「本題はここからだ。君ならば、私の力を受け継ぐに値する。」
「力を、受け継ぐ・・・?」
「HAHAHAHA、なんて顔してるんだ、君は。礼と訂正、そして提案があると言っただろう?これはその提案の部分さ。要するに、私の力を受け取ってみないかと聞いている。」
何を言われているのか理解が追いつかず、出久はただ目を白黒させた。オールマイトの『個性』の正体は今や世界七不思議の一つとして列挙されるほどの謎なのだ。
「写真集や新聞では、怪力だのブーストだのと誤報されているし、トーク番組ではジョークでお茶を濁してきた。『平和の象徴』オールマイトはナチュラルボーンヒーローでなければならないからね。私の『個性』は、聖火の如く歴代の継承者によって受け継がれてきた物なんだよ。そして次は、君の番という事さ。」
「つまり、オールマイトの『個性』は、その『個性』を譲渡する事が出来る物ってことで間違いないですか?」
「うん、その通り。そしてそれに冠された名は、
そんな大それた物を自分なんかに渡そうと、オールマイトはそう言っているのだ。
「君は、あの場の誰よりもヒーローらしかった。まあ、受けるか否かは君次第だ。強制はしない。」
「分かりました。じゃあ、僕も……僕もオールマイトに言わなきゃいけない事があります。僕にとってはオールマイトが今日話してくれた事と同じぐらい重要な秘密が。いいよね、グラファイト?」
グラファイトは無言でオレンジの粒子となり、出久の隣に姿をさらした。
「まあ、いずれはそうするつもりだったからな。丁度場を設けてくれたから好都合だ。」
「君は、一体・・・・?」
「俺の名はグラファイト。故あって緑谷出久の『個性』の任を負っている。」
「『個性』の任を負っている?しかし、あの時固まったヘドロを切り裂いたのは・・・・・」
「あれは俺が出久の体の主導権を握って本来持っている能力を引き出して使っただけだ。」
「つまり、少年は本来『無個性』という事か・・・!?」
「ああ。」
「なるほど。何故あのような質問を投げかけたのか、何故少年の行動にああも激しく心を動かされたのか、ようやく本当に分かった気がするよ。ではグラファイト。君は何なのだ?少なくとも私が知る限りではグラファイトというヒーローはいないはずだが。」
「俺はヒーローではない。むしろ、『個性』を持った人間でもない。バグスターだ。」
「バグスター?」
「話せば長くなるが、人間にもコンピューターにも感染出来る人格と意思を備えた人型に成長したウィルス、と認識してくれ。」
元居た世界などの突拍子もない部分は伏せつつ簡単に説明した。完全には理解できなかったが、とりあえず納得したオールマイトは咳払いの後に話を戻した。
「これが、君の秘密か。」
「はい。遅咲きの突然変異した『個性』っていう事で母にも伝えましたけど、やっぱり嘘はつきたくなくて、せめて誰か一人には打ち明けたいと思って・・・・その、ごめんなさい!」
「ナンセンス!謝る必要などどこにもない!むしろ私の秘密よりかよっぽどパンチが利いているじゃないか!」
「そんな事無いですよ!」
「いいや、ある!そもそも『個性』の域を完全に逸脱しているじゃないか!意思と人格を備えたウィルスなんて聞いた事も無い!」
「あり得ない事自体があり得ない『個性』と言う何でもありの世界に住む人間の言葉とは思えんな。」
「時間を・・・・考える時間を、頂けませんか?一週間、いや三日。三日だけ時間をください!その間に答えを出します。」
「OK、分かった。では三日後の朝七時に多古場海浜公園で君の返事を聞こう。」
「いーーーーーーーずーーーーーーぐぅ~~~~~~~!!!」
玄関を開けた瞬間、出久の母の引子が壊れた水道管にも負けない程の水圧で涙を噴出しながら一人息子を抱きしめた。
「大丈夫だった?!怪我は無い?!ニュースで見た時は心配で心配で・・・!!」
「大丈夫だよ、母さん。怪我もしてないし。ね?」
涙でシャツを濡らす母の背中をさすり、笑顔でその場で跳ね回って腕をぐるぐる回して何の問題も無い事をアピールした。
「心配したけど、でもね出久?」
「ん?」
「超カッコ良かったよ!」
超カッコ良かった。母の言葉に出久は胸が空き、熱くなり、自然と口角が吊り上がる。
「ありがと、母さん。あれ?またちょっと痩せた?」
「そうなのよ~!出久の言う通り下半身を中心に運動してたらね、またウェストが二センチぐらい細くなっちゃったの!やっぱり運動って大事よね!」
「うん、僕の筋トレメニューが役に立ってるなら良かったよ。」
「ご飯もうすぐできるからお膳立てお願いね。」
「はーい。」
グラファイトは食事中一言も発さなかったが、出久が部屋に戻ってからようやく口を開いた。
『出久、お前、何故あの話を保留にした?お前も分かっている筈だろう?合意の上で貸しているとはいえ、俺の力はあくまで借り物、「個性」とは違う。「個性」と言う元来万人に備わっているべき物が欠如しているお前ならば、あの話に飛びつくと思っていたんだがな。』
「たとえそうだとしても、僕がここまで来れたのはグラファイトが僕に力を貸してくれたからこそだよ。もう三年近い付き合いになる君を蔑ろには出来ない。二人で一人ってわけじゃないけど、僕は君と一緒にヒーローになりたいんだ。」
『だとしても、だ。俺はいつでもお前から分離して行動できる。利点ではあるがその時襲われでもしたらお前は丸裸だ。そこらの雑魚程度ならどうにかなるとしても、広範囲の攻撃や膂力を底上げできる奴らが相手になれば、ほぼ確実に殺されるぞ。』
「でもバグヴァイザーが――」
『あれが何故現れたのかはまだ分からん。現れる条件も不明である以上、お前も俺もあればかりをあてにする事はできん。第一お前はあれを使い慣れていない。「無個性」でもヒーローになれると言ったのは俺だが、戦闘に於いては「個性」は必要だ。まあまだ三日ある。じっくり考えろ。』
「うん。それと、さ、グラファイト。」
『ああ。気にならない筈が無いだろうな、俺の出自が。だが一つだけお前に誓う。』
「何?」
『俺も、オールマイトと同じで隠し事は多いが、お前には嘘はついていない。バグスターウィルスはコンピューターと人間の両方に感染する事が出来る。人間の脳に感染するとストレスによって増殖し、症状が悪化すれば感染者を取り込んで実体化する。その後分裂しても、ほうっておけば徐々に感染者から存在力と呼べるものを奪い、最終的に消滅させて完全体に至る。』
「消滅って・・・・じゃあ、グラファイトは――」
『俺に罹った人間の死によって生まれた。説明するより見せた方が早い。お前の記憶を俺が見る事が出来るなら、逆も可能な筈だ。』
多少手間取りはしたものの、成功した。そして出久は全てを見た。百瀬小姫の消滅と同時に誕生するグラファイト、処置しようとして失敗した仮面ライダースナイプ、そして患者の恋人であった仮面ライダーブレイブとの幾度にも渡る対決、ゲムデウスウィルス培養の容れ物となる決断、クロノスとの必殺攻撃の応酬、そして止まった時の中で今生の別れを告げるその最期。
「あれが・・・・」
『ああ。以前の俺だ。見れば分かる様に、俺は元来『悪』なのだ。ガシャコンバグヴァイザーも、本来はウィルスの注入や散布、そして倒されたバグスターの回収と培養を行う為の道具。凶器だ。』
「大丈夫だよ!」
出久は立ち上がって拳を握り締めた。
「人は、変われるから。『無個性』だった僕だって変われた。弱虫で泣き虫でいじめられっ子だった僕がヴィランを止められるだけの勇気を持てた!かっちゃんを殴り返す度胸を手に入れた!グラファイトのお陰で!だからグラファイトだって変われる!それに何事も使い方だよ!料理に使う包丁だって、人を刺す事も出来れば食材を切る為の道具にもなるんだからさ。僕を今まで助けてくれて、変わるきっかけをもう掴んでるじゃないか!もっと変わっていけるかどうかは、全部グラファイト次第だよ!」
グラファイトは出久から離れて背を向けた状態で実体化した。いつもの覇気は鳴りを潜めている。
「本来ならば高い所から物を言うのは俺に一撃入れてからにしろ、と言いたいところだがその通りだな。しかし、お前もたった二年と少しで俺の言葉を俺に返すとは随分と肝が据わって来たな。」
窓の隙間からウィルスの粒子となり、出久の部屋を去った。
グラファイトは気付かなかったが、出久は背を向けた彼の表情が窓に映っているのがしっかりと見えていた。武闘派の彼とは似ても似つかない、穏やかで儚い笑みだった。
屋根の上で朧月を見上げながらグラファイトはバグヴァイザーが現れるよう念じ始めた。最初に使っていた頃の物は元々実体化していた為このような手間は無かったが、あれがなければ自分も変身出来ず、全力で戦えない。そもそも発動条件からして不明だ。出久に感染している状態であの時は現れたが、それが必ずしも必要かと聞かれればやはり分からない。
「やれやれ、色々検証しなければな。」
出久が答えを出すまで忙しい三日になるが、その間に答えを見つけなければならない。
次回、File 08: How to use a ガシャコンバグヴァイザーZ
SEE YOU NEXT GAME....