今回の戦闘描写ですが、アマゾンズの主題歌をループで聞きながら書いてます。
爆豪勝己の戦闘IQは出久ほどではないにせよ、かなり高い。そして戦う前から既に分が悪い勝負に出ていると言う事にも。相手は殺す気で来る。いつもやり慣れた様に。対して自分は殺す気で手向かったとしても、実際に命を奪うわけにはいかない。加えて出水洸汰と言う
そして相手はオールマイトやUSJにいた脳無と同じ近距離特化の増強系。『個性』発動状態のマスキュラーは体格だけで言えば既にどちらも一回り以上は上回っている。
だが、やるしかない。ここまで来た以上、退くわけにはいかない。出久に負けるのは、この際水に流す。しかし、ヴィランとなると話は別だ。ヒーローはヴィランに勝ってこそヒーロー、どんな形であれ最終的に勝てているから強く、格を上げていくのだ。
「お前は確か・・・・・・爆豪、だっけか?資料にあった顔だ。お前は、率先してぶち殺しとけってお達しだ。さあ――血ぃみせろや!」
腕に剥き出しの筋繊維が纏わり付き、更に巨大化したマスキュラーは突進して来た。速い。だが、USJの脳無程ではない。ましてや期末のオールマイトほどでもない。
「捕まれ。後、喋んじゃねえ、舌噛むぞ!」
前方に両手で爆破を放って後ろに下がり、洸汰の腕を掴んでそのまま崖下へ飛び降りた。背中にしがみつく洸汰の感触を確認しつつ両手の爆破を推進力に換えて飛び始める。
「おいおいおいおい!逃げてんじゃあねえぞ、てめえらあ!血ィ見せろって言ってんだろうがよぉ!なあ!?」
しかし飛び始めてまだ一分と経たないうちにマスキュラーの追撃が二人を襲う。
野太い風切り音の直後、もっと鋭い、高いピッチの風切り音が無数に背後から迫る。本能的に何かを感じ取った爆豪は体を傾け急旋回の体勢を取る。直後、右足を刺すような痛みが走った。感触は固い。石だ。あの筋力に物を言わせて大量の石礫を葡萄弾みたいに射出しているのだ。広範囲に散らばる以上、正確に当てる必要は無いし、弾薬は環境が提供してくれている故潤沢にある。
加えて爆破と言う光と音を伴う軌跡を残している上、こちらの位置は未だ高台にいるマスキュラーから丸見えだ。至近距離の爆破で視界を一旦潰したから重度の被弾は免れたが、それでも当て勘の良さは肝を冷やすには十分だった。
ある程度距離は稼げたが、皮膚に収まり切らない程の筋繊維を自在に操れる生粋の近距離パワー型を相手に一キロや二キロ程度、どうと言う事は無いだろう。視界もそろそろ晴れて見えるようになってくる頃だ。
林の中に不時着して洸汰を下ろし、改めて被弾した足の具合をチェックした。痣こそあって血も出ているが、それだけだ。歩けないほどではない。
「に、兄ちゃん・・・・・」
「騒いでんじゃねえ。良いか、俺が撃ったら全力で走れ。振り向いたらぶち殺す」
「無理だ!逃げよう!さっきだって勝てないから逃げたんじゃないか!だから―」
「勘違いしてんじゃねえぞ、マセガキ!てめえが戦いの邪魔だから場所移しただけだ」
中学まで山岳地帯でのキャンプやハイキングをしていたし、トレーニングでもよく使う以上、環境は使い慣れている。ホームグラウンド、とまでは行かないが、少なくともさっきまでいた遮蔽物が無い岩山よりアウェー感は下がる。
「いいか、俺は雄英来てから、ヴィランにだきゃあ負けた事はねえんだ。今更それを変えるつもりもねえ。俺が倒すつったら倒すんだよ。それと、ウォーターホースの件、何で知ってるのかって顔してんな?簡単だ、クラスにヒーローオタクがいるから情報には事欠かねえだけだわ。来るぞ。てめえは余計な心配してねえで、走る準備しとけ」
点が、巨大な肉壁となって迫ってくる。汗は十分かいた。両手で円を描き、照準を合わせる。射程距離まで、4,3,2,1――
「
片膝をつき、踏ん張りながら発射の反動に耐える。首や肩、手首がピキピキと嫌な音を立てるが、構わず発射を続ける。
視界の端に洸汰が走っていくのが見えた。約束通り後ろを振り返らず一心不乱にその小さな脚を動かしている。
「――痛ぇじゃねえか」
先程溜まった汗を全放出して食らわせた爆破を、マスキュラーは耐えきった。爆発と爆風のダメージは確実に受けているし、薙ぎ倒された木々の向こう側から立ち上がってくるのが見える。受けてはいるが、あの筋繊維の壁を盾にされて
「あいつの名前・・・・・・みこ、いやみの・・・・・違うな、緑・・・・・・そう、緑谷。緑谷だ!そいつはどこにいる?一応形だけでも仕事はしなきゃなあ。」
「知らねえな。遠近感の利かねえガラス玉より望遠鏡でも頭にぶっ刺して勝手に探せや、少しはマシになるぜ筋肉達磨ぁ!」
「そうかそうか、知らねえか。オーケー、なら遊ぼうぜ!」
速い。先程とは倍近くも。ともすれば、出久並み。辛うじて爆破を起こして軌道を逸らしはしたものの、当たりの面積が大きい。逸らし切れずにごっそり左脇腹を砕かれてしまう。
口中に鉄の味が広がる。あれだけの巨大な拳だ。顔面も掠って口の中が切れたのだろう。必死に呼吸に意識を回しながら爆豪は立ち上がった。
「はっはっはっはぁ!いいぜぇ!血だあ!楽しいなあ!それと、お前ウォーターホースっつってたよなあ。逃がしたガキはあいつらの子供か!?すげえぜ、運命って奴じゃあねえか!」
再び迫ってくる拳。爆破で逸らすだけでなく、可能な限り足で距離を稼ぐ。そして逃げる洸汰から引き離す。
オールマイトとの戦いで学んだ。ちまちました小、中規模の爆破を繰り返すヒットアンドアウェイでは決定打たりえない。それこそ
ゼロ距離での、それも急所を狙った威力超過の大爆発。
撃つ前に応援が来るならそれもいいが、来る前に倒すのがベスト。すでにヒーロー殺しで出久は新聞の一面を飾るほどの手柄を立てている。自分もここで根性を見せなければ立つ瀬がない。
——俺は勝つ!勝つんだ!オールマイトみてぇに!
呼吸を整えながらも凌ぎ、耐え、避け、貯める。しかし動けば動くほど痛めた脇腹の痛みが寄せては返す波の如くぶり返し始める。マスキュラーもそれを分かっているのか、執拗に脇腹を狙い続け、ついには爆破のいなしを突き破る威力で右脇腹を打ち抜いた。
「ウォーターホースの仇を取る?どうやって!?実現不可なキレイゴト宣ってんじゃねえよ!それに俺を責めるのは筋違いってもんだぜ、爆豪。俺は別にこの左目の傷をつけたあいつらを恨んじゃいない。俺は人を殺したかっただけ、あいつらはそれを止めたかっただけ、つまりはお互いやりてぇ事をやった結果がアレだ。できもしねえ事をやりたがるから、そうなるんだよぉ!!!!」
痛い。マスキュラーの話は半分程度しか耳に入ってこない。今の一撃で恐らく右側面のあばら骨は全て罅が入ったか、折れた。加えてあの勢いだ、恐らく内臓にまで骨が刺さったかもしれない。右腕を上げようとする度に首筋に痛みが走る。鎖骨も多分やられてしまったのだろう。額も切れて視界の右半分が消えた。
いよいよ勝てる要素がごっそり減ってしまった。だが今は賭けるしかない。
マスキュラーが再び接近した時が勝負だ。
「うる、せえよ・・・・・・てめえの持論なんざ知るか」
呼吸で腹を膨らませる度に右脇腹に鉄アレイでもぶつけられたかのような痛みが走る。かかって来いとばかりに手招きをして見せる。右腕はだらりと下がったままだ。
「それによお・・・・・・やりてえ事やった結果が全てっつーなら、俺がやりてえ事は、ウォーターホースの仇を取る事、ただ一つ。てめえ如きで躓いてたんじゃあ、オールマイトも、
再三迫る拳。それに向かい、爆豪は爆速ターボを最大出力で放ち、一気に駆け出した。
胴体を狙って止まらないなら、残りは頭しかない。視覚と聴覚をメガカンデラ単位の光と数百デシベル単位の炸裂音で、破壊する。
低く、さらに低く頭を下げる。それこそ四足歩行の獣の如く。低空タックルでもかますように地面すれすれを飛び、更にマスキュラーの死角——奴から見て左側に回り込んだ。
「読めてんだよ、バァカ」
だが、マスキュラーの『個性』は皮下に収まりきらない程の筋肉の増殖及びコントロール。剥き出しの筋肉には当然神経が通っている。空気に晒された神経は、皮膚感覚がより敏感だ。
岩を砕くその巨大な手に掴まれ、身動きが取れなくなる。
「いや、読み違いだ」
つくづく過去の自分を連想させる相手に縁があるようだ。勝ち方が決まってる奴は勝ち筋を用意すると簡単に乗ってくる。今のマスキュラーは正しく体育祭の頃の自分。安易な勝ち筋にホイホイと乗っていくバカ丸出しだ。
「馬鹿は、てめえだぜ。てめえは、黙ってただの踏み台になってりゃいいんだ」
辛うじて拘束されないよう上に挙げた左腕に痛む右腕を添えて持ち上げ、顔面を——右目を狙う。
「右目、貰うぜ!
機関銃の、いや無数の地雷が炸裂したような断続的な炸裂音が夜の闇を揺るがし、矢のような閃光がその闇を切り裂いた
最後の爆発からかなり時間が経った。思わず洸汰は振り向いてしまう。見えない。見えないが、あの煙が上がっている事は、まだ戦っていると言う事なのだろう。
「パパ、ママ・・・・・力を貸して!」
祈るように呟き、洸汰は足を止めた。振り向くなと言われたが、振り向いた。振り向いて元来た道を真っ直ぐに走り始めた。
何をしているんだ、自分は?振り向かずに施設の方まで行けと言われただろう。自分に何ができる?相手はあの血狂いマスキュラー、自分なんか虫けらみたいに踏み潰されるだけだ。
その通りだが、考えるよりも先に足が反対方向を向き、矢継ぎ早に歩を進めていたのだ。自分に戦う術は無い。出来るのはただ祈ること。自分を逃がした彼がまだ生きている事を。まだ戦っている事を。
靴も靴下も躓いて片方脱げてしまった。それでも、出水洸汰は止まらない。胸が、横腹が痛くても無視した。足を枯れ枝か何かを踏みつけて切った。それでも止まらない。
必死で息をしながら夜の闇を煌々と照らす蒼い炎で見える立ち上る煙を目印に走った。
「兄ちゃん!爆豪の兄ちゃん!!」
洸汰がみたのは、凄まじい光景だった。周りの木々を数本薙ぎ倒し、未だニトロの臭いをくゆらせ、くすぶるクレーターの中心に、二人の人間が倒れている。だが、うち一人はギリギリ動いている。
「・・・・・クソガキ、何で戻って来やがった」
「こ、これ!」
洸汰は両手を器にし、『個性』を発動した。小さな手に、コップ一杯分ほどの水がたまる。彼はそれを起き上がる爆豪の口に振るえる手でゆっくりと流し込む。
「宣言通り、思いっきしやっつけてやったぜ。
——一番でかいマスキュラーを倒せれば、他はどうにかなる。
子供じみた希望的観測を多大に含んだ勝算だったが、実際そうだ。純粋な馬力で言えばマスキュラーの右に出る者はいない。オールマイトが不在の状況で一番厄介であろう戦力を処理できれば、戦況は間違いなくひっくり返る。
「洸汰君!?かっちゃん!!」
緑のもさもさ頭のそばかす顔。確か、緑谷。マスキュラーが狙っていたやつだ。
「遅ぇよ、糞バカ。マスキュラーは俺がぶっ殺したぜ。俺一人でな。てめえなんざお呼びじゃねえんだよ」
相変わらずの憎まれ口に出久は思わず笑ってしまう。
「自慢してる場合かっての。洸汰君は、大丈夫?あ、靴、脱げてる!」
「ひみつきちの、その・・・・・・あそこ、が、崖の、下に爆発出す兄ちゃんがマスキュラーと!!!」
肩で息をしながらも、なんとか要点をかいつまんであらましを伝えた。
「分かった、知らせてくれてありがとう」
出久は歯を見せる程の満面の笑みを見せ、大きく頷いた。
「助かったよ。疲れたでしょ、背中に乗って。君を施設の方まで送り届ける」
ずれた帽子を直し、爆豪をおぶり、洸汰を小脇に抱えて出久は駆け出した。緑の閃光となり、山道、獣道をまるで平地を走るように走破していく。
「・・・・・ありがと」
メッセージをスマホで飛ばす出久には聞こえないように、ぽそっとこぼれた一言だったが、それは間違いなく純粋な出水洸汰の自分を救ってくれたヒーロー達への、心からの感謝の一言であった。
次回、File 61: 最低なSurprise
SEE YOU NEXT GAME..............