龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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合宿編以降についての話の流れに関するアンケートがございますので、ぜひご一読ください


Level 6: 敗残
File 54:『個性』を伸ばして、Everybody Jump!


校門前のバス停に一年A組の引率である相澤消太ことイレイザーヘッドが、整列した教え子二十人一人一人の顔を見据えた。

 

「雄英高校ヒーロー科の授業は一学期が終了して、現在は夏休み期間だ。しかし、プロヒーローを目指す諸君らに『休み』、『安息』、その他諸々の類語は無いものと心得ておけ。授業を含めた様々な経験をしてきたお前達はそれらすべてを最大限活かし、更なる高みへ――Plus Ultraを目指してもらう。その成長を促す為にも、オールマイトが校外のプロヒーローを二人呼んで一足先に現地で待って頂いている。俺からは以上だ」

 

「では諸君!席の並びも旅行バス同様全て前方を向いているから、今度こそ教室の席順に並んで座ろう!!」

 

前回の失敗から学んで座席の並び方をチェックした飯田は相変わらずの委員長気質を発揮していた。

 

「いやー、にしてもまたやられちまったな」

 

上鳴が溜息交じりに誰ともなしに声に出した。

 

「だな。合理的虚偽なんざ男らしくねえ・・・・・・」

 

切島も行ける事自体は素直に嬉しいが、げんなりせざるを得ない。グラファイトが宣告した通り、補修と言う名の無間地獄が到着地点で待っているのだ。あの鬼教官に果たして何をさせられるか、考えただけで吐きそうになる。実際期末試験前日のトレーニングでも自分を含め約四人が実際に吐いてしまったのだ。

 

「あのどんでん返しはなあ・・・・・・確かに毎度毎度心臓に悪いよ」

 

「麗日、そうは言うけど相澤先生もクリアイコール合格とは言ってなかったし、逆に赤点取ったら行けないとも言ってなかったからな」

 

相澤の言い回しは詐欺まがいどころか詐欺その物の手法だったが、しっかり意味を考えず、鵜呑みにした自分達にこそ非がある。イカサマは気付かずにやられた方が馬鹿なのだ。

 

「まあまあ。合理的虚偽のおかげで全員林間合宿に行けるんだからそう言わないの!」

 

赤点を取って絶望が希望に変わった芦戸は普段より高いテンションで周りのクラスメイトとワイワイガヤガヤ接している。

 

「緑谷君、そのノートは……ヒーローの『個性』用ではないね。ヴィラン連合対策の為かい?」

 

「ああ、うん。一応ネットで公開されている要注意人物とか指名手配犯とか、学校の資料室にある記録とかからも情報は仕入れてるんだ。脳無専用のノートもある」

 

「やはり島での一件が気がかりなのかい?」

 

「うん、なんかね」と、出久は頷いた。「うまく言えないけど漠然とした嫌な予感がするんだ」

 

I-アイランドの事件以降、何一つ動きが無いのはあまりに不自然なのだ。オールマイト経由で警察が調べたヴィラン連合関係の情報やグラファイトの暇潰しのハッキングで逐一入ってくるが、ぱったりと情報が途絶えている。これが第一の不安要素。

 

死柄木弔——ヘルヘイムの情報で本名は志村転弧らしい――は幼稚だが決して馬鹿ではない。オール・フォー・ワンが後ろ盾にいる以上、失敗を糧に学習し、また何か仕掛けてくる可能性が高い。これが第二の不安要素。

 

これらの根拠は、オールマイトが連合の情報を洗い出すことに専念する為、この林間合宿に参加しないと言う事にある。林間合宿中世話をしてくれるヒーローが四人、オールマイトが外部から応援要請をして駆け付けた二人、そして引率教師の二人。プロヒーロー合計八人はかなりの戦力と言えるが、果たしてこれで足りるのか?

 

脳無の製造過程や期間は知らないが、相手が相手だ。材料にも設備にも事欠かないだろう。ショック吸収、超再生、翼などの『個性』を持った個体を大量投入してきたら、ヒーロー科の生徒総勢四十名でもどうなるか分からない。A組はグラファイトのしごきで多少戦闘能力もプロヒーローの卵としての意識は上がった筈だが、ヒーローは基本不殺が大前提だ。脳無を完全破壊することを躊躇って死ぬかもしれない。

 

そして忘れてはならないのがウォルフラムの様な子飼いのヴィランである。どんな奴らなのか、想像もつかない。何より厄介なのが、自前の物以外にどんな『個性』を与えられているかが相対するまで分からないと言う事だ。

 

今や三冊目となっているヴィランノートはその不安を紛らわすための気休めなのだ。

 

『吸血鬼』の能力を持ち、一万以上の人的被害を出した齢百を裕に超えて未だなお逮捕されていない老獪な『ストラード』。

 

猛毒精製の『個性』を駆使して化学兵器を作り出すだけでなく、高値で売り捌く『ヴェリーノ』。

 

『個性』で切り刻んだ人間の断面観察とそれを食す事に快楽を見出す狂気の殺人鬼『ムーンフィッシュ』。

 

個性犯罪の渡し船となる数多のフィクサーとブローカー。

 

そして『解散』はしていても『壊滅』には至っていない、未だ休眠中の『異能開――

 

「こら!」

 

「いてっ!」突然出久は頭頂部に軽い衝撃を感じ、ペンを紙面に走らせる手を止めた。顔を上げると、斜め前方に座っている芦戸三奈がポテトチップスの入った筒形容器を持っていた。

 

「せっかくの全員行ける合宿だよ?!怖い顔禁止!」

 

「そんな怖い顔してた、僕?」

 

「してたよ。めっちゃ怖い顔」

 

やはり島の一件が落着してからという物、自分の中で何かが変わってしまっている。ごめんと一言謝り、リュックの中にノートとペンを乱雑にしまい込んだ。

 

「ごめん、落ち着かなくて。ここ最近考える事が多すぎてさ」

 

「緑谷君、島での一件の事を気にしているのなら、どうか胸を張って欲しい。君の様な自分を貫き通せる友達がいて、むしろ誇らしいよ。ちゃんと見習わなければ・・・・・・」

 

隣の席から後ろで騒ぐクラスメイトをいさめるのを遂に諦めた飯田がしかめっ面の出久の肩を叩いて励ます。

 

「ああ、うん・・・・・・お気遣いありがとう」

 

実際そこははっきり言ってどうでもいい。あの時の宣言は今も昔も撤回するつもりはない。折角盛り上がっている所でヴィラン連合がどうのと水を差すのも憚られるので、勝手に勘違いしてくれてこれ幸いと、出久は適当に相槌を打った。

 

キャンパスから出発してバスに揺られることに時間が経過し、小休止の為にバスは一時停車した。

 

そしてここで、A組の面々は不審な点に気付き始めた。一つは停車したのは高速道路にあるパーキングとは名ばかりの欄干付きの空き地である事と、もう一つはB組のバスが見当たらない事。三つめは、車が一台待っているように停車していることだ。

 

「よう、イレイザー!久しぶり!」車の中から明朗な女性の声がした。

 

「ご無沙汰してます」それに応じて相澤が頭を下げた。

 

「煌めく眼でロックオン!」

 

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」

 

猫モチーフのメイド服コスチュームと猫の手グローブを身にまとった女性二人の名乗りに面食らったA組は、ただ無言で二人を凝視した。

 

「今回の合宿でお世話になるプッシーキャッツのお二人だ。」

 

「山岳救助を中心に活動するフォーマンセルのベテランヒーローチーム!キャリアは今年で十二にょう!?」

 

それ以上何か言われる前に猫の手をかたどったデザインのグローブで出久は顔面を掴まれた。

 

「心は十八!!」金髪の女性がまるで自分に言い聞かせているような凄まじい形相で出久の言葉を遮った。

 

「必死かよ・・・・・・・」

 

そんなやり取りをやっている最中、一台のバイクがその場で停車した。一人はスーツ姿にヘルメット、もう一人は黄色いコスチューム姿の小柄な男だった。

 

「一分ほど遅れてしまったな」

 

「よう、小僧!元気にしとったか?」

 

「その声はグラントリノ!?サー・ナイトアイまで、どうしてここに?!」

 

「オールマイトが念の為の警備増強という名目で応援を頼んだのが、我俺の仲である彼と私だ」ヘルメットを脱ぎ、懐の眼鏡をかけて乱れた七三分けを指で直した。流石に暑いのか、サドルバッグから折り畳み傘を取り出し、展開する。「それに、島で私は言った筈だぞ?また会おう、とな」

 

別れ際の社交辞令じゃなかったのか。だが、経験豊富な機動力抜群の攻撃を当てにくいヒーローと未来を予知するヒーローと言うのは心強い。

 

「これで全員揃ったな。お前ら、挨拶しろ」

 

自己紹介と挨拶が一通り終わったところでショートヘアーのヒーロー マンダレイが現在地から見える山の麓を指さした。

 

「ここら一帯は私たちの所有地なんだけどね、あんたらがこの数日過ごす合宿所はあそこ」

 

目算で見積もっても距離は三桁のキロメートル単位だ。

 

ここで新たな疑問が生じた。もしそこまで距離が離れているなら、何故ここで止まったのか?

 

「ま・・・・・・まさか・・・・・・」

 

「今は午前九時三十分。速ければ十二時前後かしら?十二時半までに到着しなかったキティ達はお昼抜きねー」

 

「ば、バス戻ろうぜ、バス!」

 

「そうだな、そうすっか!な?」

 

嫌な予感が的中したらしく、既に何人かはバスに戻ろうとマンダレイ達に背を向けた。しかし、そこに立ち塞がったのは緑谷出久だった。

 

訳が分からず、全員の防衛本能に一瞬の隙ができる。

 

「皆ごめん!フルカウル30% Chicago SMASH!!」

 

出久はスパークする両腕を左右に大きく広げ、風圧で土が舞う。そして伸ばし切ったまま手を羽ばたかせる様に力一杯振り抜いた。土煙が舞い上がり、視界が潰れると同時に全員の体が地上を離れ、欄干の向こう側へと吹き飛んだ。辛うじて欄干に尻尾を巻き付けたり手足を引っかけて残っている者も、うねる波のように盛り上がる地表から引っぺがされ、同じように吹き飛んだ。

 

「私有地につき『個性』は使っちゃっても大丈夫だから、今から三時間、自分の足でその魔獣の森を抜けてごらんなさい!

 

「お~、多少は出力制御がマシになっとるな。今で上限はなんぼだ?」

 

「今で39%になりました。緊急時には40%台もいけます。相澤先生、何で僕だけここに残れと?」

 

「あーその事だがな。緑谷、この際だからはっきり言おう。お前は強い。経験則が足りないのは仕方ないが、お前は一年坊全員の中でも頭が一つ二つは抜きん出てる所がある。ご丁寧に『個性』伸ばしやコスチュームに関するノートも全員分こさえてるしな。正直、今のお前に相打ちせずに勝てる奴があのクラスにはいないと言うのが俺の意見だ。が、しかしそこが問題でもある」

 

「と、言いますと・・・・・・?」

 

「お前のクラスメイトを想う心は立派だが、お前のその突出した能力に対するあいつらの依存を早い段階で断ち切らなければならない。個々人の能動的成長を促す為にも」

 

確かに合理的な相澤らしい理由とやり口だ。正規だろうとなかろうと、チームアップをしたところで最終的にヒーローが頼れるのは自分なのだ。本来助ける側の人間が助けられてばかりいては本末転倒である。

 

「じゃあ、僕はどうすれば・・・・・・もしかして一人で別ルートから森を突っ切れと?」

 

「流石にそれは許可できない。複数人いるならまだしも、見知らぬ森の中だと怪我や遭難の危険が高まって訓練どころじゃなくなる。一人ならなおの事だ。お前はこのまま徒歩で道なりに進めばいい。遠回りになるが、合宿所には着く。そう言いたいところだが――」

 

「前振り長っ!!」

 

「お前にも森は抜けてもらうが、もう少し苦戦してもらう。まず、両手足にこれをつけろ」

 

相澤がポーチに手を入れ、四つの輪を差し出した。期末の実技試験でプロヒーロー達が装着していた、超圧縮重りである。

 

「重さは調整してあるが、合計がお前の体重とほぼ同じだ」

 

「おぉ・・・・・」

 

「儂からも、一つくれてやるわい」

 

グラントリノはバイクのタンデムシートから飛び降り、出久の顔面に自分とお揃いの目元を隠すドミノマスクを張り付けた。

 

「別ルートで言ってもらうからな。迷わねえようにそれをナビに使っとけ。言わずとも分かってんだろうが、落とすなよ?」

 

「はい!」

 

そうは言いつつも、出久は動かずにナイトアイの方へ目を向けた。

 

「何かな?」

 

「いえ、前回みたいに実力測るための縛りを何か追加するのではないかな~と」

 

「今回その必要は無い。勿論、君の実力の底が見えたなどと言うつもりは無いが、一定水準は超えていると言う事は確認できた。今回はそれをキープできると見せてくれれば十分だ」

 

「了解です。じゃ、行ってきます!」

 

フルカウルの出力を上げ、出久は跳躍し、その場に深くスニーカーの踏み後を刻みながら木立の中に消えた。

 

「で、イレイザー。あの子何者なの?普段は教え子に厳しい貴方がそこまで言うなんて。確か、雄英体育祭一年の部で優勝してたわよね?主席入学で入場の挨拶もしてたし」

 

「何それ!?有力候補じゃないの!?」

 

「はい、能力を見ればあいつは優秀ですよ」プッシーキャッツの全距離担当のピクシーボブの一言を無視し、マンダレイの質問に相澤は目頭を押さえつつそう答えた。

 

「『個性』に関しては頭脳が半分コンピューターで、常に最適解に手を伸ばすことを信条としている。ノーライセンスのくせに下手なヒーローよりもヒーローらしい。そこらのヴィランじゃ準備運動にもならないでしょう。けど、問題は性格です。これは、緑谷が課題のレポートとして提出した物の抜粋です。読み上げます」スマートフォンを取り出し、読み上げた。

 

――歴史上、『正義』は『悪』よりも人を殺している。何故なら正義は麻薬だからだ。人を盲目にし、考える力を奪う。そして何も分からないまま争いに身を投じさせる。その最もたる例が十字軍遠征だ。十一世紀から二百年弱、両陣営が九度に渡り石畳を赤く染めた。ただひたすら、正義(かみ)の名の下に。今とて『正義』というイデオロギーがいかに危険か、そしていかに多くの矛盾を孕んでいるか、気付く者は微々たるものである。故に西部開拓を正当化するマニフェスト・デスティニーや国家社会主義、非国民と言う侮蔑的レッテル、『個性』の種類ないし有無による差別的意識の改革停滞など、『正義』という名の毒は『ヒーロー殺し』ステインなどの過激な思想家の台頭に至るまで連綿と受け継がれている。

 

「・・・・・・まるで大学の卒業論文じゃな」

 

「うむ、確かに。磨けば賞の一つや二つは難なく取れる内容だ。そして、『正義』という概念そのものに真っ向から挑む狂気にも似た何かを感じる」

 

「そう、まさにそこです。今でこそ問題は起きていませんが、状況打破の最適解への工程がどれだけ苛烈で、悪辣で、卑劣であろうと、断固たる決意でやり切る。たとえ結果的に我が身を削る事になろうとも」

 

考えはまるで常在戦場、動きは擬人化した戦闘教義。腕や目を潰されたぐらいでは止められないし、止まらない。文字通り、命ある限り戦うだろう。それこそ、オールマイトの様に。いや、むしろオールマイトをあらゆる面で良くも悪くも凌駕するかもしれない。

 

「最適解に辿り着く工程構築の際に思考が偏るのは仕方ないでしょ。人間なんだからさ。それに我が身を省みていない、というわけではなさそうだし、別に問題は無いんじゃない?」

 

マンダレイが朗読された抜粋部分を反芻しながらそう返した。

 

「省みてはおるが、いざという時は自分を勘定から切り捨てる事を先取りして考えとるようじゃな。それにあいつは恐らく必要とあらば厭わずヴィランを殺す」

 

グラントリノの言葉にナイトアイの眉間の皺が深まった。「ご老体、冗談でも言葉が過ぎますよ?」

 

負けじとグラントリノの目つきも鋭くなる。「二十歳にも成っとらん奴がするやもしれん命のやり取りを冗談で口にするほどボケとらんわい、阿保め。儂の勘がそう言っとるってだけだ。そうならなければ、それでよし。ただの取り越し苦労と片付ければええ。当たっとったら・・・・・・まあ、その時は儂らが全力で止めるしかない。ガキを守るのは大人の責務だしの」

 

やり取りの一部始終を車の後部座席から見ていた少年は角が前方に突き出た赤い帽子をかぶり直し、ふんと鼻を鳴らした。

 

「くだらん・・・・・・」

 




次回、File 55: Always ギリギリまで踏ん張って!

開闢行動隊の登場時、立ち位置はどこがいい?

  • 原作通りヴィラン
  • ステ様信奉のヴィジランテ
  • 作者にお任せ
  • 未提示の別ルート
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