「さて!腹は膨れたし、皿も洗った!お待ちかねのクラス対抗肝試し、始めるよー!!」
「いよっ、待ってました!」
「試してぇ――!!」
三日目の夜、その日の訓練課程と食事が全て終了し、飴と鞭のうち前者を与えられる時間となった。ヒーロー育成の為の教育機関と言っても学校は学校。それらしい行事もしっかりと組み込んでくれる良心(?)も関係者側にはあるのだ。
「大変心苦しいが、補習組はこれから俺と授業だ」
しかし、相澤の一言で華やいでいた雰囲気が一瞬で無に帰した。
「日中の訓練が思ったより捗らなかったからな。残念だがこっちを削るしかない」
捕縛布で拘束された五人は成す術無く怨嗟と哀愁の呻き声を上げながら施設の方へと引きずられていった。
「あの!相澤先生!」
「ん?」
「補習の授業・・・・・・僕も受けちゃだめですか?皆の精神的援助も兼ねて」
「期末に合格している以上お前にはその必要は無い、と言いたいところだが、自ら志願するのを止めはしない。やるなら最後まで残ってもらうぞ。丁度お前のノートも参考にしている所だ」
「分かりました、補足できる所はします。それに肝試しも奇数だと一人余っちゃうのが心苦しく思いまして」
「合理的な判断だ。では行くぞ。『個性』の強化だけでなく期末で露呈した立ち回りの脆弱さをきっちりと克服してもらう」
「いやだああああああああ!」
「試させてくれぇえええええええええ!」
そんな様子を遠巻きに見ていたのがパソコンのモニターを囲むグラントリノ、ナイトアイ、ブラドキング、そしてグラファイトの三人だった。
「どうじゃ、動きはあっか?」
たい焼きをかじりながらグラントリノが尋ねる。
「まだだな。三日と言う時間ではやはりセンサーの網を張り切るにはあの範囲は無茶があった。ギリギリ間に合わせてくれたことは感謝する。流石は生涯現役と言った所か。ナイトアイ、視た未来に変わりは?」
「昨日の時点では大して何もない。だが、少し気になる事はあった。やはり正確な人数は不明だが、見知った顔はいくつかある。一人が今筋強斗、別名『血狂い』マスキュラー。もう一人が引石健磁、通称『マグネ』。一人ステインを意識したコスチュームを着た爬虫類の異形型がいる。更に二人はマスクをつけているが、そのうち一人は見た感じ恐らく脱獄した死刑囚の『ムーンフィッシュ』。他二人は名前も顔も分からない。背格好からして未成年だからだろうな」
「分かっているだけでも全国指名手配レベルが三人、視えただけでも合計七人か。プロヒーローとの人数差では、ギリギリ劣勢か。いや脳無投入の可能性も含めれば、更に劣勢・・・・・しかし生徒四十人を含めれば拮抗か、こちらがやや優勢。さて、布陣は考え物だな」
「私は施設周辺に残ろう。一日一回の制限がある『個性』につき、出来る事は限られる。ヴィラン相手に援護程度はする」
「なら、儂は肝試しルートの外周を回っとくわい。何かあったら報せる」
「ああ、頼む。イズクも一応施設の方に居残ってもらうように頼んでおいた」
「プロヒーロー達に伝達してくれるのはありがたいが、生徒達にはどう伝える?相手が奇襲を仕掛けて来るなら、それに備えて出鼻を挫ける様に避難させた方が策としては安牌だろう?」
ブラドキングの質問にナイトアイは眼鏡を押し上げて首を横に振った。
「伝えない。少なくとも、間際までは駄目だ。プッシーキャッツにも私がそれとなく伝えておいた。それに、生徒達に戦わせない為にも、第一防衛ラインとして我々がいるのだろう?」
「加えて、だ」とグラファイトは続けた。「連合には黒霧と言う兵站のスペシャリストがいる。合宿施設の位置は既に特定されていると考えるべきだ。避難の最中脳無などの新手を投入されて搔き乱されれば、後手に回って巻き返される。奇襲を悟られた事を悟らせず、逆に誘い込んで各個撃破を狙う」
幸いと言うべきか、生徒達もプロヒーローも肝試しや補習の為に分散している。ならば、ヴィラン陣営も緑谷出久の身柄確保と言う目標達成の為に同じくせざるをえない。
今一番されて困るのは人数を纏められて正面切っての戦いを挑まれる事。勿論出来なくはないが、不殺と言うヒーローの大前提が大きなハンデとなってしまう。
「そろそろだな。では各位、手筈通りに」
「緑谷、わざわざ補習に付き合う事無いんだぜ?サポートは素直に嬉しいけどさ」
「この前なんか夜の二時まで続いたんだ。二時だぜ!?」
瀬呂、切島の言葉に出久は思わずうわ、と顔を顰めた。
「それで七時起床は確かにきついか・・・・・・できなくはないけど」
「いや出来るんかい!」
授業に使う為の小部屋は、二列ある折り畳み式のテーブルと人数分の椅子、そしてキャスター付きホワイトボードが一枚と、かなり殺風景な物だった。窓際に小さな冷蔵庫、茶菓子や湯飲み、ポットなどが置いてあるが、精々その程度である。
出久は席に着き、グラファイトに教室に入る前にさりげなく渡された小さなバッグのジッパーを開いて中身を確認すると、小さく笑った。笑わざるを得なかったのだ。
ゲーマドライバー以外に、マイティ―ディフェンダーZ、マッハチェイサーバースト、そしてノックアウトファイター3が入っているのだ。ドライバーには「緊急時のみ」とだけ書かれたメモが張り付けられている。
「もうほぼそうなってるでしょうが」
笑いながら出久はノートを取り出し、席についた。
ナイトアイとグラファイトから既に事情は話されている。
ドライバーとガシャットという新たな力の源を得たからだろうか?それかオールマイトの生体データを八割以上修復しているという事実があるからだろうか?とにかく、今はどこか安心すら感じてしまっている。
やはりグラファイトから『戦士』としての英才教育を受けていても長年憧れた『英雄』の感化は未だ拭えないらしい。
『皆、お楽しみの最中で本当に申し訳ないんだけど、悪いニュースがある』
マンダレイの『テレパス』能力で、敷地内にいる全員に彼女の言葉が響き渡る。
『ナイトアイの『個性』で、ここがヴィランに襲われるのを予知した。人数は十名弱、うち三名は脱獄死刑囚を含む全国指名手配レベルの凶悪犯よ。全員可能な限り合流して施設の前まで来て。絶対少数で動いちゃダメ。逃げられない場合は戦闘も許可するけど、今は人命第一。戦わずに済むならそれに越したことはないわ。肝試しルートに入った人たちはとにかくスタート地点を目指して。グラントリノが向かってるから彼に合流して指示を仰ぎなさい』
丁度折り返し地点からゴールまで道半ばとなった爆豪、轟は既に走り出していた。そして一つ重要な事に気付く。
——あのマセガキ、多分だがまだ戻ってねえ!
プロヒーローの親戚縁者が人質として効果覿面なのは馬鹿でも分かる。それが子供となれば、猶更だ。暗くてスタート地点こそ違うが、登山を趣味としている以上、山岳地帯は二、三度歩けば暗闇でも大体の位置は分かるし、道筋も覚えている。
行かねば。
「おい半分野郎。あのクソガキ連れ戻しに行くって伝えとけ。居場所は分かる。空中を行ける俺の方が速ぇ」
それに『個性』伸ばしで限界値がどこまで伸びたかの丁度いい試金石となる。
「分かった、伝えとく」
『洸汰!洸汰!私のテレパス聞こえてた?!すぐ施設に戻って!私――ごめんね!いつもどこ行ってるか知らないの!だから助けに行けないの!ごめん!すぐ戻って!』
しかしマンダレイの念話も空しく、洸汰にその声は届かない。目の前にいる大きな影を落としている黒装束の人間の姿への恐怖で、それどころではないのだ。
「見晴らしの良い所を探して来てみれば、資料になかった顔があるなぁ。ところで子供、センスのいい帽子被ってんなぁ。俺のこのだっせえマスクと交換してくれよ」
くぐもってはいるが声からして男の物である事は分かる。
動け。動け。間違いなくこの男はヴィランだ。逃げなければ。逃げなければ、確実に殺される。雰囲気から既にこいつはヤバい。子供だろうと、いやむしろ子供だからこそ嬉々として命を奪いに来るだろう。
「新参は納期がどうとかでこんなおもちゃしか貰えなくてよぉ!」
ようやく足が動き、逃げようとしたがあっという間に回り込まれた。その際に蹴った壁には大きく蜘蛛の巣状の罅が入り、石の欠片がいくつか崩れ落ちた。
「景気づけに一発殺らせてくれや!なあ!?」
ピンクの筋繊維が徐々に腕に、上半身に巻き付き、マスクを外した男の顔が露わになる。
あの顔は、嗚呼、嘘だ。
何でこんな所にこいつがいる?!
「お前、は・・・・」
——身長は二メートル前後、『個性』は単純な増強型で、左目には戦闘で受けたと思しき裂傷があります。この顔を見かけたら、すぐに110番及びヒーローに通報を。
忘れもしないその顔、左の目を中心に額から右半分の上唇まで達する古傷の持ち主の名は今筋強斗。ヴィラン名は、誰が呼んだか『血狂い』マスキュラー。テレビの画面で見た時と違うのは、左目に義眼が入っていることぐらいだろうか。
今度こそ、洸汰の目は恐怖で涙が滲み、自分の頭を叩き割ろうと振り下ろされた拳を見上げるばかりで動けなくなった。
「
しかし、その拳は耳を劈く爆発と硝煙の臭いによって阻まれる。
「おぅ、クソガキ!生きてんなら返事しやがれ。そして立てンならさっさと失せろ。
次回、File 60: Bastard! 目には目を
SEE YOU NEXT GAME........
開闢行動隊の登場時、立ち位置はどこがいい?
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原作通りヴィラン
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ステ様信奉のヴィジランテ
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作者にお任せ
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未提示の別ルート