龍戦士、緑谷出久   作:i-pod男

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今回はテレビドラマから興味を持った末に漫画を読んで大好きになった森恒ニ先生の作品『ホーリーランド』をヒントに書きました。

エグゼイドもデザインが(特にレベル1が)ゆるキャラのようなふざけた見た目でもストーリーの要所要所に重い部分がありますので、今回はヒーローと言う職業の華々しさの『裏』、と言えばいいのかな?とにかくそういった部分に焦点を当ててみようと考えた末にたどり着いたシナリオです。


File 09: 腕試し In the night

「出久、外に出るぞ。」

 

「え、何で?もう夕ご飯も食べちゃったし・・・」

 

「だからこそ言っている、腹ごなしの運動だ。少しばかり外に出て悪事を働いている奴がいないか見て回り、お前が制圧すればいい。俺とばかり戦っていては癖がついてしまうからな。」

 

「いやいやいやいや、グラファイト分かってる?僕らはまだヒーローでもヒーロー候補でもないよ?違法なんだよ?」

 

「それはあくまで『個性』を使った場合だろう?使わずに相手からかかって来た所を返り討ちにして取り押さえてしまえば、向こうも何も言えまい?幸い未成年である以上正当防衛だと言い逃れも出来る。それに実戦の緊張感という物には慣れておくに越した事は無い。」

 

グラファイトの言う通りで何も言い返せないのだが、出久が外出したくない理由はもう一つあった。ヘドロ男での一件でグラファイトが出久を介して放った言葉がテレビニュースや様々なバラエティー番組で話題として取り上げられ、更には各社の新聞にも『少年を救った超新星が放ったヒーローの定義』などというセンセーショナルなタイトルで載せられていた。表通りを歩いていると一般人からはよくぞ言ってくれた、ヒーロー達からは原点を思い出させてくれてありがとうと、よく声をかけられるのだ。長年のいじめによって根付いた引っ込み思案な性根はそう簡単に治るものではなく、これ以上のメディア露出を避ける為にパーカーのフードを深めにかぶって外出する癖がついてしまった。

 

そんな注目を集めた自分がひったくりを捕まえたりなどしたらますます面倒な事になる。オールマイトも出久を自分の後継者にという意思を更に固める事請け合いだ。本人は自分が提示した三日間返事を待つという条件を呑んでくれたがあの圧倒的な存在感を放つNo.1ヒーローだ。高々ノーと一度断ったぐらいで引き下がるとも思えない。

 

「そんなにメディア露出が気になるならネックウォーマーか何かで顔を隠せばいい。汗をかきやすくする為だとでも言いくるめれば問題無い。」

 

「・・・・・・グラファイト、前々から思ってたけど、最近暇してるでしょ?」

 

「何故そう思う?」

 

「だって僕達トレーニング以外で何かをやった事ってないからさ、もしかして飽きてきたんじゃないかなって。」

 

図星だったらしく、グラファイトはさりげなく視線を窓に移した。

 

「やっぱそうなんだね。」

 

「俺は、以前己の研鑽しか頭になかった。そうしなければ生き残れないような状況だったからな。だが、そればかりに明け暮れているとつまらなくなるものだと改めて実感した。同じ献立を朝昼晩と繰り返しているに等しい。」

 

「そう?僕はグラファイトとの組手とか楽しいと思うけど。寝技とか投げ技が凄い役に立つし、スタミナもつくし。同じ事続けてるのは事実だけど、特に退屈とは思わないね。」

 

「良いからとにかく俺は今夜外に出たいんだ。門限までには戻る。今はそう言っていても、お前とていつまでも同じ事ばかりを続けていると必ず飽きてくる。さっさと行くぞ。」

 

「分かった分かった。準備するから待ってて。」

 

部屋着のスウェットから最近買い求めた多少生地が擦れたブルージーンズと無地の黒いシャツ、そしてグラファイトに勧められたモスグリーンのコーディガンに着替えて少し出てくると引子に断りを入れてから外に出た。日中のトレーニングを終えた後によく木陰で水分を補給するが、いい塩梅の木漏れ日を浴びる暖かな感触が好きになった。しかしあまり夜間外に出歩かない出久にとって夜の空気は新鮮で想像以上に心地良かった。

 

呼吸のトレーニングを日常的に取り入れてようやく慣れ始めた時と似通った体が丹田を中心に自然と解れていく気分が癖になりそうだ。

 

見慣れた街並みがいつもより人が多く見える。建物から差す人口の光があるとはいえそれでも袋小路や裏路地、そして公園などの街灯ぐらいしかない所は相変わらず暗い。こういった所にこそ犯罪者が息を殺して潜み、無辜の市民を脅かすのだ。

 

『さて、出久。この界隈で犯罪が起きそうな所と言えばアーケード街や灯りが入りにくい夜道が定石だが?』

 

「うーん、僕が住んでるあたりだとあのヘドロ男が逮捕されてオールマイトもいるって事だからそう簡単には見つからないんじゃないかな?なんたってオールマイトだし。」

 

うぅむとグラファイトが悔しそうに唸る。やはり『平和の象徴』などと呼ばれる男がいる界隈では犯罪はそう簡単には起きない。改めてオールマイトが世間に及ぼす影響という物を思い知らされた気がした。

 

「時間もあんまりないし、軽ーく見て回るだけ回って何も無かったらそのまま帰るって事で。」

 

『チッ、致し方ないか。どこから行く?』

 

「人があんまり通らない所かな。ベタだけど安牌って事で。」

 

『堅実的だな。行くぞ。』

 

しかしやはりと言うべきか、犯罪らしい行為が起こっている兆しすら見えない。やはりもう少し市街地の中心に向かうべきかと思い直したが、門限までには帰るという約束がある手前無暗に範囲を広げる訳にもいかない。しかし闇雲に走り回っても時間を無駄に浪費するだけに終わってしまう。

 

「う~ん、どこかピンポイントで何かが起きそうな所って探そうとすればする程見つからないんだよね。」

 

自販機で買ったジュースを飲みながら出久は呟く。

 

『・・・・腹立たしいな。』

 

「そんな不謹慎な事言っちゃ駄目だよ、グラファイト。ヒーローが暇って事は今日も安全って事なんだし。」

 

『だがこれでは外に出た意味が無いではないか。』

 

「出るだけ出たからいいの!この感じ好きだし、たまには息抜きにこうやって夜の散歩にでも行こうかな。」

 

とりあえずやれるだけの事はやった。もう帰ろうと帰路につかんと踵を返した正にその瞬間、バン型の乗用車が猛スピードで通り過ぎて行った。スピード違反になるほどの速度ではなく、そこそこ車道が空いているにせよ街中で常識的に考えて出していい速度ではない。

 

「グラファイト。」

 

『ああ。クサいな。』

 

車は突き当りの角を曲がって姿を消してしまったが、問題は無かった。あの道路は一車線しかない。つまりは一方通行だ。

 

「コォォォォ―――」

 

一度肺の空気を全て完全に吐ききってから深呼吸で酸素を取り入れると、出久は駆け出した。海浜公園などの砂場で走って全体的な脚力を底上げした出久は飛ぶようにその車の後を追った。当然追いつく程の速度は出せないが、それでも一昔前に比べれば自転車と車ぐらいの差はある。走って行くにつれ道を照らす灯りがどんどん少なくなっていく。

 

これはもう、ほぼ間違い無いだろう。

 

グラファイトに指示されるまま影の中を移動しながら車の後を追い、建設予定地の鉄柵に囲まれた更地付近まで辿り着いた。ある程度近づいた所でガタゴトと車体が揺れて押し殺された女の叫び声と男数名分の声が聞こえた。下卑た笑い声も。

 

出久が行動を起こすよりも先にグラファイトの意思が働き、運転手側の窓ガラスが拳の一撃で叩き割られる。勢いを殺さぬまま拳は運転手の横っ面にめり込み、一撃で意識を刈り取った。そのまま割れた窓から手を突っ込み、車のキーを引き抜いて茂みの中へと投げ捨てる。

 

『遠慮はいらない。全力で叩き潰せ。』

 

車のガラスが破壊される音でバンの後部ドアが開き、ガラの悪そうな男が三人出てきた。既に全員『個性』を発動している。一人は鱗を思わせる頑丈そうな皮膚、後ろの二人は指先から縄のような物が噴出し、蛇のように蠢いている。

 

言葉を交わす必要は無い。聞かなくても見れば分かる。服のあちこちが破れた涙目の女性、バン型の車、四人の男。まだ事に至る前に止める事に成功したものの、未遂の現行犯である事は間違いない。出久は迷わず突っ込んだ。

 

自分から―――と言っても仕掛けたのはグラファイトだが―――始めてしまった以上、始末はきっちりつけなければならない。後戻りが出来ない状況では前進あるのみ。不思議と恐怖は無かった。グラファイトの鬼気迫る訓練の方がよっぽど恐ろしい。何より、いじめられっ子だった経験もあって不利な状況という物にある種の慣れが生じてしまっているのだ。

 

拳の側面をくっつけて鼻から下をガードした状態で出久は前に出た。狙うのは左の二人。グラファイトとの組手を続けてきたからわかる。右端の一人より、あの二人の方が弱い。複数の相手と戦う時の鉄則は確実に相手の頭数を減らして行く事。その為には一発ないし二発で勝負をつけなければならない。

 

襲い掛かってくる合計二十本の縄も細い事と夜間である所為で見えにくいが、ウィービングやダッキング、ステップで躱しながら掴んで踏み込んだ。虚を突きジャブで怯ませると、高速の重心移動と爪先から肩までを巻き込む内側への捻りを利かせたフックを繰り出した。素早い切り返しでどちらも寸分違わずそれぞれこめかみと顎を打ち抜き、昏倒させる。

 

残りは一人。さっきの二人よりは遥かに格上だ。全身に生えた堅そうな鱗は、ナイル川などに住む鰐を思い出させる。十五歳に差し掛かる自分と違い、相手は大の大人だ。身長は180cm前後はある。

 

出久の考える定石の攻略は二通りあった。

 

まず一つは体格からして著しく劣っている為柔術などの投げや絞め、関節技での対抗。しかし総合的な筋肉量で劣る以上、パワーで無理矢理外される可能性が高い。

 

二つ目がカウンター。しかしこれには二つの要素が必要だ。一つは相手の技。拳だろうと蹴りだろうと、そのタイミングを体で覚えなければならない。そして二つ目が呼び込み、つまりは『撒き餌』という名の殺気が籠ったフェイントと攻撃を織り交ぜた物がいる。失敗すれば怪我では済まない。

 

しかし即座にその考えを振り払う。約束組手や殺陣ではない為、相手が予想通りに動いてくれる事などほぼあり得ない。

 

どちらにせよ、長引かせると危険だ。

 

水中でのジャンピングスクワットで培ったしなやかな筋肉で一気に距離を詰めて目、鼻、喉、顎の先などを狙う。出久は小さく顔を顰めた。当たりこそしたものの、効いている様子は無く、予想通り硬い。まるでアスファルトをそのまま殴っているかのようだ。しかし怯まない男は即座に反撃に出た。力に物を言わせた大振りな攻撃だ。しかし風切り音が耳元を過ぎる度にごうと音を立てる。高い威力とスピードを持つ証拠だ。

 

思わず後ろに下がろうとしたが思い直し、即座にステップで横に躱して体勢を低くし、前進した。右手首を軽く捻り、前足に重心をかけながら中指の第二関節を伸ばす。そしてトラックのタイヤを殴ったような鈍い音と共に、鳩尾に減り込んだ。面ではなく点の攻撃は流石に堪えたのか、くぐもったうめき声が上がる。更に後ろ足で踏み込みながら伸ばした右腕を畳み、同じ場所に肘で攻撃した。たった一歩とはいえ全体重が肘という固い部分に集約されて伝わる突進は、呼吸を止めるには十分すぎる威力があった。

 

男の体が折れ、押さえられている腹以外の正中線の急所が全てがら空き。

 

出久の狙いは鼻。右のジャブで仰け反らせ、踏み込む。仰け反って体が伸び切り、威力の逃げ場が無くなったところで左ストレート。声も上げずに男は白目を剥いて鼻血を噴きながら後ろに倒れた。

 

『おい。おい!』

 

そのまま更に顔を踏み潰そうと足を上げた所で、グラファイトに体を止められる。

 

「あ・・・・」

 

緊張の糸が切れたのを確認して体を自由にすると、片足立ちだった出久はバランスを崩して尻餅をついた。両手がずきずきと痛む。あの鱗の尖り具合が特に痛かった。肩で息をしているのに気付き、即座に昂った神経を落ち着かせる為の呼吸法に切り替える。

 

『良くやった。初戦にして相手の攻撃を一度も食らわず、俺の助力もなしで四人同時に倒すとは。幸先がいいな。』

 

「うん。ありがと。でも、先にあの人を。」

 

未だにうずくまって震えながら泣いている女性にゆっくりと近づいた。とりあえず本人の物らしい上着を肩にひっかけさせ、共犯者じゃない事をアピールした。相手も中学生と見て安心したのだろう、泣きながら手を握って素直についてきてくれた。

 

もっと街の明るい所に一緒に歩くと、この事を今すぐ通報するように伝えるとそのまま走り去った。

 

門限まで、残すところ三分を切っていたのだ。

 

家に戻り、汗まみれのシャツを脱ぐとそのまま部屋で床に寝転んだ。

 

「はー・・・・」

 

『で、感想はどうだ?』

 

「信じられないよ、今でも。あんな事をする人が、出来る人がいるなんて・・・・」

 

これが、人の世か?ヒーローが数多く存在する世の中に起きている犯罪なのか?出久はその現実を必死に受け止めようと呼吸を続けた。

 

無事に済むとは思っていなかった。怖くない訳でもなかったが、悪意に対して暴力で答え続ける生活。そんな事をしていって、自分は果たして正気を保ったままでいられるのだろうか?

 

『人間とはそういうものだろう。だが、ヒーローはああいった輩と・・・「理由なき悪意」と戦い続けるものだ。それも、己の怒りやその悪意に飲まれずにな。』

 

「出来るかな?僕に。」

 

『まあ、今回は初めてという事で仕方ないとしか言えないが、精神統一もトレーニングに入れておく必要があるかもしれないな。優しい奴ほど激怒する時が一番恐ろしいと言う。次にあんな奴を見たら俺でもお前を制御できるか分からん。』

 

「止めてくれてありがとう、グラファイト。」

 

オールマイトへの返事。期日は、残り半日を切った。

 




次回、File 10: THE ALMIGHTY 再び現る!

SEE YOU NEXT GAME.....
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