龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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お久しぶりでございます。科学のUtopia編はこれで終了です。

そしてメタルクラスタホッパーはよ。


Mission 03: いざ、科学のUtopia (Part 3)

入国手続きは恙なく終わり、荷物も宿泊施設に運ばれると搭乗前に告知されている為、身軽になった。そしてI-アイランドに続く自動ドアが左右に開いた瞬間、二人は息を呑んだ。

 

眼前に広がる光景は、正しく『個性』と時代の先を行く最先端の技術が成せる、この世の楽園だった。レンガを敷いた敷地を一般公開前にもかかわらず、数千とも数万ともつかない数の老若男女が行き交い、パビリオンには『個性』を応用した様々なアトラクションがたくさん見える。とてもこれが人口の島とは思えない。

 

『出久、オールマイトには到着した事と先に羽を伸ばしている旨を伝えた。今は休暇中だから好きに動くといい。指図はしない。俺は、寝る。』

 

「わ、分かった・・・・・・」

 

機内で普段はしない昼寝で溜まった疲労をある程度抜いた出久の体は不思議と軽かった。よほど眠りが深かったのか。それとも、未だ自分の手を離さぬ人の齎す安堵故か。手汗を気にして一旦手を拭こうと出久は手を放そうとしたが、中々言い出せない。

 

『とは思いつつも、貴様、案外満更でもないだろう。普段あるささくれた釘の蓆を思わせるストレスが棘程度に縮小している。』

 

全く無くなったわけではないが、それはそれで弛み過ぎになる。

 

異性との遠出と言う未踏の経験によって生じる適度な緊張感。

 

組み手、勉強などの義務を一時的に忘れて羽を伸ばす解放感。

 

そして何より、以前はいなかった友が存在するという多幸感。

 

それらが全てある。ヒーローとしての人生を歩むのは約束もある手前、大いに結構なことだ。だが、思春期真っ盛りな彼には、今ぐらいが丁度良い。少なくとも、引子が買取りを依頼した古本の中にあった子育て関連の書籍の一冊にはそうあった。

 

「ねえねえ緑谷緑谷!まずはアレ行こ、アレ!!」

 

早速目欲しいアトラクションを見つけたのか、出久を半ば引きずる形でそちらに向かい始めた。

 

ブレイブとて決まった時間に甘味を摂取し、恋仲にあった自分の生みの親と過ごしていた時期がある。これぐらい、バチは当たらないだろう。

 

 

 

カプセル型の検査機に入ったオールマイトの前に脳波のグラフや心拍数などの数値が映し出されていた。医学など門外漢だが、病院にはよく世話になっているため、数値の良しあしはある程度分かっている。何より、元相棒のデビッド・シールドと元サイドキックのサー・ナイトアイの曇った表情と深まる眉間の皺が悪化の何よりの証拠だ。

 

「やはり、と言うべきか。」ナイトアイは静かに目を閉じて呟いた。

 

「この個性数値の大幅な下落は一体何故・・・・・?!」

 

検査機に繋がれた大型のコンピューターに映し出されるもう一つのグラフは、緩やかに下がっていたところでほぼ一直線に急激に落ち、再び緩やかに下落していた。

 

「オール・フォー・ワンとの戦いで損傷を受けたとはいえ、この数値はいくらなんでも異常過ぎる。君の体に何があったというんだ?」

 

「長年ヒーローをやって来たんだ。呼吸器官半壊に加えて胃を全摘している。それ以外にも色々怪我を負ってきた。」

 

痩せぎすのトゥルーフォームのまま、デビッドの問いにオールマイトは肩を竦めた。

 

「今までやっていた無茶が今になってぶり返して来ているんだろう。」

 

「・・・・・・君がアメリカに残ってくれればと、何度思ったことか。平和の象徴を守る為にも。」

 

悔しそうなデビッドの肩に、オールマイトは手を置いた。大学生時代も人助けをし過ぎた所為で授業に遅刻したり単位を落としかけたりと、迷惑をかけ続けた旧友に是が非でも言いたかった。治る可能性がある、と。しかし、良くも悪くも学者肌な彼は、その人物の素性や方法を自分を救うため、そしていずれ無辜の民を救うため、後の科学の発展に生かすために知りたがるだろう。

 

「その気持ちだけで十分だよ。それに、日本には私以外の優秀なヒーローが何人もいるし、デイブのような素晴らしいサポートをしてくれる方がいる。それに、仮に機会があったとしても、今はまだ日本を離れるわけにはいかないんだ。」

 

だが出来ない。緑谷出久を、グラファイトを裏切ることになる。勿論、彼が言っていたように意志を持った『個性』だと言えば納得してくれるのだろうが、ただでさえ隠し事が多い。その上で更に嘘をつきたくない。

 

「何故なんだ、トシ?オール・フォー・ワンはもう――」

 

「まだ生きている可能性が高い。」

 

デビッドは目を見開いた。「そんな馬鹿な!?君はあの時、間違いなく倒したと・・・・・・・!」

 

「ああ。しかし、私が奴の底力を見誤っていたという可能性は十分ある。勿論、まともな体じゃないことはまず間違い無い。奪った『個性』で使えない物もかなりあるだろう。だが生きている限り、かき集めるだろう。だから、まだ何も終わってはいない。そして仮に第二、第三のオール・フォー・ワンが現れたとしても、本当に何もかもを出し尽くすまでは、平和の象徴を降りるつもりはない。」

 

本人にそのつもりは無くとも、巨悪を打倒する世代を超えた英雄達の絆は、しっかりと次代の若者に受け継がれたのだから。

 

「オールマイト、私は少し外の空気を吸ってくる。検査やオール・フォー・ワン以外の積もる話もあるだろう。旧交はしっかり温めておくといい。遠方の友人である以上、会える内に会って、話せる内に話しておかないと後で後悔する。ホテルか、パーティー会場で合流する。シールド博士、また後程。」

 

一礼してから脇目も振らずに退室した元サイドキックに、オールマイトは苦笑した。

 

「気を悪くしないでくれ、彼は根っから真面目一徹なとっつきにくい性分で自分にも他人にも厳しいんだ。組んでいた頃は書類作成や事務作業はほぼ全て彼がしてくれていた。」

 

抜けた時は事務所が大変だったけどね、と困窮時代がフラッシュバックしたのか、オールマイトの顔色が別の意味で悪くなった。

 

「いやいや、メールや電話で話には聞いていたけど・・・・・・実際に会うと君が根負けしてサイドキックにしたのも頷けるよ。正に、真人間の頂点に立っていそうな男だ。もし彼が科学者だったら、私も是非欲しいと思っていたさ。」

 

「パーティー会場で是非彼にそう言ってくれ。表情には出さないだろうが、喜んでくれるよ。彼と仲直りしたいのもあって、無理を言って一緒に来てもらったんだ。」

 

「まあ、来る者は拒まないし、必要とあらば僕からもフォローはするさ。あ、サイドキック歴は後れを取っているけど、友人歴は私の方が長い事も言っておくよ。それとなくね。」

 

「HAHAHAHA! おいおい、男の嫉妬は醜いぞ?」

 

 

 

 

三十六種類のセンサーが内蔵されたゴーグル。

 

「見え過ぎィ!?」

 

深海七千メートルまで潜ってもびくともしない潜水スーツ。

 

「深過ぎィ!?」

 

陸海空を踏破する可変型バリアブルビークル。

 

「万能過ぎィ!!」

 

運動エネルギーを自在に吸収する全距離防御を可能にした、未知の金属で出来た強力な無線操作シールド。

 

「ヤベーイ!」

 

そして説明書き曰く、有機物、無機物の『成分』を抽出した色とりどりの小さなボトル。

 

「モノスゲーイ!」

 

更に、腕に覚えがあるなら誰でも参加可能な『ヴィラン・アタック』なるゲーム。単純に表れるロボット型の仮想ヴィランを撃破し、所要時間を競う、という物だった。そこには十秒と言う暫定一位の記録を叩き出した、コスチューム姿の轟焦凍の姿があった。新調したのか、背中にはアブソリュートカリバーを収納した鞘を背負っている。

 

嬉しい。楽しい。興奮で脳が疲労を処理しきれない。喉を潤し、小休止の為にひとまず近くにあったカフェテラスで席を取り、出久は座り込んだ。

 

「やっばい・・・・・・やばいよ、思春期女子の体力マジで甘く見てた・・・・・・!!」

 

趣味がダンスと言うだけあり、身体能力の素地は1-A女子ではトップクラスであるが、I-アイランドと言う一般人では入れないような所に百を超えるアトラクションの数々に加え、女子が飛び付く様な飲食店の数々。思いつく限り、片っ端から回った。

 

特に食いついたのが、先ほどのヒーローアイテムの展示会である。

 

「・・・・・・プレ・オープンにこれだったら、一般公開日はどうなるんだろ……」

 

「あ、バイトで来てる上鳴と峰田もおんなじこと言ってた。」

 

「楽しそうやったね、デク君。」

 

「はぇ?」

 

突っ伏した頭を起こし、振り向いた。麗日を筆頭に八百万、耳郎の三人がニマニマ、ニヨニヨ、ニヤニヤしていた。

 

「とっても楽しそうでしたわね、お二人とも。」

 

「ウチ、色々聞いちゃった~♪」恐るべし、イヤホンジャック。

 

「う、麗日さん?!耳郎さん、八百万さんも・・・・・・!来てたんだ・・・・・・」

 

「恨みっこなしのじゃんけんで勝ち抜いたんやよ。他の皆も一般公開日に来るけど。」

 

「私も驚きました。まさか二十回近くあいこが続くとは思いませんでしたわ。」

 

あいこが二十回。それだけでどれだけプレ・オープンに行きたい彼の本気度が伺える。

 

「でも会えてよかったよホント!まだ回ってないところとか絶対あるから教えて!」

 

別のテーブルの椅子を三人分寄せたところで、芦戸は四人目の存在にようやく気付いた。

 

「えっと、この方は・・・・・・?」

 

三人の背後に立っている、見知らぬ金髪碧眼の眼鏡をかけた同年代の少女が手を振ってきた。『個性』という遺伝子レベルで人を変えられる物の特性上、断定は出来ないが、風体は東洋人らしからぬことが見て取れた。

 

「私はメリッサ・シールド。このI-アイランドに住んでいて、貴方と同じ学生よ。と言っても、私はもう三年生だけどね。メリッサって呼んで。」

 

「三人で回ってる時に、話しかけられてさ。道に迷った人とかを案内して回ってるから、色々助かってたんだ。現在進行形で。ありがとね、メリッサ。」

 

「どういたしまして、キョウカ。」

 

シールド。その名に、出久の目が皿のように大きくなり始めた。ノーベル個性賞受賞者にしてヤングエイジ、ブロンズエイジ、シルバーエイジ、そしてゴールデンエイジのコスチュームを一から作り上げた、『個性』研究におけるトップランナー。

 

「シールド・・・・・・シールドって、もしかしてデビッド・シールド博士の・・・・・?!」

 

「うん、娘よ。よろしくね。貴方がイズク・ミドリヤ君ね?」

 

「はい・・・・・・あれ、でも何で名前を・・・・・・?」

 

「私だって雄英体育祭を毎年欠かさず見てるのよ?上位入賞者の名前ぐらいしっかり覚えてるわ。それに、三人が口を揃えて言うんですもの。雄英一年生最強の男って。」

 

「最強の男って、そ、そんな大袈裟な・・・・・・!」

 

「ハンデ付きとはいえガチのオールマイトと渡り合った人に言われても皮肉にしか聞こえない。」

 

芦戸の言葉にクラスメイト三人はうんうんと一堂に頷き、今度はメリッサの目が皿のように大きく見開かれた。

 

「え!?貴方、マイトおじ様に・・・・・・勝ったの!?」

 

「ほんと、ギリギリで勝ったというか、逃げ切ったというか・・・・・・」

 

「凄いのね!流石は雄英一年生最強の男。」

 

慣れないお世辞に頬が緩み、熱くなる。それを悟られぬように出久は顔をそむけた。

 

「で、早速なんだけど、ちょっとそのままでいてくれる?」

 

「はい?」

 

突如聴診器らしきものを取り出し、出久に向けると、スイッチを押した。五秒も経過しない内に掌サイズのスクリーンが空中に投影され、それを見てメリッサの目つきが険しい物に変わる。

 

「あの・・・・・・どうかしたんですか?僕が何か・・・・・あ、ひょっとして病気とか?」

 

「ん~、どう言えばいいかしら・・・・・・休暇で来ていて、クラスメイト同士の再会早々で切り出しにくいんだけど・・・・・・少しイズク君を借りてもいいかしら?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ぜひ彼と話をしたいって。会ったばっかりでこんなこと頼むなんて図々しいのは承知の上よ。でもその上でお願いします!」

 

 

 

不満たらたらだったが(主に芦戸が)、結局出久が埋め合わせをするという言質を取らせた上で渋々別行動を許してくれた。注文を届けに来た峰田や上鳴は逆ナンだのなんだの騒いでいたが、全速前進で二人を注意しに来た飯田の説教を食らう前に退散した。

 

「お友達に、悪いことしちゃったわね。本当にごめんなさい。」

 

I-アイランドの中心に近い研究施設のエレベーター内でメリッサは出久に詫びた。

 

「め、メリッサさんが気にする必要はありませんよ!あのその、科学者なんで・・・・・」

 

「それでもよ。科学者以前に私は一人の人間なの。けじめはちゃんとつけなきゃ。それに私は正確には科学者の卵、なんだけどね。それに、私が謝っているのは強引にお友達から引き離したことだけじゃなくて、皆に嘘をついたことなの。」

 

「嘘?」

 

出久はエレベーター内に視線を巡らせた。業務用エレベーターほどではないが、そこそこ広い。最悪の場合ガラスを力づくでぶち破って脱出と言う手もある。

 

「うん。イズク君の様な『個性』・・・・・・いえ、能力を研究している人がいるのは本当。いえ、正確にはいた、と言った方が正しいわ。」

 

「いた?じゃあ、もう・・・・・・?」

 

「ええ、亡くなったわ。過労で。そしてもう一つの嘘が、研究のテーマは意思を持った『個性』じゃないと言う事。勿論『個性』研究だけじゃなく、特にサイバーセキュリティ―と医学の発展を促す素晴らしい貢献をしてくれたわ。いくつもね。でも、彼の本当のテーマは人間に感染する能力を獲得したコンピューターウィルス。その名も、『バグスター』。」

 

出久の意識はあっという間に後方に引っ張られ、グラファイトの意識が肉体を動かした。

 

『MUTATION! LET’S CHANGE! LOTS CHANGE! BIG CHANGE! WHATCHA NAME!? THE BUGSTER!』

 




これで話をようやく進められる・・・・・・音程を合わせないノリノリな神も、おっと。

次回、Mission 04: GODの置き土産

SEE YOU NEXT GAME..........

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