龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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二年半ぶりの執筆作業なのでまずい文章でお目汚し失礼いたします。


File 58: 過去にサヨナラ、Transformation

実践に勝る知識なしと言うフレーズは様々な場面に当て嵌まる。しかしその最もたる例が、『戦闘』である。彼我の得意技、得意な間合い、弱点の防御法、僅かな予備動作の癖、スタミナのペース配分、コンディションや人数によって変わる立ち回り方、エトセトラ――いくら修行を積もうとその修業を元に実際に戦わなければ約束組手、言わば戦いのごっこ遊びに成り下がる。

 

そうしない為にも、相澤消太とサー・ナイトアイが問題児其の一である出久に課した午後のトレーニングが、『個性』常時発動状態(なお自他の安全の為出力は限定)の無限組手。それも、一年B組の増強系『個性』持ち全員が相手である。

 

増強系の『個性』は得てして使用者の本来の身体能力及び健康状態の高さに依存している。鉄分を消費して肉体を鋼に変える鉄哲や手のサイズを自在に変える拳藤などその代表的な例だ。どこでどう使うか。どれだけのエネルギーを消費するか。それらを実践の中で見極め、その感触を体で覚えなければならない。

 

「ぬぅぅ・・・・・・まさか私がパワーで負けるとは!まだまだ修練が足りませんな。見事です緑谷氏」

 

左腕を背中に固定されたままサブミッションホールドで無力化された宍田獣郎太は、空いた手で眼鏡を押し上げながら悔しそうに唸る。

 

「いやいや、僕みたいに理詰めのタイプはガンガン来られて戦闘スタイルガタガタにされるのが一番やりにくいから、宍田君のその積極性は凄くいいよ。後は手数と相手の動きを観察できるようになればもっと良くなる」

 

固めた左腕を開放して彼を助け起こす出久は、額から滴る汗を拭い、切株に置いてあるノートにいくつか走り書きをしてから再びB組の同期達に向き直る。

 

「じゃあ次はそうだね・・・・・庄田君と拳藤さん、鉄哲君の三人で」

 

コキリと首を捻って鳴らし、出久は両手の拳を握り込んで額の高さまで上げた。肩幅に開いた足は、前に出した左だけが規則正しく地面を踏む。

 

「オッケー!かかって来な!」

 

髪を結わえ直した拳藤は、肩をぐるぐる回しながら半身立ちになり、軽く膝を曲げた。両手は互いにつかず離れずの距離を保ち、利き手だけ軽く握り込み、左手は開手のままである、空手の組手立ちだ。

 

「よろしくお願いします」

 

庄田は八オンスあるグローブのマジックテープを手首に巻き直し、拳を目元まで掲げるとリズムを取る為に左右に体を振り始めた。

 

「オッシャア、いくぜぇ!」

 

先手必勝とばかりに側面から突っ込んで来たのは鉄哲である。三人の中で唯一武術や格闘技を習得していない彼は、低い姿勢から左足を狙ってタックルをかました。

 

が、まるで電柱にでも激突したかの様に彼の動きはその場で止まる。

 

「止まった・・・・・!」

 

鉄哲は一瞬下を見て理解した。出久は自分が足に組み付くよりも一瞬早く地面を踏み締め、その衝撃を伝える事で足場を更に固めたのだ。

 

「んがっ?!」

 

更にその腕を容易く振り払い、がら空きになった彼の顔面に膝蹴りをお見舞いして仰け反らせた。

 

「ほらほら、ぼさっとしない!効かないと分かったらすぐ離れるか二手目、三手目を繰り出さないと」

 

仰け反った所を更に前蹴りで庄田の方へと押し返した。しかしそこは流石フェザー級ボクサーのトレーニングを続けて来たというべきか、単純なステップでかわし、肉薄した。

 

「お?お、お、おお、おお、おおっととととととと!?」

 

速い。その恵体に似合わぬ懐に飛び込むダッシュ力もそうだが、パンチが鋭く走っている。可能な限りはパリィで払って対処できるが、そうでない物はすれすれのダッキングやウィービングで躱し、拳の間合から離れた。

 

解放(ファイア)

 

「イ“ッ!?」

 

出久は思わず顔を顰めた。庄田の言葉と共に、頬や顎、口角に蚯蚓腫れや切り傷が現れたのだ。

 

庄田二連撃の『個性』は『ツインインパクト』。文字通り一度殴った個所に再び衝撃を発生させる事が出来る、シンプルながらも応用の幅が広い能力である。出久でも拳打に特化した戦闘スタイルを取る相手には熟練度で劣るのか、やはり完全には避け切れずいくらか貰ってしまった。

 

「行っけー!即興必殺、人間砲丸!」

 

その巨大な両掌でサッカーのスローインよろしく前蹴りで吹っ飛ばされた鉄哲をキャッチし、再び突っ込ませるのはB組委員長の拳藤一佳である。

 

「庄田!もう一発!」

 

「はいぃ!解放(ファイア)」」

 

低く構えながら拳を小刻みに地面に当てて一周し、再び『個性』を発動。瞬間、もうもうと土埃が舞い上がって出久の視界を完全に潰した。

 

これなら行ける。拳藤は投げ飛ばした鉄哲の後を追って土埃に向かって走り出した。少しばかり高めの弾道で彼を投げてしまった。視界を潰しているとは言え恐らく避けられるだろう。だが本命は彼ではない。しゃがむか、飛ぶか、はたまた側面にステップして躱すか。どちらにせよ、前後から庄田と挟んでいる以上どちらかの攻撃は当てられる。

 

当たらなくとも鉄哲が受け身を取って別方向から援護してくれれば更に勝率は上がる。

 

クリア条件はB組の中の誰かが緑谷出久から一本を取る事なのだ。即興とは言え二段構えならぬ三段構えの布陣、そう簡単には破れない。そして手応えを感じた。間違いなく。だが、硬い。骨とは違う、もっと無機質で、冷たい硬さだ。それこそ鉄の様な——

 

その瞬間、二人は負けた事を悟った。顔を手で覆われて声が出せなかったから分からなかったが、拳藤の正拳突きは鉄哲の右頬を、庄田の右フックは鉄哲の脇腹を正確にとらえていたのだ。

 

が、出久の姿はどこにもない。

 

「え?あれ!?」

 

「いない?!そんな馬鹿な!」

 

黒霧の様なテレポート能力は持っていない。さりとて姿が消えた事に説明がつかない。

 

「上だ!」

 

ようやく声を出せた鉄哲がかすれる声を力一杯張り上げた。二人が見上げた所に、出久が鉄哲の頭の上で逆立ちしていたのだ。

 

「こんのぉ!」

 

再び手を巨大化させながらも手刀を食らわせようとするがまた避けられてしまう。体操選手の様に空中で体を捻りながら右足を伸ばし、庄田の脳天に踵落としを決めながら片足で着地した。思わぬところから思わぬ反撃を食らった彼は成す術無く、あえなく撃沈。意識を手放した。

 

「狙いは悪くない。けど、それじゃ届かないよ?」

 

 

 

「・・・・・・緑谷君すごっ。将来有望どころかもう中堅のプロ並みでしょ、あれ。身体能力も『個性』抜きなら虎より上かもよ。格闘戦とかもうイレイザー以上だね」

 

プッシーキャッツのリーダー、マンダレイが訓練の様子を一年の担任達と見守っていた。

 

「緑谷の強さは、分析力もそうだが、一番怖いのが引き出しの多さとその多面的な応用だ。何が出てくるか、出て来たモンをどう使って来るか、どう配分して使うのか。分からない。たったそれだけなのに、足が竦む。同一の『個性』を持ってるわけでもないのに頭の中見透かされてる気がして、何をやっても無駄に思えてしまう。今回はそういう精神的なプレッシャーを与えるような戦い方を意識するようにしている。まあ、USJ事件の簡易版ってとこだ。ブラド、こんな感じでいいんだな?」

 

相澤の言葉にブラドキング――本名、管赤慈郎――が首肯した。

 

「うむ、問題ない。A組の生徒を『個』の力が強みとするならばウチのB組の奴らは『群』の力が持ち味だ。威力は轟や爆豪などには劣る事は否定できんが、足並みを揃えるのが上手く、連携は御覧の通り即席でもお手の物だ。」

 

「確かに。委員長の拳藤、だったか?司令塔の役割をうまく果たしている」

 

「ふふふふ、そうだろうそうだろう!あいつは人を引っ張るのが上手くてな、満場一致でクラス委員長にもなっている頼れる生徒だ」

 

「連携崩されずに立ち回るのと、連携せずに個々で立ち回れるようにするのが今後の課題ってところか・・・・・ん?」

 

ポケットで震えた携帯を取り出し、メッセージを確認すると相澤は小さく笑った。

 

「ナイトアイとグラントリノが設置を終わらせたみたいだ。一応これでやれることはやった。何もなければいいが、正直嫌な予感しかしない」

 

 

 

あっという間に太陽は地平線の彼方へと身を隠し始め、ようやくその日の訓練課程が全て終了した。雄英一年生全員が真っ白に燃えつけてしまっていた。立ったまま疲労で気絶しているか、あまりの激しい消耗に立ったまま半分眠りこけている者もちらほらといる。

 

「さあさあ!色々世話を焼くのは昨日だけって言ったよね!」

 

「己で食う飯ぐらい己で作れ!だからって雑な猫まんまは駄目だよ!」

 

用意されたのは大量の米と野菜と肉、そしてカレールーだ。

 

「う~っす・・・・・・」

 

「はぃ・・・・・・」

 

「た、確かに災害時には避難先で消耗した民間人の腹と心を満たすのも救助の一環。流石は雄英、無駄が無い!皆、世界一美味いカレーを作ろう!」

 

全員肉体的だけでなく精神的な疲労の蓄積も生半可な物ではない為、返事には覇気が無い——飯田を除いて、だが。

 

夕食と言う報酬が先に待っていることもあってか、少しずつ気力を取り戻し始めた一年生達はそれぞれ野菜を切る係、米を砥ぐ係、火を点ける係などに手早く役割を分担し始めた。

 

「轟、こっちも火ィ貰える~?」

 

「ああ、いいよ」

 

当然というべきか、炎を左半身から自在に出せる轟は火の番を任され、頼まれれば指先に炎を灯して丸めた古新聞を焼き、枯れ枝の束をその上に載せ始めた。疲労は色濃く顔に残ってはいるものの、炎の制御に一歩近づけた感触を噛み締め、小さく笑みを浮かべた。

 

爆豪も負けじと爆破で薪に火を点けようとしたが、思い留まって線香花火程度の出力を出して枯れ枝に着火する事に専念した。

 

「あれ?緑谷は?」

 

ふと瀬呂がそう口にした。それを聞き、A組の皆が辺りを見回したが、確かに一年最強の緑谷出久の姿がどこにもない

 

「ねえB組、緑谷と組手してたでしょ?どこ行ったか知らない?」

 

「ああ、それなら残り三十分ってところで引率で来た・・・・・・グラントリノだっけ?ってプロヒーローに連れてかれた。追い込みの最終調整がどうのこうのって」

 

「や~、ごめんごめん!もう作り始めちゃってる?」

 

噂をすれば影が差す。今まさに話題の人が密集した枝葉を押しのけて姿を現した。一言で表すなら、その姿はボロボロであった。全身ぐっしょりと濡れており、シャツやズボンは所々ほつれている。除く肌の至る所に打ち身、擦り傷、切り傷の類が絶えず続いており、髪の毛に至ってはアインシュタインの鳥の巣頭に負けず劣らずの状態だった、今も枯れ枝や葉、割れた木片などを取ろうとしており、スニーカーも片方無くなっている。

 

「うぉおおい!緑谷!大丈夫か!?」

 

「うん、平気平気。あ、でも右腕には触らないで欲しいかな。肘と肩脱臼して治したばっかだから」

 

「脱臼!?大丈夫なん、腕動かして!?」

 

麗日が八百万の方を向くと、既に彼女は三角巾に使える手頃なサイズのタオルを創り出していた。

 

「あーしばらくは冷やしてゆっくりじんわり温めれば大丈夫だって」

 

「でも治したってどうやって?一人ではめられるモンでもないだろ、関節って」

 

「あー、いや、割と行けたよ。膝蹴り一発で肩は治せた」

 

「膝蹴り!?」

 

「うん、こう前屈になって、左膝で右肩をガツッと。肘関節の方がちょっと難しかったかな、肩と違って可動領域が狭いから。まあ腕を殴って何とかしたけど」

 

「バケモンじゃねえか、そんなことして涼しい顔してるとか」

 

「痛み止め飲んでるからってのもある。後から痛くなると思うよきっと。で、痛みがぶり返さないうちに何か手伝える事無い?」

 

「怪我人にしてもらう事なんざねえわ、火の番でもして座っとれやボケが」

 

負傷していない方の腕をつかみ、爆豪はイズクを近くのベンチに座らせた。

 

「そうそう、うちらB組の特訓にも付き合ってもらったんだし、十分緑谷は働いてるよ。ありがとな」

 

「然り、緑谷氏はむしろ頑張り過ぎていると思いますぞ。明日の訓練に付き合ってもらう為にも、しっかり休んでいただきませんとな」

 

「これで水分と塩分を補給してください。余り物を押し付けて申し訳ありませんが、塩キャンディーとスポーツドリンクです」

 

着々とB組からの人望も集めている出久は、苦笑しながらも礼を述べてそれらを受け取った。

 

轟も彼が戻ってきたところでスポーツドリンクに右手で触れ、適度に冷やして右肩に手をやんわりと置いてやる。

 

「肩、平気か?」

 

「一応ね。いや~ひんやりして気持ちいい~!轟君、ありがと」

 

「気にすんな。友達、だし」

 

 

 

出水洸汰の腹が訓練の場から歩いて二十分ほどの所にある秘密基地にてコオロギの合唱をバックグラウンドにして盛大に鳴る。夕食前にあの場から離れたのは失敗だったが、既に離れてしまった手前引っ込みがつかず、都会の明かりから離れた夜の星空を睨み付けていた。まるでそうすれば空腹など無視できるとでも己の胃袋に言い聞かせるように。

 

——洸汰!留守の間、家を守ってくれな。頼むぞ!

 

——コーちゃん!ママ、頑張ってくるからね!

 

玄関から二人を見送ったその日が父、出水琉太と、母、出水浪子との最後の会話だった。二人一組のチーム『ウォーターホース』としてレスキューを主にプロヒーローとして活動していた。ビルボードでの順位は決して高いとは言えなかったが、それでも誇りを持って従事する姿は市民の好感度を上げ、洸汰もまたそんな二人の事が大好きで、誰よりも、どんなヒーローよりも誇らしかった。

 

二人が殉職した、と言う訃報を受け取るまでは。

 

葬式には親戚縁者だけでなく、仲の良かった近所の住民や以前二人に助けられた者、更には二人に所縁あるプロヒーロー達も参列して二人の殉職を惜しんだ。

 

——立派な最期だった。

 

違う。帰って来なきゃ意味無いじゃないか。

 

——ヒーローの本文を最後まで全うした、模範とすべき人達だ。

 

そんなわけあるか。馬鹿げている。死んだ事を手本にする?子供を置いて逝った親を?何を言っているんだコイツらは?そんなに死にたきゃ誰にも迷惑かけずに一人で勝手に死ねばいいじゃないか。

 

返せ。返せ。返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ!そんな事はどうでもいい。ヒーローもヴィランもどうでもいい!パパとママを返せ!二人がいないのはお前らの所為だ。お前らみたいにヒーローだヴィランだ言ってる奴が蔓延っているから皆死んじまうんだ。

 

——ウォーターホース、素晴らしいヒーローでした。しかし二人の輝かしい未来は、一人の心無き犯罪者によって絶たれてしまいました。犯人は現在も逃走を続けており、警察とヒーローが行方を追っています。

 

ヴィランなんて絶滅してしまえばいい。そうすればヒーローも全員廃業してしまう。

 

いや、それでは足りない。

 

『個性』だ。『個性』なんて物があるから二人は死んだんだ。『個性』なんてこの世から、いやこの世ごとまるっと消えればいい。

 

「こんなとこにいやがったかマセガキ。保護者が探していたぞ」

 

両手にカレーライスを盛りつけた皿を持った爆豪が一メートルほど離れた所にそれを置いた。

 

「お前、何故ここが!?」

 

「足跡残したんはてめえだろうが。それはともかく、食っとけ。おめえの腹の虫なんざコオロギ以上に耳障りだ」

 

「いらねえよ。言ったろ、つるむ気などねえ。俺の秘密基地から出てけ!」

 

武士は食わねど高楊枝とばかりにそっぽを向いた洸汰はそう吐き捨てた。

 

擦れた態度に思わず爆豪の口から舌打ちが漏れた。

 

「言われんでも帰るわ、アホ。けどな、てめえがいくら世界嫌った所で何も変わらねえんだよ。てめえがこんなとこでウジウジしてる癖に死に物狂いでなりてえモン目指す奴をナメくさる資格はねえ。覚えとけ、クソガキ」

 

「うるせえ!!」

 

かっとなった洸汰は手近な石を掴み取って彼に向かって投げつけたが、爆豪は子供の腕力で投げられる距離の遥か射程圏外におり、石礫は山中の闇へと消えて行った。残ったのは微かなやまびこと二皿のカレー、そしてスプーン一本だった。

 




さて、いよいよ襲撃が迫ってきますが、File 47でステインとヴィラン連合の繋がりをクリティカル・デッドしちまったから原作通りに開闢行動隊が出せねえ!いや、多少強引でも出せるか?・・・・・・どうしよう、また更新が途絶えてしまう!!

次回、File 59: Eeny-meeny-miny-moe! 狙いはだあれ?

SEE YOU NEXT GAME...........

開闢行動隊の登場時、立ち位置はどこがいい?

  • 原作通りヴィラン
  • ステ様信奉のヴィジランテ
  • 作者にお任せ
  • 未提示の別ルート
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