ヴィラン襲撃と言う未曽有の危機が過ぎたI・アイランドを登り行く朝日が照らしている。堆く積まれた瓦礫の山の中で、デビッド・シールドは揺り起こされた。
「デイブ。デイブ!」
「ト、シ・・・・・・?」
目の前の親友はボロボロだった。あちこちから血を流し、見慣れている巌のような姿も半ばしぼんでいる。そんな重症そっちのけで心配そうに自分の顔を覗き込む彼は相変わらずだった。
「良かった、生きているな。応急処置はしてあるが、如何せん血を流し過ぎているからな。もう間もなくドクター達が来る。それまで踏ん張ってくれ」
「すまない、トシ。本当にすまない。私は、怖かったんだ。君と言う希望が、途絶えてしまうのが。君が築いた平和が崩れていくのが。君を救いたかった、どうしても」
「何を言うんだ?君は十分私を救ってきたよ。渡米してコンビを結成した時から、ずっとだ。私に希望を与え続けて来たのは、他ならぬ君じゃないか!日本に戻ってもそれは変わらなかった」
「怒って、いないのか・・・・・・?」
涙で視界を曇らせつつ、我ながら馬鹿な質問だとデビッドは思った。
「怒っているさ。あのヴィランから装置を奪って破壊し、自分も死のうとしただろう」
根拠は無いが、確信しているからこそのオールマイトの平叙に、デビッドは目を背けた。
「あのヴィランが言っていた。どんな理由があろうと、私は悪事に手を染めた。悪事である自覚があろうがなかろうが、そこに片棒を担ぐ当人の意思が存在している限り、それは変わらない。君を救うために私一人がその代償を払う事になるなら、それでもいいと思った。だが、それを無関係な人達に・・・・・・メリッサにその代償を背負わせるわけにはいかなかった。そうするぐらいならいっそ装置ごと私の体も砕ければいいと思った」
「君は私よりは地頭がいいと常々思っていたのに、こんな形でそれを裏切られるとは思わなかった。君が死んだところで喜ぶのはヴィランぐらいだと何故分からない?」
こんな時でも優しい彼は、ずるい。声を荒らげ、子供の様に叱ってくれればどれほど気が楽か。
だがずるいのは自分もそうだ。死んでも構わないと思っていたのは自分だけだ。苦楽を共にしてきたこの島の人間達を、オールマイトを、そして一人娘を残して勝手に死ぬなど、裏切り以外の何物でもない。
「あの時にはあれしか思いつかなかった。それに、結局あの装置は君の体を治すことは出来ない。今更過ぎるが、無駄な時間を過ごしたよ。もう研究などできないし、皆に迷惑をかけてしまった。悔やんでも悔やみきれない」
「なら、大丈夫さ。君は悔いているのだろう?過ちを犯したと、自覚しているのだろう?」
「ああ」とデビッドは頷いた。
「ならそれで良いじゃないか。君は愚か者ではあるが、卑怯者ではない。これは君の受け売りだが、たとえ過ちを犯しても、二度と繰り返さない為に何をすべきか、それを体系化して研究するのが科学の役割だ。償った上で、メリッサや皆に改めて誠心誠意頭を下げればいい。君の研究への熱意は、誰かを想うからこそ。今回は、たまたまその方向を間違えてしまっただけだ。それとなんだが・・・・・・もしかしたら、治るかもしれない」
「え?」
「詳しい事は本人の許可がない以上言えないが、方法自体はあるんだ。実行出来るまでにまだ時間はかかるし、上手く行くかどうかも分からない。だが方法はある。私は諦めない。だから君も諦めるな」
緑谷出久は空を眺めていた。戦闘の高揚が失せ、ようやく張り詰めた緊張の糸が途切れると、疲労が津波のように押し寄せて全身の力を奪い、青天井のままでいるのだ。
「だ~めだ、動けないや~」
あちこちが軋んで痛むし、眠い。おまけに空腹で腹の虫がやかましい。正直このまま眠ってしまえばどれほど楽だろう。だがまだだ。安否確認を完了して、初めて役目を全うしたと言える。突き刺さったアブソリュートカリバーに手をかけ、それを杖にして起き上がった。
「どうだ、出久、初めて仮面ライダーになった感想は?」
実体化したグラファイトが尋ねた。
「どうって・・・・・・疲れた。お腹空いた。正直言うとあんましやりたくないかも」
「何故だ?」
否定的な答えが多少ショックだったのか、グラファイトの声のトーンが上がる。
「いや、だって身長も手足の長さも変わるし、割と慣れるの大変なんだよ。それにこんなに疲れるならコスパ悪すぎでしょ。後、フルカウルなしでもあのパワーは色々まずいよ、絶対。ぶっちゃけ死んだかと思ったもん、ヴィランが。そもそも、あれ元はと言えばグラファイト仕様でしょ?僕に感染した状態で使わなくても全然行けたんじゃないの?」
「む・・・・・・」
痛いところを突かれたグラファイトは閉口した。実際その通りなのである。バグルドライバーはバグスターウィルスの抗体を大量に持った人間か、バグスターでなければ使って生きてはいられない。出久は前者に、グラファイトは後者に当て嵌まる。その為、どちらか一人が変身して三人で戦えた。二人がそれぞれのドライバーで変身してオールマイトを援護すると言う選択肢もあった。
「そこは察してもらいたい。外連味という奴だ」
その答えに出久は思わず笑ってしまった。横隔膜が動く度に脇腹に鈍痛が走る。
「外連味かよ。グラファイトってさ、変なところでカッコつけたがるよね」
「いかんか?見た目は大事だろう?まあ共通の知り合いで外面に無頓着な教師が約一名いるが」
「あれは別でしょ、目立ちすぎると『個性』の性質上本人が困るから。てか、そもそも相澤先生って目立つの嫌いだし」
「随分ボロボロだな、緑谷出久。」
「サー・ナイトアイ・・・・・・!」
ネクタイが無くなり、服は泥や埃に塗れてはいても七三分けと眼鏡は全く乱れていないオールマイトの元サイドキックは目線を合わせるように出久に向かい合って腰を下ろした。
「まったく、君と言いオールマイトと言い、毎度毎度無茶をして壊し過ぎだと諸々言いたいところだが今回は言わないでおく」
「既に明言しているではないか、こいつ」
「君には謝罪を述べなければな。タワーの最上階を目指す際に、非常事態であるにもかかわらず度々試すような真似をしてしまった。申し訳ない」
出久は何も言わず(と言うか疲労で喋るのも若干億劫になってきており)、深々と頭を下げるプロヒーローに会釈を返した。
「私はこれで失礼させてもらうよ。警察の調書を手伝わねばならないのでね。また会おう。」
「はい。またいずれ」
「おーい緑谷―!どこだー!?」
「緑谷さーん!返事をしてくださーい!」
「緑谷君、聞こえるなら返事をしてくれたまえ—!」
「うぇ~い・・・・・!」
口々に叫ぶのは、聞き覚えのあるクラスメイト達の声だった。
「こちらに誘導するか?」
「ん~・・・・・・いや、しばらくほっといて探させとこ?」
グラファイトの問いに出久は首を横に振った。質問攻めにされるが目に見えている。こうして自分を探しに来る余裕があるなら大丈夫だろう。ならばせめて仮眠をとれる内に取っておこう。
「そうしよう。良き初陣だった」
「葛城博士、帰って来て早々お手数をおかけします」
研究員数人が左右非対称の赤と青のコーディネートの上にベージュのトレンチコートを着た、側頭部の寝癖がすさまじい事になっている若い男に手厚く礼を述べた。
「あー、いーっていーって。面白い研究テーマが見つかるまでこれぐらいはさ。むしろごめんね、その場にいなくて。出遅れた分はきっちり頑張るから。ずっと座りっぱなしで体もほぐしたいし。この状況は・・・・・・う~ん、よし、これで行こう!」
そういうや否や、全身に弾帯の様に巻き付けたベルトに収納された小振りなボトルを一つずつ手に取り、『個性』を発動した。シャカシャカ振って蓋を開き、右手のボトルが熾った炭のように赤く、左手のボトルが艶のある黒色に発光した。それらを同時に頭に押し付ける。
「不死鳥+ロボット。振って被って、ビルドアップ!」
葛城の体が、変化した。右肩甲骨から炎が噴き出す巨大な朱色の羽が垂れ下がり、左腕は油圧ショベルを思わせる武骨なロボットアームに変わった。
「お、いたいた!葛城さん、おひさ~!」
「あーっ!飛電インテリジェンスの零二さんじゃん!来てたの?」
葛城は自分の頭の倍以上はある左腕を上げて手を振った。声の主は、二十代に入ったばかりのスーツが妙に似合わない青年だった。
「プレオープンには別件があったから間に合わなかったけど、俺社長だから一応ね。ここでの納品は初めてだし、こういう時にこそ役立てようと思って。テスト期間中にラーニングを済ませた最強匠親方集団とドクターオミゴトが納品リストにあったから、早速起動してスタッフを手伝ってるよ」
「人工知能搭載人型ロボ『ヒューマギア』、だっけ?」
「そうそう。秘書に板前、警備員。あらゆる業種に対応する、俺の・・・・・・・いや、人類の夢だよ」
「最高だね、そのラブ&ピース満載な夢。現在進行形で叶っちゃってるしさ。じゃ、この天っ才物理学者の俺もロボットや始末をつけてくれた次期後輩達には負けてられないから、気合入れちゃいますか!
結果的にアイランドジャックの解決に一役買った雄英高校の生徒十一人は大した怪我も無く、昨夜の食べ損ないを帳消しにする勢いで食事をしていた。
特に健啖なのは『個性』に脂質を消費する八百万と血糖値とグリコーゲンが危険なレベルにまで低下していると診断された出久だった。質より量を重視した厨房スタッフ(といっても決して質が低いわけではないが)の計らいで献立は和洋折衷、バイキング形式になっているが、未だにこの二人だけが食事の手を止める様子がない。
「っか~~・・・・・・食ったら眠くなってきた」
「おいらもう無理、歩けねえ。このまま寝てやる」
上鳴はテーブルに突っ伏し、峰田も今回ばかりは矮躯に感謝しつつ椅子の上で猫の様に丸まって寝る準備に入っていた。
「食べてすぐ寝たら牛になるって言うけど・・・・・・今回ばかりはウチも同感。飯田ですら寝ちゃってるし、切島は寝ながら食べてるし」
耳郎が向かいに座った飯田とその右隣の切島を耳のジャックで指差した。
「切島はともかく、飯田は目ぇ開いてるし、起きてるだろ?」
飯田は姿勢を正し、テーブルに着いたまま約一分は動いていない。しかし轟の言う通り、両目はしっかり開いているのだ。だが声をかけても目の前で手を振って見せても全く反応しない。
「呼吸は、あるか・・・・・・冗談抜きで目が開いたまま寝てるな。」
「二人とも器用や!でも飯田君のそれ、気絶とちゃうん?大丈夫なん?」
「気絶と睡眠は全くの別物ですが、飯田さんは打ち身擦り傷程度の怪我しかしていませんでしたし、どれも頭部ではありませんでした。おそらく過労ですから心配には及びませんわ。目が覚めた頃にはすっきりしているでしょう」
ようやく満腹になったのか、八百万がナプキンで口元を軽く抑えつつ麗日の疑問に答えつつ両手を合わせた。
「皆さん、疲れているのは百も承知ですが、ホテルのお部屋もありますからそれまで辛抱してくださいね?くれぐれもここで寝るなどとは考えないでくださいまし。せめて飯田さんと切島さんは起こしてあげませんと」
「うぇ~~、ヤオモモが厳し~~」
「圧制はんた~い」
「うるっせえんだよモブ共、とっとと出ンぞコラ。片付け滞っちまうだろが、はよしろ」
食器やグラスを持つ度に眉間の皺を深めていた爆豪が眠っている二人の頭をはたき、眠ろうとしていた二人を椅子から蹴り落として追い出して、自らも退室した。
「芦戸さんは私達が責任を持ってお部屋にお送りいたしますので、ご心配なく」
重力を消されてなお熟睡状態から覚醒しない芦戸を風船のように宙に浮かんだまま手を引っ張り、女子組もそれを追ってその場を後にする。
「あ~、轟君は大丈夫?部屋、一人で帰れそう?」
「まあ、なんとか。それと、ノートのおかげで炎を形作るイメージ、上手く行ったぞ。ありがとな」
「そっか、役に立ったのなら良かった。また午後に皆で合流しよう」
「ああ」
轟も多少はよろけながらも別れを告げて退室し、出久だけがその場に残った。
「グラファイト。メリッサさん、大丈夫かな・・・・・・?」
『分からん』
「そんな身も蓋もなく――」
『誤解するな、俺は純粋に分からんだけだ。動物の様に番の間に生まれたわけではないからな。親と子の心情はお前とお前の母親のやり取りを近くで見て、ある程度理解は深めたつもりだが、それでも未知なのだ。分かる事と言えば、親と子の絆は固く、時を重ねて強まる物であり、容易く断ち切れぬ物であると言う事。加えて、見たところメリッサ・シールドの母親は恐らくもうこの世にはいない。その上二親で唯一存命している父に「科学」を理由に裏切られたのだ。最早尊敬も糞もあったものではないだろう。父にも、科学にも、人間にも。果たして再び歩み寄れるかどうか』
「最終的に決めるのは、当人同士だよ。だけども、」出久は適当に見繕って料理を数品よそった皿を持って立ち上がって続けた。「理由はどうあれ厳重に保管されていた物を勝手に使っちゃった手前、お詫びとお礼とお節介を兼ねてきっかけだけでも作っておかなきゃね」
今回はエグゼイドの次回作であるビルドと令和第一号のオマージュ(ほぼパクリですが)を出しました。
物理学ヒーロー・ビルド(本名:葛城戦兎)
個性:成分抽出
右手で触れた有機物、左手で触れた無機物の持つ特性を成分として抽出、容器に詰めてその力を使える。蓋がついた容器であれば何でもいいが、その場合一度使えば容器が自壊する(なお、ボトルに詰めず、毒などの有害物質を抽出だけすると言うのも可能)。故に専用容器のフルボトルを開発し、半永久的な再利用を可能とした。
しかし連続発動時間にはボトルの組み合わせ(特にベストマッチ)ごとに限界がある。緊急時では爆発的に戦闘能力を上昇させる『ハザードコンダクター』、それを制御する『フルフルスタビライザー』、手持ちのボトルの能力を全て行使できる『ジーニアスアダプター』などのアイテムがあるが、滅多な事では使わない。普段はフルボトル以外にトランスチームガトリンガー、スチームドリルブレード、フルボトルバスターを介して能力を使用する。
プライベートでは初めて『個性』の成分を抽出した幼馴染が二人おり、よく連絡を取っている。
次回、Mission 11: 科学者のLogos & Pathos
SEE YOU NEXT GAME................