龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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久々の一週間以内の投稿だぜやっふー!


Mission 04: GODの置き土産

突然の変身に、メリッサは反応を示す事はなかった。異形型や変形型の『個性』を見慣れているのだろう。

 

「まさかバグスターを知っている人間が、他にもいるとはな。答えろ、メリッサ・シールド。その研究者の名を。」

 

『ちょ、ちょっとグラファイト!?いきなり何を――』

 

「黙れ。」たった一言。怒鳴ったわけでもない、ただ静かな声音のままで放たれた一言は、只管に恐ろしかった。今まで聞いたことも無いような、殺気と怒気が滲み出る恐怖が出久にのしかかった。「出久、お前は知らないだろうが、もし、俺の知る者の名と合致するような事があれば・・・・・・第二、第三のモリアーティが台頭するかもしれないことを覚悟しておけ。奴は、過労ぐらいでくたばるほど柔な奴ではない。」

 

過労どころか普通に殺したところで蘇るのがオチだ。ゾンビの方がまだ諦めが良い。

 

「クロトよ。研究者の名前は、シン・クロト。日本人だったらクロト・シンと言った方が正しいわね。心配しなくてもバグスターの事を知っているのは、今は貴方達二人以外に私とパパだけ。定期的な視察に来る各国の重役も知らない。研究が完成する前に亡くなってしまったから、スポンサーに完成品を公表する前にお蔵入りしてしまっているの。」

 

チン、と小気味の良い音と共にエレベーターが止まり、ドアが左右に開いた。

 

「着いたわ、このフロアよ。」

 

一度変身を解き、メリッサに入り組んだ廊下を案内されると、やがてローマ字表記でシン・クロトなる人物の名を記したプレートと扉があり、その下にはパソコンのキーボードが設置されていた。

 

「ここが研究室・・・・・・・」

 

「うん。亡くなってからは、誰も入れないのよ。」

 

「入れない?パスワードか何かでプロテクトを掛けられているのか?」

 

グラファイトの言葉にメリッサは小さく頷いた。

 

「ええ。元々コンピューター関係の頭脳は神がかってたの。ハッキング対策も万全だから、システムの権限を奪おうという動作を始めた瞬間、彼の研究データは全て削除される。パスワードを入力できるチャンスは三回まで。もう二回失敗しているから、後がないの。資料にあった貴方――グラファイトバグスターなら何か分かるんじゃないかと思って。」

 

「生憎俺はその手のプロではないのでな。俺が直接システムに干渉するハッキングが無理となると、パスワードを残りの一回をノーミスで当てる必要がある。ヒントはないのか?」

 

メリッサは無言でキーボードを操作すると、壁のパネルが外れて画面が露わになった。

 

『我が名を四度、三十一文字で復唱せよ: EF NL AF HL』

 

「・・・・・・全く分からない。」出久は二十秒と経たずに降参した。元々畑違いである為仕方ないと言えば仕方ないのだが、それでも何ら解決に貢献出来ないのは頗る歯痒かった。「グラファイト、何か分かる?」

 

「奴の事だ、この程度を解けなければ自分の英知に触れる資格なし、と言ったところだろう。名を四度復唱、か・・・・・・」

 

「あーあ、葛城博士がいたらなあ。一分と経たずに分かるのに・・・・・・」

 

「葛城博士?」

 

「葛城戦兎博士。パビリオンに展示されたボトルがあったでしょ?あれを作った人よ。物理学と言う分野においては名実共に天才的な学者で、未回答のミレニアム懸賞問題全てを一人で、たったの二十時間で解いたの。今はスイスの学会で忙しいから、ここにはいなくて。」

 

「無い物ねだりはやるだけ無駄だ。」

 

「そうだね。『無いなら作ればいい』と言うのは科学以外のあらゆる分野にも当てはまる格言だ。」

 

「パパ!?」

 

「やあ、メリッサ。」黒縁眼鏡にポロシャツ、その上に羽織った白衣。顎髭を蓄えた男の姿を見て、うっすらと見える皺は、在りし日々は凛々しかったであろう風貌に程よい丸みを帯びさせていた。

 

「私も来た!」

 

「マイトおじ様まで・・・・・・!」

 

「ここに滞在中緑谷少年に会わせておきたいと思っていたんだが、手間が省けたよ。」

 

「オールマイト・・・・・・何故ここに?」

 

「ああ、久々に来たからね。私が日本に戻った後に新築された施設を案内してもらっていたんだ。その中の一人に大層変わり者がいたというんで、まあぶっちゃけ探検していたのさ。HAHAHAHAHA!あ、紹介をしなければね。彼は私の大学時代からの親友、デヴィッド・シールド。デイブ、こちらは雄英高校ヒーロー科所属の緑谷出久少年だ。」

 

「トシの教え子か。なら、将来有望だな。デヴィッド・シールドだ。好きに呼んでくれて構わない。」

 

差し出された手を、出久は息を整え、手汗を拭いながら握った。

 

「お、お会いできて光栄です、シールド博士ッ・・・・・・・!ああ、それと、もう一人紹介する人がいます。グラファイト。」

 

「ああ。培養。」

 

『MUTATION! LET’S CHANGE! LOTS CHANGE! BIG CHANGE! WHATCHA NAME!? THE BUGSTER!』

 

「バグスターのグラファイトだ。この場にいる者しかバグスターの事を知らないと言う話につき、本来の姿を晒した。」

 

再び龍戦士の姿に戻ったグラファイトの姿に、デヴィッドは口があんぐりと開き、目も負けず劣らず見開いていた。

 

「バグ、スター・・・・・・!?ほ、本当に・・・・・・!」

 

「ああ。」デヴィッドの驚き具合に味を占めたのか、首を傾げ、両手を広げて見せた。

 

「お前がどれだけ黎斗との交友が深かったか、どこまでバグスターウィルスの事を知ったかは今はひとまずどうでもいい。俺は紛れもなくバグスターウィルスだ。この事実は動かん。今は訳あって出久を宿主としているが、見ての通り実体化及び独立行動も可能としている。そこで、だ。丁度来たのならばあの糞忌々しい自称神のパスワードを解きたい。オールマイトを探検に連れ回すだけの余裕があるならば、暇を持て余しているだろう?」

 

「あ、ああ・・・・・・まあ、確かにいい加減このスペースを遊ばせておくわけにはいかないしね。一度目は私が試したんだが、別の仕事の片手間にやっていたからね。二度目は代わりにメリッサが解読しようと頑張ってくれたんだが。『我が名を四度、三十一文字で復唱せよ』か。なるほど、うん、とりあえず四分の一は分かった。」

 

「え、もう!?」

 

「まず先程のアルファベットを数字に置き換えると、こうなる。」

 

5, 6 14, 12, 1, 6 8, 12

 

「56とは、即ち語呂。まあ、日本独自のとんちだよ。クロト・シンをそれに倣う数字に変えると、9、6、10、4、0となる。ここから更に次の四分の一を埋めるヒントになる。NとLはそれぞれ14と12。NLはNumber to Letter、つまり数字から文字に変換する暗号。NとLの位置がずれていないとなれば、1はA。即ち9、6、10、4はそれぞれI、F、J、D。残った0は、当てはまる物が無いから空白(スペース)。」

 

カタカタとキーを片手で操作した。あっという間に三分の一が埋まった。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

メリッサは科学者だ。デヴィッドは順序だてて説明しているつもりなのだろうが、理解が追い付かない。突拍子もない論理の繋げ方に目を白黒させるばかりだ。

 

「仮に、仮によ?そうだとしたら、AFは・・・・・?」

 

パターンが見えてきたのか、グラファイトは即座に紐解いた。

 

「AとFはそれぞれ1と 6。あの男は元を正せばプログラマーだ。これだけあればもう分かる。十進法を十六進法に変換。解は、EAA10。」

 

これで十六文字が埋まった。

 

「でも、この最後のHLは?数字に変えても8と12。語呂合わせなんて出来ないよ。Hと、L・・・・・・・グラファイト、これもコンピューターの数値表現の何かに関係してるの?」

 

Hと、L。それを何度もつぶやきながらメリッサは首を左右に傾げた。

 

「デイブ、大学時代、君は言っていた。どんなコンピュータープログラムも、元を正せば、1と0だけで出来たデータの塊だと。スイッチでいうなれば、オンとオフ。真と偽の真理値。」

 

「そうか・・・・・・二進法!」

 

1001 110 1010 100 0

 

1と0から成る最後の十五文字を入力。

 

開け、ゴマ(OPEN SESAME)・・・・・・!」

 

たん、とデヴィッドの人差し指がエンターキーを叩く。

 

『AUTHORIZE』

 

キーボードが引っ込み、扉が開いた。

 

「開いた・・・・・・!」

 

「良かったぁ~~・・・・・・」

 

部屋は計算式をいくつも殴り書きしたボードに資料の詰まった箱、そして工具や何らかのパーツをぶちまけた一角を除けば、何も無かった。

 

全員の興味を引いたのは、デスクトップ型のコンピューターと筐体の脇に鎮座した大小二つのジュラルミンケースだった。留め金つきで、大きく『神の才能』と書かれた鉢巻で縛られてはいたものの、施錠はされていない。

 

小さいケースにはガシャット二つ分の厚みがある『マイティ―ガーディアンズXX』のガシャットが、大きいケースの中には二つの出っ張りがついたメタリックグレーの金具と、グラファイトが良く知っている色こそ違うが、まごうことなきゲーマドライバーが入っていた。

 

「これは・・・・・・?」

 

「ベルト、よね?」

 

「ああ。医者ならば医療機器と言い張るだろうが、早い話が対バグスター用の兵器だ。使える人間も限られている。資料も見る限り・・・・・・・おそらく様々な病気に対するワクチン生成の為にバグスターウィルスを利用しようと考えていたのだろう。コンピューターウィルスでもある以上、プログラマーの奴ならばどうとでもいじれる。不治の病や治療法が確立していない特定疾患にも手が出せるようになる。」

 

「グラファイトと言ったね。君は、なぜそこまで彼や彼の研究の事を知っているんだい?I-アイランドに来るのは、初めての筈だろう。」

 

「簡単な話だ。奴が俺を生み出したからだ。俺は奴を振り切り、外界にて人間社会に溶け込み、独自に学習(ラーニング)を続け、進化し、ここまでこぎつけた。でなければ奴がこんな突拍子も無い研究を始めるわけがなかろう。」

 

デヴィッドの質問にグラファイトはそう答えた。真っ赤な嘘ではないが、十分真実味は帯びさせているのか、彼はそれ以上追求しなかった。

 

「ケースのそれは、バグスターウィルスが暴走した時の為の安全装置だろう。だが安心しろ。俺は自分から誰かを襲うつもりはない。今の()()は緑谷出久の『個性』で通しているんでな。」

 

「デイブ、黙っていたことは謝るよ。だが、彼の事については私が保証しよう。彼は緑谷少年と共にいくつもの命を救った。」

 

「私達の仲じゃないか、気に病むなよ、トシ。それに人の秘密はむやみに明かしていい物じゃないからね。君がそこまで言うなら、信じよう。」

 

「ありがとう。」

 

「僕からも、ありがとうございます、シールド博士。」

 

突然デヴィッドの腕時計のアラームが鳴った。

 

「おお、もうこんな時間か!ここは私がやっておくからレセプションパーティーに出る準備をしてくれ。」

 

「え“、もうそんな時間になってるんですか!?」

 

出久は慌てて携帯を取り出した。ずっとマナーモードにしていた為に、大量のメッセージ通知と不在着信に気づかずにいたのだ。

 

「ヤバい・・・・・・・芦戸さんに怒られる。」

 




やっとここでゲーマドライバーを出せた・・・・・・長かったなあ。

後は変身後の名前を考えねば。

次回、Mission 05: 鋼鉄のDystopia

SEE YOU NEXT GAME.......

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