龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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めっっっっっっっっっっっっっちゃくちゃ時間が経ってしまった・・・・・
あかんわ、これ。長らくスランプと言うか、意欲減退の状態異常が続いていましたが、とりあえず投下です。本当にお待たせして申し訳ない。

仲直りの一歩、どう書けばいいのやらと試行錯誤しまくってたんですけど、自分の中ではこれが適度な歩幅の一歩に出来たかなと思います。




File 47: Aftermathと仲直りの一歩

バグスターウィルスとの長年の共生による恩恵か、出久のタフネスは並の人間の数倍にまで上昇していた。一晩寝ただけで多少の不快感はあるものの、日常生活には全く支障が出ない程にまで回復しているのだ。

 

「轟君はどうするの?骨折は比較的すぐに治るって先生が言ってたけど。」

 

「ああ、まあな。一応こっちで出来る限りの処置はしてもらって、職場体験に戻る。終わって雄英に戻ったらリカバリーガールに直行だが。説教されんのが目に見える。」

 

「確かに。ああ、緑谷君、食べている途中でマナー違反なのは承知だが、テレビをつけてくれないか?昨夜の騒ぎがどう対処されたのか確認しておきたい。」

 

病院で朝食を食べながら三人は部屋のテレビで昨夜の騒ぎの報道がどうなったかを確認していた。

 

『昨夜未明、日本を震撼させた『ヒーロー殺し』ステインがプロヒーローのエンデヴァー、グラントリノ、そしてグラントリノで職場体験中であったドラゴン・デクリオンの活躍で保須市警に逮捕されました。警視庁によりますと『ヒーロー殺しの』本名は赤黒血染、三十一歳の男性で、社会に浸透した昨今の腐敗したヒーローの概念を正す目的で度重なる犯行に及んだ事が明らかになっています。こちらが今朝警視庁及び現場のプロヒーロー達によって行われた会見の一部です。』

 

映像が切り替わり、警視庁の刑事部長、保須警察署の面構などの警察関係者、そしてエンデヴァーやグラントリノのプロヒーロー達が据え置きのマイクを設置したテーブルの後ろで控えていた。更に面構とエンデヴァーを挟んだ席に、見覚えのある緑色の龍戦士の姿があった。

 

「み、緑谷、あれ・・・・・」

 

「グラファイト・・・・!?何であんなところに!?」

 

「動けない君の代わりにコメントをすることを引き受けたのではないか?体育祭でも姿を晒していた事だし。」

 

「いや、だとしてもあの姿で出るとは思わなくて・・・・」

 

『ヒーロー殺しの手により多くのヒーロー、サイドキック達が再起の道を、更には命をも断たれましたがこちらにいるプロヒーローとヒーロー候補の協力でようやく確保に繋げる事が出来ました。市民の皆様には多大なご心配をおかけいたしました事、心よりお詫び申し上げます。』

 

『プロヒーローとしての資格を取得していないそちらのドラゴン・デクリオンさんの『個性』使用は、いくらヒーロー殺し逮捕の為とはいえ違法なのではありませんか?ヒーロー候補として法やモラルを無視した事に対する処断が無いのは、些かおかしいのでは?」

 

『指摘は尤もだな。それについては監督係である儂が巡回をする前に幾らか手合わせをして、今のままでもチンピラ程度ならば十分通用すると判断した上で許可を出しておいた。勿論制約は多々付け加えたがな。監督下を離れて行動していた時にヒーロー殺しに出くわしたのは偶然以外の何物でもない。合流しなかった理由はしっかり伝達してくれたが、派手に暴れる脳無三体の鎮圧で彼の応援が後手に回ってしまったんじゃ。現在の法によれば、確かに「個性」を市民が公共の場で使用する事は禁止されとる。職場体験中のヒーロー候補もまた然りだ。』

 

『しかし、生命はその者に与えられた権利。』

 

そう付け加えたのは腕を組んだまま重々しい佇まいのエンデヴァーだ。目の回り、口元、顎を彩る炎の隈取りの火勢が数舜とは言え増した事に、マスコミは一気に押し黙った。

 

『それを守ろうとするのは人間として、ひいては生き物として当然の判断と言えるだろう。どんな思想や目的であれ、それを何の躊躇も無く奪おうとしている相手を前にヒーロー候補が座視すると?自他の理不尽な死を受け入れると?それがヒーローのする事だと?一介の学生が相手取ったのは曲がりなりにも殺しのプロ。逃がしてはくれない。ドラゴン・デクリオンの行動は、紛れも無く自衛目的であり、最適解だったと言える。』

 

突き崩すどころか一気呵成にひっくり返され、質問をした記者は閉口して着席した。

 

『では先程の質問とは無関係ですが・・・ヴィラン連合とヒーロー殺しの関連性についてです。同時多発した脳無の襲撃、そして同じ市内で起きた殺人未遂。これらに関係はあると見ている者は多いのですが、いかがでしょうか?』

 

面構がマイクを引き寄せて即答した。

 

『ありません。両者の関連性は、皆無だワン。』

 

『その根拠は?』

 

『ヒーロー殺しとヴィラン連合が繋がりを持つ事は、前者のシンパに犯罪行為を促す誘発剤に成り得る可能性を少なからず孕んでいました。それを危惧して、警視庁は雄英のプロヒーローやスタッフの協力を仰ぎ、独自の調査を進めるうちに音声だけですが、両者の関係を徹底的に否定するに足る証拠を手に入れる事に成功しました。こちらです。』

 

面構がリモコンを押すと、天井に設置されたスピーカーから録音が流れ始めた。ステイン、死柄木、黒霧、そしてグラファイトの会話だ(グラファイトの声は改ざんにより別人の物に変わっていたが)。

 

『音声は以上です。なおこれらの声はそれぞれヴィラン連合の自称黒霧、死柄木弔、ヒーロー殺しの物である事も実際にUSJで相対したオールマイトの証言により確認済みです。もう一人の声は雄英所属の人間の物ですが、本人の安全の為氏名の公表等は控えさせていただきます。そしてこれはまだ推測の域を出ませんが、USJ襲撃の一件も含めて考えると、ヴィラン連合の首魁・・・・・・真のリーダーは、また別にいると言う可能性も否定できなくなりました。』

 

カメラのフラッシュと共にざわめきがより一層沸き上がった。

 

『それは何故でしょう?』

 

『こちらで答える。』

 

グラファイトが赤い腕を上げて質問をした記者に自分の方を向くように手招きした。

 

『USJでの襲撃が失敗した時、死柄木はこう言った。「今回はゲームオーバーだ」と。そしてオールマイトを「ラスボス」と呼んだ。遊び感覚でUSJに殴り込みをかけ、ステインに否定された腹いせに脳無を市内に放った。これが悪名高いヴィラン連合を率いるような人間の言動か?知能犯のする事か?答えは、否。だが、手口は間違い無く巧妙になっている。ステインが活動している市内で別所に黒霧のワープゲートを使って脳無を放ち、あたかも繋がりがあるかのように印象付けようとしていた。』

 

一呼吸置き、グラファイトはマイクをスタンドから外して立ち上がる。

 

『しかし死柄木は幼稚な万能感に満ちた子供大人だ。純粋故にどこまでも残酷になれる。自ら変わろうなどと言うやる気は第三者の介入が無ければほぼあり得ないだろう。素性は分からないし存在自体も怪しいが、いたと仮定した場合、ヴィラン連合の首魁の立ち位置は教師のそれに近い。それも「悪意」と言う科目のエキスパートだ。USJでの一件よりも手口が進歩したこの事件が何よりの証拠だ。だからこそ可能性を捨てきれない。死柄木弔の背後に次代の「悪の象徴」になる為の英才教育を施している――まあ陳腐な言い回しになってしまうが――現代のジェームズ・モリアーティーがいるという可能性を。』

 

再び画面が切り替わった所で出久はテレビの電源を落とした。

 

「悪の、象徴・・・・?死柄木が・・・・?」

 

飯田がつぶやいた。最早食事どころではなくなってしまった。

 

「ジェームズ・モリアーティー。別名犯罪界のナポレオン。筋は通っているし的を射ているが・・・・・・偉く仰々しい例えだな。緑谷、どう思う?」

 

「う~~ん・・・・・」

 

轟に意見を求められ、出久は頬をかいた。オール・フォー・ワンの事は当然まだ誰にも話せない。言葉を慎重に選びながらゆっくり答えた。

 

「まあ~、まだ証拠も何も無いからほんとにただの推測だろうけど・・・・・可能性は十分あると思うかな。死柄木の事は別として、僕がそう思うのは脳無が原因なんだ、いくつも『個性』を持ってたし。ナチュラルなやり方だと『個性』の複数持ちは個性婚でしか存在し得ない。成功率なんてピンキリだし。それにあれは明らかに違う。それ以外の方法だと、改造手術ってのが一番妥当だ。死柄木にはそんな技術は無い。ならバックにそれが出来るだけの人脈、財力、経験があるパトロンが存在する。そう考えた方が辻褄は合うんじゃないかな。」

 

「だとすると、おちおち寝てられねえな。少し早ぇが俺は先に出る。」

 

カーテンを広げて病院のパジャマから自分の服に着替えると、グラファイトが残したケースを持ち轟は小さく手を振って病室を後にした。

 

「また後でな。」

 

「あ、うん。お大事に、轟君!」

 

「また学校で会おう!」

 

 

 

出久は外の空気を吸ってくると言い残し、携帯を持って一階に降りた。不在着信やメッセージが多数送られてきているが、今はまだいい。遂にグラファイトが動き出したのだ。オール・フォー・ワンを表舞台に引きずり出す為に。だとすれば、プロヒーローだけでなく、オールマイトに加え雄英のヒーロー科が更に集中的に狙われるのはほぼ確定事項だ。

 

教師並びに生徒の『個性』、独特の癖、予備動作、更なる応用方法などは全て出久の頭の中に入っている。こう言う状況で強化に最も役に立つ情報が、全て。使わない手は無い。今のうちに新しいノートで全員分の『個性』強化・応用メニューを考案しなければならない。職場体験に復帰したらコンビニかどこかでノートを何冊か買う必要がある。

 

更に校外でも活動出来るような場所が必要になる。それも可及的速やかに。グラファイトの財力に物を言わせて土地を買ってもらって訓練用の施設を作るか?それとも――

 

「あーーーいた!!緑谷!」

 

「病院ではお静かに!」

 

「す、すいません!」

 

てててっと小走りで誰かが近づいてくる。聞き覚えのある声だ。もしやと思い振り向くと、案の定、まだら模様の奇抜な色相のコスチューム姿の芦戸三奈だった。

 

「芦戸さん、何でここに?」

 

「何でって・・・・そりゃお見舞いに決まってんでしょーが。お馬鹿。」

 

腰に手を当て、いかにも怒っているぞと言うポーズで目を細める彼女に、出久はたじろいで慌てて弁解を始めた。

 

「おば・・・・・!?いや、だって職場体験の事務所、全然違うとこだし・・・・・あ、でも別に来て欲しくなかったって訳じゃなく、純粋に興味本位で聞いてるだけだから!」

 

「・・・・・・心配だったから。」

 

「僕は大丈――」

 

「嘘。」

 

細められる黒い目に、出久は口を噤んだ。元々咄嗟に嘘をつくのは下手だが、言おうとする刹那に看破され、居心地が悪そうに目を逸らす。

 

「ぶっちゃけ今の緑谷、見てて怖いよ。」

 

「やっぱり?」

 

「ごめん、説明が足りなかった。おっかないって意味じゃなくて危なっかしいって事。前に切島達と遊びに行ったでしょ?最後のあの時の顔・・・・・・全然笑ってなかった。笑ってたけど、中身がスカスカって感じた。怖がられた事がやっぱりショックだったんだって。自分の事が怖いかって聞いてそれでスマイル満開出来たらそれはそれで色々ヤバいけど。でも誰にも見えないところでどこか泣いてる気がする。今だって多分そうでしょ?我慢する事は大事だけど、我慢しない事も大事だよ?」

 

「我慢、ね・・・・・」

 

今思えば、自分の人生は大半が我慢尽くしだった。

 

いじめに対する我慢、雄英に入る為に力を着実につける我慢、爆豪に対して怒りに任せて力を振るう我慢、級友に向けてしまった恐怖に対する我慢、そしてオール・フォー・ワンとの決戦に向けての我慢。

 

「そ。理解して貰えないかもしれないけど、話すだけでもだいぶ楽だよ。これ経験談ね。」

 

「芦戸さんは何でそこまでして僕に肩入れするの?僕が怖くないの?おっかないって意味で。」

 

「いやいやいや、緑谷の通常運転って人畜無害丸出しじゃん。何を怖がれと?」

 

「体育祭の決勝戦を見て何も思わなかったなんてつまらない嘘はつかないで。やった僕ですら・・・・・怖かったんだ。一瞬とは言え僕は思ったんだよ、あの戦いでもし爆豪君が再起不能か、最悪死んじゃっても構わないってね。それだけ力を込めて攻撃したんだ。今回だってそう。ステインを倒す為に僕は爆豪君に使ったのと同じ技を使った。けど、暴走したんだ。時間内に決められなかったし、冷静とは程遠い状態だった。後一歩で飯田君も、轟君も、ネイティヴさんもステインも・・・・・殺していたかもしれないんだ。グラファイトがいたからそうはならなかったけど、それは結果論でしかない。そう何度も都合良く助けてくれる人は現れちゃくれない。だから僕がしっかりしなきゃいけないんだ。もっと・・・・・・」

 

今まで以上に、そして誰よりも。最高のヒーローになる為に。

 

「嘘は言ってないよ。怖くはなかった。でも、悲しかった、って言えば良いかな?」

 

「悲しい?何で?」

 

「優勝しても嬉しくなさそうだったからって以外に、こう・・・・・・どうすればいいんだろうって、迷ってる感じがした。助けて欲しいのに自分で蓋しちゃってSOSを無視してる、みたいな。」

 

「助けて欲しい……?僕が?僕はもう十分助けられてるよ。」

 

相棒のグラファイトは、何度も自分を救ってくれた。命の危機からも、自分の心の闇からも。

 

ヒーローとしての自分を改めて見つめ直すきっかけをくれた。

 

ヒーローになる為に、自分の力を授けてくれた。

 

ヒーローとしてだけでなく、人間としての強さを、弱さを教えてくれた。

 

ヒーローになる為の特訓も数年に渡ってつけてくれている。

 

憧れたヒーローを救おうとしてくれている。

 

そのヒーローを屠らんと欲するヴィランを倒そうと策を練っている。

 

自分は恵まれている。救われている。救われている筈だ。SOSはしっかりと応じられている。さっぱり分からない。理解できない。

 

「あー分かんないならもういい!その内分かる筈だから。緑谷、頭いいし。」

 

また学校で会おうねと手を振り、芦戸はその場を後にした。

 

 

 

 

「迷ってる、ね。」

 

正直分からない。リカバリーガールの治療を病室で受けて彼女に聞こうと思っても、どう質問すればいいか見当もつかなかった。自分が何に迷っているのか、そして何を以て助けて欲しいと思っているのか。

 

そしてオールマイトと話した、自分で納得した上で自分だからなれる、自分を好きになれるヒーロー像も、思い描く強さの定義も、未だに不明瞭だ。

 

誰に聞いても納得のいく答えが出ない気がして、どれも結局胸の内にしまったままだった。一足先に治療を受けて体験先に戻ると飯田からのメッセージが珍しくスタンプ付きで送信され、思わず笑ってしまった。

 

コスチュームに着替えて自分もグラントリノのアパートに戻ろうとした所で病室のドアが乱暴に開かれた。誰なのかは足音で予想がつく。

 

「僕に何か用?爆豪君。」

 

「時間、あるか?」

 

「まあ、無くは無い。また勝負でもしたいの?」

 

「違ぇ。」

 

いつもの語気の粗さが無い。戦意も感じられない。放っておいたは良いが、また突っかかってくるのだろうか?背を向けたままでも不意打ちには十分対応出来るが、ここは病院だ。正直荒事は避けたいと言うのが出久の本音だったが、今更彼を叩き伏せる事に躊躇いは無い。

 

「じゃあ、何でここに来たの?またデクの癖に目立ってんじゃねえとか言いに来たとか?」

 

「違ぇ!」

 

「じゃあ何?」

 

答えられなかった。それもその筈だ。職場体験が終わるまで謝罪の言葉をじっくり考えて頭を下げに行くと言ったのに、ニュースでステイン逮捕の経緯を見て家を飛び出したのだ。確かに熟慮してからの方が尤もらしいセリフが出て来るかもしれない。しかしそれは何かが違うと直感したのだ。それでは何のけじめもつけず有耶無耶にしてしまっている。どこかでそう思ってしまった。それでは落とし前を付けた事にはならない。ボロボロで二束三文にもならない、なけなしのプライドがそれを許さなかった。

 

鈍い打撃音に出久は思わず振り向き、爆豪が飛び掛かろうとした所を迎え撃とうと拳を固めたが、そこには膝をついて額をリノリウムの床に力一杯叩き付けた彼の姿があった。割れた額の血だまりがゆっくりと広がっていく。

 

「何て言やぁ良いのか、俺にはもう分からねえ。十年越しの詫びなんざ・・・・・・俺が今更何を言った所でどうにかなるようなもんでもねえ。」

 

「そうだね。」

 

加害者がどれだけ被害者に詫びようが、後者が許すと言わない限り何も変わりはしない。たとえ詰め腹を切って見せた所で同じ事だ。

 

「許してくれとは言わねえ。もうンな事頼めねえぐらい手遅れだ。どうすればいいのか、俺は分からねえ。俺は・・・・・弱いから。」

 

「うん。弱いね。」

 

「それでも俺は・・・・・・なりてえんだ。ヒーローに。オールマイトを超える様な。」

 

「そうなんだ。」

 

屈さぬプライドだけが人生の指針にして支えになっていた彼がそれを打ち砕かれてどうなるか、正直出久にも見当がつかなかった。雄英を去る可能性だってあるかもしれない。

 

「だから、教えてくれ。俺を・・・・・・・俺に『ヒーロー』って奴を教えてくれ。」

 

「・・・・・・はいぃ?」

 

オールマイトをも超えて俺はトップヒーローとなり、必ずやトップ納税者ランキングに名を刻む。

 

そう豪語して憚らなかった人間の言葉とは思えない。

 

求める物、その極地へ至る目的は恐らく変わっていないだろう。だがしかし、顔は見えないが何かが変わっているのは分かる。プライドをかなぐり捨ててでも、十年以上も目の敵にしていた、自分に勝った相手に教えを乞うだけの理由が。

 

「俺は・・・・・・・・強く、なりてぇんだ!!弱いから、強くなりてぇ!」

 

「何の為に?」

 

その質問に爆豪は初めて頭を上げた。顔には幾筋もの涙の痕が光っており、額から血が滴り落ちて行く。

 

「何の、為・・・・・?」

 

「君は野心より優先しようと思った何かがある。プライド振り翳すだけで生きて来た君が、今こうして僕に土下座してまでヒーローの道に縋って強さを求める理由。僕はそれが知りたい。返答次第じゃ、君が今まで僕にして来た事を全て相澤先生とクラスの皆に話すつもりでいる。答えるかどうかは勝手にすればいいけど、その前にしっかり考えて。僕はもうグラントリノの所に戻るから。お見舞いは素直に嬉しかったよ。ありがとう。あ、血とか拭くの忘れないでね?次の患者さん来るから。」

 

「分かっとるわ言われんでも・・・・」

 

 

 

「色々あったが、小僧。お前さんはようやったわい。」

 

「ありがとうございます、グラントリノ。はっきり言ってまだ釈然としないですけど。職場体験で僕だけお咎め無しなんて。」

 

「納得できん事だらけじゃ、世の中は。飲み込む事はちょっとずつ覚えればいい。お前はまだまだ十代半ばだからな。それよりホレ。」

 

グラントリノから無造作に厚みのある茶封筒を投げ渡された。

 

「うぇっ?」

 

封を切って中身を見ると、思わず人間らしからぬ奇声を発してしまった。自分が持っている纏まった金など精々四、五万円程度しか見た事は無いが、封筒の中には目測だけでもその十倍近くの一万円札が詰まっていた。

 

「ちょ、あの、グラ、え?あの、コレ・・・・?」

 

「ん?報酬だ。多かったか?」

 

「多すぎますよこんなの!!こんな大金僕にどうしろってんですか!?嫌ですよ!?受け取りませんからね、これ全部は!!」

 

グラファイトの所為で大金は見慣れてしまっているとは言え、この金額をポンと渡されるのは訳が違う。高価な瀬戸物を扱う様に慎重にそれをテーブルの上に置いた。

 

「そうか・・・・・それでも特別報酬の一割程度なんだがな。」

 

「ここ、これでですか・・・・・!?」

 

「うむ、受け取った報酬の半分は被害が出た地域修復の為に業者に渡してある。二割はワシの口座、残り二割は適当な募金、で、一割は今さっき渡した。」

 

「なるほど・・・・・・」

 

「ところで小僧。お前の『個性』のグラファイトと言ったか。奴は一体何を考えとる?」

 

「と言いますと?」

 

「明らかに奴は、オール・フォー・ワンを倒す気でいる。倒せると言う、確信にも似た何かを感じる。奴を白日の下に晒してしまう事によって生じるアドバンテージは理解しとるつもりだが、どうやって奴に勝つ?奴自身が奪い取られやせんのか?」

 

「それは無いです。オールマイトにも話したんで、グラントリノにも話しておきます。実は僕・・・・・ワン・フォー・オールを受け継ぐまでは、無個性だったんです。彼は僕に寄生と言うか、共生している『個性』とは違うバグスターと言う別種の生命体なんです。」

 

出来る限り要点を抑えながらも掻い摘んでグラファイトや彼が持つ能力、そしてオールマイトの治療について説明した。

 

「ふむ・・・・・まあお前も俊典も信用しとるなら何も言わん。確かに、俊典が全盛期の力を取り戻せば、勝率は上がるだろう。じゃが、果たしてそれが正しいと言えるのか?」

 

「え?」

 

「勿論、奴を鍛え、先代の盟友としても俊典の回復は願っても無い事だ。ワシが言ってるのは、その後の事だ。」

 

「後、ですか・・・・・」

 

「ああ。オールマイト、八木俊典。トップヒーローと呼ばれようと、奴もワシやお前と同じ人間じゃ。断じて神ではない。奴が死ねば、唯一この国の犯罪発生を一桁にまで押し留めているダムが決壊する。それがどういう事か分かるか?」

 

それは、再び日本が混沌の闇に飲まれてしまう事を意味する。

 

「で、でも!その為に僕が後継者に―――」

 

「それが問題なんだよ、このバカタレが!お前、奴と同じ人身御供になるつもりか?」

 

「いや、僕はそんな―――」

 

「志村がまだ生きてた頃、俊典はこう言っとった。この国で犯罪が減らないのは、国民に心の拠り所、即ち『柱』が無いからだと。それ故、自分がその柱になるとな。オール・フォー・ワンとの戦いを含めた激戦の連続、助けずにはいられない最早末期の病としか言えない奴の性格を矯正せずにいた結果があのザマよ。人に言われた所で耳を貸すような奴じゃねえ。だからお前さんが止めるんだ。」

 

「僕が、オールマイトを止める・・・・・?」

 

「奴は寝ても覚めても人助けしか頭にねえ。それこそ、本当に死んじまう一歩手前まで来てようやく止まろうと思うって程にな。あいつはもうプルスウルトラし過ぎとる。助けを求める声に応えようとする心意気は買ってやるが、死んじまったら終わりだ。あのメリケンかぶれのドアホに伝えとけ。ヒーローの仕事ってのはな、医者やってる修繕寺の婆と同じでまず自分が死なん事が肝要だ。小僧、お前も自分から死にに行くような真似だけはするんじゃねえぞ?『柱』なんぞ言語道断だ。分かったら準備せぃ、パトロールに出る。」

 

「はい!」

 

まだ全快とまでは行かないが八割方回復はしているしトータルゼロスタイルも一時的に封印している為、暴走の心配も無い。パトロールも徒歩でやる為負担も少ないのだ。グラントリノの部屋に置いてある指定のゴミ袋で道なりにあるゴミを拾う片手間に車上荒らしや空き巣、引ったくりだの食い逃げだの、つまらない犯罪行為に走る小悪党を見つける都度ひねっていく。

 

ステインや脳無などに比べると明らかに歯応えが無さ過ぎるが、別にそれでもよかった。ひねくれた言い方をしてしまえば、ヒーローの飯の種は人の不幸なのだ。ヒーローや医者が儲からないのは世の中が平和な証拠だ。平和ならば出来る限り長くそれでいい。

 

十重二十重に絡まった問題を幾つか紐解く必要があるが、今は頭の片隅に追いやっておく。

 

今は、公的に人を助ける事を許可された自由を享受して、助けを求める手を掴み続ける。それがたとえ誰であろうと。

 

「おい、坊主。書類仕事も将来やる事になるから覚えとけよ。手本見してやるから。」

 

「はい!お願いします!」

 

小規模の犯罪からゴミ拾い、歩道橋で上り下りの補助、道案内などの誰でも出来るちょっとした奉仕活動を日が暮れるまで続けた結果、ステイン確保の功績も相まって新聞や雑誌、SNSでも幅広く取り上げられた。

 

『緑の彗星!ブレイブな龍戦士、推参!』

 




正直、次話がいつになるか明確な時期は分かりませんが、AFO最終決戦、オーバーホール編、そして学園祭編まで行って終わらせるつもりです。I・アイランド編もどうするか構想は85%は固まっていますので予定通りやろうと思います。

しかしその前に、期末試験をば。

次回、File 48: Ready Go、覚悟!期末試験!

SEE YOU NEXT GAME..........
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