龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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とりあえず考えた結果こういう風にストーリーを運んで行こうかなと思います。


File 50: MADな教育課程

「演習試験開始前に連絡事項を伝える。試験内容は職員会議の末、急遽変更となった。」

 

担任の言葉に一年A組クラス委員長の飯田がスナイプのクイックドローに勝るとも劣らない速度で挙手して尋ねた。

 

「理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「それについては僕が説明するのさ!」

 

相澤がマフラーよろしく首に巻いている捕縛武器の中から無駄に立派な毛並みの喋る二足歩行の哺乳類生物が現れた。

 

「うぉっ、なんだ?!犬?」

 

「いやいや、熊でしょ、あれは。」

 

「何言ってんだよ、でっかい鼠だろ?」

 

「残念!僕の正体はここ雄英高校の根津校長なのさ!」

 

「答えになってるようでなってない!?」

 

根津が校長であるという事以外全く何も分からないと不満そうな生徒達を再び本題に傾注させた。

 

「USJでの一件やヒーロー殺し事件、そして保須に出没した脳無などの事件を鑑みて皆には限りなく実戦に近い経験をしてもらおうと考えている。また散らされて『個性』不明なヴィラン不特定多数の戦闘、なんて事になる可能性は無いとは言い切れないからね。即応性、柔軟性、計画性、判断力、胆力などなど、実戦に限りなく近い状況に君達を置いて様々な面をしっかりチェックしていくよ。その為に、演習試験では君達にはここにいる教師一人と戦ってもらうのさ。」

 

先生(プロ)相手の演習。ごくりと喉を鳴らす音が複数聞こえた。

 

 

「制限時間は三十分。君達の目的はこの手錠を先生にかけるか、ペアの片割れが演習場から脱出を果たすかだ。ペアの組み分けと相対する教師は筆記試験の最中に合議してこちらで既に決めてあるよ。」

 

「脱出か捕縛・・・・・戦闘訓練と似てるな。」

 

「でも、ホントに逃げちゃっていいんですか?」

 

芦戸の疑問に根津は「良いんだよ」と返した。

 

「明らかに相手が格上な場合、掛かって行ったところで返り討ちにされたり、人質にされて戦況を無駄に引っ掻き回すよりは遥かにマシさ。乗り越えられればそれに越した事は無いけど、得手不得手は誰にでもあるからね。ヒーローは人を救うのが仕事だけど、その為には自分が死なないでいる事が大前提なのさ。」

 

十三号が更に付け足した。

 

「故に、逃げて応援を呼ぶと言うのも人命救助に於いては立派な役目なんですよ。逃げて勝つか、戦って勝つか。皆さんで判断して臨んでください。」

 

「それで『こんなの逃げの一択じゃね?』と思った少年少女諸君!勿論我々もハンデ無しでやり合おうなんて酷な事は言わない。サポート科に掛け合ってこれを作って貰った。」

 

オールマイトはコスチュームの上から装着した手足の黒いリングを見せた。

 

「超圧縮重り!重さは装着者のおよそ半分あり、教師はこれを装着して君達と戦う。古典的だが動きづらい上にスタミナは削られる。そして、もう一つ伝えるべき事項がある。緑谷少年、君の場合は『個性』の事もあって少しばかりルール変更がある。」

 

「ルール変更・・・・・?どんな?」

 

「そこは俺が伝えよう。」

 

オレンジの粒子が変身したグラファイトの形を取り、ランプの魔人よろしく腕を組んだ状態で現れた。

 

「お前には、二度やって貰う。一度目は校長が言った様にペアを組んで教師を相手にしてもらう。変身するのも構わんが、俺は戦闘に参加する事は無い。二度目はヴィラン側の立場で俺と共に教師二人と戦ってもらう。これの対戦相手は直前まで発表はしない。」

 

グラファイトの言葉に、出久は僅かに目を見開いた。

 

「二度・・・・・・演習試験を二回やるって事?!そんな無茶苦茶な!」

 

麗日が抗議した。いくら自由な校風が雄英の売り文句と言えど、生徒の如何は教師の自由と言えど、この采配はあまりにシビアだ。

「同意します。相澤先生、いくらなんでもこれは緑谷さん一人に対してあまりにも不公平に過ぎますわ!」

 

八百万も珍しく声を荒らげた。

 

「話は最後まで聞け、八百万。これはグラファイトが打診してきた事でもあるし、我々も当然最初は反対した。だが、合議の末、理由も筋が通っていると判断したからこそ許可している。第一に、グラファイトが独立した意思と肉体を兼ね備えた『個性』である以上、一貫した二対一のハンデが緑谷と組んだ者だけ三対一となってしまい、試験に挑む他のペアに比べて公平さを欠く。第二に、単純に緑谷がお前らより格上だからだ。」

 

雄英体育祭の個人戦、団体戦で追い詰めはしても誰一人として彼を破る事が出来なかった動かぬ事実がある以上、クラスメイト十九人に反論の余地は無かった。

 

「故に、それに伴う相応のハードル上昇は至極当たり前かつ合理的と言える。そしてもう一つ付け加えるルールがある。緑谷、合格判定を二度出さなきゃその時点で赤点とする。」

 

「それこそ滅茶苦茶じゃないスか!二回やってどっちか合格すればオッケーって条件ならまだしも、どっちも勝たなきゃ問答無用で赤点なんて――」

 

「分かりました。」

 

出久は抗議する皆の声を遮った。

 

「やります。でもその代わりに、二度目の対戦相手は僕に選ばせてください。」

 

「いいだろう。だが組み合わせによっちゃ即却下するからな。もう分かっているだろうが、この試験でも勿論赤点はある。林間合宿行きたけりゃ、みっともないへまはしない事だ。一気に発表してくから、組む相手が分かり次第合流しろ。こちらからは以上だ。」

 

試験を受ける順番、パートナー及び対戦相手は以下の通りとなった。

 

・切島、砂藤vs セメントス

・蛙吹、常闇vsエクトプラズム

・飯田、尾白vsパワーローダー

・轟、八百万vsイレイザーヘッド

・緑谷、爆豪vs オールマイト

・麗日、青山vs十三号

・芦戸、上鳴vs根津

・口田、耳郎vsプレゼントマイク

・障子、葉隠vsスナイプ

・峰田、瀬呂vsミッドナイト

 

「出番がまだの者は、見学するなりパートナーと算段立てるなり、好きにするといい。」

 

 

 

 

 

生徒、教師両陣営の受けたダメージを測る為にいるリカバリーガール以外、モニタールームにいるのは出久と麗日、芦戸、上鳴、八百万、そして轟の六人だけだった。

 

「デク君、ええの?試験、二回も受けなきゃあかんのもせやけど、爆豪君と話さんでも。」

 

麗日は心配そうにそう言葉をかけたが、出久は静かに首を横に振った。自分にのみ適用されるハイリスクな試験内容に声が上ずるなり緊張するなり何らかの反応があっても良いと言うのに、自分の落ち着き具合に内心驚いていた。

 

「今の彼とは何も話せないよ。話した所で聞く耳持たないだろうし、何より僕は彼の答えを待っているんだ。それを聞いていない以上、僕は彼に何を言われても歩み寄るつもりは無い。麗日さんこそ、しなくていいの?作戦会議。」

 

「あー、うん・・・・・・青山君の場合、話が通じないと言うか・・・・・・」

 

ヒーロー名を英語の短文にしてしまい、何よりも見た目に気を使う彼に何を言っても無駄だった。今も恐らくコスチューム姿のまま鏡の前でポーズをとるなりしている事だろう。

 

「ああ、なるほどね・・・・・・と、轟君と八百万さんはどう?相澤先生が相手だけど。」

 

「『個性』を一時的とはいえ使えなくされるってのは痛いな。筆記試験の合間に組手も『個性』の応用もお前とやったから、多少は何とかなる。コレもあるしな。」

 

そう言いつつ、背負ったアブソリュートカリバーを指さした。

 

「もう少し慣らしておきたかったってのが本音だ。」

 

激しい動きの最中でも確実に身体へ固定する為に襷掛けになった肩のベルトが腰のベルト部分と一体化している。見た目こそ武骨さがあったが、轟のコスチュームは上下を紺色で揃えて機能美とシンプルさを追求した為、上手い具合に映えていた。

 

「ナニコレ新装備?!かっこいいじゃん轟!」

 

友達に貰った物を褒められて嬉しいのか、芦戸の言葉に轟の口角が僅かにだが上がった。

 

「緑谷がくれたノートにあったみたいに、もう少し小回りを利かせれば勝ち目はある。後は協調性、だったな・・・・・・」

 

しかし上がったほぼ直後に僅かだが表情を曇らせた。友達は(少なくとも自分の認識では)一人しかいない以上、中々に高難度な問題だった。

 

素早くそれに気づいた出久も、「ま、まあ、それはおいおいって事で。ね?」と励ましてフォローしてやる。

 

 

 

『砂藤・切島チーム、演習試験 ready, go!』

 

第一戦のステージは市街地。ランダムなスタート地点から、両者は走り出した。

 

「なあ、この試験てさ、やっぱ逃げるより捕まえた方が貰える点数高いよな?必然的に。」

 

「まあ単純に考えりゃそうだけどよ・・・・・・って、来た!」

 

柔らかな粘度の様に地面の形が変わり、道の中央に聳え立つ壁が出来上がった。その二百メートル先に、両手から緑色の光を放つセメントスが待ち構えていた。

 

「セメントス先生は動きが鈍い!正面突破で――」

 

「ちょ、待てって切島!緑谷のノート読んだか?!」

 

「読んだけど―――」

 

『弱点その1:「個性」の持続時間。消耗戦・持久戦は圧倒的に不利である。体育祭最終種目での戦いを教訓とするべし。

 

弱点その2:中・遠距離攻撃手段が皆無。「個性」強化によりガードしつつ距離を詰めるべし。

 

弱点その3:防御不能な攻撃あり。(例:ミッドナイトの眠り香、シンリンカムイの捕縛技、etc.)

 

弱点その4:「個性」発動中、機動力低下。純粋なスタミナと回避の為の機動力アップを推奨。

 

弱点その5:一本気な性格。正面切っての戦闘に対するこだわり過多。状況に応じてそれ以外の勝ち筋も模索するべし。』

 

しっかりとこれらの点は覚えているし、屋内対人戦闘訓練で言われた絶対に食らってはいけない攻撃の存在も鑑みて『個性』の使いどころのメリハリと機動力上昇に出来る限り時間をつぎ込んだつもりだ。しかし敵に背を向けるなど考えるだけで気分が悪い。

 

訓練とは言え、屈辱なのだ。止めるべきヴィランが目の前にいる。だのにたかが相性が悪いからという理由で背を向けて逃げ隠れするなど、信念が許さない。

 

だが自分には足りない物が多過ぎる。その最もたるは、今この場でその信念を貫き通す『力』だ。ならばどんな形であれ勝ちを拾い、次に繋げるしか道は無い。信念だの流儀に酔って勝利を捨てるなど、自分達の為に骨を折ってくれた出久に申し訳が立たない。後悔しか残らない。

 

そんな物は男らしくも何でもない。張りぼての粋がりだ。

 

「があああああ!くそぉ!砂藤、逃げんぞ!!」

 

「お、おう・・・・・・!」

 

断腸の思いで踵を返し、走り始めた。しかしやはりと言うべきか、セメントの壁が行く手を阻む。

 

「ぶち抜いて……脱出して勝ぁああああああああつ!!!」

 

「おうよ!シュガードープ!!」

 

指先を伸ばし、硬化した貫手がその壁を貫き、次いで肥大化した拳が完全に壁を砕いた。三枚、四枚、五枚と砕く。砕いては走る。ペースを落とさず、ただ只管出口を目指して走る。角を曲がってちらりと背後を見ると、セメントスの姿は無い。更に壁の出現も止まった。

 

「壁が来ねえ、って事は・・・・・・操れるセメントは視界に届く範囲だけ、か?」

 

「距離が離れた分だけコントロールの精度が下がるとか?」

 

「いや、そこまでは流石に分かんねえけど・・・・・・」

 

よしんばそうだとしても、セメントスは現役のプロヒーローだ、加えて『個性』は市街地ではほぼ無敵の強さを誇る。そう言った付け入る隙があったとしても、それを容易に曝すほど生温い試験ではない筈だ。兎に角今は死に物狂いで逃げるしかない。

 

しかし二人の逃走劇は十字路交差点で早々の幕切れを迎えようとしていた。前方と左右から道幅を塞ぎ、周りの建造物と変わらぬ高さのセメントの大波が迫ってきている。その波の上には、修行僧の様に座禅を組んで急接近するセメントスの姿があった。

 

「嘘だろオイ!!あんなんアリかよ!?」

 

唯一セメントの波が迫らない経路は、来た道のみ。機動力に著しく乏しい切島は勿論、拳で風圧を起こしてセメントを吹き飛ばすだけのパワーを持たない砂藤でも突破する事は出来ない。しかしかと言って元来た道へと引き返すわけにもいかない。この広い演習場のどこに出口があるかまだ把握していないのだ。

 

「しゃーねえ・・・・・・切島、合図したら俺を踏み台にしてくれ。」

 

「はあ?」

 

「俺のシュガードープでお前をセメントの波を越えられるぐらい上にぶん投げる。出口見つけたら方向だけ叫んで突っ走れ。位置さえ分かれば俺も別方面から行ける。」

 

「確かに、二手に分かれりゃいくらセメントス先生でも止められねえな。ぅし、頼むぜ!」

 

「おう!」

 

砂藤は装備帯のポーチからスティックシュガーを引っ張り出して包みを口で破り、残らず口に流し込み、溶ける事すら待たずに嚥下した。

 

『弱点その1:「個性」の持続時間。消耗戦・持久戦は圧倒的に不利である。伸ばすべし。

 

弱点その2:中・遠距離攻撃手段が皆無。格闘戦に持ち込む為に機動力向上を図るべし。

 

弱点その3:「個性」の副作用。発動限界の拡大を図るべし。

 

弱点その4:パワーのメリハリの無さ。糖分摂取量、もしくは持続時間の短縮・延長による出力調整によって活動の振り幅を広げるべし。』

 

『個性』の発動の感触は腹から全身に熱いエネルギーが流れて行くのを意識してタイムリミットの三分が迫ると同時に冷めて行く、と言う物を意識した。焼き菓子をオーブンに入れて冷ますイメージを応用したのである。

 

「パワーのメリハリ・・・・・だったら――」

 

オーブンの熱を上げるだけだ。十グラムで三分間、膂力は五倍。だが今は、十秒あればいい。バレーボールのレシーバーよろしく腰を落とし、指を絡ませて足場を作った。

 

「行くぞ、切島!」

 

「おし、来いや!」

 

切島が足をかけ、体重を乗せた瞬間、発動。約二十倍にまで膨れ上がった膂力は、切島を楽々とビルを超える高さまで弾き上げた。直後、凄まじい倦怠感で体の力が抜け切り、砂藤はその場に崩れ落ちた。

 

「見えた!」

 

出口は、ほぼ進行方向。距離はおよそ五百メートル。

 

「砂藤!このまま真っ直ぐだ!」

 

流石にセメントスもこれは予想していなかったらしく、思わずおお、と漏らした。

 

「上手いね。だがしかし、上空ならば回避は不可能。」

 

波の中から網状のセメントが飛び出し、切島に迫るが、全身を硬化させて腰をひねって右に体を逸らし、左腕のみを犠牲にしながらも回避にはおおむね成功した。一瞬解除し、膝を抱え込んで再び硬化。土煙と共に地面に小さなクレーターが出来上がった。

 

すかさずそこにセメントを飛ばしたが、既に切島はそこにはいない。

 

「うむ、上手い上手い。だけど――逃がさない。」

 

即座にセメントの波の方向を変え、追い縋る。少しでも波との距離を縮めようと更に切島の前に壁を作り、行く手を阻んだ。

 

余力を残す余裕などない。持続時間など糞食らえとばかりに硬化した拳でセメントの壁を砕いては進み、進んでは砕く。しかし壁は際限なく増えて行く。そして遂に、持続時間の限界が来た。壁に阻まれ、セメントの波に呑み込まれた直後、終了のブザーが鳴る。

 

『切島、砂藤チーム、タイムアップにより、リタイア。』

 

出口通過まで残された距離は、五十メートル弱。

 

「惜しかったが、まだまだ。」

 




出久にはかなりのムリゲーをさせてる自覚はあります。ウルトラセブンばりの厳しさを発揮したグラファイトの措置です。

補習組のメンバーはあまり変えるつもりはありませんが、多少健闘はさせるつもりです。

次回、File 51: 心は雨のちRainbow

SEE YOU NEXT GAME........

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