File 08: How to use a ガシャコンバグヴァイザーZ
800メートルを三分以内での全力疾走を約一分の休憩を挟んで十回。出久は現在八度目の中間で腹の中身を地べたにぶちまけていた。こめかみを内側から殴られるような痛みが断続的に襲い、喉の奥には血の味がする。足が棒になるという表現があるが、出久は今や足の感覚が筋肉痛だけになってしまい、その支える棒にすら劣っている。
その隣ではグラファイトが同じぐらい汗まみれのまま座っていた。
「いきなり・・・・8キロは、きついよ・・・!」
「八割近く泣き言を言わずに走っておいて何を言うかと思えば・・・・」
「でも、ちょっとこれは・・・・・僕も流石に・・・」
近くのベンチにぐったりと座り込み、縮れた雲を散りばめた橙色の空を見上げた。
「後二日か。」
オールマイトの『個性』を受け継ぐか否か。猶予を設定したのは自分だとしても、高々三日で決められるとは到底思えない。何せあのオールマイトの『個性』なのだ。しかしよしんば受け継ぐ事を許諾しても、その後が気がかりだった。
『個性』を受け継いだ後、オールマイトはどうするのか?『個性』を受け継いだ後、オールマイトはどのような影響を受けるのか?引退の事はどう説明するのか?引退した後はどうするのか?引退後の個性犯罪率は再び高騰するのではなかろうか?
そんな質問の数々が出久の脳内をぐるぐると駆け巡って行き、筋トレとスタミナ造り、そしてシャドーボクシングしかできない程に細かい思考が不可能になってしまった。
「やはり決められないか?」
「うん。やっぱり自分だけが後継者の候補に選ばれてるとは思えないから、もっと、こう・・・・僕より優秀な人がいる筈だし。」
「お前に修練を積ませた奴を前に随分な言い草だな。」
「そうじゃなくて!僕が言ってるのは戦闘能力の事じゃないんだ。まあ勿論それも大事だけど、なんて言うか・・・・」
「気後れする、か?あれだけの存在感を持つ男を前にすれば、まあそうなるのが普通だ。貫禄という物は一日で身につくものではない。お前はどうも先を見ようとし過ぎていかん。もっと
「でも、かといって目先の事にばっかり気を取られるわけにも・・・・」
「まだヒーロー候補にすらなっていないのだ、目先の物に目を向けずにどうする。その他の事はそれを考える時期になってから考えればいい。よし、そろそろ足に力が戻って来た。ストレッチでほぐしてからワンツーを打って帰る。」
「分かった。ねえグラファイト、バグヴァイザーの方はどう?」
立ち上がりながら不満そうにグラファイトは首を横に振った。
「駄目だ。お前に感染している時に現れたあの一回きりだ。」
「そっか。お互い大変だね。」
「ああ。だがこれぐらいでないと張り合いが無い。」
柔軟体操を終わらせると、グラファイトは出久に感染して二人はゆっくりと家まで歩いて帰った。
『出久。』
「ん?」
『ヒーローとしての名前は考えてあるのか?』
「
『いいから答えろ。グラファイトは俺の名だから使わせるわけにはいかない。ヒーローになる事を夢想していた頃ノートに書き込んだ名前ぐらいいくつかはあるだろ?』
「ないよ。考えた奴は全部没案だし。」
オールマイトJr、マイティ―ボーイ、マイティ―マン、スーパーオールマイトなど、どれもオールマイトの名前が半分かそれ以上は入っている。子供らしいと言えばらしいが、改めて振り返るとどれも例外なく恥ずかしいまでに稚拙な名前ばかりだ。捻りどころかオリジナリティーの欠片も無い。ヒーローを志す以上、やはり名前は大事だ。長過ぎると覚え辛いし、かといってあまりにも短過ぎると味気が無さ過ぎる。派手過ぎると名前負けする重圧が終始ついて回り、地味すぎる名前だとヒーローという社会の花形になった意味が無い。
それにあれらの名前はどれもグラファイトが現れる前に考えついたものばかりだ。共にヒーローとして行動していく以上、肩を並べて戦っているという意気込みを表す名前でなければグラファイトに失礼だ。これはネーミングセンス云々より出久の意地の問題だった。
「帰ったら考える。」
大きな木の前に立ち、緩急をつけて軽く踏み込み、時に前足を入れ替えながら左右の手でジャブを打ち始めた。最初の内は拳の保護と手首のぐらつき補正の為にバンテージで拳を固めていたが、石段での拳立て伏せとカルシウム摂取などで骨すら鍛え上げた出久の拳はその程度では痛みすら感じなくなった。むしろ今やどちらの拳で放つジャブもストレート並みのスピードとパワーを併せ持ち、当たった衝撃で枝を揺らすのだ。
ストレートもただ打つだけではなく打ち抜くイメージをしっかりと意識している。目標は伸び切った拳が当たる木ではない。その遥か向こう側、それこそ路地の突き当りにある自動販売機。いやそれすらも風圧だけで貫けるならば貫く。
最後の一撃と共に大きく木が揺れ、木の葉が何枚か枝からはらりと落ちた。それらを全て空中で掴み取り、息を吐いた。
「あ。」
『どうした?』
「バグヴァイザー。」
『何っ!?』
そして出久の言ったとおり、夢や幻ではない。確かに彼の右手にはグリップと手の甲の部分に接続されているガシャコンバグヴァイザーZがあった。
『何故・・・?!何がきっかけで現れた?』
「集中と言うか、精神統一なんじゃないかな?ほら、よく英語で『ゾーンに入る』って言うでしょ?意識してちゃ出来ないって奴。」
『なるほど。いいか、バグヴァイザーを持ったまま動くな。今から分離する。』
「分離してどうするの?」
『いいから。俺に考えがある。』
出久の手にあったバグヴァイザーが消え、代わりに分離したグラファイトの手中にいつの間にかあった。予想が当たったと分かるや、グラファイトは目をぎらつかせた凶悪な笑みを浮かべた。流石は元『悪』と言うべきか、高笑いも中々様になっている。
「ふぅ、すまない。ようやく使い慣れたものが俺の元に帰って来て、つい嬉しくてな。丁度誰もいないし、俺のバグスターとしての真の姿を見せてやる。」
グリップからバグヴァイザーを外し、Aボタンを押した。
「培養。」
『MUTATION! LET'S CHANGE! LOTS CHANGE! BIG CHANGE! WHATCHA NAME!? THE BUGSTER!』
グリップに再び接続した瞬間、聞き慣れているよりは若干トーンが高い音声が流れ、グラファイトは変身した。右腕は赤、それ以外は全身が緑色の雄々しき龍戦士の姿に。
「これが、俺の真の姿。龍戦士グラファイトだ。」
「・・・・かっこいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
「うるさい。落ち着け、馬鹿め。」
「はごぁ!?」
疲弊しているとは思えない程の腹の底から出る叫び声にグラファイトは思わず顎を掌底で打ち上げた。
「俺がお前に感染している状態でならお前も変身出来る筈だ。丁度良い、これでお前にバグヴァイザーの取り扱いの手解きが出来る。」
「え、ちょ、帰るんじゃ・・・?」
「すぐ済む。まあ見ていろ。」
『チュドド・ドーン!』
赤いビームが二門の銃口から放たれ、木の近くにある岩に小指がやすやすと入るほどの太さがある穴を二つ開けた。まだ熱を持っているのか、穴からは煙草のような細い煙がうっすらと立ち上る。
「まずビームガンモード。連射も可能だ。銃と違って狙いの付け方に多少癖があるが、追々慣れればいい。」
「これ人に当てちゃダメな奴でしょ、どう考えても・・・・」
「腕や足を狙えば死なん。次だ。」
『ギュギュギュ・イーン!』
「チェーンソーモード。まあ、これは言わなくても何が出来るかは分かるな?」
先ほどビームガンで貫通した岩に刃を押し当てて引くと、チーズでも切るかのようにさっくりと切れ込みが出来た。
「うん、これこそ絶対人に当てちゃダメな奴でしょ、どう考えても!」
「他にも、こいつで俺をウィルスとして散布し、相手に感染させて動きを止める事も可能だ。まあ俺一人でも出来る事だがな。後でノートを一つ用意しろ、マニュアルを書いてやる。」
「分かった。じゃあ、この両側にあるスロット、何?」
「ああ、それか。」
左右の挿入口。本来なら入れるべきガシャット―――個人的にはプロトドラゴナイトハンターZが望ましい―――があれば使える筈なのだが、いかんせんそのガシャット自体が無い。だがある以上は何らかの意味がある。ゲームに於いては大半の仕掛けには必ず何かしらの理由がある。ゲームキャラであるグラファイトだからこそ、こればかりは確信していた。
「あるアイテムが必要なのだが、生憎俺は持っていない。まあ、焦る必要は無い。」
「もう帰ろう!早く僕の中に戻って!」
決断まで、残り二日。
はい、という事でついにグラファイトの変身です。音声はゲーマドライバー程テンション高くは無いですが、くぐもったデスボイスではないバグヴァイザーを意識してください。
次回、File 09: 腕試し In the night
SEE YOU NEXT GAME.....