最後の投稿から実に七か月の時間が経過し、もうお忘れになっている方も多いでしょう。
コロナ騒ぎや実家の諸々、そして就職と、個人的な問題が続出いたしましたが、ようやく時間ができました。多少端折ってしまうのは承知の上ですが、最後まで書くつもりですので、よろしくお願いいたします。
コロナウィルスによる影響が相変わらず治まらぬ日々が続きますが、皆様何卒ご自愛くださいませ
「相手は少なくとも十人弱、『個性』以外に銃火器も装備している。まずは見立てが必要だ。メリッサ嬢、ヴィランが狙う物に心当たりは?特にシールド博士と彼の助手が深く関わっていた物だ。」
「父が関わっていた研究はたくさんありますから、一概にこれとは・・・・・・でも、最上階に警備システムを制御しているフロアと、I-アイランドで開発した物を多数収めた保管室があります。」
麗日はぎょっとした。「それ、もろに宝物庫やん!」何があるかは知らないが、悪用されれば碌なことにならないのは明らかだった。
「確かにそれならば博士とその助手を連れて行った事も筋が通る。しかし目当ての物が何であるにせよ、状況はこちらが圧倒的に不利だ。監視を逃れて百階以上あるこのタワーの最上階まで行くのは至難の業だ。接敵すれば戦闘は避けられない。」飯田の眉間の皺が深まった。
「そうでもないかもしれないわ。システムを掌握したって事は、パスワードや認証プロテクトを解除しているってことだから、ヴィランを制圧してコンソールまで辿り着けば、私がシステムを取り返せる。それに、ヴィランは警備システムをジャックしてはいても、使いこなせているわけじゃない。時間はかかるけど非常階段を使えば行けないわけじゃない。付け入る隙は十分にあるわ。」
「では、これより作戦発動だ。分かっているとは思うが、念を押しておく。これは実戦。良くて病院送り、悪くて安置所送りとなる。気を引き締めろ。」
二十階、三十階と、タワーの非常階段を駆け上がっていく。目指す最上階は二百階。ヴィランと鉢合わせるよりはましだが、それでも体力の消耗は避けられない。特にヒーロー科所属ではないメリッサは、人並み以上の体力があるとは言え、早くも息が上がり始めていた。
しかし、ナイトアイは一瞥もくれずにただ足を動かし続けた。
接敵することなく、一行は順調に八十階まで上り詰めたが、更に上の階は鋼鉄のシャッターが行く手を阻んでいた。
「どうする?壊すか?」
「壊せば警備システムに反応、される・・・・・・・」
汗を袖で拭い、息を整える轟が伸ばした手を出久は止めた。
「なら、こっちから・・・・・・・・行けばいいん、じゃねえの?」予期せぬ小休止で緊張の糸が撓んだ峰田は、息も絶え絶えにふらつく足取りで手近にあったドアの開閉ハンドルに手を伸ばした。
「待っ――」
メリッサが止めるより早く、飯田が峰田の手を払い除けた。
「あっぶねぇ~・・・・・・委員長ナイスセーブ!」上鳴が親指を立てて壁に凭れ掛かった。
「迂闊だぞ、峰田君!我々がいるのは島の中枢施設だ!厳戒態勢状態でドアを開ければどうなるかぐらい分かるだろう!」
「しょーがねーだろ!他に使える道がねえんだからよ!」
「お二人ともやめてください!内輪もめをしている暇はありませんわ!確かに迂闊ですが、今この状況で使える道は峰田さんが開けたドアだけです。メリッサさん、ここから迂回して上に行くことは可能ですか?」
「ええ。反対側に非常階段があるわ。構造も同じよ。でも警報を鳴らさずにここを通るのは無理なの。ごめんなさい、力になれなくて。」
「そんな事ないよ!」芦戸がメリッサの肩を叩いた。
「そうそう!地の利は無くともここの構造を知ってる人がいるだけでも大助かりだぜ!荒事は俺らヒーロー科に任せて欲しいっす!」切島も便乗して落ち込むメリッサを励ました。
「サー・ナイトアイ、シャッターを突破してもこのドアを通っても警報は鳴ります。どうしますか?」
「君ならば、どうする?」
ナイトアイの切り返しに出久は面食らった。そして悟った。これは試練だと。
普段からストイックなのだろうが、初めて会った時から敵意にも似た猜疑心を出久は感じていた。彼は試しているのだ。自分を。たとえ一時的でも真にワン・フォー・オールを持つに相応しいか否か。
「・・・・・・迂回します。」
「根拠は?」
「シャッター破壊の所要時間は不明、破壊中は前進できません。なによりタワーの被害にヒーローが片棒を担ぐわけにはいきませんから。」
「分かった。ではそのように。三つ数えたらドアを開き、走る。」
耳郎がドアのハンドルに手をかけ、準備万端と頷いた。
一、二、三、と指を立て全員が通路に飛び込んだ。小休止で回復した体力を総動員し、走り始める。区画ごとに設置された上下から出現するシャッターが前後から封鎖を始めた。
「やばいっ・・・・・・!」踏み込みざま、轟の右足を起点に壁を伝う巨大な氷塊が生まれた。耳障りな金属音と共に氷がつっかえ、人が通れる空間を作り出す。「急いで通れ。いつまで保つか分からねえ。」
「轟君、ナイス!飯田君、突入!ドアが見えた!ルート確保!」
「了解!」エンジンの駆動でズボンの膝から下を弾き飛ばし、飯田はつっかえた氷で出来たスペースを通り抜け、ドアを助走の勢いで蹴り抜いた。中は鉢植えから樹木まで多種多様な植物が植えられており、湿り気のある空気も生暖かい。
「ここって・・・・・・・植物園?」
「ええ、『個性』の影響を受けた植物の研究に使っているの。」
「耳郎さん、索敵お願い。僕達がここにいるのは警備システムを通してヴィラン側にはもう割れてる。これだけ死角がある場所だと、少人数でも奇襲が効く。」
――巧いな。
サー・ナイトアイは自分なりに気配を探りつつ、出久の方を見た。
――『個性』の研究とクラスメイトを適材適所で指示を飛ばせる判断力、そして無理にでも隔壁を壊して最短ルートを取るという誘惑を迷わず切り捨てられる自分への信頼感。見込み違いではない、か。
しかし、まだだ。『平和の象徴』を目指すのならばその程度は呼吸同様、出来て当然でなければならない。
「緑谷、エレベーター動いてる!こっちに上がって来てるよ。中は二人!」
「馬鹿な質問だけどさ、逃げるのに飽きた人、挙手。」
即座に轟、切島、芦戸の手が上がる。
「足止めは任せろ。」
「期末で赤点取っちまってんだ。今度こそ、へまはしねえ。」
「右に同じ。せっかく来たのにぶち壊しにされちゃったし。ムカ着火ファイヤーだよ、もう!」
「三人か・・・・・・」
「四人だ」爆豪が切島と轟を押しのけて進み出る。「俺もやる。ただし、ヴィランをカタに嵌めた後で、てめえとナシつけるからな。勝手に死んだらぶっ殺す。」
出久は小さく笑い、一人一人を見据え、頷いた。「二人相手に二組、ね・・・・・・分かった。この組み合わせでいこう。轟君、使って悪いけど氷で上のスカイウォークに行く足場、お願い。」
「ああ。ここを片付けたらすぐに追いかける。爆豪も言ってたが、死ぬなよ?」
「勿論。友達残して勝手に死んだりしないよ、僕は」
氷の円柱が足止め組の四人以外を頭上に押し上げ、全員が渡り切ったのを確認したところで爆豪が爆破で叩き割った。同時に、エレベーターの到達階層を告げる表示が80になり、開く。
正装ではない、明らかに特殊部隊然とした風体が像を結び、剣呑な雰囲気を感じた刹那、轟は右足からエレベーター目掛けて身の丈の倍以上もある氷塊を繰り出した。
「轟、ナイス!」
「うぉいコラ、半分野郎ぉ!俺の獲物を横取りしてんじゃねえ!!」
「してねえよ。見ろ」
エレベーター諸共凍らせるつもりで繰り出した氷塊は、エレベーターのドア部分に不自然に抉れた大穴があった。
「危ねえじゃねえか、ガキ共が・・・・・・!」
水かきのついた大きな手を持った痩身長躯の男が口元を歪ませ、冷ややかに笑った。
ずんぐりした側頭部に剃り込みを入れた相方は青筋を額に浮かべて歯をむき出し、『個性』を発動した。物の数秒で紫色に上半身が変色して隆起、肥大化し、それに伴って衣服が弾け飛んだ。腹立ち紛れなのか、はたまた己の力を誇示する為か、残った氷をゴリラを思わせる丸太の様な剛腕で叩き割って見せる。
轟は小さく舌打ちをした。やはりと言うべきか、USJのヴィランとは比べるべくもない。『個性』を使い慣れているだけではない。間違いなく殺しに慣れている。単純な人数による戦力差で言えばこちらが有利だが、練度は向こうが上だろう。となれば、連携を崩しに行くのが定石だ。
「爆豪、まずは分断だ。水かき野郎は俺と芦戸でやる。そっちのデカブツは切島とお前で何とかしてくれ」
「仕切んなてめえが!」
「まあまあ、まあまあ!あのでかいの、明らかに面倒そうじゃねえか!あのヒョロガリよりかは倒し甲斐あんだろ?な?」と、いきり立つ爆豪を切島が宥めた。
「・・・・・・ぜってーあの糞ヴィラン近づけんな。しくじったらてめえも纏めてぶち殺す」
算段を立て終わったところで再び氷塊を二人組目掛けて解き放ち、分厚い氷壁を作り出してそれぞれを別方向に飛びのかせた。
体に降りた霜を左半身の炎で溶かし、体温を平熱まで上げ直すと、芦戸に目配せした。
「轟、作戦て、あんの?」
「緑谷なら、まず機動力とスタミナを確実に削いでいくな」
『個性』は見たところ両手に集中している。ならば機動力はたかが知れている。まずは搔き乱してミスを誘い、畳みかける。
「ここもダメか・・・・・・」ナイトアイは至極無感情に隔壁で封鎖された廊下を一瞥した。
「おいおい、どうすんだよ!これじゃ俺達完全に袋の鼠じゃねえか!」
「ここまでかよぉ・・・・・!」
峰田は未だに好転しない危機的状況に呻き、上鳴は悔しそうに天を仰ぎ見た。
「諦めるのはまだ早いよ、二人とも!」息を整えながらも麗日は二人を励ました。
「うん。メリッサさん、あの天井にあるあれ、上の階に通じてるんじゃ?」
出久が指さした先には、確かに天井の一部とは違う鉄製のパネルが見える。
「日照システムのメンテナンスルームね。」
「おお!あの構造なら非常用の梯子があるのではないか?」
「確かにあるわ。でも手動式だし、内側からしか開けられない」
「でしたら、まだ可能性はありますわね。」八百万の両手に光が宿り、出来上がった物をそのパネル目掛けて力一杯投げつけた。金属同士がぶつかる不協和音に続き、小規模の爆発がドアを吹き飛ばし、通路の確保に成功した。
「通風孔の隙間から外に出て、外壁を伝って上の階に行けば、内側から開けられるはずです。二百階建ての建造物である以上、この階だけにアレがあるとは思えません」
「そうか!」
「それなら確かに――」
「中に入れるわ!」
狭い通風孔に入り、尚且つ外壁を伝って上の階に到達できる人間。メリッサとナイトアイを除くほぼ全員の視線が峰田実に注がれる。
「ももももしかして、おいらが!?」と、いきなりの注目に冷や汗が吹き出し始めた峰田は、大股で後ずさり始めた。
「お願い、峰田君!」
「あんたにしかできないんだよ!」
「バカバカ!お前らここ何階だと思ってんだよ!?落ちたら俺グシャッ、てなるんだぞ!グシャッ、て!」
しかしここぞとばかりに、上鳴が尻込みする峰田の肩を掴んで女性との交流と言う
「皆を助けた功労者になったら、インタビューとかされたりして女子に大人気間違いなしだぜ!」
「それにこういう下積みが、案外思わぬ形で将来実を結ぶ可能性だってあるしね。あ~あ~、今この状況じゃ峰田君にしかできないんだけどな~。君が頼みの綱なんだけどな~」と、出久も更に畳みかけた。
豚も煽てりゃ木に登るとはよく言ったもので、しばしの逡巡の末、峰田が恐怖とストレスで泣きながらもやけくそで承諾し、頭のもぎもぎで壁を登り、通路を目指し始めた。
ストックはあるので、I・アイランド編は近々に仕上げます。
次回、Mission 07: 無駄には出来ぬSacrifice
SEE YOU NEXT GAME.......