龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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長らくお待たせいたしました。

Wish in the dark ループさせて聞きながら書きました。


Level 5: 激闘
File 48: Ready Go、覚悟!期末試験!


「期末試験まで残り一週間ってとこだが、お前らちゃんと勉強してるだろうな?知っての通りテストは筆記だけでなく演習も含まれている。当日に備えて頭と体、同時に鍛えておけよ。以上だ。」

 

授業終了のチャイムと共に相澤が退室したのを皮切りに、一年A組は一気に色めき立った。

 

「まったく勉強してなああああああああああああああああああああい!!!!」

 

中でも特に騒がしかったのは中間成績のツートップならぬツーボトムの芦戸、上鳴の二人だった。前者は開き直って笑っており、もう一人は精神的に追い詰められるあまり全身を奇妙に捩じっていた。

 

「確かに行事続きではあったが・・・・」

 

「けど、入学したてで中間の範囲は狭かったし、期末となりゃヤマ張るのも一苦労だな。」

 

常闇、砂藤も中間成績の順位は下から数えた方が早い。上鳴程大っぴらに表面には出さずとも、内心じっとりと冷や汗をかいていた。

 

「演習があるってのがツライとこだよなぁ~。」

 

頬杖をつきながら得意顔で峰田が間延びした口調で聞こえよがしに何度か頷いた。

 

「あんたは同族だと思ってたのにぃ~~~!!!」

 

「お前みたいな奴は馬鹿で初めて愛嬌が出るんだよ、どこにお前みたいなのの需要があんだよ!」

 

「世界、かな?」

 

中間では九位を獲った故の余裕もあり峰田は瞬き一つせずに大見栄を切った。

 

「まあまあ芦戸さん、上鳴君、一緒に頑張ろうよ!皆で林間合宿行きたいし。ね?」

 

「うむ!僕も委員長として二人の奮闘に期待する!」

 

「奮闘っつっても・・・・・・普通に授業受けてりゃ赤点は取らねえだろ。」

 

中間三位の出久、二位の飯田、五位の轟に上鳴は胸を抑えて蹲った。正論過ぎてぐうの音も出ない。

 

「お二人とも、座学でしたらお力添えできるかもしれません。」

 

「ヤオモモー!!」

 

中間一位を見事取った才女の後光に中てられ、ツーボトムは一気にモチベーションを取り戻した。

 

「演習の方はからっきしでしょうけど・・・・・・」

 

「お二人じゃないんだけど、ウチも良いかな?二次関数、ちょっと応用に詰まづいちゃってて。」

 

「ごめん、俺も!八百万、古文分かる?」

 

「俺も良いかな?いくつか分からない部分があってさ。」

 

自分は、頼られている。嫌でも分かるその事実に、暗く沈んだ八百万の表情に光が戻った。

 

「皆さん・・・・・!いーですともー!!!!では私の家で勉強会を催すとしましょう!まずお母様に講堂を空けて頂く様にお話しませんと・・・・・皆さん、お紅茶はどこか贔屓にしている銘柄はありまして?我が家はいつもハロッズかウェッジウッドですが。勿論、勉強の事もお任せください!必ずお力になって見せますわ!」

 

生まれの違いで横っ面を引っ叩くマシンガンピュアセレブトークに常人ならば多少なりとも引き攣った苦笑いを浮かべる所だろう。しかし、プリプリした八百万百の可愛いオーラにそれら全てがどうでもよくなってしまった。

 

「演習の方は僕が担当するよ。内容に関しちゃ流石にヤマを張るのは無理だけど、組手とかだったら何人でも相手するから。それと、もう飯田君とか渡しちゃってる人は何人かいるけど・・・・・・配っておく物があるんだ。はい。」

 

どさりと卓上にノートの山を下ろした。知っている者は大して驚きはしなかったが、知らない者は目を皿のように見開いた。

 

「ナニコレ・・・・・」

 

「ノートの山・・・・・!」

 

「自分の名前が載ってる奴を取って。一週間でどこまで出来るかなんてたかが知れてるけど、今後の課題を知っておけば多少は楽だし。」

 

「緑谷君、これはもしや・・・・・?!」

 

飯田の言葉に出久は大きく頷いた。

 

「飯田君はもう渡したよね。これは全員合格を目指す為の『個性』を伸ばす為に必要な内容。推奨トレーニング、個人的な癖、『個性』以外の改善点とその優先順位。全部ある。演習が戦闘だろうとレスキューだろうと、はたまた両方を交えた内容であろうと、これで赤点の確率は少し減らせる。流し読みでもいいから、目は通せるだけ通しておいて。」

 

「俺やダークシャドウにこんな癖があったとは。」

 

『不覚ッ・・・・・・!』

 

「あるある、皆ある。僕もある。」

 

しかし、出久はただ一冊だけノートが残っている事に気付いた。爆豪勝己の名が記された物だ。普段の彼からは想像もつかないほど静かにしている彼は、それをしばらく見つめていたが、結局取らずに無言のまま教室を後にした。

 

皆もそれぞれ出久に礼を述べながらランチラッシュのメシ処に向かった。その場に残ったのは、出久と轟の二人だけだった。しばしの沈黙の後、轟が口火を切った。

 

「緑谷、あのケースの中身だが・・・・・・」

 

「どうだった?グラファイトが持ってった物だから中身までは僕も知らなくて・・・・」

 

「これだ。」

 

ポケットからスマートフォンを取り出して画像を見た出久は首を傾げた。形こそ騎士が使う両刃の剣に見えるが、柄の部分にガシャコンバグヴァイザーZ同様にAとBのボタンが一つずつ横に並んでいるのだ。加えてガシャット装填の為と思しき溝もある。

 

「これ、は・・・・・・剣、って認識でいいの、かな?」

 

「ああ。あいつはこれをアブソリュートカリバーと呼んでいた。俺と同じ氷と炎の攻撃が出来るらしい。形やデザインこそアレだが、切れ味とかは問題ねえよ。これで五キロあるって以外はな。」

 

「五キロ・・・・!?地味に重いね。」

 

「俺としちゃ使うつもりでいるんだがな。出来れば演習でも。素振りぐらいはやれる。」

 

「まあそこはその時に判断すればいいと思うけど、気に入ってくれたみたいで良かった。あ、そうそう、出来上がったよ。ガシャット。これなんだけど。」

 

出久が制服のポケットから引っ張り出したガシャットは群青色だった。

 

「パーフェクト、パズル?これで何が出来るんだ?」

 

「試してないからまだ分からないんだ。でも、僕もこれを使おうと思う。期末の演習で。勿論、林間合宿でも。」

 

「そうか。なら・・・・・・予習復習。一緒にやらねえか?」

 

「轟君と?」

 

「・・・・・・嫌、なら無理に――」

 

普段無表情な轟だからこそ微妙な表情の変化は目立つ。それを目ざとく見抜いた出久は慌てて両手を振って弁解した。

 

「あ、ごめんごめん!そそ、そうじゃなくて、その・・・・・・なんて言うかな。普段は放課後直帰の轟君がそんな風に誘ってくるのが意外で。も、勿論嬉しいよ!うん、僕で良ければ喜んで。じゃあ、ご飯行こう。昼休み終わっちゃう。」

 

「ん。蕎麦が一番美味い。冷たい奴が。」

 

「そうなんだ。じゃあ試してみる。」

 

 

 

 

その日、爆豪勝己は購買で買った焼きそばパンを屋上で食べた。思えばそんな事をしたのは中学以来だった。今はとにかく考えられる環境が欲しかった。人でごった返した雑音塗れの食堂では思考など纏まらない。

 

――僕に土下座してまでヒーローの道に縋って強さを求める理由。僕はそれが知りたい。

 

「理由、か。」

 

思い返せば自分がヒーローになった理由は薄っぺらかった。幼馴染とその他大勢が格下だの自分が格上だのとちっぽけな事に拘っていた。何かある筈だ。自分のプライドより遥かに大きな何かがある。あった筈だ。

 

「何だ?俺はヒーローになって何がしたかった・・・・・!?」

 

当然だが、まだ十歳にもなっていない時に崇高な大義名分や目的があった訳ではない。オールマイトに憧れた。どんな逆境に陥っても、崖っぷちに追い詰められても不撓不屈の力と技で巻き返す常勝無敗の雄姿にただただ魅せられた。

 

被害を及ぼすのはヴィラン。

 

確実な被害拡大阻止の達成条件はヴィランの打倒、即ちヒーローの勝利。

 

ならば、勝利する事こそがヒーローの本懐、存在理由である。筈だった。

 

しかしそこから先のビジョンが、全く見えない。白昼夢の様に何もかもが曖昧になって行く。

 

誰の為?何の為? エンドレスにその自問自答が続く。

 

「・・・・・・分からねえ。」

 

「随分と悩んでいるようだね、爆豪少年。」

 

「オール、マイト。」

 

黄色のピンストライプに青いネクタイ姿のオールマイトは魔法瓶についているプラカップに冷えた麦茶を注いで飲んでいた。USJ襲撃の後でまた新調したのだろうか?あの魔法瓶は彼の握力に耐えられるのだろうか?そんなどうでもいい疑問が頭を過る。

 

「当ててみよう、緑谷少年との事だろう?君のお母さんから聞いたよ、保須市までわざわざ見舞いに言ったそうじゃないか。こう言っちゃなんだが、君も多少は丸くなったと言うか、いくらか落ち着きを覚えた印象を受けるよ。」

 

「丸くなんざなりたかねえわ!!」

 

爆豪は咀嚼していた一口を飲み込んで声を荒らげた。

 

「ハハハ、まあ君の性格上そう思うのは仕方ないだろう。だが、君は確実に強くなっているよ。」

 

「俺のどこが強ぇんだ一体!?」

 

食べかけの焼きそばパンを地面に叩きつけ、麺や野菜が辺りに飛び散った。

 

「負けた俺の・・・・・・どこがどう強ぇんだよ・・・・・・」

 

「負けたからこそ、さ。君は強くあるという事を知っている。十分過ぎる程にね。だがその反面、君は弱くあるという事を知らなさ過ぎる。爆豪少年、今君が経験しているこれは言うなれば弱さの無知と弱くあると言う経験の不足故の皺寄せだよ。弱いという事は恐ろしい事だ、途轍もなく。だがその恐ろしさを知り、恐怖を是とする事が出来る器を手に入れてこそ、また新たな強さへの道が拓ける。」

 

「恐怖を、是とする・・・・・・?」

 

「そう。君は確か登山が好きだったね。ならばこういう例えが分かり易いかもしれない。山の怖さを知らない登山家はいない。だが怖くても、怖いと知りながらもエベレストやキリマンジャロなどの頂上制覇に挑む。彼方にこそ栄え在り。届かないと言われるからこそ、挑みたくなる。その困難の先にある何かを掴み取り、それを知りたいから。要はそう言う事さ。」

 

恐怖を受け入れる。一昔前の自分ならばそんな事を宣う輩など腑抜けの間抜け野郎と罵倒して道端に蹴り飛ばしている所だろうが、それを言わせていたプライドは今や根絶やしにされ、縋るだけの地盤すら擦り潰された。

 

使える糸口があるならば、その糸が切れるまで手繰り寄せるまでだ。誰も知らない真実を。

 

己の、真実を。

 




次回、Extra File 3: 初めてのトモダチ Making

SEE YOU NEXT GAME.........

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