十話も書いてないのにUAが一万超えてやがる。マジかよ・・・・!
Oh my....oh my....GOODNESS!!!!!
騒ぎの原因はやはり最初に出久を襲ったヘドロ男だった。商店街に野次馬が集まっており、そこかしこが火の海になっていた。その場にいたヒーローはデステゴロ、バックドラフト、シンリンカムイ、Mt.レディを始めとする面々だったが、どれも有効打を与えられる『個性』の持ち主ではない。
「そんな・・・・じゃああの時に・・・!?」
オールマイトの足にしがみついた時には確かにあの二リットルサイズのペットボトルはあった。自分を引き剥がそうとした時に落ちた可能性が高い。だとしたら。
「僕のせいだ・・・・」
「なら、お前が責任を取るほかあるまい?」
出久は必死に頭を回転させた。寝る間も惜しんで様々な分野の自主勉強をして来たのは、この様な時の為だ。
「相手は流体、そのままじゃ掴めない。でも流体でも水とは違って粘度も伸縮性もある。それらを無効化するのは、凍らせるか、その他の固める方法。他の方法、固める、固める・・・えっと、えーっと・・・そうだ!!」
辺りを見回した。ここら辺は休日に出かける時によく来る。近くにホームセンターがあったのを思い出し、駆け出した。セメントの粉が入った袋を碌に確認もせずに財布の中の札をカウンターに置いて現場に戻った。二つの袋に切れ込みを入れ、脇に抱えたまま人込みを押し退けると一直線にヘドロ男の方へと加速した。
「馬鹿野郎!止まれ!止まれーーー!」
まず怯ませる為に顔面目掛けてリュックを投げつけた。放物線を描くリュックは丁度ヘドロ男の目を直撃し、一瞬視界を潰す。
「うわああああああああああーーーー!!!」
袋の切れ込みを引き千切り、捕まえている学生服を着た人質がいる辺りに残らずぶちまけた。
「なっ、てめえこのクソガキがぁ―――――!!」
体は流動体、周りは高温の炎。おまけにセメントは水が多いほど練り混ぜやすい。全身が液体である以上、効果は絶大な筈!全身にはかかっていないから完全に動きを封じたわけではないがそこが狙い目。固まった部分はある程度捨て置いても問題は無い筈。固まらない箇所は、人質に纏わりついていない所のみ。
逃げれば人質という楯を失う。留まればセメントがどんどん体の動きを封じていく。抵抗しようと動けばセメントが更に満遍なく混ざっていく。
どちらにせよ、結果は同じ。
『俺の力を使わずこの面倒な体質の奴をてこずらせる事が出来るなら、十分だ。後は俺に任せろ。』
グラファイトに主導権を譲ると、出久は右腕が一瞬だけ異様に熱くなるのを感じた。そして感じ慣れない重みがあった。
「こいつは・・・・」
深緑のガシャコンバグヴァイザーが突如右腕に現れたのだ。色やデザイン、ガシャットを挿入するスロットなどの細部は使い慣れていた物とは異なれど、基本的な形は見紛う事無きバグヴァイザーだった。
「まさに、運命はパズルゲームだな。」
『ギュギュギュ・イーン!』
グリップのスイッチを押し、二門の銃口が反転して黄色と赤の刃が前に出た。空気を震わす甲高い機械音と共に刃がチェーンソーの様に高速回転を始める。素早い剣捌きで捕らわれている学生を解放し、後ろにいるヒーロー達の方へ押しやった。
「邪魔をするんじゃねえぇーーーーーー!!!」
まだ固まっていない車の面積程もある手が上空から出久を叩き潰そうと迫るが、
『チュドド・ドーン!』
再びバグヴァイザーを反転させて二門の銃口が緑と赤の火を噴き、手を四散させた。
「まあこれぐらいでいいか。」
手を再構築したヘドロ男が再び出久を叩き潰そうと腕を振るったが、それを一人の大きな男が受け止めた。
「情けない・・・・!全く以て情けない!君に諭しておきながら、己が実践しないなんて!プロはいつだって命懸け!」
口から血を吐きながらも、オールマイトは握った拳を振り下ろした。
「DETROIT SMAAAAAAASH!!!」
振るわれたその右拳から、竜巻が巻き起こった。その凄まじい拳圧は周りの炎をろうそくの様に吹き消し、上昇気流を作り出して上空に打ち上げた結果、雨を降らせ始めた。たった一発のパンチが、天候をも変えたのである。
事態は一気に収束へと向かい、ヘドロ男は警察に引き取られ、オールマイトはマスコミ群に応対し、出久はプロヒーロー達のこっぴどい説教を拝聴した。
「全く、無茶にもほどがある!」
「君が危険を冒す必要は全然なかったんだ!」
「ふざけるな。」
主導権を握ったままのグラファイトははっきりと言い返した。
「ただ手を拱いていた奴らが、何をほざく?」
野次馬が巻き添えを食らう前にその場から退去させる事は、万一その場からヘドロ男が人質とともに逃走しようとした時に取って然るべき対策だ。しかし彼らはオールマイトや自分が来るまでに『無個性』の人間でも出来る事をしていなかった。それどころか有利な『個性』を持ったヒーローが来るまでほぼ棒立ち状態でいる始末。
ヒーローが聞いて呆れる。
「生憎だが、流動する奴の動きを封じるのにセメントを使うという、『個性』すら必要無い単純な発想に至らなかった奴らの説教を聞く耳など持ち合わせていない。いいか、よく聞け。ヒーローを成すは『個性』に非ず、だ。」
はっきり言って失望の一言に尽きた。
オールマイトは取材が間違いなく長引くからそのままさっさと帰った。
「なんとか、なったね。」
『ああ。しかし、セメントとはうまく考えたものだ。』
「最初は片栗粉使おうかなと思ったんだけど、大きい袋で売ってる所って業務用スーパーぐらいで商店街には無いから・・・・でもあそこまで言う必要無かったんじゃないの?カメラとか思いっきりこっち向いてたし。」
『目を背けた所で現実は変わらん。歯に衣着せた所で気休めだ。逃げ続ければいずれは食われる。』
「ところでさ、あの右腕に現れたあれって何?いつの間にか消えちゃってたけど。」
『以前俺が使っていた物とよく似ている、ガシャコンバグヴァイザーという物だ。武器以外の使い道もある。細かい差異があるゆえ詳しくはまだ分からんが、何故あれが現れたのかは俺も知らん。だが少なくとも俺達の力の一部である事は間違いない。』
「そう、だよね。うん、分かった!ありがと。にしても、緊張が途切れたら一気にお腹空いたな。基礎代謝が良くなったってのもあるんだろうけど。」
『帰ったらたらふく食えばいい。』
「デクゥーーーー!!!」
聞きなれた声、聞きなれた呼び名。爆豪だった。肩で息をしているところを見ると、自分を探す為に方々駆けずり回ってここまで来たのだろう。よく見ると制服や顔が煤やセメントで汚れている。ヘドロ男に捕らわれていたのは彼だったのだ。
「あ、かっち・・・爆豪君。」
「俺は・・・・お前の助けなんか求めてねえぞ!一人でやれたんだよ。今更『個性』を発現させたペーペーが俺を見下すんじゃねえぞ!恩を売ろうってか!?ああ!?」
「どう思おうと君の勝手だよ、余計なお世話を焼くのがヒーローだから。僕はやりたいからやっただけだ。」
爆豪は以前よりもいつの間にか一回りも二回りも大きくなっていた幼馴染を睨む事しかできず、舌打ちと共にクルリと背を向け、足音荒く家へと足を向けた。
『景気づけにもう一発きついのを食らわせてやった方がいいかもな。今度はしっかり意識を刈り取ってやる。』
「ダメだって!」
そういった瞬間、「私が来た!!!」とオールマイトが現れた。見慣れたいつもの巌のような風体で。
「お、オールマイト!?さっきまで取材されてたんじゃ!?」
「HAHAHAHAHA!抜けてくるなんて訳無いさ、何故なら私はオールマゲフゥ!?」
喀血と共に巌が枯れ木に変化した。
「少年、用件は三つある。礼と訂正、そして提案をしに来たんだ。君がいなければ、口先だけのニセ筋となる所だった。そして君のあの『ヒーローを成すは「個性」に非ず』と言う言葉、身に染みたよ。おかげで初心に立ち返る事が出来た。ありがとう。そしてあの時の質問に改めて答えよう。どんな形であろうと、『無個性』の人間でも、誰でも、ヒーローになれる!」
欲しかった言葉が。物心ついた時から死ぬほど欲していた言葉が、憧れのヒーローの口から出た。その現実を受け止めようと、出久は必死に心を落ち着けようと呼吸に集中したが、無駄だった。胸が痛い。痛いが、痞えが取れたように軽くなっていく。目から熱い涙がぼろぼろと溢れてくる。
ガシャコンバグヴァイザーIII、調子に乗って出しちゃいました。既存の二つの上位互換という事で音声はキースラッシャーを意識してます。培養はまだ先になりますが。
次回、File 07: 龍戦士グラファイトのOrigin
SEE YOU NEXT GAME....