖昧な状態になる。故にまだ完全に扱えているとは言えない。

二分以内でなければ意図的に使用の中断が出来ず、制御する前のビルドハザードフォームよろしく全自動撲殺人形に変貌する。出久の性格のお陰で先に手を出されない限り攻撃はしないが、自分の身に降りかかるあらゆる刺激を脅威と認識してしまう為、間合いに入り込んだだけでも攻撃対象となる可能性がある。

次回、File 46: 大人の世界のDeal

SEE YOU NEXT GAME.......
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