久々の六千文字超えでございます。
「・・・・・・美味しい。流石は山中と言うだけあって、水から違うのかな?しかもこの粒立ちは・・・・・・圧力釜?いや、土鍋か!」
「一口食べただけで良く分かるもんだね、ホント」
感心と呆れが半々と言った表情でピクシーボブが開いた皿を下げて更に料理を運ぶ。二十人分の、それも体が資本のヒーロー志望二十名ともなれば、その量は莫大だ。特に食べた物がそのまま『個性』の燃料に変換される八百万や、『個性』の関係上基礎代謝が生まれつき高い飯田、轟、爆豪、砂藤、そして出久もいるのだ。先の戦闘で消費したカロリーを全て取り戻そうと本能レベルで盛り付けられた料理に食らいついている。
「まあ、色々世話を焼くのは今日だけだし、食べれるだけ食べときな!」
「あざーっす!!」
空き腹が膨れ始め、ヒーロー科の表情から疲労が引き始めた。
「轟君、その手、大丈夫なの?」
「・・・・・・今は正直微妙だな。消毒し直して包帯も新品に替えて貰った。明日までには何とかなるだろうが、今日は箸を使うのはアウトだ。だが、収穫はあった。右も左も、多少はラグがあっても併用に慣れ始めた。お前のノートのおかげだ」
包帯を巻いた手でスプーンやフォークを使って食べている轟は多少食べにくそうにしていたが、そのうち慣れて周りのクラスメイトに負けないぐらいに食べるペースを上げた。
『気になるか?』
「ん?」焼き餃子を咀嚼している最中のグラファイトからの質問に出久は一旦席を立って男子トイレの入り口まで移動した。
『爆豪のあの小僧とのやり取りで無用であると理解しているのにも拘らず介入した理由だ。気にならないのか?』
確かに行動の理由は分からないが、出久がたかが小学生の拳と蹴りに対処出来ない筈が無いと、誰よりも理解している彼が自分を守る為に動いたのだ。
「まあ、気にならなく・・・・・・はないけど。でも、かと言って取り立てて知りたいとも思わないかな」
喧嘩の後の仲直りなど、都合よく大団円を迎えられるほど人間関係は単純ではない。元幼馴染にして現クラスメイト、そして赤の他人である爆豪勝己の心中で、何らかの変化はあったのだろう。でなければ自分以外の誰かを、ましてや幾度も黒星をつけられた相手を守ろうと動いている筈が無い。それがまだ年端もいかない子供が相手からだとしても。
だがそれは彼の問題だ。冷え切り、罅の入ってしまった関係を修復したいならすればいいし、また一からやり直したいと説得したいならすればいい。全ては彼の気持ちのありようと行動次第だ。それに別に彼がどうしようと自分の生きる道は何一つ変わらない。
「優先順位的に言えば、気になるのはヴィラン連合の動きだよ。USJ、保須、I・アイランド。どれも雄英高校やそれに準ずるヒーロー多数を抱えて組織立ったアクションを起こせる陣営がすぐには介入できない状況だった。その点で言えばこの林間合宿もそうだよ」
プッシーキャッツの四人、雄英からはヒーロー科一年のクラス担任二人、そしてオールマイトの要請で来たグラントリノとサー・ナイトアイ、合計八人のキャリアを積んだプロヒーローがいる。戦力としては申し分ない。
『ならば一番の問題は、黒霧だな。実質的に連合の兵站を一番上手く回しているのは奴だ。ワープゲートの開閉条件や制限の有無など一切が不明な以上、仕掛けてくるとすれば初手から分断してくることは確実だ。新たに戦列に加えたヴィランか、脳無か、または両方の混成部隊か・・・・・・どちらにせよ、戦いはかなりもつれる』
「だよね。皆いざとなったら戦えるかな?本気で殺しに来る相手を前にして」
『さほど心配する必要は無かろう。その為に我々がいる。そして運用可能なドライバーは二つあるのだ。I・アイランドでテロリストと遣り合った者もいる。オール・フォー・ワンが出陣してこない限りはギリギリ五分と五分だろう』
魔獣の森の走破も連携の練度向上と個々人の継戦能力を培う良い訓練になった。実際に動き、無限に襲い掛かってくる土魔獣の性質は『ショック吸収』と『超再生』を併せ持った脳無の下位互換とも言えるし、訓練形式も限り無く実践を想定していた。
「そうだね・・・・・・うん、僕らで頑張らないと」
『そういう割には、どこか迷っているようだが?』
「怖いんだよ。グラファイトが現れるまで、僕は一人だった。味方なんて母さんぐらいだ。でも、君が僕の『個性』になると言って、オールマイトにワン・フォー・オールも預けてもらってから僕は強くなった。強くなれば理想の自分になれると思っていたから、辛い訓練も乗り越えられた。ヒーローの登竜門をくぐって力と知識を身に付けて行けば、自分を好きになれると思った」
『嫌いなのか?今の自分が』
「分からない。でも、理想の自分からかけ離れている気がして、最初にどうなりたかったかも分からなくなってきて・・・・・・そんな迷ったままの今の自分が、どうしようもなく嫌になる」
「ならば、早く見つけなければな」
トイレの個室からした声で出久は大きく飛び退いた。
「サー・ナイトアイ・・・・・・」
「結果的にプライベートな問題を立ち聞きしてしまったな。申し訳ない」
「気づかなかったのは、僕ですから」そう言いつつも、出久は表情を固めた。
油断した。あれがヴィランだったら、あのまま後ろから刺されて死んでいたかもしれない。辛うじて致命傷は避けられても先手を取られたのは痛い。
「貴方が僕の
「その質問に答えるには、私と彼の出会いから始めなければならない。オールマイトと出会ったのはおよそ五年前だ。サイドキックは取らない主義だった彼に幾千回と頭を下げ、根負けさせた。彼はヒーローとして外回りを、私はもっぱら頭脳労働や書類関係を担当していた。しかし六年前に、例の男との戦いで負傷し、価値観の相違で袂を別つ破目になった。怪我を押してまで、彼がヒーローであり続ける必要は無いと。いずれ第二、第三の平和の象徴が台頭すると。それを彼は、何て答えたと思う?」
――その間にどれだけの人々が怯えなければならない?私は世の中の為に、ここにいるべきではないんだ、ナイトアイ。
「・・・・・・彼らしい、ですね」
「ああ。だからこそ、そんな彼に敬服しているからこそ、腹立たしかった。死にに行こうとする彼にも、それを止めきれない私自身にも。病院から出ようとする彼にかっとなって、言ってしまったんだ。私が視た彼の未来を。それでも結局止めるには至らなかったがね」
眼鏡を外し、目頭を指先でもむナイトアイの姿にいつものヒーロー然とした覇気はない。疲労が吹き出すのを押し留めて仕事に従事する年相応の悲壮感漂うサラリーマンのそれだった。
「喧嘩別れした後でも、私は探したんだ。私なりに、後継者と成り得る生徒を探して、鍛えた。真に相応しい後継者の成長ぶりを見せて納得してもらえば、引退の言い訳も立つと考えて。しかしそれを引き合わせる前にどこの誰とも分からない中学生に譲渡したと聞かされ・・・・・・溝は更に深まった」
「それは・・・・・・確かに深まりますね」
グラファイトに出会う前の自分を振り返り、出久は自嘲的に笑った。
志だけではヒーローなど務まらない。そんな事も分からない程弱く、愚かで、逃避的だった自分に最高のヒーローの力を与えると言われれば怒るのも当然だった。オールマイトに最も近い人間の一人として彼が選んだ人間を試し、見極めたくなるのも、無理からぬことだ。
「人々の平和を守る為と言う大義名分のもとに戦い続ける彼は、死に場所を探しているようにも思えた。君に黙っていたのも、枷になりたくない、そしてファンにそんな姿を見せたくないと思ったからだろう」
彼らしい。プライドやエゴましましの理由だが、それらに塗れすぎてむしろ潔く、清々しい。グラファイトは出久の中で笑っており、出久も思わずそれにつられそうになった。
「それでも、I・アイランドでの呼びかけに応えてくれたって事は、本当にオールマイトの事が好きなんですね。ヒーローとしても、人としても」
「ああ。諍いや喧嘩はあっても、心の底から嫌いになれる筈が無いだろう。あんな高潔な人間を、私は人生で彼しか知らない。老衰などの自然な死ならば、まだいい。だがそれ以外の、第三者の手によって齎される死を考えると・・・・・・脳がフリーズして、どうすればいいか分からなくなってしまう。だからどうしても阻止しなければならないんだ。彼の、死を」
「死・・・・・・?!」
「最後に彼を『視た』のは六年前で、それが起こるのは今年か、来年か。どれだけ先の未来であるかに比例する誤差は生じるが、起こる事象その物を変えられたことは無い。島でも一度オールマイトの未来を視たが、やはり変わっていなかった。だが私は諦めない。最後の最後まで、私は彼を救う事を諦めない」
「なら、僕達も諦めません。オールマイトの生存も、オール・フォー・ワン打倒も」
ハハッ、と乾いた笑いがナイトアイの口から漏れた。「オールマイトですらギリギリ相討ったオール・フォー・ワンの打倒とは、大きく出たな」
「何も僕が直接手を下すわけじゃありません。でも両方を可能とする算段はあります。聞きますか?」
「勿論だ」
「分かりました。その為には、僕とグラファイトの事を知って貰う必要があります。前置きが結構長くなりますけど・・・・・・」
「構わない。それなら場所を移そう」
流石にトイレの前でずっと話し込んでいては誰かに聞かれてしまう。
風呂文化。古代ローマのテルマエ、フィンランドのサウナ、トルコのハンマーム、メキシコインディアンのテマスカルなど、歴史上にも様々存在する中で、最も風呂文化の認知度が高いのが日本とその温泉である。
食事で腹が膨れた生徒たちは、天然の温泉で足を延ばし、全身の毛穴から疲労を抜いていた。
「あ“~~~・・・・・・沁みるぜチクショー・・・・・・」
「後でストレッチしたら即寝落ちする奴だ、コレ」
「でもな~~、求められてるモノって、そこじゃないんすよ」肩まで使って岩盤に背を預けて風呂を堪能する空気に水を差す言葉に、過半数の男子が聳え立つ壁を前にタオル一枚を腰に巻いて仁王立ちする声の主、峰田実の方を向いた。「求められてんのは、この壁の向こうなんすよ」
その疑問に答えるかのように、壁の向こう側で同じく温泉を満喫している1-A女子の声が聞こえる。
「気持ちいいね~~!」
「温泉あるなんて最高だわ」
「ほら、いるんすよ。この壁の向こう側に。今日日、男女の入浴時間をずらさないなんて、事故。そう、これは最早事故なんすよ」
それだけで峰田の謀を察したのか、飯田が湯船から立ち上がった。
「君のしようとしていることは女性陣だけでなく自分をも貶める恥ずべき行為だ!即刻その壁から離れたまえ!」
しかし峰田にはそんな声など最早聞こえない。いや、聞こえてはいるがただの雑音としてしか脳が認識していないのだ。
壁とは超える為にある。
頭のもぎもぎを取っては貼り付けて掴み、または足場にし、ロッククライミングでもするように登っていく。加えて人より低い体重のおかげで壁が壊れる心配も無い。物の数分で塀の縁に手が届く所まで登り詰め――出水洸汰が天辺から身を乗り出した。汚物を見るような冷淡な視線を峰田に向け、「ヒーロー以前に人のあれこれから学び直せ」と、峰田を突き落とした。
クソガキ、と罵る峰田は蜘蛛の糸を伝って地獄から逃れようとした犍陀多よろしく、湯舟まで真っ逆さまに落ちて行った。
「やっぱり峰田ちゃん最低ね。ケロ」
「ありがと、洸汰君!」
背後の女子風呂から上がる歓声と感謝の声に、洸汰は思わず振り向いてしまった。当然、そんなことをすれば湯船に浸かっているとは言え、視界に思春期女子の裸体が入ってしまう。思わず顔を背けた彼もバランスを崩し、男湯の方へ頭から落ち始めた。
「あんのクソガキが!」しかしバランスが崩れた所で既に動いていた爆豪が彼の頭と胴体を下から抑えて受け止めた。「手間かけさせやがって」
「おお。かっちゃん、ナイスキャッチ!」
かっちゃん。クラスの中でも一人しか呼ばないその愛称で呼ばれ、思わず振り向いた。暖簾を丁度くぐった緑谷出久が男子に手を振っていた。
「緑谷、おせーよ!何やってたんだよ?」
「飯の時もいつの間にかいなくなっちまってたよな」
「ごめんごめん、ちょっと用事があってね。思ったより時間がかかっちゃって。もう終わったから」思わず愛称を口にしてしまった出久は爆豪から視線を外しつつ、作り笑いを浮かべたまま手桶を取って湯をかぶり、湯船に浸かった。
「爆豪、そいつマンダレイさんとこに連れてった方がいいんじゃねえか?」
「あ?何で俺がンな事しなきゃなんねえんだよ、アホ面!?」
「まあまあまあまあ!」と上鳴に食って掛かる爆豪を切島が毎度の様に止めに入る。「助けちまったんだし、そこはな。ほら、最後まで見届ける責任って奴。行って戻りゃすぐだろ?大丈夫だって、まだまだ入浴時間終了まで余裕あんだからさ。な?」
大きく舌打ちをしながらぐったりした洸汰を米俵の様に肩に担ぎ、爆豪はその場を後にした。
「さてと・・・・・・」もぎもぎが張り付いた女湯と男湯を隔てる壁を見て状況を察した出久は、悔し涙を流す峰田の肩に手を置いた。「さてと、峰田君——水中土下座って、知ってる?」
「落下の恐怖で失神しちゃっただけね、ありがとう。イレイザーに一人性欲の権化みたいな生徒がいるからって見張りに付けてたんだけど。最近の女の子って発育良いからね」
だが爆豪の耳にマンダレイの言葉は届かなかった。まただ。また、戦わずに助けた。戦わずして、勝った。ヒーローに否定的な考えを持つ子供を、差し出した手を拳で応対した敵を、救ったのだ。
「・・・・・・こいつは、ヒーローが嫌いなのか?」そんな質問を不意に口にしてしまう。爆豪の周りには幼少からヒーローに対する気持ちは羨望や畏敬の念こそ持つ者はいても、恨む事などなかった。誰がより強く、カッコよく、凄い『個性』かなどの批評はあっても、子供同士のレベルの低い言い争いでしかない。
しかしそれを飛び越えるレベルの嫌悪は、洸汰の年齢でははっきり言って異常だ。
「うん。普通に育っていれば、他の皆と同じようにヒーローに憧れていたんだと思う」洸汰の頭を撫でながら、マンダレイは俯き、唇を一文字に引き結んだ。
「洸汰の両親はあたしらと同じプロヒーローだったんだけど、殉職しちゃったんだよ」
殉職。湯呑を載せた盆を持って入室して来たピクシーボブの言葉を聞き、温泉で温まっていた爆豪の体から血の気が一気に引いた。
よくある話ではある。警察官や消防団員、救急医、そしてヒーローは、誰よりも多く人の死に立ち会う機会がある職業に就いている。それは市民だけでなく、同業者の最期も含まれる。そして『個性』の発現で、殉職率は超常黎明期前より遥かに高い。
ニュースでも速報が流れるのを何度も見た。市民を守り切り、息を引き取ったヒーロー。守り抜いた末に怪我で引退に追いやられたヒーロー。洸汰の両親も、該当者なのだ。
「二年前に事件を起こしたヴィランを相手に市民を守ったの。ヒーローとしては立派な最期なんだろうけど・・・・・親が世界の中心にいる物心がついたばかりの子供にそんなことは分からない」
両親は自分を置いて逝ってしまった。なのに周りの人間はそれを素晴らしい事と褒め称える。嫌って当然だ。親がヒーローでなければ、死なずに済んだのだ。死んで偉いと褒められる奴らが存在するなんて、訳が分からない。頭がおかしい、どうかしている。
理解できない。
気持ち悪い。
そこで、爆豪の中で全てが繋がった。
「・・・・・・長々と話してんなよ。イエスかノーで済む質問だろが。後、そのマセガキに伝えとけ、ヒーロー嫌うのは勝手だが、死に物狂いでなりてえモン目指す奴をナメくさるのはクズのする事だってな」
温泉に入りなおそうとどすどすと足音荒く退室し、頭を掻きむしる。ようやく洸汰の言動が癇に障る理由が分かった。
「クソガキが・・・・・・まんま昔の俺じゃねえかッ・・・・・!!!!」
悪態をつきながら太ももに痣が出来る程に拳を振り下ろした。
次回、File 57: 目指せ、Level Up!
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開闢行動隊の登場時、立ち位置はどこがいい?
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原作通りヴィラン
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ステ様信奉のヴィジランテ
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