強キャラってゆっくり歩くのに定評があるけど、棒立ちで迎撃ってのはしびれる。T-1000を思わせる無機質さとか怖かっこいい。
とにかく、『二人の英雄』編、第五話です。
島の敷地内で『個性』の使用は許可されている。出久はワン・フォー・オールを許容限界ギリギリまで出力を上げてホテルの部屋へ急行した。荷物はベッド脇の棚に収納されており、大急ぎでシャワーを浴びてから仕立ててもらったスーツをスーツケースから引っ張り出した。
ここで出久は、重要な事実に気付く。
「黒い・・・・・・・!!」
そう。濃淡の度合いにこそ差異はあれど、オーダーメイドのスリーピーススーツは上着、ベスト、ズボン、靴、そしてペイズリー柄ネクタイの全てが黒一色なのだ。唯一シャツが白い。映画の主人公である殺し屋が着こなしていた衣装にしか見えない。
「・・・・・・マジか。」
悪目立ちすることは必至である。しかし、自分は礼服の細かい事などは分からないからグラファイトに任せると言ってしまっていた以上、文句を言える立場ではない。加えて、他ならぬグラファイトが用意したのだ。それもかなりの金額を掛けたのが素人目からも明らかだ。市販のスーツにはない高級感がある。正直、自分の様な庶民が着てしまっていいのか、躊躇ってしまう。
一度深呼吸をして覚悟を決めると、袖を通した。今後の肉体的成長を踏まえて多少サイズに遊びはあるが、フィット感は抜群だった。招待状、スマートフォンなどの身の回りの持ち物を点検し、会場に急ぐ。すでに十分は遅刻している。
「怒ってるだろうなあ・・・・・・・あぁ~・・・・・・」
「上手く言っておけ。」
「言っておけって・・・・・・グラファイトは行かないの?」
「ここに来た我々の主な目的は休暇。即ち休息だ。言った筈だぞ、俺は寝ると。それに、アレを見つけてしまった以上、考えるべき事が増えた。」
確かに、声にこそ出さなかったがケースの中身をグラファイトが見た瞬間、大きく眦が吊り上がったのを出久ははっきりと見た。驚愕と怒り、そして分かっていた、半諦めにも似たような下がる視線。
「そっか。そう、だよね。その、クロト・シンって人は、グラファイトにとって何なの?あそこまで怒るとこ、久しぶりに見たよ。」
グラファイトはしばし顔をしかめた。
「話したくないわけではないが・・・・・・話せば長くなる。一晩ではとても語り尽くせん。だがまあ、奴は神を気取る狂人であったと言う事だけは覚えておけ。無駄に知力がある分余計に質が悪い。だが、今は俺の事は気にするな。楽しんで来い。」
追い出されるようにホテルの部屋から押し出された出久は、慣れないスーツに切られている感触を払拭出来ぬまま、I-アイランド中央タワーのパーティー会場に急行した。
タワー入場前に受ける危険物のスキャンルーム前に、グレーのスーツを着た二メートルはある長身痩躯の眼鏡をかけた男が立ち塞がっていた。ビジネスマンの様な堅い出で立ちとは裏腹に、前髪には二筋の金色のメッシュが見える。
「えっと・・・・・・」黄金の双眼による鋭い視線は、猛禽類を思わせ、否応なく出久の肌をひりつかせた。
「初めまして、緑谷出久君。」電話越しに聞いた声の主だ。「改めて自己紹介をさせていただく。プロヒーローのサー・ナイトアイだ。」
オールマイトのサイドキックを務めた男がどんな見た目をしているのか全くビジュアルが浮かばなかった出久は、予想していなかったヒーローらしからぬサラリーマン然とした風体の本人を目の前にして、目を白黒させた。
「貴方が・・・・・・」
「そう。私が、オールマイトの元サイドキックだ。落ち着いて聞いてくれ。レセプションパーティーが狙われる。もう間もなくだ。」
「・・・・・・はい?」いきなりそんなことを言われても、そう返すしかなかった。
「根拠は無論、ある。私の『個性』は直に触れ、目線を合わせた者の未来を見通す事を可能とさせる『予知』だ。とある人物を視て、レセプションパーティーが狙われ、会場内全員が武装集団によって人質にされるのを確認した。オールマイトも含めて。」
「オールマイトも!?そんな・・・・・・どうやって!?」
後遺症により、確かに力は全盛期を遥かに下回っている。とは言え、彼は腐っても『平和の象徴』だ。そう易々と捕まるような男ではない。
「I-アイランド全域の警備を担うシステムは、ヴィランを収容する特別監獄『タルタロス』に勝るとも劣らないレベルを誇ると聞く。それを占拠者一味に逆手に取られたのだろう。」
「警備システムの掌握・・・・・・って事は、島民も、今日来ている人達も――」
「――然り。全員人質、と言う事だ。」
出久はとっさにスマートフォンに手を伸ばしたが、ポケットに触れるよりも早くその手首をナイトアイに掴まれた。
「今から連絡しても変わらない。まだパーティー会場に入っていない人に、心当たりは?」
「く、クラスメイトが・・・・・・・僕の友達が、この先のエレベーターの前で待ち合わせを・・・・・!」
「人数は?」
「ええっと、轟君と、飯田君、他にはたしか――」突然の事件発生の予告で焦りが生まれ、思考がもたつく。
「遅い。情報は素早く、正確に、元気よく一息に。」
「・・・・・・ぼ、僕以外でご、合計八人です!あ、ほ、他にはメリッサさん・・・・・・シールド博士のお嬢さんも!」
「相手側の人数とほぼ同じか。」眼鏡を押し上げ、出久を再び見据える。「行くぞ。」
「はい。」
セキュリティーチェックを終え、二人はエレベーターホールへの入場を許可された。そして既に轟、飯田、八百万、メリッサ・シールド以下九名が待っていた。
「やっと来ましたわね。」
「おせーぞ緑谷!」待ち草臥れているのが明らかな上鳴が文句を飛ばした。
「まったくもってその通りだ。団体行動を何だと思っているんだね、君は!?」伸ばした手を上下させながらもっともなことを言われ、出久はごめんと小さく頭を下げた。
「緑谷の正装って初めて見っけど、キマッてんな!すげえイイぜ、それ!」
いつの間に合流したのか、相変わらずの赤い独特のヘアスタイルの切島鋭児郎の姿があった。上鳴、
「切島君?!それに・・・・・・爆豪君も、一緒なんだ・・・・・・」
思わぬ面子に出久は表情を強張らせた。爆豪も、一瞬合わせた視線を逸らす。
「おお。丁度金欠だったところを峰田達から割のいいバイトしねえかって誘われてオッケーしたんだ。爆豪は、ノリで誘った。」
得意そうに胸を張る切島に、出久は苦笑した。どんな話術で説き伏せたのか、まったくもって謎である。
「あ、でもよ。実は約一名、お前に文句言いてえ奴がいるんだわ。ほれ。」
レースをアクセントにしたスカイブルーの膝丈ドレス、白いパンプス、ネイルにメイクアップと、おめかしフルコンボの芦戸三奈が、両腰に手を当てた、いかにも怒っていますというアピールで進み出て、呆れ顔で頭を左右に振る。「ないわー。緑谷、いくらなんでもこれはないわー。誘うだけ誘っておいてエスコートほぼ丸投げとかマジないわー。」
確かに、ピンヒールで対人地雷の信管を踏み抜くレベルの痛恨の極みだった。
「そんなつもりじゃないのは分かってるけど、もしこれが・・・・・・例えば片思い中の相手だったら緑谷、速攻で絶交されるよ。」
「ホント、すいませんでした!!」
「ん、分かればよろしい。今夜はしっっっかりエスコートしてもらうかんね。」
「残念ながらそんな時間はない。もう間もなく、ここは武装集団に占拠される。」
質問攻めに遭う前に出久が口を挟み、かいつまんでナイトアイの素性と彼が予知で視た事象を説明した。
「だ、だったら早く会場の皆に伝えなければ!」飯田は携帯を取り出そうとポケットに手を突っ込んだが、その刹那に警報が耳を劈いた。
『I-アイランド管理システムよりお知らせいたします。警備システムによりI-エキスポエリアに爆発物が仕掛けられたという情報を入手しました。I-アイランドは現時刻をもって、厳重警戒モードに移行します。今から十分以降外出している方は警告なく身柄を拘束されます。』
アナウンスが流れる最中、建物のシャッターが降り始め、窓と出入り口、更にはエレベーターを封鎖した。
「私の予知の的中率は、千パーセント。見えた事象に誰がどんな改変を加えようとしても、いわゆる歴史の『修正力』によって無理やり帳尻が合わせられてしまう。例えば、A, B, Cの流れの未来でBをDに変更しようとしても、反作用する-Dが強制的に挟まれて互いを相殺。元の木阿弥に戻ってしまう。」
「だとしても、俺達がやる事は変わらねえ。」轟が目を細めて呟いた。「結果オーライで規則をうやむやにはしねえ。けどルール違反だからつっても、動ける奴が何もしない言い訳にはならないだろ。」
「轟さん・・・・・!我々はまだライセンス未取得者です。戦うわけには・・・・・・」
「どちらの言い分も正しい。ルールを順守したいというその心意気は評価しよう。しかし、今は非常事態だ。プロヒーローの権限で、君達の『個性』使用は私が許可する。何も後ろめることはない。君達はUSJでヴィランと遭遇しているし、この時期ならインターンも済ませている。最低限の経験則は積んでいると言う前提で話を進めさせてもらう。」
その前に、とナイトアイの黄金の瞳が切島、爆豪の両名に向けられた。
「君達の『個性』は緑谷君から聞いている。そこの二人以外は、だが。」
「切島君は肉体の全身ないし一部の硬化、爆豪君は掌の汗腺からニトロの汗で爆破を出せます。」
「了解した。まずは情報収集から始めよう。メリッサ嬢、エレベーター以外で会場に近づく方法は?」
「非常階段を使えばぎりぎり近づけるわ。そこから耳郎さんの『個性』でマイトおじ様の声を拾える。案内は任せて。」
「よろしく頼む。」
「Shit・・・・・・」
まさかI-エキスポを狙う輩がいたとは。
旧友と時間を過ごせる事に有頂天だったせいで完全に不意を突かれた。そんな自分に腹が立つやら悔しいやらで、オールマイトは奥歯を砕かんばかりに噛み締めた。残り火とはいえ、今でも自分を捕縛している装置を力任せに引き千切ってヴィランを一人残らず制圧するだけの余力はあるが、この場にいる自分以外のプロヒーローに加えて銃を向けられている民間人を同時に、完全に守り切ることは出来ない。
ナイトアイの『個性』の事は十分知っているし、組んでいた数年で外れたことは一度たりともない。しかし、信じられなかった。いや、今でも信じたくない。まさか招待してくれた親友が自分の為とは言えこんな無茶をしでかすなんて。
『君の元来人を疑わない純粋さは、素直に尊敬するし、羨ましいと思う。だがその純粋さは、時として君自身の首を絞める事になる。』
ナイトアイも良く言っていた状況が、今まさに起きている。それもこれも、自分がワン・フォー・オールの事を隠していたからだ。
純粋?とんでもない。友人と呼ぶ彼を心のどこかで完全に信じきれなかった自分は、ただの臆病者だ。ワン・フォー・オールを手放している事を秘密にすれば彼を守れると甘えた結果、彼にこんな手段を取らせてしまった。
齢十八の取りこぼしを、また繰り返すことになってしまうのか。
マッスルフォームを維持するために力んでいても、震えが止まらない。
心の奥底に押し込んだ筈の記憶が浮上し、耳の奥にこびりついた声が脳を揺らす。
――後、頼んだ。オールマイト。
明らかな劣勢。それでもなお、持てる全てを投げうって自分を救うことを選んだ
――素晴らしい喜劇を、ありがとう。
それを一片の躊躇もなく奪った、まだ目も鼻もあった頃の
「お師匠・・・・・・ッ!」
落ち着け。落ち着くんだ、八木俊典。押し留めろ。押し留めるんだ。対峙しろ。まっすぐ、恐怖の目を見て、睨み返せ。睨み返して、笑え。お前など怖くもなんともないぞ、と。
チカチカ、と上から強い光が視界の端に入った。転がされた体制から横目で上を見ると、元相棒がスマートフォンの明かりを使って合図を送っていた。視線が合ったところで、指で耳を、そしてこめかみを叩いた。
――聞いている。情報をくれ。
「君が視た通り、ヴィランがタワーを占拠、警備システムをジャック。私を含むヒーローも全員人質だ。デイブと助手のサムが連れていかれた。すぐに教え子達とここから避難を。」
しかしナイトアイは首を左右に振り、モールス信号で返答した。我々がタワーを奪還する、と。
「我々・・・・・・ッ?!緑谷少年らか。」小さく頷くと、ナイトアイはサムズアップを見せ、視界から消えた。「頼むぞ、皆・・・・・・」
次回、Mission 06: 有精卵、Strike back
SEE YOU NEXT GAME.......