龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

56 / 79
2019年ラストの一話、間に合わなかったか……無念。

皆さん、明けましておめでとうございます。

2020年もよろしくお願いいたします。


File 53: Don’t say no! 勝利の為に

残りの試験も恙なく進み、大多数のペアが脱出か相対する教師を捕縛する条件達成を果たしたが、やはり取りこぼしは避けられなかった。峰田と組んでいた瀬呂は序盤から無力化されながらも峰田の意地と機転で逆転、芦戸・上鳴のペアは終始根津に翻弄され、時間切れとなって条件達成はならなかった。

 

「まあ、これは俺が落ちんのは仕方ないな・・・・・・悪い。」

 

「皆ホントごめん!!」

 

「完っ全にしくじったな・・・・・ああ・・・・・林間合宿が・・・・・」

 

三人が口々に合格組の人間に頭を下げた(約一名は落胆のあまりそれどころではないが)。

 

「まあまあ、やっちまったモンは仕方ねえよ。自分の強みを前面に出し切れなかったのは誰でもねえ俺のしくじりだからな。」

 

「おお。俺、帰りにケーキ作ってやけ食いするつもりでいるから、お前らもよかったら来いよ。」

 

すでに赤点確定の切島と砂藤が苦笑交じりに三人に気休めとは言えねぎらいの言葉をかけた。

 

「で、でも、伸び代はあるって事だよ。」

 

残る対戦は一つ。緑谷出久とグラファイト対雄英教師の二人一組(ツーマンセル)のみだ。

 

「緑谷、決まったか?誰とやるか。」

 

相澤の問いに、出久は頷く。

 

「はい。まず一人目は、校長先生。お願いします。」

 

「勿論。重機しか操縦していないから、僕はまだまだ元気一杯だよ!お手柔らかに頼むのさ!」と前足をあげてスーツ姿の根津が快諾した。

 

「二人目は・・・・・・」

 

出久は迷った。根津は既に決定していたが、それを計画に組み込む武辺を持ち合わせた相手は、そういない。

 

真っ先に思い浮かぶのは、言わずと知れた実力者、オールマイトだった。ワン・フォー・オールの残り火は緩やかに、しかし確実に消えて行っているとは言え、それでもなお彼と相打つ事が出来たのは宿敵のオール・フォー・ワンただ一人。

 

そんな彼に自らの意思で再び挑む。とても正気の沙汰とは思えない。彼は最速・最強・最優のヒーローだ。彼と戦って得られない物などないが、彼を治すという手前、治すと公言した者が彼の残り火を削るのは本末転倒ではないだろうか?

 

オール・フォー・ワンを倒すまで、オールマイトが倒れるわけにはいかない。無駄に力を使わせるわけにはいかない。なら他の誰かがいるはずだ。今までの戦いを見て、グラファイトでもてこずる厄介な相手は二人思いつく。

 

一人目はエクトプラズム。三十体以上の分身を状況によって任意で使い分けられるゲリラ小隊を彷彿させる汎用性抜群の白兵戦術は、まさしく脅威である。

 

二人目はセメントス。今時コンクリートを使わない建物や舗装道路は殆どない。射程圏に制限はあるのだろうが、際限無い妨害と消耗戦の押し売りは間違いなく手を焼くことになる。

 

「二人目は、オールマイトだ。今一度、オールマイトとの戦闘を所望する。」

 

出久の長考を見かねたグラファイトは、迷わず平和の象徴との再戦を選択した。

 

「分かった。じゃ、ここに行け。十分後にブザーが鳴るから遅れるなよ?」

 

「無論だ。出久、行くぞ。」

 

「う、うん・・・・・・」

 

二度目の戦闘に臨む出久にいくつもの激励の言葉がかけられた。爆豪勝己の姿も、声も、なかった。

 

 

 

選択されたステージはプレゼントマイクが地中を掘り進んだ虫の大軍勢の奇襲で敗北した森林地帯だった。コスチューム姿の出久と変身したグラファイトはその入り口前で待機していた。

 

「出久、お前はUSJ事件の後に言っていたな。出来る事なら、オールマイトの後継を務めたいと。それは今でも変わらないか?」

 

「うん。」

 

「ならば、問おう。何故奴と戦う選択肢を取る事に躊躇した?」

 

出久は一度、二度、三度と口を開けては閉じたが、演習試験開始の放送とブザーが鳴っても、その答えを言葉に起こすことは出来なかった。

 

出久は木の梢を飛び移って頭上から警戒し、グラファイトは地上から警戒してゲートを目指した。まだ仕掛けて来てはいない。だが時間の問題だ。森の中は擦れる枝葉と土を踏み締める音しか聞こえない。グラファイトは特に警戒する様子もなく、歩みのペースを緩めずに進んだが、出久は少し遅れて付いて行った。木から木へと飛び移るたびに、グラファイトが前進するたびに、心臓が胸を打つたびに、その音が自らの位置を喧伝する爆竹の炸裂音に聞こえた。

 

受け身の取れない空中から撃ち落されるかブービートラップにかかるのではないか?あの時は重機の操作だけで勝利したが、ここにそれはない。あるとするなら遠隔操作できる固定砲台、オールマイトに指示して自然界の材料で作った落とし穴などの罠各種。何が飛び出すか気が気ではない。

 

その心配を裏付ける爆発が数メートル先で起きた。狼煙が立ち上る。

 

「グラファイト!?」

 

「落ち着け、ただの地雷だ!お前は出口を目指して突っ切れ、他は無視だ。足止めは俺が潰す。」

 

「わ、分かった!」

 

フルカウルと同時に枝を蹴り、空中に身を躍らせた。脱出ゲートは目視できる。表情は見えないが、マントとトリコロールのコスチュームを身にまとった人物もはっきりと捉えた。

 

「New Hampshire SMASH!!」

 

空中を両足で許容限界が許す威力で蹴り、直進。背後で起こる爆発と銃声に交じって風が轟々と唸った。

 

オールマイトと戦うことを躊躇ったのは何故か?彼を尊敬し過ぎているから?

 

違う。尊敬はしていたし、している。変わったのは度合いだけだ。グラファイトに出会う前は、オールマイトを神か何かと思っていた節があったが、年月を重ねる内に彼もまた人の子であると認識を改めさせられた。

 

もしオールマイトの治療が間に合わないか、あるいは失敗すれば、敵の根源であるオール・フォー・ワンとの戦いに自分が終止符を打たなければならないという重責を恐れているから?

 

間違ってはいないが、これも違う。グラファイトは誇り高き戦士であると同時に計算高い軍師でもある。オール・フォー・ワンとオールマイトは互いに殺し合った長年の宿敵であり、怨敵。まだギリギリ半人前と言えなくもない一学生である自分が介在する余地も資格も無い。

 

ならば、何故?

 

「い″ッ!?」

 

そんな考えが心中でひしめく中、衝撃が背中を貫く。振り向きざまデラウェアスマッシュを連発したが、射線上にあるのは浮雲と青空だけだ。再びニューハンプシャースマッシュで高度と勢いを取り戻そうとしたが、今度は四方向から同時に衝撃が貫いた。硬い何かが飛んできたのだ。高度を保てず木の幹に激突し、更に枝や張り巡らされた根に全身をしたたかに打ち据えられた。辛うじて受け身が間に合い、コスチュームの防御力によって多少の威力は軽減されるものの、青痣は確定だ。

 

「いったぁ・・・・・・!!」

 

頭を打ったからか、視界がちかちかする。砕ける程に奥歯を噛み締めて息を吸い込み、自らに喝を入れると、更にフルカウルの出力を上げる。今で丁度30%、上限を超えている。当たった物を拾い上げると、それは大きいビー玉ほどもあるベアリングだった。多少の弾力があることから恐らくゴム製なのだろうが、かなり固い。胴体なら打ち身程度で済むだろうが、顔に当たれば怪我では済まない。

 

撃ちだしているのはやはり遠隔操作されているステルス機能搭載型移動銃座か、はたまたドローンか。どちらにせよ、今はとにかく移動だ。相手はホーミングの『個性』を持つスナイプではない。弾道はほぼ直線。木々を遮蔽物として縫う様に動けば先程の様な直撃は避けられる。

 

だが安心した直後、横殴りの衝撃と数十発のゴム製ベアリング弾が出久の動きを止めた。再び目を潰され、更には耳をも潰される。

 

「クレイモア地雷・・・・・!?マジか、校長先生!?」

 

ベアリング弾以外は体育祭で使われた音と光のこけおどしだが、冗談抜きでこれは痛い。さらに追い打ちの銃撃が襲い来る。別のエリアでまた三、四本煙の柱が昇るのがぼんやりと見える。

 

今もたれかかっているこの木を根元から引き抜いて振り回せばドローンを叩き落せるだろうか?さぞ爽快だろう。何ならゲートにいるオールマイト目掛けてそれを投げ飛ばすのもありだ。楯にも出来る。

 

しかしそんな出久の思考も見透かされているのか、止まって考える時間など与えてくれない。破れかぶれの逃げ隠れを繰り返しながらも、考える事をやめなかった。自分より頭がいい相手と戦う時、思考を放棄した瞬間、坂を転がり落ちるように負けが重なる。

 

 

 

「・・・・・・これ、緑谷勝てるのか?」峰田がそう呟いた。

 

「おい、峰田!おま、お前何言ってんだよ!?」

 

「だ、だってよぉ!相手オールマイトと校長だぞ!?最強パワーと最強頭脳だぞ!?試験っつってもUSJよかよっぽど不利だぞ!?そんなんと戦って――」

 

「あいつは勝つ。」轟はスクリーンを見つめたまま、静かにはっきりと言い放った。「絶対にだ。」自らに課した血の呪縛から救ってくれた英雄は、負けない。

 

「うむ、むしろ逆境でこそ彼らの力は増す。今これ以上の逆境はない。」轟同様、飯田も出久に勝算があるかなど分からないし、彼が勝てるという論理的な根拠などない。だが、約束を破り、後戻り出来ぬ一線から彼は体を張って引き戻してくれた。未だ友と呼んでくれる彼を信じずして、何が友人か。何がヒーローか。

 

「然り。ヒーロー科一年最強の男がここで敗北するなど、到底ありえん。」騎馬戦で自分をいの一番に選んだ戦友を、常闇は信じた。

 

「そうね、常闇ちゃん。一度は勝ったんだもの。また勝てるわ、ケロ。」USJで共にピンチを切り抜けた蛙吹もまた、彼を信じる事を選んだ。

 

 

 

グラファイトの方から合流してきたのは運が良かった。見たところ大してダメージを受けた様子はないが、やはり目と耳は殆ど使い物にならないらしい。しかし見えない銃撃の正体は予想通り周囲に溶け込むクローキング機能を付けたVTOL型ドローンだったと壊れた機銃を見せられた。数はいくらか減らしたが、合計数は不明。そして『個性』持ちとは言えやはり元は野生の動物だからか、ホームグラウンドにいる根津のアドバンテージはほぼ動かない。広大なエリアのどこかに塹壕でも掘ってドローンを遠隔操作しているのは間違いない。

 

「捕縛は諦めるしかない、よね。」

 

「ああ。だが奴自身の戦闘能力は低い。だからドローンは無視だ。ゲートまで押し通る。」

 

『DRAGOKNIGHT HUNTER! Z!』

 

『MIGHTY DEFENDER Z!』

 

『MACH CHASER BURST!』

 

ゲームエリアを展開し、変身。エナジーアイテムの連続使用でゲートの位置を確認すると、わき目を振らずに前進した。ドローンに打たれても破壊し、地雷を踏めば起爆する前に走り抜け、木があれば薙ぎ払う。一直線に動く暴風と化した二人は、脱出ゲートとその番人たるオールマイトを目前にした――筈だった。

 

「え・・・・・?」

 

森林エリアの風景が、仁王立ちのオールマイトの姿が、そして脱出ゲートさえもが、消えた。

 

代わりに無味乾燥な試験場が露わになった。草木のいくらかは間違いなく本物だったが、それ以外は全て幾何学的な形の鉄塊やパイプに変わり、浮雲も青空も無い、鏡の様なパネルに覆われたドームの白い天井がそれぞれ驚愕と怒りに染まる二人の表情と、残り時間が十分を切った事を示すタイマーを映していた。

 

「ホロ、グラム・・・・・!?」

 

「やってくれるではないか、齧歯類の分際で。」

 

二人揃って一杯食わされたと気づいた時には、もう遅かった。振り向き、ゲートを探した。左側にオールマイトが立っている。今度こそ本物である。その筈だ。

 

「出久。」

 

「な、何?」

 

「何故奴と戦う選択肢を取る事に躊躇した?」

 

「こ、こんな時に何を――」

 

「答えろ。その理由をお前は知っている。その答えが、突破口だ。」

 

オールマイトを二度目の試験の相手に選ばなかった理由。

 

「オールマイトがいない世界が、怖いから。」

 

その後ろ姿で、その笑顔で支えてくれた彼が息絶え、心を引き裂かれるのが怖いから。

 

彼がいない世界で芽生えた思いもよらぬ悪意に立ち竦んでしまうのが怖いから。

 

そんな世界でヒーローをしっかり務める事が出来るか、怖いから。

 

「人間の一生は何人にも肩代わりすることは出来ない。それがどれだけ大切な相手であろうとだ。お前は、ヒーローになれると信じてくれたオールマイトに報いたいと言っていたな。ならば、やる事は決まっている。オールマイトの生き様を、口出しせずに最後まで見届ける事と、後の事は()()に任せればいい。貴様の心配は杞憂となり果てたと見せつけてやることだ。」

 

――我々。そうだ。僕は、僕たちは、一人じゃない。なら僕も、僕の信念(ヒーローの道)を走り切る。

 

赤いガシャットを取り出した。

 

「グラファイト・・・・・僕さ、今すっっっっっっごく、心が震えてるんだ。」

 

変身しているため、顔は見えないが、グラファイトは出久が今まで見た中で一番晴れやかな笑顔を浮かべている事は直感で分かった。

 




ドローンですが、イメージはクエンティン・ベックことミステリオがEDITHを使って操っていたアレです。

長らくお待たせいたしました。これでようやくヒロアカ劇場版『二人の英雄』のエピソードを書くことができます。拙作ですが、一応終着点はオールマイトvsオール・フォー・ワンまで行くつもりです。あとはジェントル・クリミナルやら芦戸さんとのフラグ回収やら、番外編をちらほら書いたり書かなかったり。

GET READY FOR THE NEXT BATTLE! SPECIAL FILE: BATTLE OF I-ISLAND

次回、Mission 01: 科学のUtopia

SEE YOU NEXT GAME.......

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。