はい、年内にせめて一話だけでもと思って書きました。
ホント、お待たせしてしまいまして申し訳ない。スランプやらなんやら書く気が失せる状況が続きましたが、また少しずつでも書いていきたいと思います。Heroes Risingの話もはたして取り入れるべきか否か・・・・・・
「あ~~、惜っしい!!いい線行ってたのにも~~!!」
芦戸がまるで自分が赤点を取ってしまった様に地団太踏んで悔しがった。
「確かに、考え自体は間違ってはいないね。砂藤君があれだけのパワーを発揮してセメントを避けて行く機転は良かった。でも、今度は逃げる事に固執し過ぎていた。もしセメントス先生目掛けて飛ばしていたら、ハンドカフスをかけるチャンスは逃亡中でもあったかもしれない。まあこれは個人の能力の精度や練度の問題だから、数日でどうにかなるってもんじゃないし、そこは仕方ないけど。」
「うむ、赤点を取りこそしたが、傾向は・・・・・・まあ、及第点と言った所か。」
背後の声にモニタールームで一部始終を見ていた全員が振り返った。背中を壁に預けて立つグラファイトがいつもの若干不機嫌そうな顔つきで腕を組んでいる。
「グラファイト・・・・・!」
「あの二人は基本クロスレンジでしか戦えん。まともに相手をするつもりが無い相手から逃げる潔さも、闇雲に逃げない計画性もあった。伸びしろは期待大だ。出久、第二戦はどう見る?」
「ん~~・・・・・・数の暴力で分断・攻略されなければ勝てるかな。一応どっちも全距離には対応可能な『個性』持ちだし、立体機動もスピーディーに出来る。コミュニケーションに関しちゃ蛙吹さんがいるから問題は無いと思うよ。彼女は課題と言えるほどの偏りや欠落が無いから。後は連携の上手さと、エクトプラズム先生が仕掛けて来るであろう消耗戦をどう回避するかの応用力ってところ。数学教師なだけあって分身の動かし方が理詰めだから。あ、でも演習場が平野だったら負けるかも。」
「ならば、第三戦は?」
「パワーローダー先生の『個性』の特性上、彼に多少なりとも有利な演習場を必然的に使う必要があるのを鑑みて、これは先生だけじゃなくて時間との勝負にもなるね。尾白君も飯田君も、多少なりとも足場があってこそ戦える『個性』だから、それを先に潰されたらその時点で二人は詰むよ。飯田君の発想力と、尾白君の適応性で引っ掻き回された盤面をどれだけ早く突破できるかだね。」
すらすらと出て来る出久の分析にモニタールームで見学しているクラスメイト達は開いた口が塞がらなかった。
「・・・・・・緑谷がヴィランになったらと思うと恐ろしいぜ。見ただけで『個性』から何から丸裸にされちまうとか一番敵に回したくないタイプだ。」
上鳴の言葉に出久とグラファイトを除く全員がうんうんと頷く。
「当然だ。この俺が下地を作り、奴が執念で練り上げた力と技だぞ。こいつに勝てる人間など簡単には見つかるまい。お前達には勝ち筋の一つや二つはあるのか?」
「あるにはある。緑谷との復習は、得る物が多かった。」
「勝ち筋と言えるほど確かなものではありませんが、同じくですわ。」
「えーと・・・・・・・」
「いやーそれはそのぉ~~~・・・・・・」
「ん~~・・・・・・無い、です・・・・・」
轟と八百万は頷いたが、芦戸、上鳴、そして麗日の三人は居心地悪そうに縮こまった。
「まあそれはそれでいいかもしれないな。勝ち筋をあえて作らせた上で潰せば入念に心を折って戦意を奪う事が出来る。頭脳派、技巧派の定石だ。精々足掻くがいい。」
「蛙吹さん、常闇君、お疲れ様。」
「ケロ、緑谷ちゃんのノートのおかげよ。今後の課題も分かったわ、ありがとう。」
「うむ。あとは我々次第。磨穿鉄硯あるのみ。」
「飯田君と尾白君も、条件達成最短記録おめでとう。」
「いや、僕は飛ばされてゲートをくぐっただけでほとんど何もしてないから・・・・・」
そうは言いつつもやはり褒められて素直に嬉しいのか、尻尾はかなりの勢いで左右に揺れている。
「うむ、緑谷君ならどうするかと考えていたら咄嗟にアレが思い浮かんだのだが・・・・・・正直かなりのギャンブルだった。あんな計画が成功するなんて一度きりだと思う。緑谷君、君こそ大丈夫なのか?轟君と八百万君の次は君と爆豪君だろう?それもいきなりオールマイト先生が相手になるなら・・・・・」
うん、まあ、と出久はお茶を濁した。「なんとかするよ。骨の二、三本と脳震盪は覚悟してるからさ」とは言いつつも、保須での一件以来、出久は彼と一言も口を利いていない。姿を見かける事は何度もあった。しかし一目見ただけで分かる。彼の心はほぼ完全に折れている、と。その張本人と組まされるなど、チームワーク云々以前の話だ。
正直、戦力としてあてにできるかどうかすら怪しい。
『轟・八百万チーム、演習試験 ready go!』
選択されたステージは、砂糖・切島チームと同じく市街地だが都会ではなく高台らしい高台となる建物が無い住宅街である。既にアブソリュートカリバーを抜刀し、準備を始めていた。
「八百万、何でもいい。小物を作り続けてくれ。作れなくなれば近くに相澤先生がいると考えろ。『個性』に異変があったらすぐ言え。」
見つかりにくい路地を通り、周囲に気を配りながら轟は指示を出した。
市街地の様に遮蔽物における遭遇戦では、見つからずに相手を見つけた者が先手を取れる。ましてや相手は奇襲・奇策を弄するプロだ。まだライセンス未取得の子供で多少手加減され、ハンデもつけて貰っているとはいえ甘く見ればあっと言う間に負けてしまう。
「流石ですわね、轟さん。」指示通り小物――マトリョーシカ人形を作りながら八百万はそうこぼした。
「何がだ?」八百万にそう言われながらも脇目を振らずに尋ねた。
「相澤先生への対策をすぐ打ち出すのもそうですが、ベストを即決出来るその判断力です。」
「これぐらいどうって事ない。緑谷なら俺以上に洞察して最善の策を練れる。あいつみたいな考え方は俺にはできねえ。加えて俺の攻撃は雑だ。懐に潜り込まれちゃ対応が遅れる。課題づくめだぞ。」
どうって事ない。
その言葉は、意図せず八百万百の心に深く突き刺さった。
「雄英高校推薦入学者というスタート地点は同じでしたのに、ヒーローとしての実技において私は特筆すべき結果を何一つ残せていません。騎馬戦では轟さんの指示のもとに動いただけ。個人戦は成す術無く常闇さんに負けてしまいました。自分でも気づいていない反省点すら緑谷さんからノートを頂いて知りました。」
それが、どうしようもなく悔しい。自分一人の力ではまるで何も出来ていないではないか。
「っ、八百万、マトリョーシカが!」
はっとして振り向いた。ない。人形が、消えている。
「すみませ――」
「と思ったらさっさと行動に移せ!」蜘蛛のように電線から逆さになってぶら下がる相澤が二人の間に降り立った。
――頼むぞ、緑谷。
祈る様にアブソリュートカリバーを握りしめ、Bボタンを連打する。「八百万、壁際に寄れ!」
『BLADE BURN!!』
刀身の炎が燃え上がり、切っ先を地面に叩き込むと、コンクリートから幾筋もの火柱が伸び、相澤にも襲い掛かった。
「うおぉ?おっととと・・・・・」しかし新しい装備の導入にも動じず、落ち着いたフットワークで伸びる火柱を軽やかに回避していく。瞬きこそしてしまったが、『個性』を再度発動、視線はしっかりと轟を捉えたままだ。
「一旦退くぞ、体勢を立て直す。」
「いやいやいや、そう簡単に逃がすわけないでしょ。痛い所はどんどん突いてくからな。」
「ならこれでどうだ。」轟、すかさず打Aボタン。
『BLADE KEEN!!』
刀身が百八十度回転し、燃える炎の模様が一転して凍り付く物に変わった。辺りにドライアイスの様な冷気の霧が立ち込め、視界が潰れる。
「持て余し・・・・・てはいない、か。」だが負ける要素はどこにもない。相手の人数も『個性』も把握している。迎撃態勢はばっちりだ。
八百万は、焦っていた。先んじて対策を立てられず、索敵にも失敗。おまけに先手を取られ、危うく二人纏めて捉えられる所だった。
「と、轟さん、申し訳ありません。本当に・・・・・・」
「八百万。」
「ま、まだ・・・・・時間はあります。改めて索敵を、いえこの場合は――」
「八百万!」
掴まれた肩と荒らげられた語気に、彼女は思わず身を竦ませた。
「すまねえ。最初にお前の意見も聞くべきだった。俺の弱点その1は『コミュニケーション能力』。意識してパートナーとの意思疎通を積極的に図るべし、だ。はっきり言って俺は緑谷やお前ほど柔軟に頭を回せねえ。だから頼む。作戦を練ってくれ。」
「で、ですが轟さんの計画で敵わなかったのなら私の物など――」
「学級委員決める時の投票、俺はお前に入れた。」
「え?」
「お前なら頭を使った搦手に長けた奴だと思ったからだ。指示を出してくれれば全力で従うし、多少の無茶ぐらいいくらでもしてやる。だから、勝ってくれ。
「・・・・・・はいっ!」大きな深呼吸を済ませ、八百万は己を奮い立たせた。これだけ言われて嫌だと言えばヒーロー名家八百万の名が廃る。「では御覧に入れましょう。対相澤先生用の、とっておきのオペレーションを!まずは視界から外れます。時間さえあれば私達の勝ちです。今から話す通りに動いてください。常に氷結の発動確認を!」
「おお。」
相澤の視界に入っている事と『個性』が使えないことは常にイコールではない。瞬きの瞬間に解ける『抹消』は、『個性』の発動にしっかり気を配れば分かる。
「急がねえと追いついちまうぞ!」しかしその挑発に轟はもちろん、八百万は見向きもしない。
一瞬だけでいい。『抹消』が再び発動されるまでのインターバルにさえ入ってしまえば――
「轟さん、今です!出力最大!」
「分かった!」
――体育祭で見せたあの巨大氷壁を出せる。
行く手も視界も阻まれた相澤は戸建ての屋根に着地し、目薬を点し直した。「そうそう。痛い所はどんどん突いてけ。」
「ほう、轟の奴め、中々上手く使いこなせているではないか。」
「うん、しっかり弱点克服を目指してるね。結果的に八百万さんにも上手く発破をかけて自信喪失を吹っ切らせた。ところでグラファイト、そもそもあれ何なの?明らかにサポートアイテムが発揮できる能力を逸脱してると思うんだけど?」
画面を見ながらほくそ笑むグラファイトを見て出久は訝った。明らかにあの剣は質量保存やエネルギー保存などの物理法則に真っ向から喧嘩を売っている。
「ああ。アブソリュートカリバーは俺が作った物だ。俺の宿敵の一人が使っていた得物を参考にした。能力も鑑みて奴が持つに相応しいと思って渡したのだ。当然俺もお前も使おうと思えば使えるがな。」
「まあ、グラファイトの事だから変なものじゃないことは確かだろうし。後は八百万さんの度胸と、どれだけ轟君がカバーできるかだね。」
「うむ。八百万はその名の通り生物を除く万物を創り出せる、神に準じた能力を持っている。間違いなく化けるタイプの人間だ。」
「勝負は一瞬。よろしいですか?」
「ああ、文句なしだ。」差し出された黒い布を八百万同様頭からかぶり、作戦を開始した。
「布、か・・・・・・」確かに有効な対策ではある。相手の姿を肉眼で捉え続ける事が出来なければ『個性』の抹消を維持することは出来ない。しかし、視界を遮り、動きを鈍らせるデメリットを逆手に取ることは容易だ。投げ放った捕縛布で二人をまとめて縛り上げた――筈だった。捕らえたのは轟一人だけだった。
布を剥ぎ取ると、持ち手がついたマネキンの上半身と、大量の包帯を乗せた投石器が露わになる。
「ここですわ!」発射レバーに手が――かからなかった。相澤に集中するあまりか、目測を見誤ったのか、兎も角、手元が狂ったのだ。
「っのやろ・・・・!」轟の視界はぎりぎりだがゼロではない。投石器は辛うじて見える。左手に持ったアブソリュートカリバーを手首だけの力で横にほうった。掠るだけだが五キロ前後ある重さの剣は受け皿の留め金を外させるには十分な衝撃を与え、包帯の束が相澤目掛けて飛んでいく。
「轟さん、地を這う炎熱を!」刹那、炎が辺りを駆け巡り、ばらけた包帯の形状が変わって行く。意志を持った蛇のように相澤の全身に巻き付き、完全に動きを封じた。「先生相手に『個性』を使った攻撃を当てられる確率は低い。故にこれを使わせて頂きました。形状記憶合金『ニチノール』!加熱によって元の形へ復元されるものですわ!」
「・・・・・・やるじゃねえか、副委員長。」
見事に術中に乗せられた相澤の手に手錠がかかり、試験終了のブザーが鳴る。
『轟・八百万チーム、条件達成!』
「轟さん。」
「どうした?」
「これからは・・・・・いえ、これからも、一年A組の皆さん共々、どんどん私を頼ってくださいまし!」
嬉し涙を流しながら笑顔を湛えた八百万百の心は本日の晴天同様、晴れ晴れとした物だった。
「ああ。そうさせてもらう。」
アブソリュートカリバーの音声はスクラッシュドライバー、マグマ及びブリザードナックルでおなじみの若本ボイスでお願いいたしやす。
次回、File 52: 暗中模索のIdeal
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